33 ゲームの世界
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ユリアは異世界からの転生者だった。
ユリアの前世ではレアル王太子を攻略対象としたゲームがあった。
10代の学生だったユリアはヒロインになりきってそのゲームで遊んでいた。
不運な事故により若くして亡くなったユリアは生まれ変わり、子供の頃に前世の記憶を取り戻した。
そして、この世界が前世で遊んでいたゲームの世界だと気がつき、ゲームのような展開になるように動いてみた。
けれど、自分をシンデレラのように薔薇色の道を歩ませてくれるはずのストーリーは自然に進むことはなかった。
不思議に思っていたユリアの元にシンデレラの書という不思議な冊子が届いたのは、王立魔法協会附属魔法学園入学の一年前だった。
ユリアはそのシンデレラの書に書かれている通りに、ゲームでは知ることのなかった裏路地にある黒魔術師の元で魅了の魔導具を手に入れた。
シンデレラの書に書かれていることはまるで前世のゲームで見てきたシナリオのようだった。
ユリアはシンデレラの書に書かれている通りに動き、ある伯爵家を後ろ盾に魅了の魔法でイベントを成功させてきた。
そして、とうとう王太子が愛を囁くようになったのだ。
だから、きっとゲームの裏設定ではヒロインは魅了の魔法を使っていたのだと納得していたのに……
あの骸骨令嬢が出てきて、あっという間にストーリーは覆されてしまった。
魅了の魔法がなければ、後ろ盾だった伯爵家ももうユリアを助けてはくれないだろう。
しかも、身分違いの恋を叶えるためのシンデレラの書まで無くしてしまった。
卒業式であの骸骨令嬢の邪魔が入らなければ、王太子は大勢の前でユリアへの愛を公表し、ユリアは伯爵家の養女になる予定だったのだ。
そして、身分を確立した後に王への接触を繰り返して魅了の魔法をかけ、王太子の婚約者になれたはずだった。
それなのに、自分が知っている悪役令嬢もいなければ、ゲームには出てこなかった骸骨の少女がいた。
そして、王太子が王太子でなくなってしまうなんて……
まるで、全く知らない世界に迷い込んでしまったようで、ユリアは困惑した。
その時、ははっとレアルが急に笑い出した。
「スカル侯爵令嬢が私の婚約者? そんなわけがないだろう?」
レアルは嫌悪感を隠すこともなく言った。
「あんな骸骨令嬢を好きになるのは私の弟のような変わり者だけだ」
「骸骨令嬢がスカーレットだったの!?」
ゲームのスカーレットはあんな化け物みたいな姿ではなかった。
悪役令嬢にしては派手さもなく、むしろ可憐な姿をしていた。
さらに、ヒロインとの会話の内容も非常に冷静で知的だった。
最終的には王太子から断罪される立場ではあったが、それはヒロインをいじめたとかいう理由ではなく、王子を愛さないことを傲慢だと難癖をつけられたせいだった。
そのため、ゲームのプレイヤーたちの中にはスカーレットが一番好きという者たちも少なくなく、人気投票では上位だった。
(そんなスカーレットが骸骨の姿をしていたなんて……)
ゲームで見てきた姿とはあまりに違う姿にユリアは驚いた。
そして、疑念を抱いた。
(もしかして、この世界は私がプレイしてきたあのゲームの世界ではないのかしら?)
だから、これほどまでにゲームとは違う展開になってしまっているのだろうか?
もしそうだとしたら、これまでの努力も、これからの努力も無駄なのではないだろうか?
(だとしたら……)
ユリアはレアルを横目で見た。
(王太子でもなく、国王に見捨てられたこの男はただのお荷物なんじゃない?)
ゲームの中の王太子は確かに格好良かったし、頼り甲斐があったけれど、現実のレアルはそうではないということをユリアはすでに気付いていた。
ゲームは攻略対象が格好良く見える場面を切り抜いて作られたものなのだから当然なのだが、制作サイドのことなどユリアがわかるはずもない。
ユリアは正直、現実の王子には、王太子という地位以外に魅力を感じていなかった。
「次の王太子はラフェル様よね?」
「そうだが? それがどうしたのだ?」
「ターゲットを変えるのよ」
ユリアは学年の違うレアルに近づくために同学年のラフェルを利用していた。
ラフェルにも確かに魅了の魔法が効いていたのだから、また魅了の魔法の魔導具を使えば攻略することができるはずだ。