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01 骸骨令嬢

お読みいただきありがとうございます。


 スカーレットは今日も日当たりのいいバルコニーでお茶をしていた。

 他国から取り寄せられた高級茶葉は香り高く、スカーレットの鼻腔をくすぐる。

 丸テーブルに並べられた色とりどりのお菓子は目も舌も楽しませてくれる。


 とは言っても、スカーレットには鼻も目も舌もない。

 普通の人間ならば鼻がある部分には歪なおおよそ二等辺三角形であろうという穴が、目のある部分にはこれまた歪な丸い穴が空いているだけだ。


 そう。彼女は骸骨なのだ。


 淡いピンク色の豪華なドレスで隠されてはいるものの、そのドレスの下も骨であるため食道も胃腸もない。

 それでもお茶やお菓子を楽しむ真似事をしているのは、それが貴族の嗜みだからだ。


 首までしっかり隠れるドレスの下、骨の中にはスライムを潜ませており、お茶もお菓子も彼らが処理してくれる。

 そうして、骨の間を滑り落ちる液体や固形物でドレスが汚れないようにしているのだ。


 スカーレットの真っ白な頭蓋骨はドレスと同じ淡いピンクの帽子で飾られている。

 その帽子のリボンが風でふわりと揺れる。


「お嬢様、お客様がお見えです」


 侍女のマーサがスカーレットに声をかける。


「どなたかしら?」


 誰が来たのかは大体想像がつくけれど、念の為にスカーレットは尋ねた。

 なぜなら、いつもの彼ならマーサの静止も聞かずに無遠慮にスカーレットのところまで来ているからだ。


 しかし、スカーレットの予想は当たっていたらしく、扉の向こうで「お待ちください!!」と執事やメイドが大きな声を出しているのが聞こえる。

 どうやら今日はすこしだけ足止めに成功したという、それだけのことだったようだ。


「お、お客様は…」

「マーサ、わたくしの予想通りだったからもういいわ。そこに立っていると危なくてよ。わたくしの後ろにいらっしゃい」


 スカーレットはマーサが怪我をしないように呼んだ。


「しかし、お嬢様に盾になっていただくようなことは好ましくありません」

「わたくしはマーサが怪我をする方が嫌だわ。わたくしを悲しませないでくれる?」


「お嬢様……」と、マーサは感動のためにその目に涙を浮かべる。

 そう、マーサは涙の出る普通の人間だ。

 というか、スカーレット以外、この屋敷にいる者は全員人間なのだ。


「スカーレット!!」


 バーンッッッと扉が勢いよく開かれ、上質な布で作られた真っ白な衣装を着た煌めく金髪の美少年は大股で、且つ競歩のような早歩きで部屋を通り、スカーレットがお茶をしていたバルコニーにやってきた。


「ああ、今日も美しいね。僕の婚約者は」


 この少年はルーファ・ラ・オフーラ、オフーラ王国の第四王子であり、本人が言っている通り、スカーレットの婚約者だ。

 スカーレットは椅子から立ち上がり、淡いピンクのドレスのスカートを指で摘むと淑女の礼をして第四王子である婚約者に敬意を払った。


「ごきげんよう。ルーファ様」


 そんなスカーレットに合わせて王子も片膝をつき、スカーレットの骨張った……というか、骨そのものの手をとり、白い手の甲に口付けてスカーレットに敬意を示した。


「それで、本日はどのような御用向きで来られたのですか?」

「スカーレットに会いに来たに決まっているだろう?」


 スカーレットは呆れたような表情を見せた。

 肉も皮もついていないので実際には表情に変化などなかったけれど、ルーファには確かに呆れた表情が見えているのだ。

 その眼差しの冷たさにルーファの心臓はドキドキと鼓動を早める。


「ルーファ様、わたくしに会うというだけのご用事でしたら来てはいけませんとお伝えしたはずです」

「ああ。わかっているよ。だから、今日は街に視察に行ったのだけれどね、そこで白百合を見つけたんだ」


 そう言ってルーファは後ろに控えていた従者に持たせていた白百合の花束を受け取り、スカーレットに恭しく差し出した。


「今日はスカーレットに似た美しい白百合を届けに来たんだよ」


 普通の少女ならば頬を赤く染めて喜んだであろうそのセリフにも、美形の王子の微笑みにも、香り高い白百合にも、スカーレットは興味を持たずにない肺から空気を吐き出したようだった。


「用事が済んだのでしたら政務にお戻りください」

「スカーレット、忘れているようだけれど僕らはまだ十歳だ」

「忘れてはおりませんが、それがどうかしたのですか?」

「十歳の第四王子に政務などないよ」

「民の暮らしを知る視察も立派な政務ですわ」

「今日の視察は終わったよ」

「それでは……」

「今日は授業はないし、宿題も終わらせて来た」


 婚約者を体良く帰す口実を失い、スカーレットは再び口をすこし開けてない肺で空気を吐き出すような素振りを見せる。


「……それでは、お茶でもいかがですか?」

「ぜひ、ご一緒させていただこう! 僕の愛らしい婚約者よ」


 向かいの席を王子に勧め、スカーレットは茶器に手を伸ばしてお茶を淹れ始めた。

 自分が飲んでいた……スライムに注ぎ込んでいたのは紅茶だけれども、子供だから政務がないと言いつつもなんだかんだと忙しい王子にはリラックス効果のあるカモミールティーを淹れる。


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