81 光陰の魔女・魔力結晶①
1978年7月初旬
ジェーン・ドゥ
プラハでの作戦が終わり、久しぶりに玉山の地下にある隠れ家にこもって「聖者・ワレンシュタインの剣」とやらの術式を分解していると、いくつか面白いことが分かってきた。
「マスター。ご機嫌デスネ。何か良いことでもあったんデスカ?」
横でシェイプシフターがメネフネと食事をしている。生魚とバナナ?相変わらず、変な組み合わせだ。
「ん?ええ、この剣が意外に面白くてね。」
拵えをバラしながら刀身に刻まれた術式を剥がしていく。
「ただの古臭い剣にしか見えませんケドネ。ほらメネフネ。バナナだけじゃなくお魚も食べるとイイデスヨ。」
「あははは。これ、聖者・ワレンシュタインと何にも関係ないじゃないの。」
我が子の体を刺し抜いた剣かと思っていたが、完全に拍子抜けだ。
「バナナとお魚を一緒に食べるのはチョット・・・。マスター、口だけで笑ってマスネ。ちょっと怖いデス。」
「マスターは表情筋がまだ上手く動かせないのデス。だからあんな面白い顔になるのデス。」
メネフネが何か言いたげだが、私は趣味に集中するといつもこんなものだ。
刀身が作られた時期はもっと昔、紀元前3世紀頃だし、拵えが作られたのは14世紀ころだし、術式が込められたのはつい最近、それも数年前くらいじゃないか。
当然、刀身にあの子の血液に相当するものは一切ついてない。
せっかく聖者・ワレンシュタインとやらの手掛かりが手に入ると思ったのに、手に入ったのは異常な切れ味と強度の剣一本。
「マスター。かなり集中して周りが見えなくなってマスネ。もう40時間以上寝てマセンヨ。」
横でシェイプシフターが何か言っているが、数年くらいなら寝なくても人間は死なない。あれ?それは私だけか?
まあ、いいや。私は剣士じゃない。良い剣は嫌いじゃないけど、ちょっと使い道がないな。剣を使いそうな眷属にでも持たせるか?
少なくとも聖剣だの魔剣だのとは呼んでいいレベルの業物ではあるから、捨てずにとっておこう。
それよりも興味深いのが詠唱や術式に干渉して、魔力に戻してしまう術式だ。
面白いことに、何らかの魔力貯蔵装置を使い、共鳴を利用した術式が組まれている。
これは、この剣の共鳴が届く範囲の詠唱や術式を掻き乱し、無意味な文字列に変えてしまうという効果を持っている。
・・・一種の音響魔法か。そんな原始的な方法で詠唱に割り込むとは、考えもしなかったな。
しっかし、それをするにはどれだけ魔力を使うんだ?
音源から見て距離Aと距離Bの地点での音の差は、=20×log10(B/A)で表される通り、大きく減衰することが知られている。
単純計算で距離が10倍になれば20dBも減ってしまうのだ。もっと分かりやすく言うならば、掃除機の騒音が図書館レベルまで下がってしまうのだ。
音響魔法なんて効率の悪い魔法、私以外で使う奴なんて見たことがないよ。
だが、原理が分かってしまえば対応はたやすい。同種の妨害を受けた場合は、詠唱をアレンジして共鳴の上に重ねてしまえばいいのだ。
まあ、私以外でできる奴がいればだが。
いずれにしても、この術式の理論はあとあとで役に立つだろう。そのうち何かで応用することにしよう。
ええと、最後に、刀身の拵えを外してと。共鳴用の魔力貯蔵装置は・・・!魔力結晶だと!?こんな物、どこで手に入れた?
術式が込められたのはつい最近。聖遺物クラスなら、魔力結晶があることがあるが、それだって珍しい。
異常なほどの高出力だったのはそのせいだったのか。
「お、マスターが立ち上がっタ。やっと寝てくれマスカ。ベッドメイクはしておきマシタヨ。」
「ごめんなさいね、シェイプシフター。まだ眠くはないのよ。それよりちょっと気になったことがあってね。」
「マスター。またあの女剣士のところへ。まったく、飽きないんデスカネ。」
なぜかシェイプシフターとメネフネが後をついてくる。まあ、特に見られて困るようなことはないし。
「見ていても面白いことは何もないわよ。」
そう言いながら、とらえた女剣士の脳みその中をもう一度攪拌してみたところ、本人にとってはどうでもいいことだったのだろうが、ちょっと面倒な情報が出てきた。
「あらら、まったく、冗談じゃないわね・・・。」
よりによって、天然の魔力結晶の鉱脈が見つかったのか。
アイダホ州、モンタナ州、及びワイオミング州に跨って約9000平方キロに及び広がるイエローストーン国立公園の一角に、魔術結社が秘匿する鉱脈が存在しているらしい。
魔力結晶か・・・。
この星は、人間を含む動植物が生命活動が行っている領域のすべてに魔力が満ちている。
人が知的活動により生み出す魔力の総量が、他の生命のそれを大きく上回ることから、知的活動こそが魔力を生みだすだろうということは魔法に携わる人間の間では通説となっている。
しかし、一つだけ例外があるのだ。それが星が生み出す魔力だ。
星が知的活動を行っている証拠はどこにもないが、この星はどういうわけか、常時莫大な魔力を生み出しているのだ。
人間やほかの生命体が生み出す魔力なんて無視していいくらいの量の魔力を。
しかし、通常はその魔力を利用することはできない。いかに莫大な魔力とはいえ、星の面積が大きすぎるのだ。実に、5億1千万平方キロメートル。
ゆえに、いかに莫大な魔力といえども、面積当たりの濃度が薄すぎて活用することは難しい。
しかし、やはり何事にも例外はあるもので、どういうわけか星の魔力がまとまって噴き出す場所が極稀にあるのだ。
その典型例が魔力溜まりだ。魔力溜まりは通常は洞窟のような形で存在し、例外的に山や森そのものといった形で存在する。
玉山もこれの一種だ。魔力溜まりが発する魔力は、その場にいる人間を含む生命に干渉し、その姿を大きく変貌させる。
玉山にいるトカゲやニワトリ、サルのように。
そういえば、仁川で人間ベースの幻想種と会ったっけな。あれってメスのオークだっけ?いや、オーガだったか?
まあいいや。
洞窟型の魔力溜まりのように、魔力の発散がほとんど行われない場合、魔力はその場所の圧力に応じて結晶化することがある。
これを、魔力結晶と呼ぶ。
つまりは、魔力結晶鉱脈とは、魔力溜まりになれなかった魔力の成れの果てということだ。
だが、魔力結晶が安定して存在し続けるためには結構な圧力が必要であるため、そのほとんどが海底にある、
私もいくつかの魔力結晶の海底鉱脈を眷属を使って押さえてはいるが、陸上で発見されるなど聞いたことがない。
その魔力結晶の鉱山の規模がどれくらいかは知らないが、もし十分なサイズの結晶が産出するなら、非常にまずいことになる。
人間はそのあまりの便利さに頼りきりになってしまうだろう。
魔力結晶は放置すれば1000年ほどで揮発するが、かなり安定しているので存在するだけでは危険ではない。
だが、長い年月をかけて莫大な量の魔力が固まってできているのだ。
そうホイホイと手に入るものではない。私のように自分の魔力から作れるならともかく、天然の魔力結晶に頼った文明の行く末などろくなものではない。
まさか。国防高等研究計画局、特別技術研究室の連中が目指しているのはこれを利用した兵器か!?
・・・暴走魔導兵器ということは、制御するつもりすらないのか?
そこらへんの爆薬と同じ感覚で使われてはたまらない。きっと誰も魔力変換効率の高さを知らないだろう。っていうか、魔力結晶を使って兵器を作るなんて、歴史上聞いたことがない。
通常はダンジョンの最奥でしか手に入ることはない代物を、使い捨てが基本の兵器に利用するなんて、ダイヤモンドを石炭の代わりに使うようなものだ。
これは、もしかするとかなり面倒なことになるな。
「シェイプシフター。ちょっと出かけてくるわ。留守を頼んでもいいかしら。」
「どちらへお出かけデスカ?」
「ホワイトハウス、いや、国防総省よ。ジェイソンに会って、そのあと大統領閣下に会いに行くわ。場合によっては、あの国との付き合い方も考えなきゃいけないかもね。」
「エエ~。ボク、ルーカスのスターウォーズ、まだ見てないノニ。」
「いや、それくらいは・・・わかったわよ。戦争にならないように気を付けるわよ。・・・まったく、完全に人間の娯楽に染まちゃって。そのうち趣味の沼にはまって抜け出せなくなるんじゃないの?」
「いや、マスターこそ漫画にハマってマスヨネ。寝室の雑誌や単行本、いつも片付けてるのはボクデスヨ。沼にハマりやすいのはマスターのほうだと思うんデスケドネ。」
「う・・・。じゃあ、よろしくね。・・・定点間中距離術式を発動・・・続いて術式束、72370439発動。勇壮たる風よ。汝が翼を今ひと時我に貸し与え給え。」
「あ、誤魔化しタ。モウ。気を付けていってらっシャイ。」
定点間中距離転移術式で玉山の中腹に出ると同時に、長距離跳躍魔法を行使する。
慣れ親しんだ加速度を体に感じながら、一路アメリカ、ポトマック川の河畔に向かい、空を駆けていった。
◇ ◇ ◇
アメリカ国防総省 アメリカ国防捜査局
局長 ジェイソン・ウィリアムズ
いきなり国防総省まで来たジェーンに呼ばれて、ゲストカードを手にエントランスまで迎えに行く。
っていうか、これだけ頻繁に出入りするんだったら職員証くらい作ったっていいんじゃないか?
専用の部署まで創設されるらしいし、いまさら文句を言う職員なんていないと思うが。
「ハーイ!ジェイソン!元気だった?」
相変わらずの無表情で明るい声でこちらを呼んでいる。
・・・?いつもどおりの声の中に妙な殺気を感じるのは俺だけか?
「まあ、元気だよ。ジェーンは相変わらず元気そうだね。というか、今日って出勤日だっけ?」
「出勤って・・・。私は給料なんて1セントももらってないわよ。税金も払ってなけど。っていうかそんなことより大事な話があるのよ。とりあえず、あなたのオフィスで話したいからゲストカードをちょうだい。」
「何か、ものすごく嫌な予感がするんだが・・・。それって断れないよな。やっぱり。」
「当たり前でしょ。話がすんだらホワイトハウスまで行くわよ。大統領と話があるわ。」
おいおい、そんな簡単に会えるわけないだろ。っていうか、「行くわよ」?
「ちょっと待て。俺も行くのかよ!?」
「当たり前じゃない。あなたがいなかったら私、何をするかわからないわよ。」
・・・駄目だ、胃が痛くなってきた。そろそろ辞表を出すことも考えるべきかもしれない。
何人もの職員がジェーンを見かけるたびに駆け寄ってきて握手をねだっている。
おまえら、コイツの危険性を知らないからいいかもしれないけど、日本の特撮怪獣を笑いながら素手で殺せるような女なんだぞ。
黄色い歓声を上げる職員をかき分けて何とかオフィスに入り、アリサにコーヒーを二つ頼んでソファーに座るころには、両掌から滝のような汗が床に水たまりを作っていた。
ジェーンはソファーに座り、テーブルの上に小指の先ほどの石を置く。
ルビーかガーネットのような深みのある赤い透き通った宝石だ。
「ジェイソン。この石、見たことはあるかしら?」
「さわってもいいか?・・・危険なものじゃないだろうな?」
「手に取っていいわよ。その状態で安定しているから特に危険はないわ。」
言われるままに手に取り蛍光灯にかざすと、宝石の中にちらちらと揺れる炎のようなものがあることに気づいた。
「これはなんだ?ルビーやガーネットに比べると少し柔らかいような、それでいて妙に重いような・・・。そもそもこれは石なのか?どちらかというとプラスチックのような印象を受けるが・・・。」
「魔力結晶よ。柔らかい石、または賢者の石と呼ばれていたこともあるわ。」
おいおい。ジェーンは事も無げに言うが、賢者の石って錬金術の集大成じゃなかったっけ?
「賢者の石ってことは、鉛を金に変えたりできるのか?とんでもない代物じゃないか!」
「何言ってるの。鉛を金にできるわけないでしょう?金にできるのは水銀よ。」
・・・どっちにしてもすげーな。元素を変換できるなんて、どんな原理なんだろう?ジェーンは金儲けになんて興味はないと思っていたんだが、どういう風の吹き回しだ?
赤い宝石をテーブルに置きながらジェーンの顔を覗き込む。
「で、この賢者の石がどうしたんだ?まさか、新しいビジネスでも始めるのか?」
「魔力結晶、ね。それ、純魔力の塊なのよ。イエローストーン国立公園のあたりで魔術結社が魔力結晶の鉱山を見つけた、って話は聞いているかしら?」
・・・魔術結社?そういえば、例の暴走魔導兵器の技術提供元が魔術結社だったな。
「いや、すまないがその話は聞いていないな。」
「本当でしょうね?白を切るつもりなら強制自白魔法で頭の中を浚ってもいいのだけれど?」
ジェーンの左眼が妖しく緑色に光る。
「ちょっと待て、本当に聞いてないんだよ。代わりと言っちゃあなんだが、俺の考えを聞いてくれないか?」
やばいやばい。魔女の魔法とはいえ国家機密をベラベラと喋ったんじゃ命に係わる。魔力結晶と暴走魔導兵器のことだけ話して終わりにしなければ。
っていうか、今まさに魔女に殺されそうなんだが?
「・・・?いいわよ。言ってみて?」
「おそらくなんだが、国防総省の中でも一部の連中しか知らされていないんだろう。以前、お前が暴走魔導兵器に関する情報を仕入れてきたことがあったよな?長官にもそのまま話したんだが、長官は『魔力源の目途はついている』と言っていた。魔力源っていうのは、これのことじゃないか?」
赤い宝石を指さしながら自分の考えを述べると、ジェーンはため息をつきながら首肯した。
「そうね。ジェイソンの考えてる通りだと思うわ。それで?」
「合衆国としても『魔女以外の方法で抑止力を持たなければならん』と考えているはずだ。この赤い宝石がどれほどの魔力を秘めているのかは知らないが、ウランやプルトニウム並みの力を秘めているとすれば、兵器として転用することを考えるのも自然な話だ。」
ジェーンは腕を組み、目を閉じて考えているようだ。永い時を生きた魔女だからわかると思うが、国を守るには大きな力が必要だということはわかっていると思うのだが・・・。
「なあ、ジェーン。この国、っていうか人類が原子爆弾を持つことに否定的なお前だから、暴走魔導兵器も反対なのはわかるが、国家を守るためには相応の兵器が必要なんだよ。」
ふいに顔を上げたジェーンと目が合う。
「え?・・・私は原子爆弾じゃなければ、っていうより制御不能な核分裂でない限りはどんな威力の兵器を持っても気にしないわよ?それで私が負けるなら仕方ないし。」
「・・・はぁ?大量破壊兵器がダメなんじゃないのか?」
「何か行き違いがあるようね。・・・おかしいわね?ハリーには『原子爆弾』はダメとは言ったけど、それ以外については好きにしなさいって言ったはずなんだけど?」
どういうことだ?魔女は大量破壊兵器としての原子爆弾を嫌っているのではないのか?・・・いや、待てよ?原子力を平和利用することも嫌っていたよな。こいつ。
「少し話を整理しようか。ジェーン、いや、魔女は原子爆弾、すなわち大量破壊兵器の技術を人類が手にすることを許していないのではなく、原子力に関する技術を手にすることを許していない、ということでいいか?」
「・・・違うわね。正しくは、完全な制御下に置けない原子力関連技術を人類が手にすることは許さない、ということよ。大量破壊兵器については全く気にしないのは合ってるわ。」
「ということは、完全な制御下にある原子力関連技術は構わない、ということか?」
「そうよ。・・・っていうか、レントゲン撮影とかラジウム塗料とか、あなたたち平気で使ってるじゃない。」
「ちょっと待て。・・・初めて聞いたぞ。なんで原子爆弾だけがダメなんだ?」
魔女が禁忌としているものが「完全な制御下にない」原子力関連技術だとしたら、完全な制御下にありさえすればいいということか。
「あなたたちにとっても大事なことなんだけど。まあ、そのうちちゃんと説明するわ。そんなことより、暴走魔導兵器の話よ。なんでわざわざ暴走させるのか、理解に苦しむわ。ダイヤモンドより貴重で希少なシロモノを石炭みたいに燃やすだなんて正気とは思えないわよ。」
ダイヤモンドより希少、ね。テーブルに無造作におかれた赤い宝石を眺めるが、いまいちピンとこない。
「う~ん。この安そうな石がねぇ。具体的にどう貴重で希少なんだか分らんが・・・。」
「そうね・・・。この魔力結晶は約10gあるんだけど、これ一つで熟練の魔法使いが一生の間に出力する魔力量の約一万倍の魔力を得られるわ。無駄なく術式を組めば、この国の発電所全部が作る電力の1000年分くらいの電気エネルギーになるわね。ウランやプルトニウムよりもエネルギー密度は高いわよ。」
まじかよ・・・。たった10gでそれかよ。
「ええと、希少だって言ったな?確認埋蔵量ってどれくらいになるかわかるか?」
「ええ。この地上で採掘できる量ならわかるわ。この星が出力する魔力量は常に一定だからね。そうね、概算で11kgといったところかしら。細かいのも全部集めてね。」
たった11kgだと?地球全体で?
「・・・この魔力結晶を使って暴走魔導兵器を作ったとして、国家の抑止力足りうる威力を得るために必要な分量は・・・そうだな、この前の白頭山消失事件で発生した爆発程度だとどれくらい必要だ?」
俺の言葉を聞いたジェーンは一瞬ためらうようなそぶりをしたかと思うと、視線を宙に泳がせ、人差し指を下唇に当てて考え始めた。
「・・・いきなり難しいことを聞くわね。どれだけ計算すればいいと思ってるのよ。ええと、ちょっと待ちなさい・・・そうね、概算で500g弱、といったところかしら。」
「まじかよ・・・たった22発分にしかならないじゃないか。たった22発で枯渇するのかよ・・・。」
どれだけ威力のある兵器を作れたとしてもすぐに枯渇してしまうのでは意味がない。
「厳密にいえば、一度枯渇しても千年もすればまた採れるようになると思うけどね。でも人間の寿命で考えたら、いったん枯渇したらおしまいと思って間違いないわ。暴走させるのがどれだけ無駄かわかったでしょう?」
なるほど、魔術結社の連中が言う暴走魔導兵器というものがどれだけアホらしいかよくわかったような気がする。
「わかった。一応、長官に進言しておくよ。っていうか、術式とやらを組めばもっと有効な兵器のエネルギー源になるのか?これ。」
「・・・そうね。電気エネルギーを得るためなら、他に一切必要としないから、局地仕様の乗り物の動力には向いているかも。潜水艦とかね。ただ、大きなエネルギーを安定して出力するのに向いているから、爆薬の代わりにするのはやめたほうがいいわね。」
「ふ~ん。ところで、この魔力結晶はもらってもいいのか?」
「ええ、いいわよ。私は似たものが作れるから必要ないわね。・・・そうだわ。代金としておいしいワインを一本用意して頂戴。あと、おいしい料理もね。」
この魔力結晶の値段にふさわしいワインなんてあるのか、と思いつつ、暇そうにしていたアリサに声をかけ、資料室に運ばせることにした。
「さて、話がまとまったところで何か食べに行くか。昼食はまだだろ?」
一時はどうなるかと思ったが何とか話はまとまりそうだ。魔力結晶がどういうものか分かったことだし、今の話をまとめて長官にレポートを出しておけばいいだろう。
「・・・何言ってるのよ。話がすんだらホワイトハウスまで行くって言ってたでしょ。大統領にも話があるのよ。」
「・・・勘弁してくれよ。ジェーン、俺の胃に穴が開いちまう。暴走魔導兵器については長官を通じてストップがかかるように言っておくから、今日はこれくらいで帰ってくれよ・・・。」
しばらくジェーンは俺の顔を覗き込むようにしたあと、目をそらして言った。
「・・・仕方ないわね。かわいいひ孫がそう言うんじゃあ、今日のところは終わりにしましょうか。昼食、おごってくれるのよね?」
「ああ。本格的な寿司を食える店ができたんだ。カルフォルニアロールが美味いらしいがな。」
「カルフォルニアロール?何よそれ、気になるわね?楽しみだわ。」
国防総省のエントランスから出て、アリサが用意した車に乗り、寿司屋に向かう。
アリサが気を利かせて3人分の席を予約してあったらしく、繁盛して混んでいるにも関わらず、待つことなく座ることができた。
やっぱり、持つべきものは優秀な部下だな。え?経費で落ちないって?
おい、ジェーン。全メニューを制覇した上で二週目に入るな。局長職とはいえそこまで給料高くないんだぞ。
あ、ニホンシュまでオーダーしやがった。俺はまだ仕事だっていうのに・・・。