70 血濡れの魔女・点けてはいけない炎
魔女による幻灯術式で映し出された昔話です。
・・・この時代の魔女は、現在ほど大人しくありません。縛るものがない、守るものがないので、弱点らしい弱点がありません。聖釘を除けば・・・。
南雲 千弦
琴音の部屋で、私、琴音、そして遥香の身体に入った仄香の三人(四人)がテーブルの上に置かれた魔法陣を中心に座っている。
鈴が鳴るような遥香の声で、仄香が歌っている。
聞いたこともないような言語で、おそらくは暗号化のせいか、上質な楽器が奏でるような音楽が耳を通り抜け、脳に浸透していく。
気が付けば暗い部屋の中、いくつもの映像がゆらゆらと現れては消えていく。
・・・仄香が言うには、幻灯術式というものらしい。
映像が次々と切り替わり、私の頭に重なると同時に、誰か別人の見ている景色を五感全てが追いかけるように没入していくのを感じた。
◇ ◇ ◇
1945年7月
???
まったく、人類はやっかいな技術に気付いたものだ。
オットーとフリッツめ。余計なことをしてくれた。
オークリッジ、ロスアラモス、ハンフォード。
生産がハンフォード、精製がオークリッジか。研究の頭は誰だっけ。たしか、オッペンハイマーとか言ったっけな。
それにしてもこの国の情報統制は素晴らしい。
研究者や業者の頭の中を浚っても一部分の情報しか出てこないおかげで、パズルのように組み合わせて全体像をつかむのに丸4年もかかってしまった。
・・・アメリカが慌てる理由は、まあ分かる。伍長や狂人に先を越されれば、自分たちの市場が維持できなくなるからな。
アメリカがどこで使うつもりかは、もう知っている。あいつらのことだ。有色人種のことは人間だと思っていないからな。
まったく、白人種はこれだから度し難い。私からすれば、人間など所詮は少し器用なサルに過ぎないのだが。
さて、人類初の大実験はどこで行われるのだろうか。まったく、ジェイムス・フランクのところに枝を仕込んでいなければ見過ごすところだった。
まあ、他人がどうなっても構わないのだが、この技術だけはまずい。下手をすれば憑依する身体が一つもなくなって私の計画が台無しになる。
この身体については、今年の3月の空襲で家族は一人もいなくなったが、どうしようもない家族だったからあまり気にしてはいない。むしろ、身軽になったと喜ばしいくらいだ。
それより、去年の10月末に紀一が亡くなっていたことのほうが衝撃だった。特定の国やイデオロギーなどはどうでもいいが、お腹を痛めて産んだ子はいつの時代でもかわいいものだ。この感覚だけは何としても慣れることができない。
心の中に暗い渦のようなものが蠢いている。この感情に飲まれるわけにはいかない。私の子供は紀一だけではない。世界中にその血は散らばっている。ついこの間だって、紀一の仇と言って襲い掛かった潜水艦に乗っていた一人が、私のひ孫だった、なんてことだってあったのだ。
それにしても、親子そろって戦死か。紬殿は息災だろうか。清水の町が空襲にあったのは一週間ほど前だったというが、この国にいては日本の一地方都市の情報は入ってこない。
やはりあちらにも枝を張っておくべきだったか。いや、いまさらだな。
《マスター。至急デス。コードネーム「ガジェット」の搬出先が判明しマシタ。アラモゴード砂漠のホワイトサンズ射爆場デス。「ガジェット」はすでに現地に搬入されていマス。》
《そうか、よくやったぞ。メネフネ。あとで褒美にバナナをやろう。一房まるごとな。》
《ヤッター!あ、それとマスター。実験の日付なんデスガ、明後日の7月16日の午前4時を予定しているようデス。》
午前4時、か。暗い時間だと戦果の確認ができないな。
まとめて光撃魔法で薙ぎ払っても、きっと取りこぼしが出てしまう。
《よし。現地の近くで天候気象制御魔法を使う。暴風雨にしておけば、降下物が拡散するのを嫌って何時間か延期するかもしれん。責任者が科学者の忠告を聞けばな。》
《了解デス。現地の座標を送りマス。北緯33.675度、西経106.475度。くれぐれも例の反応に巻き込まれないよう注意してクダサイ。》
《ああ、わかっている。・・・私としても初めて対応する事態だ。最悪の場合、あたり一面を熱核魔法で吹き飛ばす。ニューメキシコ州全体とまではいかないまでもソコロ群全域に影響を及ぼす可能性があるから、お前はもう離脱しろ。以降はシェイプシフターの指揮に従え。》
《了解しマシタ。マスター。ご武運をお祈りシマス。》
さて。長距離跳躍魔法でソコロまで行って、そこからは歩きか車だな。直線で50Kmくらいか。実験が前倒しになる可能性もある。とにかく急ごう。
◇ ◇ ◇
???
・・・まだ未明の降りしきる雨の中、天幕の下で休憩している若い兵士が同期の兵士に声をかける。
「なあ、トニー。これってなんだ?グローヴス将軍の命令で運び込まれたらしいけど、240トンもあるんだって?もしかしてこれが噂の新兵器か?」
多額の費用をかけ鉄道で運び込まれた、特大の手榴弾のような鋼鉄製の容器を鉄塔にぶら下げる作業の警備を終えた兵士は、それを下から眺めながら背を伸ばした。
「さあな。上の考えることは俺達には知らされないからな。まあ、何でもいいから早く完成してくれればいい。この退屈な警備が終われば、俺は彼女に会えるんだ。」
トニーと呼ばれた兵士は、軍の支給のコーヒーをマズそうに飲みながら胸のポケットから女の写真を取り出し眺めた。
「ああ、ハイスクールからの付き合いだっけ?結婚式の日取りは決まったのか?」
「ああ。再来月の15日だ。上官を呼ばなきゃならんのが面倒だよ。マイク、お前も来てくれるよな。」
「もちろんだ。それまでにこのクソッタレな戦争が終わってるといいんだがな。」
実際には、彼らから700mほど離れたところに設置された30mほどの高さの鉄塔の上に、人類初となる新兵器がすでに引き上げられていた。
彼らが引き上げたものはジャンボと呼ばれる、ただの鋼鉄製の容器、すなわち、射爆目標に過ぎなかった。
あたりが明るくなり始めたころ、それは一条の稲光とともに飛来した。
それが飛来した地点に、爆発のような砂煙が巻き上がる。
同時に、実験場全体に、サイレンの音が響き渡る。
合衆国本土、かつこれほど内陸で日本軍機の空襲を受けるはずがないと高をくくっていた彼らは、ある者は実験の開始時間を誤って聞いていたかと混乱し、またある者は実験場の中央に立つ小柄な少女を見つけ保護に向かった。
「うふふ、何とか間に合ったわね。うん?あれかしら。術式束58435発動、続けて術式束12589361発動。重ねて3345241発動。」
アジア系だろうか。黒髪の15歳くらいの赤茶けた斑のワンピースを着た少女が鉄塔に向かってゆっくりと歩き始めた。
「お嬢ちゃん!ここは軍の実験場だ!そんなところにいたら危ない!」
トニーは飲みかけのコーヒーの入ったカップを放り出して少女に向かって駆け寄った。
「悪く思わないでね。光よ、集え。そして薙ぎ払え。」
子供が辿々しく何かを歌うような声をトニーが聞いた瞬間、少女の右手から誰も目を開けていられないほど強い光がほとばしる。
「トニー!」
マイクと呼ばれた兵士が目を開けると、そこには広く扇状にガラス化した地面と、水以外の何か重い物が蒸発したような煙が漂うだけで、結婚間近の戦友は影も形もなくなっていた。
「あら?秘密の実験だと聞いていたからもっと少ないと思っていたのに。けっこう人数がいるわね。まあ、皆殺しにすることには変わりはないんだけどね。」
少女は生き残った兵士や作業員たちを睥睨し、小ばかにするように鼻で笑った。
「きっ、きさまぁ!」
マイクは素早くホルスターから拳銃を抜き、少女の胸と顔にめがけてその装弾数のすべてを叩き込んだ。
一瞬遅れてその場にいる警備兵すべてが銃を抜き、少女に向かって発砲する。
「うふふ、45口径程度でこの防壁が破れるわけないでしょ。せめて高射砲でも持ってこないと。」
少女は、マイクに続いてすべての警備兵たちが次々に撃ち込む銃弾の中を悠然と歩いていく。
マイクは確かにその少女の顔面を撃ち抜いたはずの銃弾が、その顔の少し前で左右にはじけ飛ぶのを見た瞬間、背筋を何かが伝うのを感じ、反射的に近くの物陰に飛び込んだ。
「五連唱。炎よ、盛れ。そして焼き尽くせ。・・・三連唱。風よ、歌え。そして切り刻め。」
少女がつまらなそうな顔をして再び辿々しく何かを歌うと、少女を取り囲むように直径数メートルはある炎の球体と不可視の刃が次々と現れ、警備兵や作業員、軍用車両に襲い掛かった。
「ギャアアァァァァ!」
何人もの男たちの身体が轟音とともに切り刻まれ、バチバチと不快な音を立てて燃えていく。そして風に巻かれた炎は、竜巻となってあたりに焼けつくような熱をばらまいた。
「あはは。自分が運んでいるモノの正体も知らずに呑気なものね。」
マイクは機材の中からカメラを取り出し、少女に向ける。何とかしてこの化け物のことを上に知らさなければならない。コレは、合衆国の敵だ。
「クソ!クソ!クソッ!トニーは結婚間近だったんだ!ジェシーは後方勤務になったって安心していたのに!」
カメラを構え、その少女の姿を連写する。
「あら?まだ生きていたのね。・・・水よ。集いて一条の槍となれ。」
パン!と何かが爆ぜたような軽い音が響いた後、マイクはそのまま雨の中に倒れ伏した。
その表情はもう読み取ることはできなかった。彼の首から上には何もなかった。
「くだらないわね。その制服が死に装束になる事くらい覚悟して袖を通したでしょうに。」
少女はつまらなそうに言い放つと、少し離れた場所にある鉄塔の上に吊るされた大きな鉄の塊を眺める。
「さってと、どうしようかしら。構造がわからない以上は下手に触って起爆しても困るし、熱や衝撃は加えられないわね。・・・眷属に食わせるか。それとも奈落にでも落とすか。どうしようかしら。」
しばらくそれを眺めていた少女は、目を瞑って小さな両手を天に掲げ、踊りながら足元に大きな円と幾何学的な模様、そしてどこの国のものかわからない文字を描き、辿々しい声で高らかに歌い始める。
「原初の神の一柱にして澱みの霧の王よ。ガイアの夫たる奈落の君に伏して願い奉る。汝が国、汝が身体たる冥界に彼の者を誘い給え。」
詠唱が終わると同時に、大地から黒い霧のようなものが噴き出し、鉄塔を包み込む。
暴風雨が吹き荒れるにもかかわらず、澱むようにその場にとどまり続けた黒い霧が晴れた時には、鉄塔は跡形もなく消えていた。
「グ、ゲホッ。さすがに質量が大きすぎたわね。術式に魔法陣まで併用してなお、反動がここまで大きいとは思わなかったわ。・・・いまごろタルタロスの奥深くで爆発していたりして。はは、笑えないわね。」
次の瞬間、何もなくなった荒野のど真ん中で、少女は膝をつき、血が混じった吐瀉物をまき散らした。
「う、く、くふぅ。向こうで何かあったみたいね。爆発しちゃったかしら。でも何とかなったわ。あとは関係者を皆殺しにしてお仕舞いかしら。・・・ああ、研究資料も消さなけりゃ。まったく、忙しいたらありゃしないわ。」
小一時間もの間、胸や腹を抑えて悶えていた少女は、土砂降りの雨の中、仰向けに寝転がり、空を仰ぐ。
「何人巻き込むか知らないけど、少し楽をしようかしら。・・・時の始原にありし鋭角を渡る獣よ。不浄なる青黒き猟犬よ。我は汝が王なり。出でよ。ハウンドオブティンダロス!」
少女が再び歌うと、周囲に強い酸のような刺激臭が立ち込め、青黒い煙とともに朧げな狼のような姿をした異形の獣たちが現れる。
それは、太く曲がりくねった注射針のような舌を持ち、薄灰色の体液を滴らせながら、獰猛に唸り声をあげた。
「よし。あなたたち、このリストにある連中を皆殺しにして来てちょうだい。他の人間はできるだけ殺さないで、って言うだけ無駄ね。ま、ほどほどにしてね。」
異形の獣たちは雨の中ばらまかれた資料の匂いを嗅ぐようなしぐさをすると、あたりに散らばる石や瓦礫の鋭角に向かって飛び込み、姿を消していった。
「さて、後は野となれ山となれ、ね。研究所は面倒だけど一つずつ潰していくしかないわね。・・・勇壮たる風よ。汝が翼を今ひと時我に貸し与え給え。」
暴風雨の中、少女は一陣の風に身を任せ大空に飛び上がっていった。
◇ ◇ ◇
1945年7月20日 合衆国大統領執務室
???
「大統領閣下。レスリーもノイマンも、オッペンハイマーも未だに行方不明です。他、軍民問わず、主要メンバーのすべてが獣に食い荒らされたような遺体で発見されています。・・・その家族、妻や生後間もない子供、近くにいた郵便局員までも・・・。」
高級官僚と思われる男が、緊張しながら目の前の丸い眼鏡をかけた男に報告する。
「それがどうした!俺は、いつになったら実験が再開できるのかと聞いているんだ!」
大統領と呼ばれた男は、腰かけていた椅子から立ち上がり、唾をまき散らせながら怒鳴り散らした。
「閣下。残念ながら、施設、人員ともに絶望的です。オークリッジ、ロスアラモス、ハンフォード、他、関係機関のすべてが失われました。統合作戦本部まで瓦礫の山です。生産も精製も、場合によっては研究までがゼロからやり直しです。人的被害は2万人を超えて拡大中です。少なくとも日本の降伏までには間に合いません。」
統合作戦本部が破壊されたことだけは、国民に知られてしまっている。表向きは、航空燃料満載のタンクローリーが突っ込んだことにしたが、新聞社のハイエナどもが嗅ぎつけるのは時間の問題だろう。
「ふざけるな!世界にアメリカの弱さを示すつもりか!原爆がなければ、ソ連に対して強硬路線に出るのがどれほど困難かわかっているのか!くそ!もういい。お前はクビだ。出ていけ!」
大統領は、机の上にあった高価そうな万年筆を男の顔にたたきつけた。
「くそ、すべてこの化け物のせいだ!人間同士の戦いの邪魔をするとは、神にでもなったつもりか!くそ、くそ、くそ!海軍情報局に陸軍情報部、さらには戦略情報局まで瓦礫の山だと!合衆国の継戦能力にすら影響する大ダメージだ!」
机の上に広げられた資料には世界中の戦場で撮影された、斑模様のワンピース姿のあどけない笑顔の少女の写真が何枚も散らばっていた。
中には、キエフの戦いやレニングラード攻防戦、コラー川の戦いで撮影されたものや、連合軍の爆撃機の近くで箒に跨って空を舞う姿まで撮影されている。
とにかく訳が分からない存在だった。
ソ連の戦車大隊を一撃で蒸発させたかと思えば、ドイツが誇るMe262を撃墜したり、合衆国のフレッチャー級駆逐艦を何隻も撃沈する。
未確認だがノーザンプトンやヘレナも奴の仕業だという噂まである。
かと思えば、圧縮空気を使い果たし、浮力を失ったガトー級潜水艦を限界潜航深度を超えた深度100メートルから引き上げ、乗員を助けたりもする。
・・・船体は三つに引き千切られて鉄屑にしかならず、乗員は神の威光にでも触れたか、全員が二度と戦う意思を見せなかったので戦力的には死んだも同然だったが。
まったく訳が分からない。
助けられた乗員の一人が泣きながら「ありがとう、ひいばあちゃん。」と叫び続けていたというが、その乗員は生粋の白人だ。
南北戦争の前まで遡って家系を調べたが、黄色人種の血は一滴だって混じっていなかった。
机の上に足を投げ出してイライラと思案に暮れていると、突然目の前に雷が落ちたかのような爆音が響き渡る。
大統領と警護官らが目を開けると、そこには赤茶けた斑のワンピースを着たアジア系の少女が一人、不敵な笑みを浮かべて立っていた。
「ハロー、大統領閣下。私のことが気になって夜も眠れないんですってね。こう熱烈にラブコールをされちゃあ、女冥利に尽きるというもの。だからわざわざ会いに来てあげたわ。」
「閣下!お下がりください!」
警護官が銃を抜き、大統領をその背に隠そうとする。
「男女の逢瀬に無粋ね。タルタロスの深淵に在りしニュクスの息子よ。安らかな夜帷の王よ。汝が腕で彼の者を深き眠りに誘い給え。」
何人もいた警護官や書記がその場でドサドサと音を立てて崩れ落ち、眠りに落ちていく。
それだけではない。
先ほどまで外で煩く鳴いていた蝉や、小鳥の声、そしてホワイトハウス前にいるはずの警備員や民衆の声までもが掻き消え、不気味な静寂があたりを包んだ。
「さってっと。もう誰も邪魔は入らないわ。ねぇ。坊や。なんでそんなに怖がるの?私はただ話をしに来ただけよ?」
そう言うと、少女は頭の上で両手を組み大きく腕を伸ばし、首をコキコキと鳴らしながら大統領に近づいた。
大統領は反射的に警護官の銃を拾い、少女に向かって発砲した。銃弾は眉間に当たり、少女の後ろに赤い飛沫が大量に飛び散る。
「いやね。次からはレディに向けるならバラの花束にしなさい。そうしないとあなた、モテないわよ。」
少女は全く意に介した様子もなく、左手で傷口をそっとなぞる。すると、その眉間には弾丸が当たったはずの穴はすでになく、あたりに血の跡すら残っていなかった。
「こ、この化け物!わ、私をどうするつもりだ!」
「あら、失礼しちゃうわ。私は生まれも育ちも坊やと同じホモサピエンスよ。・・・分類名が決まったのは18世紀半ばからだけどね。」
確かに後ろの壁に穴は開いている。銃口から煙が上がっていることからも、銃弾が出たことは間違いない。再び発砲しようと構えた途端、銃は俄かに熱を帯び、思わず取り落としてしまう。
「な、なにが望みだ!私の命か!合衆国を、民主主義をなめるな!私が死んでも代わりはいくらだっているんだ!」
「いやね。そんなものいらないわ。私は愚かな人間が過ぎたる力を持つことを望まないだけ、よ。」
少女は少し思案した後、意地悪そうに言い放った。
「民主主義は頑丈ね。いやになるわ。ヒュドラみたいにトップが再生するんだもの。・・・そうね。もしあの研究をこの先も続けるようなら、一週間でこの国の人間を皆殺しにしてあげるわ。こんな風にね。」
少女が指を鳴らすと、床に倒れたままの警護官の頭が次々と爆ぜて絶命していく。
「ま、待て、わかった、やめろ、やめてくれぇぇ!」
「ふふふっ。賢明だわ。ご褒美を二つあげましょう。一つ。人間じゃ制御もままならないような、あの技術を追い求めるなら、世界中の誰だって殺してあげる。安心なさい?アレを作れないのはあなたたちだけじゃないわ。」
少女は唇を笑みの形に歪め、大統領に近づいていく。
鼻を衝くにおいがする。これは死臭か、それとも乾いた血の匂いか。
「も、もう一つはなんだ!?」
少女は耳元に口を近づけささやいた。
「あなたを裏で操ってる人たちはもういないわ。だって私が全員死肉人形にしたもの。これからはあなたの時代よ。好きになさい。」
少女が頬に口づけをした途端、大統領の身体から力が抜け、床にどっと膝をつく。全身から噴き出す汗をぬぐいながら顔をあげた瞬間、一陣の風が巻き起こった。
その後には、何人かの警護官の死体と、壁に空いた一発の銃弾の跡だけが残っていた。
以前も書いた通り、この世界では一部を除いて核兵器や原子力発電が実用化されていません。発電は水力や地熱、風力といった再生可能エネルギーや、火力発電を用いていますが、一部、術式で発電している発電所もあります。エコですね。
原子力発電については、たとえ何とか稼働までこぎつけても、そのすべてが何らかの事故、または事件を起こして閉鎖されています。
ちなみに、核兵器を嫌う魔女ですが、その技術はしっかりと魔法に取り入れています。・・・熱核魔法とかね。