44 不穏な招待
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翌朝、ルーファは晩餐会が行われた食堂に召集された。
朝食の時間に食堂に呼び出されるのは珍しい。
その食堂にラフェルの姿があった。
ラフェルはルーファの姿に微笑むと、スカーレットのポーションで怪我が癒やされたことを教えてくれた。
スカーレットが直接届けに来たのではなくエールシャルルを使ったということには納得したし、安堵もした。
とりあえず、今のところ、スカーレットはラフェルと直接話すことは望んでいないようだ。
食堂に息子たちが来れば、いつもの王ならば必ず労いの言葉などをかけるのだが、どういうわけか父王は何も言わなかった。
流石に第一王子に刺されたショックが消えないのだろうかと思い、ルーファは使用人が椅子を引いた席についた。
三人の息子たちがそれぞれ席につくと、給仕たちによって朝食が運ばれてきた。
そして、その食事を前に王は執事に視線を向けた。
「皆様、落ち着いて聞いてください」
王子たちは王の隣に立つ執事に視線を向ける。
「王は声が出なくなってしまったため、直接お話しすることができなくなってしまいました」
執事の言葉に動揺を見せたのはラフェルだけだった。
もちろん、ルーファは動揺する演技を忘れなかったが、第三王子のリューリットはそうした演技さえもせず、冷静に父王を見ていた。
「そ、それはどういうことですか?」
情報の欲しいルーファが声を震わせる演技で尋ねた。
「宮廷医からは心因性によるものだろうという診察を受けております」
「では、治るのですね?」
「はい。王のお心が落ち着かれましたら、回復されるでしょう」
スカーレットは王に温情をかけたということだろうか?
それはスカーレットらしくないとルーファは内心で首を傾げた。
「王は治療に集中するため、しばらくの間は公務を王太子にお任せになりたいと仰せです」
「わかりました」
執事に視線を向けられたことでラフェルは冷静さを取り戻して姿勢を正した。
そして、弟である第四王子に声をかけた。
「ルーファ、スカーレット嬢に父上のための治癒ポーションを依頼したいのだが」
なぜ、自分の婚約者を都合よく使おうとするのかとルーファは眉間に皺を寄せそうになったが、なんとか堪えて困り顔で微笑んだ。
「聞いてはみますが、心因性に効果のあるポーションは難しいかもしれません」
「そこまで高望みをするつもりはない。怪我の治療だけでもしてもらいたいのだ。私の怪我もすぐに癒えたのだから、きっと父上の怪我も瞬時に治してくれるだろう」
ラフェルの言葉を聞いた父王が紙に何やら手早く書いた。
それを見たラフェルはその表情を明るくした。
「それがいいですね!」
ラフェルは父王の提案に賛成したようだったが、どのような話をしたのかわからないルーファは再び眉間に皺が寄りそうになるのをなんとか堪えて同じ笑みを維持する。
もしもスカーレットの話をしているのだとしたら、自分の婚約者のことなのに勝手に決めないでほしいと思った。
「ラフェル兄様、父上はなんとおっしゃっておられるのですか?」
「ああ、すまない。父上が今度、スカーレット嬢とエールシャルル嬢を城に招こうとおっしゃられたのだ」
「どうして、二人を?」
「どうしてって、私とルーファの婚約者だからだろう?」
確かに、スカーレットもエールシャルルも王子の婚約者なのだから、王が城に招待することは不自然ではない。
しかし、今の王の虚な眼差しにルーファは嫌な予感を覚えた。
何かスカーレットに不利なことが起こったら……そう心配したが、いや、これも全てスカーレットの計算の内かもしれないとも思った。
「……わかりました。スカーレットへの招待状は僕が届けます」
もしこれがスカーレットの計算内だとしたら、勝手に断ってはスカーレットの邪魔をすることになってしまう。
だから、ルーファはスカーレットを城に呼ぶことに同意した。
そして、万が一、スカーレットの計算外のことならば、その時には自分がスカーレットを守ろうと決めた。
あの平民の少女と第一王子を死に追いやったのはスカーレットだという確信がルーファにはあった。
そして今、スカーレットは父王にも何か仕掛けたはずだ。
(僕の美しくも完璧な婚約者……)
高潔なるあの身には、誰一人として……例え、自分の敬愛する父親とて、触れることは許さない。