45 嫉妬
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王に呼ばれたスカーレットは登城したが、王と面会する予定の謁見の間にまっすぐ向かうのではなく、城の入り口までわざわざ出迎えに来ていたルーファと共に王太子の部屋へと向かった。
王との謁見の前に自分のところに寄って欲しいと、王からの招待状と共にラフェルからの書状ももらっていたからだ。
「お初にお目にかかります。王太子殿下」
スカーレットは美しい姿勢で淑女の礼をしたが、自分から呼んでおいてラフェルは動揺していた。
スカーレットが異形の姿をしていることは聞いていたが、ラフェルはこれまでスカーレットと直接会う機会がなかったために直接その姿を見たのは初めてだった。
弟である第四王子がスカル侯爵の屋敷に日参するほど大好きな婚約者であり、自分の婚約者であるエールシャルルからも慕われている令嬢だ。
それならば、噂ほどには恐ろしくはないのだろうと想像していた。
だが、実際に目の当たりにした骸骨姿の令嬢は想像以上に奇妙であり、すぐに彼女を受け入れるのは難しく感じた。
「ようこそ、スカーレット嬢」
声が震えないように気をつけてそう言った王太子にルーファはおかしいと思った。
このような場ではスカーレットは魅了の魔法を使う。
しかし、すこし青ざめている王太子の様子からすると、スカーレットは魅了の魔法を使っていないのだ。
それはつまり、それほどまでにスカーレットが王太子を信頼しているのか、もしくは、嫌われても問題がないと思っている……いや、嫌ってもらった方が都合がいいと考えているのかもしれない。
(どうして?)
ルーファはスカーレットの横顔を見た。
どうでもいい人間にならばスカーレットだってわざわざ魅了の魔法をかけたりしない。
しかし、次の国王となるラフェルの存在をスカーレットがどうでもいいと考えているわけがない。
その証拠に、エールシャルルをスカーレットはラフェルの婚約者とし、さらには傷を癒すポーションをエールシャルルに届けさせているのだ。
あれほどスカーレットの側近になることを望んでいた者をラフェルの婚約者としたのだから、今後、スカーレットがラフェルと関わることになるのは必須だった。
それなのに、スカーレットはラフェルに魅了の魔法をかけない。
(つまり、スカーレットにとってはラフェル兄様は重要人物ではあるが、距離を置きたいという存在ということだろうか?)
しかし、これまでにこの二人に接点はないはずだ。
(まさか、スカーレットはラフェル兄様のことが好きなのだろうか?)
どこかでラフェルの姿を見て、一方的に片思いをしているということだろうか?
そんな自分の想像に、ルーファは静かに嫉妬した。
「スカーレット嬢が作ったというポーションをエールシャルル嬢からもらい、私は傷を癒すことができました。ありがとうございます」
メイドが淹れた紅茶を一口飲み、気持ちを落ち着かせてからラフェルはスカーレットにお礼を言った。
「王太子殿下にポーションをお渡しになったのはエールシャルル嬢の判断ですから、わたくしへのお礼は不要です」
「お礼を伝えたくてお呼びしたのもあるのですが、実はお願いがあるのです」
「なんでしょうか?」
ルーファはラフェルと話すスカーレットの様子をつぶさに観察した。
いつもならば飲食をする様子を相手に見せて安心感を与えるスカーレットだったが、ラフェルの前ではそのような気遣いさえも行う様子がない。