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31 救済者?

お読みいただきありがとうございます。


「どうして、このようなことになってしまったのだ?」


 この国の第一王子であるレアルは今にも崩れそうな木造りの小屋の隅で頭を抱えていた。


 数刻前に目覚めると、見知らぬ小屋の中にいた。

 困惑したレアルは外の様子を確かめることもなく不用心に外へと出て、ガラの悪い男たちに捕まりかけた。


 外の様子やそこにたむろする人々の様子から貧しい者たちが住む貧民街と呼ばれるようなところだろうとは想像できたが、ここが仮に王都の貧民街だとして、その場所が王都のどの辺に位置するのかなどレアルは気にかけたこともなかった。

 だから、レアルにはどっちの方向に逃げたらここから抜け出せるのかということもわからなかった。


 男たちに捕まりかけたレアルが急いで小屋の中に戻ると、小屋は不思議と男たちには見えないようだった。


「あの貴族の坊ちゃんどこ行った!?」

「くっそ! いい金になると思ったのによ!」

「身ぐるみはいで、奴隷商にでも売れば服にもあいつ自身にもそれなりの高音がつくだろう」


 そんな話をしながら男たちは小屋の前を通り過ぎた。


 そんな恐ろしい体験をしたレアルは、それから何時間も自身の体を抱きしめて震えていた。

 自身が住まう城と同じ場所にあるはずなのに、あまりにも知らない場所、知らない人種だった。


 どうしていいのかわからず、しばらく小屋に閉じこもっていると、コツコツと小屋をノックする音が聞こえた。

 続いて、「レアル様?」と少女の声がした。


 レアルはその声に聞き覚えがあるような気がしたが、すぐには思い出すことができなかった。

 だが、きっと王立魔法協会附属魔法学園の生徒ではないだろうか? と思った。


 このような危険な状況では非常に甘い判断だった。

 いや、この時のレアルは期待していたのだ。

 誰かが自分を救いに来てくれることを。


 だから、扉をゆっくりと開けた。

 きっと、優しい令嬢が自分を迎えに来てくれたのに違いないと、甘い期待に縋った。

 しかし、その期待は当然、裏切られた。


「レアル様、やっとお会いできましたわ」


 扉の外に立っていたのはユリアだった。


 自分に魅了の魔法をかけて陥れ、エールシャルルと婚約破棄することになり、それだけでも王立魔法協会附属魔法学園の生徒たちや貴族たちの前で無様な姿を晒すことになったというのに、さらには父王から怒られることになった。

 その上、ユリアは脱獄し、それが原因で自分は王位継承権を剥奪されて王太子ではなくなってしまった。


 自分から全てを奪った女が、目の前に立っていた。

 外はいつの間にか暗くなっており、その暗闇に憎らしい少女がひとり立っていたのだ。


 レアルは子供の頃から弟と比較されてきた。


 すぐ下の弟が自分より勉学にかけても剣術や魔術にかけても優秀で、人格まで王に相応しいと噂されていることは知っていた。


 それに、末の弟は幼少期から頭の良さを評価されていた。

 何を考えているのかわからないために臣下たちも気味悪がり、次期王に押す声はなかったものの、その知性は兄弟たちの中で一番秀でているだろうと評価されていた。


 病弱な二番目の弟は幼い時こそ何の期待もされていなかったが、最近は体も丈夫になり、魔法の才能に長けていると貴族たちの間で評価が急上昇している。


 そんな弟たちよりもレアルが優れていたのは、王太子という地位だけだった。


 その地位を、レアルはこのユリアという平民によって奪われたのだ。


「き、貴様のせいで私は……」


 そう憤りをユリアにぶつけようとしたレアルだったが、ユリアが意味ありげに口元に人差し指を当てた。


「そのように大きな声を出しては、他の貧民街の者たちに見つかってしまい、私もレアル様も捕まって売り飛ばされてしまいます」


 レアルは慌てて口を閉じた。


「まずは、このような場所から抜け出すのが先決でしょう」


 ユリアはレアルの手を握った。

 そして、二人はできるだけ足音を立てないように貧民街の路地裏を走り出した。


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