29 ワクワク
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ルーファは早朝に目が覚めて、朝からワクワクしていた。
今日は朝一でスカーレットの元へと行き、誰よりも早く一番上の兄が王太子ではなくなったことを知らせるのだ。
そして、スカーレットの喜びに綻ぶ表情が見たい。
ルーファはそんな胸の高鳴りにベッドから飛び降りて、執事のステファンを呼ぶためにベッドサイドのベルを鳴らそうとした。
しかし、その前に、ステファンが部屋に飛び込んできた。
「ルーファ様!」
そういつもよりもすこし大きな声でルーファの名前を呼んだステファンだったが、ルーファがすでに起きている姿にすぐに姿勢を正して、呼吸を整えた。
「ルーファ様、落ち着いて聞いてください」
ルーファは落ち着いていたが、ステファンは自分を落ち着かせるために言った。
このようにステファンが取り乱した様子などルーファははじめて見た。
普通ならば、信頼を置いている大人が取り乱した様子を見せれば子供というのは緊張するものだろうが、ルーファはそうではなかった。
ルーファは、ステファンの様子にワクワクした。
目覚めた時から、スカーレットが喜ぶ様子を思い浮かべてワクワクしていたが、ステファンの様子に、何か事件が起こったらしいことを感じたルーファはかなりワクワクした。
もしかすると、一番上の兄が王太子ではなくなったこと以上に、面白い話をスカーレットに聞かせてあげることができるかもしれない。
そんな期待に、ルーファは胸を膨らませた。
「ルーファ様……」
ステファンは気持ちを落ち着かせながら、慎重に言った。
「レアル様が、いなくなってしまいました」
ルーファの表情がパァッと明るくなり、ステファンは胸を撫で下ろした。
どうやら、この件にもルーファは関わっていないということがわかったからだ。
「それでね、今朝、レアル兄様がいなくなっていて城は大騒ぎだったんだ」
ルーファは昨夜から今朝までの話をスカーレットに語って聞かせた。
本日の青いドレスも清楚で可憐だ。
「そうですか」
思ったよりも薄いスカーレットの反応にルーファは首を傾げた。
「もしかして、もう知っていた?」
ルーファがそう聞けば、スカーレットが作り笑いをした……そんな気がした。
「そんなわけ、ないではありませんか? 驚いていますよ? ただ、わたくしには驚きを表現するための表情筋もありませんから」
スカーレットの落ち着いた口調にルーファは確信した。
スカーレットはこの事実をすでに知っていたのだ。
もしかして、これらのことを仕組んだのはスカーレットなのではないだろうか?
スカーレットにはミルスをはじめとした多くの魔物が配下にいる。
自分が魔物に詳しくないだけで、密偵を得意とする魔物もいるのかもしれない……
もしや、ミルスが変装して、城に入り込んでいるとか?
ルーファは勝手な想像で悔しくなった。
スカーレットには自分だけがいればいいはずなのに、スカーレットを慕い、忠誠を尽くして働く配下が多すぎる。
しかも、そのどの配下も優秀なのだ。
魔物なのだから基本的に人間よりも身体能力が高く、特殊なスキルを持っていることも珍しくない。
それは仕方のないことだったのだが、それでもルーファは悔しかった。
「スカーレット、僕、負けないから!」
ルーファが急に何を言い出したのかはわからなかったスカーレットだったが、ルーファが勝手に想像して勝手に会話を進めるのはいつものことだった。
「なんだかわかりませんけれど、頑張ってくださいませ」
スーカレットの応援を受けて気をよくしたルーファは早速考える。
常にスカーレットの指示を受けて動くミルスを出し抜いて、スカーレットに満足してもらう働きをするためにはどうしたらいいのだろうか?
まずは、スカーレットの希望を察することから始める必要があるだろう。
ルーファはむむむっと考える。
「スカーレットは王族を滅ぼしたら嬉しい?」