25 愛しい婚約者を思う
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今日もスカーレットは可愛かった。
そして、とても美しかった…… ルーファは今日のスカーレットの様子を思い出していた。
あの彫刻のように白く美しい姿に愛らしいつぶらな瞳。
控えめに言って最高だった。
自分がスカーレットの婚約者で良かったと、ルーファは心から思った。
ルーファの目に特別にスカーレットが可憐な少女に見えているというわけではない。
ルーファの目にもスカーレットは確かに骸骨の姿に見えていた。
それでもルーファにとってスカーレットは畏怖する存在ではなく、美しさを鑑賞し、称賛し、愛する対象だった。
別に骸骨だから好きというわけではなく、スカーレットだから好きなのだ。
他の骸骨を見たことがないので比べようはなかったが、スカーレットが骸骨の姿をしていて、骸骨の姿をしているのがスカーレットだから好きなのだ。
ルーファはそう思っていたが、ルーファの側近は違った。
彼らは自分たちの主人は死体愛好家なのではないかと疑っていた。
「用事があるからと帰らせられてしまったのが残念だ。結婚すれば一日一緒にいることもできるのだろう? 早く結婚したい!」
「ステファン!」とルーファに呼ばれた執事は「なんでしょうか?」と返事をした。
「私とスカーレットは一体いつになったら結婚できるのだ?」
「王が決めることでございますのではっきりとは申し上げられませんが、少なくともお二人が成人してからのことになるでしょう」
「あと六年も待てぬ! 法の改定をせよ!!」
「それは執事の仕事ではございません」
これはいつも繰り返される会話だったが、ステファンはこの決まりきった会話を意外に気に入っていた。
自分の主人が子供らしい姿を見せる数少ない機会だからだ。
「ルーファ様は本当にスカーレット様がお好きですね」
「スカーレットほど愛らしい人はいないからね」
ルーファはスカーレットが骸骨の姿で本当に幸運だったと思った。
あの姿だからこそ、兄たちに取られずに済んだのだ。
スカル家は侯爵の爵位でさらに王はスカーレットの父親の優秀さを気に入っていたため、侯爵夫人が妊娠している間、王は生まれたのが娘ならば第一王子の婚約者にすることを考えていた。
しかし、生まれたのはスカーレットだった。
娘ではあるが、骸骨だ。
それでも、侯爵との血縁関係を結んでおきたい王は考えた。
同い年の末息子を婚約者としてあてがおうと。
4人目の末息子ならば、王位につく可能性が極めて低いからだ。
その末息子が自分だったことにルーファは運が良かったと心から思う。
スカーレットが兄たちの誰かの婚約者になっていたなら、自分は兄殺しをする必要があっただろう。
正直、そんなのは面倒だ。
だから、そんな面倒なことをしなくても良かった自分は運がいいと思った。
しかし、スカーレットを手に入れるために兄殺しをする必要はないけれど、昼間のスカーレットの様子からして、王太子の処罰に不満があるのは明らかだった。
スカーレットには一縷の不満や不安、憂いも感じてほしくはないとルーファは思っていた。
スカーレットの憂いを晴らすためにどうするべきなのか、ルーファは考える。
「王太子はラフェル兄様の方が相応しいかもしれない」
ルーファの呟きにステファンの眉がすこしだけ動いた。
しかし、ステファンはルーファの不穏な言葉を咎めることもなく、賛同することもなく、ただ聞かなかったことにした。
今はまだその言葉に返答を返す時ではなく、ルーファも返答を望んで呟いたわけではないとわかっていたからだ。
夜が更けてステファンがルーファの就寝の準備を始めた頃、部屋の扉がノックされた。
ステファンが扉を開くと、一人の文官が立っていた。
文官の言葉を聞き、ステファンは慌ててルーファの正装を準備した。
「ルーファ様、陛下がお呼びです」
「こんな時間にか?」
すでに寝巻きに着替えていたルーファが怪訝な表情を浮かべて、ステファンはすこしホッとした。
この事態はルーファが引き起こしたものではないとわかって。
「王太子が管理していた囚人が逃げたようです」
先ほど文官から聞いた話を端的にそう告げるとルーファはその目を年齢に似合わない鋭いものに変えて、王が待つ部屋へと向かった。