90 落着/呪いの正体
12月14日(土)
グローリエル・ルィンヘン
一瞬のことだった。遥香とかいう、マスターの気配が少しする女の子の目が覚めて、スキーとかリムジンとかの話をしたかと思ったら、次の瞬間容態が急変して、なぜか千弦が停滞空間魔法を何もない空間にぶっ放した。
その後、そこにいきなり大きな蜘蛛が現れて、空中に磔になった。
「おい、千弦!おまえ、今何やった?千弦!」
千弦の大叔母さん、和香とかいう若作りの医者が叫んでいる。
千弦は鼻や耳、目などから出血したまま、まったく動かない。
そりゃそうだ。
人間の身体でルィンヘン氏族の中でも最大クラスの魔力総量の、その半分を一瞬で消費するような魔法を使ったんだから。
それに、魔法が最後までに発動しきったのは奇跡みたいなものだ。
真横にいる吉備津彦と顔を見合わせた後、急いでマスターに念話を入れる。
《マスター。非常事態。千弦が倒れた。》
一瞬遅れて返事が来る。
《なんだと。それほど疲労がたまっていたのか。術式回路が生きているなら、グローリエル、維持してやってくれ。》
《違う。敵を捕らえた。千弦、鼻と耳から出血してる。》
《敵?敵襲があったのか?二人は無事か?・・・あ、すまん、吉備津彦、状況の説明を頼む。》
むう。遥香の状態が止まったことをまだ伝えてない。
私は口下手で、なかなか思っていることを伝えることができない。
マスターはいつも優しいけど、緊急事態の役に立たないのがすごく悲しい。
《吉備津彦です。今先ほど遥香さんの容体が急変しました。術式の表示器は、すべてイエローゾーン以下、うち4つはレッドゾーンです。また、高度治療室内で一体の蜘蛛神・・・おそらくはアトラク・ナクアの眷属を発見しました。状況からすると、コレがすべての元凶です。》
吉備津彦が空中に静止している大蜘蛛を睨みつけている。まるで、今にも切り殺しそうな形相だ。
《アトラク・ナクアだと!?あいつ、だれかと契約でもしたのか・・・?》
《続けます。千弦さんが蜘蛛神を倒し・・・いえ、封印しました。結果、遥香さんの症状の進行が完全に止まりました。術式なしで安定しています。》
《千弦が、アトラク・ナクアの眷属を封印しただと!?どうやって?そんな魔法も教えてないし、術式も装備も渡してないぞ!?》
《・・・千弦さんが、停滞空間魔法を行使しました。足りない魔力は、エルの魔力を術式越しに無理やり使ったようです。結果、現在意識不明です。》
《なんてことをしてくれたんだ!人の身で時空間制御系魔法を使うなんて!・・・いや、そうしなければ遥香は死んでいたか。ん?なんだ?コレ?血?・・・。》
念話の中でマスターが何か違和感を感じているようだが、五感共有モードではないため、それが何かわからないようだ。
《マスター。どうした?・・・あ、千弦の目がひらいた。起き上がった。》
マスターの違和感が気になったが、千弦が起き上がったのでそちらに駆け寄る。
「・・・死ぬかと思った。さすが、余剰次元に干渉する魔法だけあって、消耗と反動が半端ないわね。・・・あ、遥香は!?」
鼻血やら血涙やらでエライ顔になった千弦を助け起こすと、よろめきながら血走った目で遥香に駆け寄る。
魔法の反動か、一度停止してしまった術式を慌てて再起動し、遥香の様態を確認している。
っていうか、千弦、何で生きてるんだろう?
脳と魔力回路が焼けるような感触、術式越しに感じたんだけどな。
「・・・ダメか。ここから先は、仄香がいないと何もできないわね。あとは現状維持かしら。」
ちらりとこちらに顔を向け、すがるような目で見てくる。
「ん。」
現状維持なら私でもできる。任せておけ。
軽く返事をして魔力供給用の魔法陣の中に戻り、魔力の供給を開始すると、千弦はこちらを向いて親指を立てた後、よろめいた。
和香や数人の医師が慌てて千弦に駆け寄り、別室へ移動していく中で吉備津彦だけは、空中に磔になったままの馬鹿でかい蜘蛛をにらみ続けていた。
◇ ◇ ◇
仄香
大間漁港を出港して約3時間後、青森海上保安区所属、いわみ型巡視船「まつしま」の船上でグローリエルからの念話を受けたが、相変わらずの口下手で状況がわからなかった。
っていうか、「念」話なんだから無理に言語化しなくったっていいのに。
仕方なく、吉備津彦に状況を説明させたところ、思っていたのと違う形の緊急事態だったことが分かった。
アトラク・ナクアの眷属・・・。まさかとは思うが、遥香の症状はアトラク・ナクアが原因だったのか?
アトラク・ナクアは比較的新しい蜘蛛神で、クトゥルフ神話に登場する架空の神だ。
いや、神話や伝説なんてほとんどが架空なんだけれど、クトゥルフの神々は20世紀初頭に作られた、明確に架空のものとわかる神話に登場する神々だ。
それが、精神世界で像を結ぶようになったのは、人間たちの妙な信仰心によるものか。
いずれにせよ、アトラク・ナクアは以前、召喚契約しそこなった一柱だ。
契約を試した時は、何を考えているかわからない、まるで狂人のようだったが、時を経て何らかの人格を取得したのだろうか。
まさか、あの時見せつけた私の魔力が欲しくなったのか?いずれにせよ、あいつが原因だとすれば、なんというか、ただ腹が立つばかりだ。
契約もなしに人の魔力を欲するとは。
それとも肉体でも欲しくなったか?
生まれてから100年も経っていない邪神風情が、誰の子孫に手を出したのか教えてやる。
何年かかるかは知らんが、人魚を手に入れたらすぐにでも精神世界に封印しに行ってやろう。
それにしても、吉備津彦からの念話を聞いている最中に突然鼻や耳、目から血が垂れてきて驚いた。
おそらくだが琴音と千弦は身体は双子だが、魔力的には一人なんだろうな。
腰に下げたポシェットの中からウェットティッシュを取り出し、すべての血を拭い去る。
停滞空間魔法を使った反動がこちらまで来ているということは、ダメージの一部を肩代わりしたということだろう。肩代わりがなければ多分千弦は死んでいたはずだ。
グローリエルからの念話によると、千弦が失神したのは一瞬のことだけのようだ。意識はあるようだし、あの病院なら処置も早かろう。最悪の場合、身体だけならいくらでも治してやる。
それにしても、あいつもバカではないはずだから、自分のレベルをはるかに超えた魔法を使ったら死ぬことくらいわかっているだろうに。
・・・まったく大したガッツだ。
《仄香? 大丈夫?一瞬だけど何か、ものすごい強い頭の痛みを感じたんだけど。》
「ああ、それは千弦さんがちょっと強い魔法を使った反動がこちらまで来ただけみたいですよ。大丈夫、千弦さんは無事みたいです。」
《そう。・・・あ、黒川さんが呼んでるみたいだよ。》
琴音の言葉に廊下を見ると、黒川が呼びに来たところだった。
「千弦さん。ソナーが奴ららしき魚群を捉えたわ。甲板まで来てくれるかしら。」
よし、いよいよだな。出航前に蛟とスキュラを召喚しておいたし、準備万端だ。その魚群が人魚であるなら、数匹分の死体さえ手に入ればいいだろう。当然一体分は私がもらうが。
後はまた、人魚どもに人間に対する恐怖を植え付けて海底に追い返せばいい。
「はい。準備オッケーです。いつでもいけます。」
そう言って「業魔の杖」を背に、黒い無銘の杖は船室に置いて、甲板への階段を上り始めた。
最悪の場合、「業魔の杖」なら使い捨てに出来るからな。
◇ ◇ ◇
いつの間にか曇天だった空は晴れ渡り、水平線がはっきり見える程度に天候は回復していた。
「いつでもいけます。どうぞ!」
私の声を聞いた黒川が、無線機と双眼鏡を手に、艦橋に確認をしている。
「2時の方向、距離、2500。射程に入り次第、攻撃開始!頼んだわよぉ、千弦ちゃん!」
「雷よ。敵を討て!」
まずは、挨拶がわりに一発。
雷撃魔法を大体の位置にぶち込んでみる。
晴天にも関わらず、衝撃波を伴う雷が海に落ちる。
「次、11時方向、距離4000!」
・・・結構いそうだな。
少し火力を上げるか。
「雷よ。天降りて千丈の彼方を打ち砕け!」
轟雷魔法に切り替え、より海の深いところまで薙ぎ払う。
先ほどをはるかに上回る極太の落雷が、海面で水蒸気爆発を起こしながら海に向かって突き刺さる。
巨大な波が起き、全長92mの巡視船「まつしま」が大きく上下する。
「うわぁ。千弦さん、とんでもない威力ね。魔女と間違われるのも無理ないわねぇ。コレはもう一個の兵器だわぁ。」
「ああ。まさに青天の霹靂だな。黒川、お前、手加減されてなかったら死んでたぞ。」
・・・すまん。今だけは本物の魔女、なんだよな。ま、十分な距離があるおかげで威力のほどまでは正確にわかるまいが。
《マスター!人魚を一匹、漁獲しました!生け捕りです!》
ちょうどいいタイミングで蛟から念話が入る。
おぅ。じゃあ、あとは適当に脅して深海に追い返すだけだな。
「続けて3時方向、距離3000!5時方向、距離4500、複数接近を確認!まだまだ増えてるわぁ!」
・・・キリがないな。
水蒸気爆発で吹き飛ばしてしまおうか。
「炎よ。火坑より出でし死火よ。猛りて寥廓たる天地を焼き尽くせ!風よ、歌え。そして押し流せ!雷よ!敵を討て!」
轟炎魔法、暴風魔法の組み合わせで海面ギリギリで水蒸気爆発を起こす。そしてさらに雷撃魔法で追撃する。
「うわぁ、一体何種類の魔法が使えるのよ!」
「炎に風だと?雷撃魔法だけじゃなかったのか!」
黒川とクドラクが驚いている。
よしよし。分かったら千弦にはもう手を出すなよ。
《おーい。》
ん?誰か何か言ったか?
沸騰した海水が水柱になり、青い稲妻がそれに落雷し、轟音をとどろかせる。
《ヲイ。》
なんだよ、今いいところなんだ。人魚どもが、海底に戻って人間に乱獲されないように教え込んでいるんだよ。
よし!十分に海水と空気が攪拌された!
いくぞ!本番だ!
「第九十四の元素精霊よ!我は雷霆を持ちて汝を砕き階梯を貶めんとする者なり!呪炎となりて死灰をまき・・・」
《ヲイ!ちょっと待ったぁ!その魔法、何かものすごく嫌な予感がするんだけど!?》
あ、やばいやばい。もうちょっとで核分裂魔法をぶっ放すところだった。
人魚の肉まで放射能汚染するところだったよ。
っていうか、九十四番目の元素精霊はレアだからこんなところにいるはずなかった。唱え切っても発動しなかったか?
慌てて黒川の方に向き直り、拳を頭に当てて舌を出し、「てへっ。」と誤魔化した。
完全に腰を抜かした黒川とクドラクが、口をパクパクとさせている。
いかん。やり過ぎた。
近くに聖釘がないことをいいことに、ちょっとやりすぎだかもしれない。
「ええっと・・・。魔力が枯渇して疲れたので船室で休みますね。」
そう言って慌てて船内に駆け込む。
《仄香、あんたって人は・・・》
「いや、ちょっと変なストレスが溜まってて。なんででしょう?止まらなくなっちゃいました。」
船内のトイレの洗面台で、手を洗い、鏡を見る。
土気色の、酷い顔だ。
この小さな身体にどれほどの負担をかけてしまっているのか。
《・・・ああ、なるほどね。それ、多分私のせいだわ。行け、やれ、っていう感覚が止まらなかったのよね。》
琴音が思案に暮れているのが念話越しに伝わってくる。
そうか。これほど長い時間、念話のイヤーカフの身体制御で誰かの身体を乗っ取ったことは今までなかったな。
魂が混ざりかけると、こうなるのか。暴走状態の一歩手前だ。
もしかして、「アイツ」もこれが原因だったのか?まあ、50年近く前の話だ。今となっては確認のしようもない。
「すみません。この船から離脱して、すぐに身体をお返しします。シェイプシフターを呼んで後は任せましょう。」
《ちょっと待って。誰か来る。》
廊下で誰かが話している。
「太田警部。あれ、見たぁ?あれだけいた人魚がものの数分で全滅よ?あの火力、下手したら公安の監視対象になるわよ。」
「ああ。しかし、以前会った時と違いすぎないか?何というか、新宿御苑で会ったときはあそこまでの魔力は感じなかったんだが・・・。」
・・・いかん、やり過ぎたか。慌ててシェイプシフターを呼び出し、「業魔の杖」を握らせる。
「ごめんなさい、後はお願いね。魔力回路、一つ繋いでおくから。」
そういいつつ、素早く電磁熱光学迷彩術式を起動し姿を隠すと、シェイプシフターは心底嫌そうな顔をして、琴音の姿に変化した。
「エエ~。ここまで悪化した状況でボクに任せるなんテ、マスターは鬼デスカ。」
「ごめんね、何か聞かれたら魔力が枯渇して何もできないって言っておいてくれればいいから。何なら杖のせいにして。あと、『業魔の杖』は使い捨ててもいいけど、他の人間に渡すくらいなら確実に破壊しておいてね。じゃあ。」
とにかく、人魚の肉は手に入れた。
あとは、蛟たちと合流してから千弦と遥香のもとに急ぐだけだ。
黒い杖を手に姿を消したまま、「まつしま」の甲板へ踊り出し、長距離跳躍魔法で大間港へ向かう。
飛び立った時、眼下に見えたのは黒川とクドラクに質問攻めにされているシェイプシフターの姿だった。
◇ ◇ ◇
南雲 千弦
つい数分前。鼻血と血涙を流して倒れた私の精密検査が終わり、高度治療室へ戻ると、遥香は別の部屋に移動させられたのか、大蜘蛛だけが空中に磔状態になっていた。
「なんなの?これ?」
大蜘蛛を覗き込むと、後ろから吉備津彦さんの声がかかる。
「それはアトラク・ナグアの眷属、遥香さんの身体を乗っ取ろうとした怪異です。彼女の病気の原因ですね。」
「じゃあ、遥香は助かるのね!?」
「少なくともこれ以上悪化することはありません。ただ・・・。」
吉備津彦さんの歯切れが悪い。あの後何かあったのだろうか。
「あ、姉さん、ここにいたの。探したんだから。」
いつの間にか帰っていたんだろうか。琴音が吉備津彦さんの後ろからひょいと顔を出す。・・・顔色が悪い。まるで死人のようだ。
「琴音。仄香は?一緒じゃないの?」
「ああ、仄香なら、エルと二人で遥香の病室にいるよ。そんなことより大事な話があるんだ。ちょっと来て。」
琴音はそう言って私の手を握る。
手を引かれて病室に入ると、そこにはエルと遙一郎さんが、ベッドに体を起こした遥香を挟むように座っていた。
「千弦さん、琴音さん。この度は何とお礼を言ったら良いか・・・。おかげさまで何とか一命はとりとめました。」
遙一郎さんが深々と頭を下げる。
「よかった・・・。ん?一命は・・・?どういうこと?」
皆一様にうなだれている。琴音も、エルも何も言わない。
「私から説明します。よろしいですか?」
ベッドの上の遥香が、遙一郎さんにそう告げる。
「なんだ、遥香、助かったんじゃないの。・・・遥香?あれ?仄香は?」
琴音を見ると、沈痛な面持ちで首を横に振る。
「千弦さん、私は仄香です。遥香なら・・・そこです。」
その指さす方を見ると、そこには師匠のところで作った黒い杖が、何の支えもなくまっすぐ自立していた。
《あはは、千弦ちゃん、ごめんね。ちょっと私の頑張りが足りなかったみたい。》
不意に念話で遥香の声が頭の中に響き渡った。
「ちょっと待って?どういうこと?理解が追い付かない。もしかしてあの時?私のミス?それともあの時、あんな魔法つかったから?」
どうしよう、私のせいで遥香が死んでしまった。友人をこの手で殺してしまった。
両目から涙が流れ出て、足ががくがくと震えだす。
パニックになっていると、遙一郎さんがそっと私の肩に手をのせた。
「そうじゃない。最後まで話を聞いてくれ。」
「千弦さん。残念ながら、遥香さんの幽体・・・霊的基質は致命的に損傷していました。でもそれはあなたのせいではありません。高度治療室の蜘蛛を見ましたか?あれがすべての元凶、アトラク・ナクアの眷属です。」
仄香の言葉に顔を上げる。
そうか、アレが遥香の仇か。
「それと、遥香さんはまだ生きてます。今、杖の中から彼女の声が聞こえたでしょう?ちゃんと魂は保護してありますよ。」
仄香の言葉にその不思議な杖を見ると、杖が妙にモジモジしたかのような挙動をした。
《あはは、今私、杖の中にいるんだって。代わりになる幽体?ってのが出来たら身体に戻れるらしいよ。だからまだ死んでないって。》
やっぱり遥香の声だ。
「5年ほどかかると思いますが、私と私の眷属が、遥香さんの幽体を責任をもって組み立てます。それと、この身体の維持管理も。それでよろしいですか?遙一郎さん。」
「・・・ああ。ジェーン、いや、今は仄香さん、だったな。いや、遥香と呼んだ方がいいか?何から何まで世話になる。っていうか、その口調、やっぱり慣れないな。」
遙一郎さんが頭の後ろをポリポリと搔いている。そういえばこの人、ジェーン時代からの知り合いだったけ。
「じゃあ口調を戻すか?遙一郎。でも香織に聞かれたら問題だな。今は遥香の着替えを取りに行っているからいいがな。それとも・・・パパ。退院したら新しいスキーウェア買って?ね、お願い。・・・このほうがいい?」
仄香が口調を変えても、どれも似合ってるから怖い。
「・・・家の中では遥香の口調で。それ以外は任せる。それと、俺は遥香と呼ぶことにするよ。」
「ええ、そうしましょう。それと、遥香。このイヤーカフを使えば一時的に身体に戻ることが出来ます。多少、魂に負担がかかりますが、必要な時はいつでも言ってください。」
《え?戻れるの?どれくらい?》
「そうですね・・・。1日あたり2から3時間くらいでしょうか。ムリすれば5時間くらいですね。ちょっと疲れると思いますけど。」
《そうなんだ。じゃあ、全然問題ないじゃん!これからもよろしくね。仄香さん!》
「さて、皆さん、かなりお疲れでしょう。今日のところはもう休みましょうか。」
仄香の言葉に、琴音は荷物をまとめてエルと出ていく。なぜか、その後をフヨフヨと黒い杖がついて行こうとしている。
《一休みしたら、仄香さんの昔話の続き、見たいな~。》
「ちょっと遥香!あんたはこっち!」
慌てて杖を握り、仄香のベッドの横に引き戻す。
《あ、ごめん、つい・・・》
どうやら、形は違うけど何とか日常に戻れそうだ。
安堵とも何ともつかないため息を吐いて、琴音のあとを追いかけることにした。