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9 転校生は無表情/琴音と遥香の出会い

知らぬは仏、見ぬが神・・・だそうです。

 9月9日(月)


 東京都荒川区

 ある共学の私立高校


 南雲 琴音


 夏休みが終わって一週間も経ってしまった。今年の夏休みは最悪だった。夏休み明けも大変だった。


 そして今朝のテレビの占いも最低だった。ふたご座は12位だってさ。信じられない。


 姉さんは左手切断の大けがをするし、その左手をつなぐため健治郎おじさんのところに呼び出されたせいで、夏休みの宿題が終わらなかったし、魔力切れで眠くなる日が続いたし、授業中に寝て先生には怒られるし、術後管理のせいで剣道部の合宿は休まなきゃならなかったし。


 健治郎おじさんは「魔女には手を出すな」と言っていたけど、かわいい姉さんの左手を切り落とされたんだ。


 文句の一言も言ってやりたい。代わりに腕を一本股間に増やしてやろうかしら。


 9月のシルバーウィークには、学園祭がある。うちの部活は、学園祭では何もやらないからいいけど、それが終わったらすぐ中間試験だ。


 中間試験後、修学旅行があるので一息つけるが、すぐに受験勉強が本格化する。

 本番になったら、どうせ魔法でカンニングするつもりだけど。


 姉妹そろって魔女とやらのせいで、せっかく最後にゆっくりできる貴重な夏休みを潰されてしまった。許せん。


「はあぁ~、何か良いことないかしらねぇ。」

 メガネをずらしてハンディファンを顔に当てながら、思わず愚痴をこぼしてしまう。


「コトねん、今日もひまそうだねぇ?」

 後ろの席の咲間(さくま)さんが、ネズミのアニメキャラが描かれた団扇で突っついてくる。


「サクまん、突っつかないの。良いことがなくても、せめて面白いことでもあればねぇ。」


 右手で団扇を手で払いのけながら、左手のハンディファンの風を彼女の顔に当ててやる。


 咲間さんはハンディファンに向かって「あ~」と声をあげながら、ふと思い出したように言った。


「そういえば、ウチのクラスに今日から転校生が来るらしいよ。転入試験、全教科満点だったんだって。」

「へぇー。もう見た?イケメンだった?」


 頭がよくて将来有望なイケメンならば、ぜひお近づきになっておきたい。そして、隣のクラスで「彼女にしたくない不思議少女」といわれている姉さんとくっつけたい。


「残念。女子だってさ。」

そうか、残念。でもまあ、優等生キャラのかわいい女子と友達になるのも悪くない。


「席について~。朝のホームルームを始めるわよ~。」

 間延びするような声とともに、担任の小場(おば)先生がプリントを持って教室に入ってきた。


 立っていた生徒の数名がガタガタと席に座り、日直の男子生徒が号令をかける。

「起立、礼。」(なぜかうちの学校は「着席」を言わない。)

「オバセン。転校生来るってホントー?」


 咲間さんがそう言うと、知らされていなかった生徒たちがガヤガヤと騒ぎだした。


「静かに。どこで聞いたのよ、まったく。これから紹介するわよ。入ってきて。クガミさん。」


 教室のドアを開け、とてもかわいらしい顔をした女子生徒が入ってきて教卓の横に立った。


 小場先生が、黒板に「久神遥香」とその女子生徒の名前を書く。

久神遥香(くがみはるか)といいます。よろしくお願いします。」

 無表情なまま、頭が芯から痺れるようなかわいらしい声で彼女は挨拶をした。


挿絵(By みてみん)


「うおおおおお!」

「キター!」

「キャー!」

 男子だけでなく、女子まで悲鳴を上げている。顔だけでなく声までかわいくて、しかも天才だって。天使か。


「コトねん、なんかあの子こっち見てない?」

 咲間さんがまた団扇で後ろから突っつく。確かにじっとこちらを見ている。あ、いま目が合った。手を振ってみよう。


 すると、久神さんは一瞬だけ戸惑ったような素振りをした後、ぎこちない動きでひらひらと手を振り返してくれた。


「席は南雲の横が空いているな~。南雲、廊下に机とイスを持ってきてあるから、咲間と一緒に運び込んでくれ~。」

「うらやましーぞ南雲―!」

 男子の声がうるさい。

 百合に挟まる男はゲフンゲフン。


「おーい。今度の学園祭の注意事項、プリント配るから各列の先頭は取りに来なさ~い。」

 誰もオバセンの話を聞いていない。


 やばい。テレビの占いなんてあてにならないかも。最悪の夏休みが明けたら、運勢が上向いてきたかもしれない。


「久神さん。私、南雲琴音(なぐもことね)って言います。こっちは咲間恵(さくまめぐみ)ちゃん。」

「咲間です。南雲さんからは『サクまん』って呼ばれてるよ。南雲さんは琴音だから『コトねん』だね。」

「私のことは遥香(はるか)とお呼びください。」

 廊下にある机を咲間さんと二人で運び、イスは遥香さんが運ぶ。


 軽く自己紹介を済ませたのだが、なぜか遥香はじっと私の顔を見ている。

「なにか付いてる?」

「いえ、メガネが・・・。」


 メガネがどうしたというのだろう。まさか、メガネに刻まれたスマホ同調(カンニング)術式に気づかれた?健治郎おじさんの術式は基本的にオリジナルだから、そこいらの魔術師どころか、一般人が気づくとは思えないのだけど。


「おしゃれな模様だなと思って。でも、左右対称じゃないんですね。」

 やっぱり気のせいだったか。メガネを使ったカンニングがバレたら大変だ。


「これで朝のホームルームを終わる。日直、号令~。」

 あ。ホームルームの内容をほとんど聞いていなかった。あとで誰かに聞こっと。



 転入編はもうちょっと続きます。

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