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67 魔女のアーティファクト①

 11月23日(土)


 南雲 千弦


 仄香(ほのか)が召喚した二人と、いつの間にか近江町市場に来ていた二号さんと合流してお昼を食べに行った。

 もちろん、仄香(ほのか)は遥香に身体を返した上で。


 スキュラさんも(みずち)さんも、どこから見ても休日に小旅行をしているOLにしか見えなかった。ちょっと言葉遣いは変だったけど。

 二号さんは遥香に化けてたよ。おかけで双子が二組になったみたいだった。


 食べ終わった後、お会計は二号さんがしてくれた。財布の中には帯付きの万札が三つほど入っていたよ。仄香(ほのか)になんでそんなにお金を持っているかと聞いたら、何千年も生きていたら自然と貯まるものなんだって。


 ・・・どこに貯金しているんだろう?銀行口座は・・・作れないよね?


「マスター。ごちそうになった。久しぶりに旨い寿司を食べたよ。」

「ごちそうさま、マスター。また()んでね。」


「琴音さん、コレ、予備のイヤーカフデス。遥香さんに渡してあげて下サイ。最後の一つデスカラ、失くさないように気を付けテ。」


 琴音は遥香に預けていたイヤーカフを受け取り、二号さんから受け取ったイヤーカフを遥香に渡した。

 早速、遥香はそのイヤーカフを耳につけている。


 人型になった眷属の二人は、キャスター付きの旅行カバンを私と遥香(仄香)に渡して、遥香に化けた二号さんと一緒にどこかに消えていく。きっとどこか人目につかないところで送還されるのだろう。


「そろそろ東京に戻りますか。琴音さんはこれからどうします?」

 いつの間にか、遥香の身体に入りなおした仄香(ほのか)が旅行カバンを引きながら琴音に聞く。


「ん~。午後は咲間さん(サクまん)と新しいネイルを研究する約束をしてるのよね。二人はまた健治郎叔父さんのとこに行くの?」


「ええ。健治郎おじさまのところで新しい杖を作る予定なんです。あと、これも預かっていただこうかと思って。」

 仄香(ほのか)はそう言って旅行カバンを指さす。


「新しい杖ねぇ。またどうせ遺物(アーティファクト)みたいなのをつくるんでしょ?どんな伝説の杖ができることやら。できることならもう少し自重してほしいんだけど・・・。」


「遥香に身体を返した以上は私の行動で傷をつけるわけにはいきませんからね。東シナ海ではBMDのために二重詠唱で遥香の身体を損傷してしまいましたから、万が一に備えて詠唱媒体としての杖がどうしても必要なんですよ。」


 ・・・琴音にBMDって言ってもわからないと思う。だって、ふつうは個人で弾道ミサイル防衛(Ballistic Missile Defense)なんてしないでしょうに。


「・・・?よくわからないけど、遥香の身体を傷つけないために作るんなら、いいわ。」


 ・・・問題なのは材料の一部が、遥香の左腕だってことなんだけど。それも琴音が切り落としたやつね。琴音のヤツ、忘れてそうだけど。


「では、琴音さんの家の前まで一緒に帰りましょう。皆さん、準備はよろしいですか?」


「ん。いつでもいいよ。」


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 仄香(ほのか)長距離跳躍魔法(ル〇ラ)の詠唱を行う。


 この移動方法もだんだんと慣れてきたな。まったく、慣れっていうのは怖いね。


 ◇  ◇  ◇


 九重 健治郎


 今日も千弦が遥香さんを連れてくる予定だ。

 午前中は宏介の勉強を見てやっていたが、約束の2時までに部屋の掃除を終わらせなくちゃならない。少し予定がタイトだったか。


 普段ならせっかくの休日なんだから、ちょっとは休ませろとか思っていただろうが、ここのところ土曜を待ち遠しく思っているのが少し気恥ずかしい。


 遥香さんは、魔女であるということを除けば、まさに俺にとって理想の女性像なのだ。

 だが、いかんせん年齢的に問題がある。いや、中身の年齢は逆方向にやばいことになっているんだろうが。


 それに琴音の話によると、琴音たちにとって南雲方の120年ほど前の先祖にもあたるらしい。

 ・・・よかったよ。俺の先祖じゃなくて。

 だって自分が何代か前の婆ちゃんに惚れたと知ったら、しばらく立ち直れないところだったよ。


 チャイムが鳴り、宏介が皿を洗う手を止めて迎えに行く。


「ししょー。遥香、連れてきたよ!」

「おじゃまします。」

 遥香さんの鈴が鳴るようなような声が聞こえて心が躍る。いかんいかん。そういった感情を持つべきではない。


「こんにちは。遥香さん。千弦も。」


「健治郎おじさま。お変わりありませんか?こちら、北陸のお土産です。後で宏介君と召し上がってください。」


「お、のどぐろか。新鮮そうだね。・・・まさか、午前中に行ってきたのかい?」


「はい。長距離跳躍魔法(ル〇ラ)でシュッと行ってシュッと帰ってきました。」

 遥香さんは少し得意げにそう言った。


「そうか、すごいね。俺も一度体験してみたいよ。」

 そういいながらいつもの研究部屋に通し、椅子を引いて座るように促す。


 ・・・やっぱり、長距離移動の方法を持っていたか。一応、これも報告しておくか。本人も隠すつもりもなさそうだし。


 陸情二部は、原則的に魔女と敵対しない方向性で話がまとまった。

 ・・・当たり前だ。魔女が我々を陸情二部と認識したうえで友好的に接しているのに、わざわざ敵対しようと考えるやつがいたらそいつは狂人だ。


 実は、中国東海艦隊分遣隊が壊滅する少し前に、空軍所属の情報収集衛星により、長崎艦隊に向かう東風21D(対艦弾道ミサイル)が海上から何者かに「指向性エネルギー兵器」で迎撃されたことが確認されている。


 千弦たちの話だと、それをやったのは間違いなく遥香さんだ。


 不安定な海上から宇宙空間の東風21D(対艦弾道ミサイル)を正確に捕捉して?

 大気の揺らぎや屈折、その未来位置を一瞬で完璧に計算して?

 エネルギー効率が悪く、威力が集中しない指向性エネルギー兵器で?

 秒速3~4kmの空力加熱も耐える再突入体を、破片も残さず蒸発させた?


 それだけの攻撃力、索敵能力を個人で有する相手に、ケンカを売る奴はただの馬鹿だ。

 間違いなく、東映の怪獣(ゴジ〇)相手に戦ったほうがまだ勝ち目があるかもしれない。


「ところで、今日は確か杖?を作る予定だと聞いていたんだけど、時間は大丈夫かい?」

 そういいながら。インスタントのコーヒーを2人分入れ、遥香さんと琴音の前にそっと差し出す。


「はい。千弦さんの家に泊まると両親には伝えてきましたから。」

 まあ、ご両親の許可が出ているんなら構わないか。って泊まっていくのか。

 ・・・まあ、部屋は余ってるから俺としては構わないんだが。


「それで、どんな杖を作るんだい?」


「その前に、もう一つお願いしたいことがありまして。これを預かっていただけませんか?」

 そういいながら遥香さんは二つの旅行バッグを開けると、そこには大量の牛肉?とかなり大きな魚の切り身が入っていた。かなり新鮮そうに見える。


 なにか、焼き肉パーティーでもやるつもりなんだろうか。


「いいけど、うちの冷凍庫に入るかなぁ。ところでコレ何の肉?おいしそうだね。」

 自分の分のコーヒーは冷めてしまったようだ。飲み切ってから淹れなおすか。そう思い、冷めたコーヒーを口に流し込んだ。


「人魚です。」

「ブフォ!」


 ・・・今なんて言った?

「・・・今なんて言った?」

 思わず、考えたことがそのまま口から出てしまう。コーヒーも一緒に噴き出したよ。


「今朝がた、福井県沖で獲れたばかりの人魚の肉です。停滞空間魔法がかかっているので、たとえ炎天下の車の中においても腐りません。ただ、決してお口になさらぬように。未処理ですから猛毒です。押入れでも結構ですのでどこか空いてるところで預かっていただけると助かるのですが・・・。」


「・・・!え・・・?それって、食べると不老不死になるっていう、あの八百比丘尼伝説の?」

 突然、何の冗談を言ってるのかと思ってしまう。ただ、遥香さんなら可能性がありそうで怖いのだ。


「いえ、確かに人魚の肉はしっかりと処理をすれば強いアンチエイジング機能を持ちますが、さすがに800歳まで寿命は延びませんよ。ちょっと精気を増強するだけの薬の材料にすぎません。」


「へ、へぇ~、そうなんだ~。そうだよね。寿命が延びたりなんてしないよね。それにしても、人魚って実在したんだ、へぇ~。」


「まあ、20歳くらいまで若返るのと、500年くらいの寿命になるのは本当ですけどね。」

 十分すぎる効果じゃないか。500年も800年も大して変わらないよ。


「ええと、人魚の肉は、陸情二部には報告しないほうがいいかな・・・?」

 これ以上、厄介ごとが増えてたまるか。それに健康食品の類いは国防には関係ない!


「いえ、別に報告していただいてもかまいませんよ。たかが健康食品です。何でしたら、私が漁獲しに行きますよ。ただその場合、高校が休みの日まで待っていただきたいのですが。」

 漁獲って・・・。漁業権は問題ないのか?それに健康食品って認識は共通してるんだな。


 話をそらそうと、預かっていたプラスチック製のバケツを取り出し、テーブルの上に置いた。


「さ、さて、今日作る予定の杖?なんだけど、前に預かった材料を使うんだよね。いわれたとおり、もらった溶液につけておいたよ。反応が終わってドロドロになってるみたいだけど・・・。この材料って」


「健治郎おじさま。材料については言わないでください。」

 ・・・琴音が切り落とした遥香さんの腕だよね、と言いかけたら言葉を(さえぎ)られた。


「ああ、そうだな。そのほうがいいだろう。」


 千弦がすごい顔をしてこちらを(にら)んでいる。さては、琴音が遥香の左腕を切り落としたことを相当根に持っているな。今後この話には触れないでおこう。


 ◇  ◇  ◇


 南雲 千弦


 今日は朝から4人(身体は3人)で敦賀(つるが)の港まで行き、仄香(ほのか)が遥香の身体で召喚魔法を使ってちょっと小さめの眷属を2体呼び出した。


 そのあと、金沢の近江町市場でお土産を買って、眷属の人たち+二号さんの3人と合流した後、お寿司を食べに行き、自宅の前で琴音と別れて師匠の家までやってきた。


 仄香(ほのか)は、ここのところ毎週のように師匠のところに通っているが、もしかして師匠のことが好きなのだろうか。

 昨日だって師匠のことをすごく評価していたし、師匠と話しているときはものすごく楽しそうだし。


 そうだ。最近、仄香(ほのか)が入った状態の遥香の表情がすごく豊かになってきたんだ。初めのうちは気のせいかと思ったけど、師匠と話をしているときは、少し頬が紅くなっているくらいなんだ。


 ・・・もし、本当に師匠のことが好きになっても、その身体は遥香のものだ。遥香が帰ってこなければよかったのかもしれないが、帰ってきてしまった以上、それは許されない。


仄香(ほのか)って、ししょーさんのことが好きだよねー。私は宏介君がいいかな~。大きくなったらししょーさんみたいにかっこいい男になるのかな?》

 仄香(ほのか)の気持ちを知ってか知らずか、遥香が恋バナを始めた。


《そうだね。親子だからね。宏介君が遥香の好みなの?》


《いや~。はっきり覚えてないんだけど、私、だれか好きな人、いたっぽいんだよね。》


《いたっぽい、ってことは覚えてないの?》


《う~ん。2月14日前後からあまり記憶がはっきりしないんだよね。顔を見れば思い出すかもしれないけど。》


《そっか。まあ、人間、脳みそなしでは物事を考えられるはずがないんだよね。例外を除けば。》


 遥香と念話をしながら、どうしたものかと思い悩んでいると、椅子に座った仄香(ほのか)が、眷属の二人から受け取った旅行カバンを開いて何かの肉を師匠に渡して言った。


「今朝がた、福井県沖で獲れたばかりの人魚の肉です。」


 ヲォイ!

 なんてものを水揚げしてるのよ!っていうか、それ、食べていいの!?アンデルセン童話の人魚姫の仲間だよね?っていうか、もうすでに食肉加工済みじゃない!ああぁぁぁぁ!人魚姫のイメージが!


 うわ~、っていうか、人魚ってホントにいたのか・・・スマホで検索してみよう。

 なになに?ジュゴンを見間違えた?いや、アレ、完全に魚肉だよ?少なくとも半分は。


《千弦ちゃん、人魚の肉だって!何かのマンガで食べると不老不死になるって書いてあったよ!》

 遥香が騒いでる。いや、不老不死?・・・仄香(ほのか)、あんたはそもそも死なないでしょうが。なんでそんなもん必要なのよ?


 あ、師匠がドン引きしてる。


《ははは、ししょーをあそこまでドン引きさせたのは仄香(ほのか)が初めてだよ。》


《いや、私もドン引きだよ。千弦ちゃん。》


 あ、師匠が立ち直った。

「さ、さて、今日作る予定の杖?なんだけど、前に預かった材料を使うんだよね。いわれたとおり、もらった溶液につけておいたよ。反応が終わってドロドロになってるみたいだけど・・・。この材料って」

「健治郎おじさま。材料については言わないでください。」

 ・・・危ない危ない。今の話は遥香も聞いてるんだよ!


《・・・?何かすごい材料でも使ってるの?》

《さ、さあ?魔法の杖の材料なんて、たぶん聞いても分からないよ。》


 仄香(ほのか)はどこからともなく、魔法陣のようなものが描かれた布を広げると、テーブルの上に広げ、ドロドロの赤黒い液体が入ったバケツをその上に置いた。


 続けてバケツの上で手をかざし、聞いたこともないような言語で歌を歌っている。

 さらにそばにおいてある箱から次々に何か取り出し、その中に投入していく。


 備長炭みたいなやつに・・・ガラス瓶。かまぼこ?の板、殺虫剤?あ、ホウ酸団子か。それと五寸釘、青いキレイな石、変な白い粉末。金塊?いくつもの金属のインゴット。それから・・・大量の一円玉、五円玉、十円玉。そして五十円玉。最後に、(にぎ)(こぶし)サイズの涙滴(るいてき)型の深紅の宝石。


 特に涙滴(るいてき)型の深紅の宝石は、一度抱きしめるような仕草をした後、バケツの中に落とした。


「・・・!ちょっ!お金!?お金を鋳つぶしちゃダメじゃん!」

 うわあぁぁぁ。間に合わなかったよ・・・。貨幣損傷等取締法違反じゃん。


「ししょー。止めてよー。仮にも法務省所管の独立行政法人の職員でしょ・・・。」


「そっちは副業だ。ぶっちゃけどうでもいい。大した給料ももらってないしな。それよりも、だ。今入れたのは炭素、ケイ素、ホウ素、鉄、それから・・・あれはアクアマリンだな。するとベリリウムか?粉末は何だ?カルシウムか?ナトリウムか?金、プラチナ、タングステン、イリジウム、タンタル、アルミニウム、銅、亜鉛。少量の錫。あと、ニッケルか。何ができるんだ?」


《千弦、すまないが健治郎殿に説明を頼む。歌いながらだと話せないのでな。》


《詠唱が終わってからでいいんじゃないの?》


《すまないが、あと最低でも4時間は歌いっぱなしだ。それまでに健治郎殿が飽きてしまうと申し訳ないのでな。》

 マジですか。


「あ~。ししょー。遥香はあと4時間以上は歌いっぱなしだって。はいこれ。あとでちゃんと返してよね。ベッチョーの人に渡したりしないでよ?」

 仄香(ほのか)からもらったイヤーカフを師匠に渡し、耳につけさせる。


「おお、遥香さんの声が聞こえる!すごい!すごいぞ!」

 歌を歌い続けながら、仄香(ほのか)がジト目でこちらを見ている。


「宏介くーん。なにか面白いゲームない~?お姉ちゃんとあそぼ~よ~。」

 勝手に二人で盛り上がっているのをよそに、宏介君のところに行くことにした。


 もう付き合いきれん。

 ・・・あ。遥香(オリジナル)のこと、忘れてた。まあ、いいか。



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