37 晩餐
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案の定、ルーファにとってその日の晩餐は楽しいものではなかった。
「レアル、体調はどうだ?」
どんよりと暗い空気を隠すこともなく振り撒くレアルに見ればわかる調子を尋ねる父王。
「父上、この料理に使われている野菜なのですが、隣国で栽培されているもので……」
長兄が受け答えしないためになんとかその場を取り繕うと話題を提供する現王太子。
「……」
そして、子供の頃には病気を患い、最近は魔法の才能をメキメキと伸ばしているという三男。
ルーファも父親や兄弟の手前、見せかけの笑顔は絶やさずに晩餐の席についていた。
地獄の底にでもいるかのような顔をしている長兄とそれを気遣う父親、そしてその父親を気遣う次男の様子を見るのに飽きたルーファは、ふと三男と目が合う。
一体いつからこちらを見ていたのだろうか?
ルーファは人より敏感で、視線に気づかないことなんて滅多にない。
(レアル兄様たちに気を取られ過ぎただろうか?)
レアルに何か変化でもあればスカーレットに話して聞かせることができると、レアルと父王を観察していたせいで三番目の兄の視線に気づくのが遅れたのかもしれない。
「リューリット兄様、どうかされましたか?」
長らく病を患って部屋に閉じこもっていた三番目の兄であるリューリットとは、ルーファはなかなか会う機会がなかった。
そのため、ルーファはリューリットのことをよく知らないが、もともとルーファは他人への興味が薄いため、知ろうとしていなかった部分もある。
だから、ルーファにはリューリットが何を言うのか、全く想像できなかった。
「スカーレット嬢は元気かな?」
リューリットの言葉に、ルーファは思わず相貌を崩した。
「僕のスカーレットはいつも通り、死の空気を纏わせて、最高に素敵でしたよ」
まさか、リューリットがスカーレットに興味があったとはルーファは知らなかった。
スカーレットに嫌悪や批判的な視線を向ける者たちならばルーファは殺してやりたいと思うけれど、リューリットの瞳にあるのは嫌悪でも批判でもなかった。
「リューリット兄様はスカーレットに興味があるのですか?」
笑顔のままにルーファは聞いた。
「でも、スカーレットは僕の婚約者ですよ」
普通ならば骸骨令嬢への興味はそうしたものではないと考えるが、ルーファは違った。
スカーレットほど可憐で美しい令嬢ならば、誰だって心奪われるとルーファは本気で思っていた。
だから、きちんと牽制しておいた。
「そうだね」とリューリットは頷いた。
「だから、私に譲ってくれないかな?」
リューリットも笑顔のままに言った。
ルーファの作り笑顔が崩壊しそうになって、眉がぴくりと動いてしまう。
「ルーファより私の方がスカーレット嬢に相応しいと思うよ?」
「なぜですか?」
何とか笑顔を保ったまま、ルーファは尋ねる。
「スカーレット嬢は魔法に長けているだろう? 私の方がルーファよりもずっと魔力が多く、魔法の才能がある」
「夫婦はそれぞれお互いを補い合うものではないですか?」
「スカーレット嬢に足りない部分なんてないだろう?」
「それは……」
スカーレットは完璧だ。
そのことをルーファはよく知っている。
スカーレットに足りない部分があったとしても、スカーレットは魔物たちを使って自分の足りない部分をうまいこと補ってしまうだろう。
スカーレットはルーファのことなど求めていない。
ルーファが愛するスカーレットは完璧で、ルーファが補うところなどない。
でも、スカーレットを誰かに渡すことなんて絶対にできない。
「ルーファが補わなければいけないところなんてないんだから、私に譲ってくれてもいいだろう? 私なら、スカーレット嬢と有意義な話ができる」
「スカーレットのことは誰にも譲るつもりはありません」
ルーファは苛立ちで引き攣る口をなんとか笑みの形に保つ。
(たとえ、殺し合うことになっても、スカーレットを譲る気などない……いや、もう、殺しちゃえばいいんじゃないかな?)
自分からスカーレットを奪おうとする者も、スカーレットの憂いになる者も、全部全部消しちゃえばいいんじゃないかな? と、ルーファは考えた。