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13 侍女も護衛も不要

お読みいただきありがとうございます。


「お断りいたします。ロンレーナ伯爵」


 王立魔法協会附属魔法学園の卒業パーティーでの事件以来、王太子の元婚約者であるエールシャルルがスカル侯爵の屋敷を何度も訪れてスカーレットの侍女になりたいと願い出ていたのだが、スカーレットが毎回丁重に断っていたらエールシャルルの父親であるロンレーナ伯爵が来るようになった。


 ロンレーナ伯爵が出てきては友人同士のやりとりというわけにはいかず、スカーレットの両親……スズリット・スカル侯爵とキロロ・スカル侯爵夫人も同席して断りの言葉を繰り返すことになった。


「そこをどうかお願いいたします。娘をスカーレット嬢の侍女にしてください」


 スカーレットの両親が断りの言葉を繰り返す隣でスカーレットはこの親子はどうかしていると思った。


 王太子の婚約者だったのだから、王太子との婚約が破棄された後でも引く手数多に違いない。

 好き好んで異形であるスカーレットに仕える必要などないのだ。

 それに自分にはすでに仕事が完璧にできるマーサという侍女がいるので、他の侍女は求めていない。


 そんな風に考えていたスカーレットとスカーレットの両親にエールシャルルを迎え入れてはどうかと言ったのは意外にもそのマーサだった。


「どういうことですか? マーサ?」

「エールシャルルがわたくしの従姉妹であることはご存知かと思うのですが、彼女はわたくしと違って身体能力に優れておりますので護衛代わりにお側におくのはスカーレット様の役に立つと愚考いたします」


 未来の王妃になるかもしれなかった伯爵令嬢を護衛におけという驚きの提案をしてくるマーサの発言にスカル侯爵夫妻は慌てる。


「ロンレーナ伯爵、我が家の侍女がとんだ失礼なことを…」

「護衛騎士としてお側においていただけるのでしたらとても嬉しいです!!」


 スカル侯爵の謝罪の言葉を遮ってエールシャルルは前のめりになった。


「エールシャルル! スカル侯爵様の前では淑女の皮を脱いではいけないと申したであろう!」


 ロンレーナ伯爵がエールシャルルを一喝し、それから侯爵夫妻に頭を深く下げた。


「うちの娘がすみません」


 疲れ切った表情でロンレーナ伯爵は胸の内を吐露する。


「王太子の婚約者になってしまったため猫をかぶって大人しくしていましたが、エールシャルルは子供の頃からお転婆で本来は淑女然としているよりも騎士のように剣を振るい、体を動かすことのほうが好きなのです」


 スカル侯爵はロンレーナ伯爵の言葉になんとも言えない複雑な気持ちになる。

 実はエールシャルルが王太子の婚約者に選ばれた理由にスカル侯爵は無関係ではなかった。


 エールシャルルが婚約者に選ばれたのは王太子と同じ年齢だったということもあるが、宰相の娘という確かな身分、父親の日頃の働きへの褒美という意味もあったのだが、ロンレーナ伯爵が宰相に選ばれた理由こそがスカル侯爵の推薦によるものだった。


 ロンレーナ伯爵の前に宰相を務めていたスカル侯爵は娘が異形の姿で生まれたため、娘を守るために常にそばにいたいという思いから宰相の座を辞して領地にこもることを決めたのだ。

 しかし、王はそれをすぐには許してくれなかった。


 高位の魔法使いを輩出するスカル侯爵家の当主を側におくことは王の座を安定させる狙いもあったし、何よりスカル侯爵が優秀すぎたからだ。


 王が出した退職の条件が優秀な次の宰相を見つけて来いというものだった。

 その結果がロンレーナ伯爵を推薦することだった。

 ロンレーナ伯爵は頭の切れる男で、その妻は結婚する前は王妃の首席侍女だった。

 愛する王妃が信頼していた侍女の夫ということもあり、王はロンレーナ伯爵を宰相とし、スカル侯爵の退職を認めた。


 つまり、自分が十年も領地に引きこもり、娘と妻と穏やかな日々を過ごすことができたのはロンレーナ伯爵のおかげだとも言える。

 そんな恩あるロンレーナ伯爵の願いだ。

 正直、スカル侯爵としても非常に断りにくい。


 だがしかし、娘がいらないと言えば、それは絶対の決定だった。

 ロンレーナ伯爵の願いでも聞き入れることはできない。



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