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46 修学旅行 帰路 日常への帰還

 10月23日(水)


 咲間 恵


 昨日の夜、ホテルでコトねん達三人が魔術師?魔女?よくわからないけど魔法が使えること、それと、遥香が人外で、教会とかいう変な組織に狙われていることを告白された。


 ・・・人外だって言ったらちょっと怒っていたから、超人、てことにしておこう。


 同時に、イケてるデザインのイヤーカフももらった。

 コトねんと千弦っちとおそろいの、大きな緑の宝石がついているヤツ。


 なんか、宝石の中に魔力が込められていて、50年以上通話できるくらいのエネルギーなんだって。


 ・・・そんなモン、耳につけてて大丈夫なんだろうか。


 高雄空港から那覇空港に向けて飛んでいる飛行機の中、前の席で遥香と千弦はいつもどおり笑いあっている。


 コトねんは隣の席で爆睡しているけど。


「ねえ!見て見て!台湾空軍のF16Vだよ!あれって、J20と戦ったらどうなのかな?」


「どうでしょうね。第4世代機と第5世代機ですからJ20のほうに軍配が上がると思いますが、実際にやってみるとJ20も大したことありませんでしたからね。」


「そっか。遥香のJ20の撃墜スコアは4機だっけ?うーん。やっぱり私はF16Vが好きかな!第5世代機って、デザイン的に直線が多すぎてなんか美しく感じないんだよな。」


「そうですね。曲線が多いジェット機は美しいですね。大戦中に空の上でMe262(メッサーシュミット)を初めて見たときは、なんて美しい飛行機だと感激したものです。」


「えぇ~、実機が飛んでるのを見たことあるの!それでどうだった?パイロットに手を振ったりした?」


「いえ、プロペラがないことにひとしきり感激した後、普通に撃墜しましたよ。光撃魔法で。」


「遥香、貴重な機体になんてもったいないことを・・・。」


「・・・?当時は千機以上ありましたよ?」


 ・・・メッサーシュミットって結構有名な戦闘機じゃなかったっけ?ええと、どこの国の戦闘機だ?


 機内のWi-Fiにつないだスマホで調べてみると、ドイツの戦闘機らしいということは分かったが、いろいろな機体がありすぎてどれのことかわからない。


 深いな、ミリオタって。


 千弦っちは、自分の趣味を堂々と公言してはばからない。

 内緒だけど、ちょっと憧れているんだ。


 ・・・あたしは中学の時からこんな格好が好きだから、色々な場面で色眼鏡で見られる。


 パンクな恰好が好きで、ロックやメタルミュージックが好きなだけなんだけど、高身長も相まってクラスメイトにも先生方にも怖がられてる。


 それに、勘がいいのとはちょっと違う、なんて言うか、自分でいうのも何だけど、電波が入っているんだよね。

 時々変な閃き?声が聞こえたりさ。


 だからとにかく、後ろ指さされないように勉強だけは頑張った。


 おかげで国内でも有数の進学校であるこの高校に合格したし、学年でも10位以内をキープしている。

 遥香のおかげで順位が一つ下がったけどさ。


 でも、入学した時から私は遠巻きに見られているだけで、マジでこの趣味をやめようかとも思ったよ。

 いつ好きになったかは知らないけど、もう、あたしのアイデンティティともいえる趣味だけどさ。


 運動会の騎馬戦の練習中、転倒して下敷きになったときも、だれも声もかけてくれなかったしさ。


 その時、異常に気付いたコトねんだけが10cm以上身長差があるあたしを支えて保健室まで連れて行ってくれたんだけど、マジで泣きそうだったよ。

 うれしくて。


 それからずっとコトねんのことを目で追いかけ続けたら、いつの間にか友達になっていた。


 同時に、あたしの変な勘でコトねんが何か変な力を持っているのにも気づいたけどね。


 でも昨日三人の話を聞くまでは、いや、遥香の長距離跳躍魔法?っての実演を見せてもらうまでは、そんな力が存在するのか半信半疑でもあったんだ。


 ・・・あれ、マジヤバイね。

 遥香の家?東京まで10分だよ!?台湾から。


 地球の丸さとか、日本列島の形とか、宇宙空間からこの目で見る日が来るとは思わなかったよ、マジで。

 カンセイ何とか術式?とかで体にかかるGを少なくしているらしいけど、胃袋が口から出ると思ったわ。


 まあ、おかげでお土産とか、本来は税関に引っ掛かりそうなお菓子とかも先に持って帰れたから、遥香サマサマなんだけどさ。

 あはは。千弦っちの荷物のほうがヤバかったけどさ。


 ・・・とにかく、昨日の三人の話を聞いて分かったのは、あたしの悩みなんてちっぽけなもんだ。

 不幸自慢なんてしたくはないけど、少なくとも、何度人生やり直しても遥香の不幸さには勝てるとは思えなかったね。


 ◇  ◇  ◇


 南雲 千弦


 昨日の夜、咲間さん(サクまん)に私たち姉妹のこと、遥香のことを全部話した。


 やっぱりというかなんというか、琴音が魔法使いだっていうことはほとんどバレてたよ。


 あいつ、本人は周りに聞こえないようにしているつもりだろうけど、小さな声で詠唱しているからね。

 まあ、それだけならちょっと電波が入ってるとしか思われないか?

 まあ、相手は咲間さん(サクまん)だもんな。


 それより驚いたのは、私も魔法使いだと思っていたらしい。

 ・・・正しくは魔術師だけどね。


 とにかく、魔術を使っていることを誰かに見られても誤魔化せるように手品部なんてものを作ったんだけど、ホントにタネも仕掛けもないことを見抜かれているとは思わなかった。


 よくわかったな!?

 すごい勘の良さだ。


 正しくは術式が仕掛けなんだけど。


《千弦っち、・・・える?あ、あ、マイクテス、マイクテス。》


 頭の中に咲間さん(サクまん)の声がする。


《もしもーし。聞こえてるよ~。》


 遥香から教えてもらったんだけど、この念話というやつは距離も障害物も完全に無視できるテレパシーみたいな通信方法らしい。


 使い始めだけは慣れが必要らしいけど、五感の共有や画像データも送受信できて、さらには術式のやり取りや遠隔での身体制御も可能というインターネット並みの機能を有する上に、なんと魔力の受け渡しすら可能なシロモノだという。


《二人とも。全体通信になってますよ。琴音さんは疲れて眠っているんですから、個別回線に切り替えてください。》


《あ、ごめんごめん。ええと、こうだっけ。》


 頭の中で咲間さん(サクまん)のことを考える。すると、なぜかは分からないけど、咲間さん(サクまん)だけに話しかけているような感覚になった。


《ねえ、千弦っち。これでほかの二人には聞こえなくなっているのかな?》


《んーと、全体でも個別でも、どっちにしても遥香は聞けるらしいよ。コレ、遥香の魔術だからね。》


《そっか。じゃあ、遥香っちが寝ているときとか、あまり遅い時間は使わないようにしようか。迷惑だろうし。》


《そだね。》


 遥香はそれに対し何も言わず、私の3Dポラロイドカメラの術式を解析しようとしている。


 ・・・それ、師匠の所属していたところでも採用された国家機密クラスの術式だから、そんな簡単に解析できないはず・・・なんだけどなぁ。


《で、咲間さん(サクまん)、念話まで使ってどうしたの?》


《あ。いや、このイヤーカフ、遥香が三人に正式にくれたじゃん?最初は貸してくれるだけかと思ってたけどさ。》


 そうなのだ。


 最初は私だけが使っていたので借りているだけだったんだけど、琴音と咲間さん(サクまん)にも渡すことになって、デザインも格好良かったから、遥香に強請(ねだ)ってみたところ、正式にプレゼントしてくれることになったんだっけ。


《このイヤーカフ、コトねんが青、千弦っちが赤、そんであたしが緑の宝石が入ってるじゃん。これっていくらくらいするんだろうね?》


 えーと、これは言ってもいいんだろうか。

 まあ、遥香はそんな小さなことは気にしないだろうな。

 ・・・庶民には決して小さくないだろうけどさ。


《これ、帰りの飛行機の中で、術式で解析してみたんだけど、ガワは18金とプラチナ、術式回路はイリジウムとかパラジウムとかの希少金属を山ほど使ってるし、演算素子は0.1カラット以上のクラリティFLのダイヤモンドが10個以上だし、アンテナ代わりの宝石は10カラット以上の混ざりもの無しのスタールビーとかスターサファイアを使ってるから、下手したら港区あたりに庭付きの豪邸が一軒建つかもだよ。》


《マジ?値が張りそうだとは思ってたけど、そこまでか~。億レベルか~。》


《何億で済むかどうかは知らないけど、値段なんか気にして、どうしたの?》


 横にいる遥香がこっちを向いてニヤニヤしている。やっぱり聞いているな。


《いや、遥香っちの誕生日、いつかなって思ってさ。お礼というかなんというか、何かプレセントしたら喜ぶかと思ったんだけど、ちょっとどうしようか悩んでる。》


《直接聞いてみたら?っていうか、誕生日って、どの誕生日になるんだろう?遥香の体の誕生日ならすぐにわかるだろうけど、中身のほうの誕生日なんて、まだ(こよみ)すらなかった時代じゃない?》


《そうなんだよね・・・。どうしよっか?》


 チラリと遥香のほうを見ると、ウキウキしながら何かメモのようなものを書いている。


 あれは自動書記術式か。

 何を書いているんだろう。

 ・・・あれって3Dポライドカメラの術式!?あれから10分もたってないぞ?師匠に言ったら自信無くすだろうな・・・。


 ◇  ◇  ◇


 南雲 琴音


 那覇空港で国際線から国内線に乗り換えた後、帰りは行きとは違って羽田まで直行するルートを飛行しているらしい。


 行きの飛行機の中では気がつかなかったけど、後ろの席に座っていたのは遥香ではなくてシェイプシフターさんだったそうだ。


 そういえば、行きの飛行機の中でおいしいお肉とかお魚を食べたいって言ってたっけ。

 今度、大ケガさせたお詫びにおいしい焼肉でもご馳走してあげようかな。


 遥香は那覇のホテルでは肉料理をほとんど食べてなかったけど、まさか肉屋でたんぱく質やカルシウムを補給していたとは知らなかった。


 「たんぱく質とカルシウム以外が絶望的に不足」というのがそういう意味だなんてふつうは思わないよ。


「琴音さん、あと30分で羽田につきますよ。楽しい修学旅行でしたね。」


 ニコニコしながら遥香が声をかけてくる。体調はいいみたいだけど・・・。


「遥香・・・。それ本気で言ってないよね?」


 ・・・中国軍相手に空中戦して右手と足の指を失って、魔力の使い過ぎで吐いて丸一日寝込んで、しまいには暴走した馬鹿に喉をつぶされた挙句、左腕を肩から切断されて死にかけて・・・。


 魔女じゃなかったら一生モノの大ケガだよ。トラウマになってもおかしくないでしょうに。


 これで楽しかったと思える人間がいたら、ちょっと引く。


「・・・?楽しかったですよ?」


 ヲイ。ここにいたよ。


「あんたって人は・・・。それより、なんか妙に機嫌がいいみたいなんだけどどうしたの?」


「さっき、千弦さんと咲間さんが話してるのを聞いてしまったんですが、私の誕生日に何かプレゼントをくれるって言ってまして。・・・誕生日、いつにしましょうか。」


「そうなんだ。なんか高そうなイヤーカフもらっちゃったし、私も何か考えてはいたんだよね。・・・ごめん、今なんて言った?」


「誕生日、いつにしようかって言ったんですけど・・・?」


 そうだ、忘れるところだったけど遥香の誕生日っていつになるんだろう?遥香の体の誕生日・・・は違うよね。


 オリジナルの魔女の名前、「三つ目の穴で冬の朝生まれた女」だっけ?幸い、冬ってことはわかるんだけど、3か月間中のどの日よ、まったく。


「一番最初の体の時の誕生日、なんてわかるわけないよね・・・。」


「ええ、(こよみ)という概念がない頃でしたからね。かろうじて数の概念はあったんですけど・・・。」


 へえー。そんな昔でも数の概念はあったんだ。


「それだけじゃちょっとわからないよね・・・。ところで、最初に生まれた場所ってわかるの?」


「大体の位置はわかりますよ。今のソビエト連邦で一番有名な発電所があるところの近く、赤い森といわれているあたりですね。」


 赤い森、赤い森・・・。

 一番有名な発電所・・・。

 あ、例の革新的開発研究の試験発電所?


「もしかして、チェルノブイリ?」


「正確には、プリピャチと呼ばれている町の近くですね。今はもう、普通の人間では近づくこともできませんが・・・。」


 ・・・なんというか、この子、本当にツイてないんだな。

 どこぞの馬鹿野郎たちのせいで本当の故郷まで奪われるなんて。


「琴音さん?どうしたんですか、いきなり抱きついてきて。」


 いかんいかん。反射的に抱きしめてしまった。


「ごめんね。大事なことなのに思い出せないことを聞いちゃって。」


 もうこの話はやめよう。

 よし、転校してきた日を記念日にしよう。

 あれ?そうすると一年近く待たなきゃならないのか?

 不便だな。いっそ今の体の誕生日でいいか?


「日付なんてただの数字ですよ。・・・当時の、顔も覚えていないんですが、たぶん母親だと思う人の話だと、寒くなってから一番低い太陽が昇って、4回太陽が沈んだ次の朝、まだ暗いうちに生まれたらしいんですが・・・。さすがにそれだけではちょっと・・・。」


 ・・・なぬ?その日だったら今の暦でも分かるんじゃないの?


「ちょっと遥香。数学の点数は?」


「数Aから全教科とも満点ですけど・・・。突然なんです?」


「問題。今から一万年前までの冬至の日付の平均値を求めよ。ただし、暦はグレゴリオ暦を用いるものとする。」


「日付を平均って・・・最頻出(さいひんしゅつ)は12月21日ですけど?」


「その四日後は?」


「・・・っあ。」


 何に思い当たったかは容易に想像がつくが、遥香は飛行機が着陸するその時まで、声を押し殺して泣いていた。


 久しぶりに涙腺を使って制御できなくなったのか、空港の保安検査を抜けても、解散の時間になってもハンカチを手放さなかった。

 台湾修学旅行編、これで終了です。次回からは新章です。

 章の設定、どうやるんだ?

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