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18 領主の娘

お読みいただきありがとうございます。


 魔物の衛兵たちが見回る森の近くの村の村長であるガルムは若い頃、スカル領の街を守る衛兵だった。

 任務途中に高いところから落下して足を骨折して以降、足の動きが悪くなったため、40代半ばで街の衛兵をやめて魔物がよく出る森の近くに住むようになった。


 ガルムはよく視察に来る領主のことを尊敬していたし、スカル領を守る仕事を誇りに思っていた。

 だから、魔物から村や街を守るためにすぐに魔物の動きがわかる村へと住まいを移したのだ。


 そんなガルムが住まう村に、ある時、小さく奇妙な少女を連れて領主が訪ねてきた。

 魔物ならば容赦無く一刀両断したガルムだったが、愛らしい春の緑のドレスを着て、レースがふんだんに使われた青いヘッドドレスをかぶった骸骨の少女に嫌悪を抱いたり、敵意を抱くことはなかった。


 少女が領主に抱かれていたということもあるだろうが、あまりに小さく、細い指で領主の服の裾を握る姿に庇護欲さえ感じた。


 それが魅了の魔法によるところだと聞かされたのは、それから少女がもうすこし大きくなってからだった。


 小さな少女を抱いたまま、領主は驚くべき話をした。


「この近くの森に住まう魔物たちは私の娘、スカーレットの配下となった。今後、他のところからやってくる魔物や盗賊などはスカーレットの配下の魔物たちが対処してくれるそうだ」


 魔物を配下にしたという少女をガルムが見つめると、少女は小さく手を振ってくれた。

 その愛らしさに思わずガルムはじめ、村人の頬が緩んだ。


「今後、森の中でゴブリンなどの魔物に出会っても無闇に恐れず、相手の動きを見てから対処して欲しい。もしも襲ってくるようならばスカーレットの配下にはない魔物かもしれぬから、身を守るために攻撃しても問題ない」

「猪や熊などの野生動物にはこれまで通り注意してください」


 少女の歯並びのいい口が開いて、想像以上に愛らしい声が聞こえて村人は驚いた。


「スカーレットは魔法で話すことができる。今後も時折一緒に視察に来るから、よろしく頼む」


 その後、村人たちはスカーレットに飲み物やお菓子をくれた。

 肉のついていないスカーレットはにこりともしなかったが、優しい声音でお礼を伝えられた村人たちには少女が朗らかに微笑んでいるような気がした。


 ちなみに、このガルム、スカーレット二周目の人生でスカーレットが死んだ後、スカーレットの両親が極刑を言い渡されたことに憤慨し、スカル領の騎士団と共に王都へ乗り込んでいる。


 上手く動かぬ足のことなど忘れて王都で大立ち回りをし、王都の騎士たちにその場で殺された。

 それでも、その時のガルムに悔いはなかった。


 ガルムにとってスカル侯爵領と領民のことを考えてくれていた領主一族は言葉通りに人生をかけて守りたい場所と存在だった。


 領民のことを考え、領地のことを考えて善良な領地運営をしていたスカル侯爵家が、王太子の我儘とそれを許容する愚かな王のために滅ぼされることをガルムをはじめとしたスカル領の領民たちは許すことなどできなかったのだ。


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