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62 呉越同食「黒川早苗」と魔女の過去(悪事)

 魔女の悪事の一部が明らかに!

 まあ、長く生きてれば何かしらやりますよ。人間なんて。

 11月6日(水)


 南雲 琴音


 「うわ、ちょ、・・・ええと。釜揚げシラス丼、はさすがにないですよね・・・。」


 いきなり身体を返された上、こんな高級料亭で何を食べたいか聞かれて、一気にパニックになってしまう。

 ・・・九重の爺様は、厳しいだけでこういった場所には連れてきてくれないからな。まあ、政財界のお偉方との会食に連れて行かれても困るか。それに、そういうのは大体宗一郎伯父さんが対応しているみたいだし。


「ふふふ。ここは親戚がやってる料亭だからそんなに硬くならなくていいわよぉ。それにメニューなんてないから、食べたいものを言えば何でも作ってくれるわぁ。でも、釜揚げシラス丼でいいの?湖西の生シラスもあるわよぉ。」


「え、生シラス!食べたいです!」


 黒川さんはしばらく考えた後、お店の人を呼んで注文をした。

「生シラスだけだとちょっとさびしいわね。そうね・・・。生シラスで何か丼ものを一つ、いくつかおススメの魚でお造りを添えて。私は・・・そうね、大将のおススメを一つ。お昼だし、さっぱりしたものがいいわ。」


「かしこまりました。早苗様。」

 へぇ~。黒川さんの下の名前って、早苗っていうんだ。


《黒川早苗、ですって!?》

 念話で仄香がビックリしたような声を上げる。


仄香(ほのか)、知ってるの?》


「ん?どうかした?私の顔、じっと見つめたりして。」

 いけない、仄香(ほのか)の思念波に反応してしまった。


「黒川さん、って下の名前、早苗さんっていうんですね。今、お仕事は何をなさっているんですか?看護師はお辞めになったみたいだし。」

 慌ててごまかすが、黒川さんはあまり気にしていないようだ。


「ふふ。気になる?そうねぇ・・・。あなたのおじさんと同じ仕事、かな。」

 おじさん?健治郎叔父さんかな。それとも宗一郎伯父さん?


《琴音さん。黒川はおそらく、内調か公安です。私がジェーン・ドゥと名乗っていたころ手に入れた資料にその名前がありました。・・・教会の信徒が内調にもぐりこんだ?いや、逆かしら。》


「へぇ~。健治郎叔父さんはみなし公務員だし、宗一郎伯父さんはIT企業の社長だから・・・。平日に休めるってことはIT関連?いつ頃から仕事してるの?」

 せっかくだ。色々聞いてみよう。仄香(ほのか)の役に立つかもしれない。でも、ナイチョー?コウアン?公安委員会は免許証をもらうところよね?もしかして警察官?


「大学を出てすぐからですよぉ。あっちに行け、こっちに行け、うるさいったらありゃしない。看護師だって派遣みたいなものよぉ。」


「おい、黒川。お前が教会に入ったのはおととしだろう。年齢のサバを読むんならもっとうまいことやれ。」

 クドラクが黒川さんの後ろで文句を言っている。


「うるさいわね!女の年齢についていちいち文句言ってるんじゃないわよ。アンタなんてもう死んでるくせに!」


「ちょっ!おまえ!なんてことを!」


 黒川さんとクドラクさんが言い合いを始めたところで仄香が耳打ちするように思念波を飛ばしてきた。


《おととし、ですか。私が資料を見たのは5年くらい前ですから、内調か公安が先、ですか。そのまま信じれば教会に内調か公安がもぐりこんだのか・・・。》


 その内調ってなんなのよ。まあ、後で聞けば良いか。


《どうする?仄香(ほのか)。もっと聞き出す?》


《ええ、ですが無理はしないように。最悪、まとめて熱核魔法で吹き飛ばします。そのときは清水市がなくなると思ってください。》


《熱、何?うえぇぇ。・・・日本平動物園、行きたかったのに・・・。》


《日本平動物園は静岡市・・・いや、それよりも集中して。》


「失礼いたします。お料理をお持ちいたしました。」

 料亭のウェイトレスさん?の声がしたので、黒川さんが「どうぞ」というと二人が料理を持って入ってきた。


「お、きましたねぇ。ここのシラスは新鮮で。季節外れでもなかなかいけるんですよぉ。琴音さん、どうぞ召し上がれ。」


「い、いただきます・・・。」


 ・・・器が。丼ものの器が。金蒔絵(きんまきえ)漆塗(うるしぬ)りに螺鈿(らでん)まであしらわれている!この漆器(しっき)、いくらするのよ!?


 新鮮そうな生シラスに、お醤油をかけていただくと、プリッとした食感が口の中ではじける!

 箸も金蒔絵(きんまきえ)が施された上等なものなのに、思わず箸が止まらず、無口になってしまう。


「あらぁ。気に入ってもらえたみたいね。そうね・・・琴音ちゃん、また食べに来るといいわぁ。おごってあげるから。LINEのID、教えてくれたらまた誘ってあげるわよぉ。」


 ガバっと顔を上げて即答する。

「え、いいんですか!」

 素早くスマホを開き、ラインのQRコードを表示する。


《琴音さん・・・。完全に料理に釣られてるじゃないですか。まあ、今回は普通に食べて終わりにしましょうか。どうやら次回もあるようですし。》


「はい、琴音さん。登録できたわぁ。それでねぇ。さっき言ってた同窓会の話なんだけど。南雲先生に伝言、お願いしたいんだけどいいかしらぁ。」


はひ(はい)もひろんでふ(もちろんです)!」

 これだけ美味しいものを食べさせてくれたんだ。断る理由なんてない。


「ありがとう~。食べ終わってからでいいわぁ。えーと。この紙を先生に渡してくださるぅ?」


 黒川さんはメモ用紙を一枚出すと、連絡先と学校・クラス名、卒業年度の書かれた紙を差し出してきた。この学校名は覚えがある。確か、おじいちゃんが担任をしていた高校の名前だ。


「分かりました。年末なんですね。今から連絡しちゃいます?」


 そう言ってスマホでおじいちゃんに電話しようとしたら、黒川さんが慌てて止めてきた。


「だめだめ!あなた、まだ授業中のはずでしょ!こんなところにいたらおかしいじゃない。ええと、学校、どこにあるんだっけ?」


「あ~。西日暮里ですね。東京の。あはは。」


「・・・あなた、学校さぼって静岡まで来たの?東京から。・・・将来大物になりそうだわぁ。やっぱり今からスカウトしておこうかしら。魔法も使えるみたいだし・・・。まあ、いいわ。次は千弦さんにも声かけてねぇ。彼女にはいろいろ迷惑かけてるしね。」


 ・・・そういえば姉さんにも教会が迷惑をかけたって言ってたっけ。何のことだろう。姉さんの左手を切り落としたのは遥香(魔女)改め仄香(ほのか)だし、体育館で狙われたのは私だし。


《琴音さん。そろそろ食べ終わりましたね。あとは私が話します。体を借りてもいいですか。》


 あ、やっぱり仄香(ほのか)に任せた方がいいよね。こういうのはちょっと苦手なんだよね。


 ◇  ◇  ◇


 仄香(ほのか)(魔女)


 さて、琴音からもう一度身体を借りたが、どうしたものか。


「失礼いたします、早苗様。食後のデザートはいかがですか?」

 上質な着物を着た仲居の女性が、部屋の外から声をかけ、ふすまを開ける。


「そうね、いただくわぁ。あ、そうそう。領収書と請求はいつものところにお願いね。」


「かしこまりました。・・・お兄様がお見えになっていますが、お会いになりますか?」


「え、いやよ。めんどくさい。また結婚しろって言われるのがオチよぉ。」


「かしこまりました。では、早苗様はこの時間にはお見えにならなかったようにしておきます。」

 なかなか常連のようだ。いや親戚と言っていたが、かなり近い親戚か?


「黒川さんはここの常連なんですか?」


「ん~。常連っていうか、私の従兄弟(いとこ)が経営してるのよぉ、ここ。出資者はうちの父親だしね。だから結構無理がきくのよぉ。それに、本店は赤坂にあるから普段はみんなあっちにいるんだけどぉ。」


「すごい、お金持ちなんですね。」

 赤坂に料亭を出せるということは、かなりの資産を持っているんだろう。そんなところの令嬢がなぜ教会(肥溜め)なんぞに入信しているのか。


「やーねぇ。琴音さんのお母様の実家には負けるわぁ。九重財閥のドン、そして政財界の重鎮じゃない。」

 ・・・確かに、琴音の祖父は現職の総理大臣だ。だが、言われてみれば妙だな。南雲家は金に困っている様子はないが、かといって富豪ってほどでもない。


《琴音さん。九重財閥のトップである九重総理の孫という割にはあまり富豪って感じもしませんね。理由を聞いてもよろしいですか?》


《うちの両親、ほとんど駆け落ちだからね。健治郎叔父さんが陸軍に入ったり、宗一郎伯父さんがいつまでも結婚しなかったりで九重の爺様の後継ぎがいないとかで私たちにお呼びがかかるまでは、ずいぶん長く放っておかれたみたいだよ。九重の爺様、軍閥側じゃないし、健治郎叔父さんとこの宏介君を跡継ぎにするのは健治郎叔父さんが嫌そうだし。》


 そうか、そのように説明しよう。


「・・・私の家は母方の祖父とあまり仲が良くないみたいなので、支援らしいものは受けていませんね。父も大学の考古学教授ですので、世界中を飛び回る割にはそれほど稼ぎがいいわけでもありませんし。」


「ふ~ん。そうなの。意外ねぇ。九重総理は若いころは娘さんべったりで、今はお孫さん大好きって有名よぉ。」


 どこで聞いたんだか、やはりこの女、内調か。


《えー。そんなの初めて聞いたよ。ってか、毎年のお年玉、宗一郎伯父さんの方が多いくらいなのに。》


「初めて聞きました。次回会った時には思いっきり甘えてみましょうか。」


 九重和彦・・・美代と名乗っていたころにあったときは、まだ鼻たれ小僧だったが、いつの間にか総理大臣か。大したものだ。


「ところで、教会が姉さんに迷惑をかけた、と聞きましたが具体的にはどういった迷惑をかけられたのですか?」


 新宿御苑で殺されかけたんだよな。どちらかというと千弦に。


「ええと、教会が魔女、っていうのを追っているのを知っているかしらぁ?」

 おいおい、そこからかよ。こりゃあ、時間かかりそうだ。


「いえ、体育館で襲って来たのが黒川さんの仲間であったことは今日初めて知りましたし・・・教会って言ってたのと魔女って言って襲ってきたので仲間でいいんですよね?あの不思議の国のアリスみたいなのと。」


「不本意ながらねぇ。でね、教会は、悪い魔女を捕まえて封印するのが使命なのよぉ。」


 悪い魔女、ね。そういえば、あの女神(ビッチ)を撃退する以外に教会にとって何か悪さ、したっけかな?せっかくだから聞いてみるか。


「その魔女ってどんな悪さをしたんです?どこかのお姫様をカエルに変えたとか?」


「アハハッ。面白いこと言うわねぇ。琴音さん。そんな魔法みたいな魔法、私も使ってみたいわぁ。・・・そうね。一番悪いことは、教会が奉ずる女神様を殺したことかしらね。」


 あれか。天地創神教(そびえたつクソの山)の崇める女神(ビッチ)を撃退したってやつか。


「女神様を殺す?そんなこと可能なんですか?・・・そもそも、教会ってキリスト教ですか?」

 ちょっとあおってみるか。


「いーえ。正式名称は天地創神教と言って、キリスト教とは別の宗教よぉ。女神様の実在を示す証拠だってある、世界で唯一の神の存在を直接証明できる宗教なんだから!」


 ・・・直接証明ね。できるだろうさ。呼べば出てくるんだからな。


「素晴らしい宗教であることは分かりました。その信徒の方がなぜ私や姉さんを襲ったんですか?」


「あなたたちが魔女の可能性があったからよぉ。だから聖釘(アンカー)を使って襲った。ごめんねぇ。魔女じゃなかったらまったく敵対する必要なんてないのよぉ。むしろ、私たちは魔法使いの味方なんだから。」


「・・・魔女の悪事というのは?」


「そうねぇ。大きいのは、1500年前にフランスのイスという街を海に沈めたこととか。」

 ああ、確かにやったな。そんなこと。教会の女神ごと仕方なく、な。ただ、1600年前だと思ったけど・・・。


「それから、スペイン風邪を広めたのも魔女だって知ってる?」

 やったやった。大戦の収拾がつかなくなって、つい仕方なく、な。


 まさかウィルソン大統領まで感染して、講和会議にも出席できなくなるとは思わなかったよ。

 ・・・そのせいでイギリスとフランスがアホみたいな賠償金を請求したんだよな。


「つい最近だと、新型コロナウイルスの流行も魔女のせいなのよぉ。」

 いや、アレは武漢の研究所が生物兵器を作ってるって聞きつけて、危ないから光撃魔法で汚物を消毒しようとしたら漏洩しただけだ。100%が私のせいじゃない。


「そうそう、19世紀末のクラカタウ火山の噴火も魔女の仕業なのよ!」

 ちょっと待て。なんでそんなことまで知ってる。

 ・・・いや、アレだって目が合っただけで人の命を奪うっていう邪神が目覚めたから、山体ごと宇宙空間まで陽電子加速衝撃魔法で吹き飛ばしただけだぞ。・・・結果的に噴火したけどさ。

 ・・・どうしよう。結構、知られているし・・・。


仄香(ほのか)?そんなひどいこと、してないよね?》

 うわー。一応、全部理由があるんだけど、琴音、言い訳聞いてくれるかな。


「あはは、魔女ってどうしようもない奴ですね・・・。」

 ちょっと、早くここから逃げ出したくなってきたよ。


 黒川の話はまだまだ続きそうだ。








 新しい魔法が出てきました。その名も陽電子加速衝撃魔法。

 名前だけは凄まじいですが、特大の魔法陣と大量の術式による補助、そしてアホみたいな長さの詠唱のせいで実戦では使い物にならない魔法だそうです。

 邪神を火山ごと第三宇宙速度(時速60,100㎞以上)で太陽系外まで吹き飛ばしたり、シューメーカーレビー第九彗星をまとめて蒸発させたりと、ちょっとした波動砲並みの威力はあるんですけどね。

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