04 三度目の人生
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人生三周目は前の二回の人生から得た教訓を元に、スカーレットは自分の美しさがそれほど目立たず、さらに社交界に出る前の3歳ほどに時を戻してもらい、一歩たりとも田舎の領地から出ず、成長しても社交界に出なかった。
社交界に出なければスカーレットの美しさが貴族たちの噂の的になることもなく、王太子の目に止まることもない。
しかし、スカーレットの父親のスカル侯爵は王の信頼厚い宰相だった。
そのため、やはり王から王太子の婚約者にならないかという打診があった。
しかし、領地に引き籠り、社交界を嫌う娘の気持ちを汲んで、スカル侯爵は王からの打診を断った。
そうして、三周目の人生は屋敷にこもって魔法を学んでいれば無事に済むのではないかと希望を抱いたりもした。
しかし、そうはならなかった。
王は自身が即位してからずっと親身に支えてくれている宰相であるスカル侯爵家と縁を結ぶことを強く望んでいたのである。
そのため、今度は第二王子との縁談を持ちかけた。
第二王子ならば侯爵家の婿として、侯爵領の屋敷に住まわせても問題がない。
スカーレットの意向に合わせて無理に社交界に出る必要もないとスカル侯爵を説得した。
さらに、第二王子は父王の意向を汲んで、スカーレットと婚約するために足繁くスカル侯爵領へと訪れた。
最初こそ迷惑がって会うことさえしなかったスカーレットだったが、王太子にはない真摯な行動や言葉に徐々に心を許していき、第二王子が屋敷を尋ねてきた際には一緒にお茶をするようになった。
しかし、そんな平穏な日々も長くは続かなかった。
第二王子が王立魔法協会附属魔法学園に通うようになると、スカーレットの人生一周目で王太子の寵愛を受けていた平民の女生徒が第二王子に接近し、徐々に二人は交流を深め、第二王子はスカーレットに手紙さえも寄越さなくなった。
スカーレットはすこしの寂しさを覚えたものの、すでに愛する両親や大切な領民たちを奪われた経験をしているスカーレットは王族にさしたる期待はしていなかったため、ああ、またかと自嘲した。
第二王子からの手紙が来なくなってから数ヶ月、第二王子が久しぶりにスカル侯爵領を訪れ、スカーレットと対面した。
そして、自分は他の女性を愛してしまった不誠実な男のため、婚約解消をしたいと言った。
直接話しをしに来たことは第二王子としては誠実さの表明だったのだが、スカーレットからすると自己防衛のために思えた。
その時、スカーレットは三周目の人生で初めて笑った。
その笑顔は鮮やかであったにも関わらず、黒くおどろおどろしいものに感じて、第二王子は背筋に悪寒が走るのを感じた。
「スカーレット嬢、本当に、申し訳なく……」
「そのような身勝手な謝罪は必要ありません」
「本当に」と、スカーレットのピンク色の唇が動く。
「王族ってなんて身勝手で醜い生き物なのでしょうか?」
それ以降、第二王子とスカーレットが三周目の人生で顔を合わせることはなかった。
ただ、王太子と平民の少女の結婚が決まると、第二王子が自害したという噂が広まり、スカーレットの元には一通の手紙が届いた。
その手紙は、第二王子の側近からのものだった。
その側近は、第二王子がスカーレットに会いに来る時に毎回一緒に来ていた者だった。
そして、手紙には、スカーレットと別れた後の第二王子のことが綴られていた。
平民の女生徒と王太子の橋渡しをした後、平民の女生徒とは顔を合わせる機会が徐々に減り、第二王子はスカーレットと別れたことを後悔していた。
繰り返し、なぜ平民の女生徒にあれほど惹かれていたのかわからないと苦悩し、スカーレットを傷つけた己を憎んでいた。
手紙に書かれていたのは、そのような内容だった。
スカーレットはその手紙に一応は目を通したものの、暖炉の火に焚べて燃やした。
目標のために黙々と魔法の勉強を進めていたスカーレットには関係のないことだったからだ。
ただ、すこし、ばかな人だと思った。
しかし、第二王子の自害と彼が最後に抱いていたスカーレットへの思いは王を狂わせた。
そして、第二王子を救うことができなかったという難癖をスカル侯爵は負わされ、スカーレットの一周目の人生のように爵位を奪われることとなった。
そして、苦悩する父親の姿に、スカーレットは再びあっさりと自害した。
そもそも、スカーレットは三周目の人生が何事もなくうまくいくなど思ってはいなかった。
どうせ二周目の人生のように何かしら面倒事が起きるのだろうと諦めていたのだ。
自分が両親より先に死のうと、両親が先に死のうと、今の自分が両親を守ることなどできない。
曽祖父のように巨大な力を持つまでは自分は誰も守れないのだと、スカーレットは考えていた。
だから、次のループを求めて死んだ。