41 事件
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父王の寝室へと入ると、すでに第三王子が父王のベッドの脇にいた。
スカーレットがチラリと周囲を確認したのをルーファは感じ取った。
おそらく、王太子の姿を探したのだろう。
「父上、大丈夫ですか?」
ベッドに横になっているものの、父王に意識はあった。
「大丈夫だ……スカーレット嬢、来てくれていたのだな」
「はい。ご無沙汰しております。王様」
「今日はスカーレットを昼食に招待していたのです」
ルーファはしっかりとスカーレットの手を握って、父王に仲のいい姿を見せた。
もちろん、リューリットへの牽制のためでもある。
「父上、このご令嬢は?」
そうリューリットは尋ねた。
スカーレットのことをリューリットはすでに知っていたが、実際に会うのは初めてのため、スカーレットと王に違和感を与えないための一言だった。
「ああ、リューリットは初めてだったか。スカル侯爵のご令嬢のスカーレット嬢だ」
スカーレットは美しい淑女の礼をした。
「リューリット様、お初にお目にかかります。スカーレット・スカルです」
「はじめまして。スカーレット嬢。第三王子のリューリットです」
「お見知りおきを」と、リューリットがスカーレットの白い手を取って手の甲に口付けようとしたのをルーファがスカーレットの手を引き寄せて止める。
「あの、王様、王太子殿下もお怪我をされたと聞きました」
「ああ。私を庇って、ひどい怪我を負ってしまった……今、医者に診てもらっているところだ」
「そうですか……」
ルーファはやはりスカーレットの様子がおかしいと思った。
ルーファが知る限り、リューリットと同様にラフェルにもスカーレットは会ったことがないはずだ。
それなのに、どうしてこんなにもスカーレットはラフェルのことを気にするのだろう?
巻き込む予定のなかった者を巻き込んだからといってその相手を気にするようなタイプではスカーレットはなかった。
むしろ、ラフェルのせいで王の傷が浅く済んだのなら、スカーレットにとってはラフェルは邪魔な存在となったはずだ。
それなのに、ルーファが見るところ、スカーレットはラフェルが巻き込まれたことに動揺しているようだった。
「スカーレット、ラフェル兄様のところにもお見舞いに行くかい?」
本当は今の状態のスカーレットをラフェルに会わせたくはない。
けれど、スカーレットの考えていることを知るためにはラフェルに会わせてみた方がいいだろうとルーファは考えた。
しかし、ルーファの言葉にすこし考える素振りを見せたスカーレットは首を横に振った。
「療養の邪魔になるでしょうから……」
それはつまり、邪魔をしたくないという意味だろうか?
スカーレットの気持ちを勝手に勘繰り、冷静にスカーレットの感情を掴み取ることができなくなっている自分に気づいて、ルーファはぎゅっと強く拳を握った。
手のひらに爪が刺さる感触に意識を向けて、妄想を振り払って冷静さを取り戻す努力をする。
(そうだ。スカーレットに情報を与えてあげなくちゃ)
「父上、レアル兄様に刺されたと聞きましたが、現在、レアル兄様はどうしているのですか?」
「レアルは……」
王が言い淀み、その様子にスカーレットはルーファが強く握っている手を離そうとした。
「ルーファ様、わたくしは帰らせていただきます。ご家族のことですから、わたくしがいては話し難いでしょう」
ここでスカーレットの言う通りにスカーレットの手を離すべきなのかルーファは迷った。
しかし、ルーファがスカーレットの手を離す前に、王が再び口を開いた。
「いや、スカーレット嬢はルーファの婚約者だ。問題ない」
王はその目を閉じて、心痛な表情を見せる。
「レアルは……私が殺した」
王の寝室に静寂が満ちた。