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26 夜 教会と魔女/聖釘の秘密

 いよいよ教会(肥溜め)信徒(クソども)聖釘(アンカー)の正体が明らかに。っとその前に。今回はかなり内容がかなりグロいです。グロが嫌いな方は、注意して読んでください。

 9月23日(月)


 南雲 千弦


 遥香と二人でケーキを食べてから歯を磨き、二階の遥香の自室に戻ってくると、ご丁寧にパジャマまで用意してあった。


「一番ゆったりしているパジャマを選んだつもりだが、もしサイズが合わなかったら言ってくれ。遙一郎のパジャマを借りてくるから。」


 さすがにそこまでしてもらうのは気が引ける。


 遥香から受け取ったパジャマにそでを通してみると、一番ゆったりしているというだけあってちょうどいいサイズだった。


「ん、ありがと。サイズも大丈夫そう。」


 着替えて布団に入ろうとすると、遥香がどこからともなく最新のゲーム機と定番の古今東西の遊びが入ったゲームソフトを引っ張り出す。


 あ、うちにもあるヤツだ。


「遥香・・・。何やってるの?」


「千弦は格ゲーのほうがよかったか?」


「琴音と違って格ゲーは苦手・・・そうじゃなくて、もう寝なさいよ。」


 まるで何も聞こえないかのように、部屋の隅の42型くらいのテレビに端子を接続し、電源を立ち上げる。


「いや、自分の部屋にクラスメイトが泊まりに来るというのはめったにないシチュエーションでな。このまま朝まで寝るというのは、何かもったいなくてな。」


「クラスメイトは琴音でしょうが。いつ、私が遥香の友達になったのよ。」


「・・・そう・・・だよな・・・。私はてっきり・・・。」


 うわ、急に死にそうな雰囲気になった。

 その無表情さがものすごく怖い。

 エアコンも強くしていないのに、周囲の空気まで冷凍庫の中みたいに冷え始めてる。


 ・・・コイツ、実はかなりの寂しがり屋なんじゃないか・・・?


 それに、何か魅了のような力も持ってないか?


「わかった、わかったから。うん、遥香が転校してきた日だったね、そうそう、遥香がかわいいって抱きしめたんだっけね。」


 そういえば、新宿御苑で気が付いた時、キスされてたっけな。

 そういう趣味もあるんだろうか。


 ・・・う~ん。ファーストキスが人外って・・・。

 ノーカウント・・・にはならないよな・・・。


「じゃあ、友達なんだな!」

 咲き誇る花のような気配とともに部屋の気温が元に戻る。


 これで全部、無表情なままだから逆に怖いわ。

 ・・・特にさっきの。

 あの交差点で初めて出会った時より怖かったです。


「さて、私については大体話したな。まだ話し足りないこともあるだろうが、それは追々話していくことにしよう。それよりも、重要なことは教会(肥溜め)聖釘(アンカー)についてだ。」


 遥香がオオカミとウサギのゲームを選択する。


「教会って何なの?カトリックとかプロテスタントくらいしか知らないよ?」


「・・・そうだな・・・。教会(肥溜め)、というのは奴ら(クソども)の通称で、正式名称は『天地創神教(そびえたつクソの山)』といって、天地のすべてを魔法・・・奇跡で創造した女神(ビッチ)、■■■■■をあがめる宗教(妄想)だ。」


 遥香がウサギ側を選択する。

 このゲーム、何回やっても琴音に勝てないんだよな。


「え?今なんて言った?」


「ああ。悪い、忘れていたよ。この名前は知っていても呼んではいけないんだ。その名前を呼ぶだけでどこにでも出てくるからな。セーフティーをかけたのを忘れていたよ。」


 出てくるって・・・その女神の名前、完全に呪いのワードじゃねーか。言うんじゃねーぞ。フリじゃないからな!


「その女神って、出てくると何か悪さをするの?」


 あ、ウサギが囲みを突破していった。くそ、もう一度だ。


「周囲のものをすべて魔力に還元する。まあ、周囲って言っても半径1〜2キロくらいだな。」


 ・・・今なんて言った?

「・・・今なんて言った?」


 いけない、心の声がそのまま出てしまった。


「いわゆる、大規模魔力災害だな。対抗する方法は、女神(ビッチ)の魔法により大規模な魔力をぶつけて相殺するくらいしかないが、普通の魔法使いや術式では絶対に無理だな。ハハハハハ。」


 ハハハハハじゃないよ。

 もし間違えて女神の名前を呼んだりしたらどうするの!


 あ、またウサギが囲みを抜けた。何としても勝てない。


「その女神の名前、間違えて誰かが口にしたりしないの?」


 今度は遥香が狼の番だ。


「ああ。それは大丈夫だ。そもそも日本語どころか現在使われている言語ではないし、名前は結構長いし。何より、明確にその女神(ビッチ)のことを認識して呼ばないと呼んだことにならない。」


「絶対に呼ばないでね。フリじゃないからね。」


「私自身、その女神(ビッチ)とは実際に三度(みたび)相対(あいたい)したがね。一度目は這う這う(ほうほう)(てい)で逃げ出したよ。実際には教会(肥溜め)連中(クソども)女神(ビッチ)と呼んでいるだけでタダの怨霊なんだがな。話を戻そう。その女神(ビッチ)がこの世界を創造したなんて事実はないんだが、教会(肥溜め)連中(クソども)はその前提ですべての行動をしている。」


 教会は世界を滅ぼしたいんだろうか。


「で、だ。教会(肥溜め)の言い分としては、女神(ビッチ)は魔力からこの世界を創造し、今は魔力の源になっているありがたい存在なんだと。その女神(ビッチ)荒ぶる(発情する)のは何か原因があるに違いない、何とか鎮まっていただきたいってね。色々やっていたみたいなんだが。1500年ほど前だったかな、私が探し物の最中にソレと二度目に交戦する必要があってね。何とか撃退したのを見た教会(肥溜め)狂信者(キ〇ガイ)どもが、私のことを神敵だと認定したわけだ。」


 あ、ウサギが追い込まれた。なんで!?


「はあぁ?なにそれ!完全にもらい事故じゃない!」


 遥香の言い分が正しいなら、遥香に悪いところなんてないじゃないか。


「まあ、撃退するときに私が安全装置なしで全力の光撃魔法をぶっ放したおかげでな。当時フランスのブルターニュ地方のあたりにあった半島を一つ吹き飛ばした。確か、イスとかいう教会本部(でかい肥溜め)がある都市があったかな。」


「・・・イス?聞いたことがあるような無いような・・・。」


 半島を一つ吹き飛ばした?魔法で?


「思いのほか被害が大きくてな。吹き飛ばした都市の規模としては、・・・そうだな、今のパリを二回り小さくしたくらいかな。」


 前言撤回。1キロや2キロで済む範囲じゃないじゃない。

 もらい事故どころかしっかり大量破壊活動をしてやがった。

 コイツ、完全に戦略級兵器じゃないか!


「安全装置なしで光撃魔法をぶっ放したおかげでな。ぶっ放した手は両方とも肘から先が炭化してしまってな。体中の魔力回路も手持ちの術式もほとんど焼き切れて。戦闘で両足とも女神(ビッチ)分解(魔力還元)されてたし、さすがにその場で動けなくなっていたんだよ。魔力の揺動(ようどう)が収まったら、術式か呪いかのどちらかで体を修復しようと思っていたんだが、その時初めて教会(肥溜め)連中(クソども)に捕まってな。」


 ああ、相手が女神だとさすがにかなりのダメージ受けたんだ。でも、教会がこの遥香を捕まえた?いくら満身創痍でも、そのままずっと捕まえていられるわけなんてないでしょうに・・・。


「その場で百人以上の男に犯されたうえでバラバラにされた。」

 ・・・なに?


「膣から焼けたショートソードを刺し込まれ、取り出された子宮を口に押し込まれ、腹と胸を開けられ、内臓を掻き出されて周囲にばらまかれた。」

 ・・・う。


「ご丁寧に目玉は最後まで残されたよ。自分の姿がよく見えるようにってな。そうそう、魔法も魔術も使えないから、最後まで痛覚は遮断できなかったな。」

 ・・・うぅ。もうやめて。


「わざわざ用意された鏡で見せられたがな。肋骨を外されて体の中ががらんどうになった体は、処理待ちの牛肉の内臓摘出後みたいだったよ。」


 ・・・言葉にならない。それどころか声も出ない。


「そのあたりで少量の爆裂術式をギリギリ発動できたが、不完全な術式だったからな。自分の体の残った部分を木っ端みじんにする程度の威力しかなかったな。」


「う・・・うぉぇ。」

 吐き気がこみあげてきて我慢できない。


 遥香が「教会」と口にするたびに変なルビが一緒に聞こえた意味がよく分かった。

 あと、しばらく牛肉が食べられそうにない。


「洗面所は下にしかないから、吐くなら下まで・・・ゴミ箱!ゴミ箱!」


 せっかく食べたおいしいケーキを、全部戻してしまった。


「うわぁぁぁぁぁ。ゴミ箱の中がえらいことに・・・。」


 遥香が悲鳴を上げている。魔女といえども、何でもできるわけではないのか。


術式束(パッケージ)1613527発動!消毒!加熱!」


「ごめん、部屋の中汚すところだった。」


「・・・せめて口を(ゆす)いでこい。その間に私はコレを何とかしているから。」


 右手で大量のティッシュを、左手でゴミ箱を持ったまま、遥香は廊下を出て階段に向かった。


 ◇  ◇  ◇


 遥香に続いて一階に降り、洗面脱衣所で口を濯ぎ、もう一度歯を磨いていると、バスルームでゴミ箱を洗っている遥香がポツリとつぶやいた。


「私の生きてきた時代は今と違って血みどろで、どいつもこいつも人の皮をかぶった獣で・・・そしてこの手も血で汚れている。聞いてて辛いようならもうやめにするか?」


 遥香の話を聞いていると、実際に追体験しているような気分になる。


 術式や魔力の気配はない。この声に何か秘密があるんだろうか。


「ごめん、一番つらいのは当事者だよね。部屋に戻ったら続きを聞くよ。」


「そうか。なるべくショッキングな表現は避けるようにするよ。」

 

 遥香をバスルームに残し、遥香の自室の入ると、ほんのりと酸っぱい匂いがした。

 ああ、さっきまで遥香の花のような匂いがしていたのに。


「ふう。やっと片付いた。ほら、口直しにお茶でも飲むか?」


 遥香がお盆の上に急須と湯呑を二つのせて部屋に戻ってきた。


 遥香はお茶を湯呑に注ぎながら、再び話始める。


「さっきの続きだが、その時奪われた肋骨を奴ら(クソども)、術式の媒介に使いやがったんだ。」


「術式の媒介?」


「ああ、不完全な爆裂術式のせいで、私の魂の一部が・・・それはもう本当に少ない量なんだが、引き剝がされた肋骨に残っていたんだ。」


 遥香が、お茶の注がれた湯呑をそっと差し出す。

「それって・・・まさか・・・。」


聖釘(アンカー)の主な材料だ。」


 九重の大叔母様が言っていたことを思い出した。

 ・・・『魔力との親和性を考えると、もしかしたら人骨かもしれない。』


 ポシェットの中から、古い布にくるまれた聖釘(アンカー)を取り出す。


「ああ、絶対にその布から出さないでくれよ。教会(肥溜め)連中(クソども)はその聖釘(アンカー)がどこにあるかわかる術式を組んでいる。その布は聖釘(アンカー)の術式を完全に停止させる効果があるんだが、それも布でくるまれている間だけだ。」


 差し出されたお茶をズズっと啜る。美味しい。ほのかな甘みが何とも言えない。


「この布もすごい効果ね。どんな術式が組まれてるの?」


「いや、魔力隠蔽と術式強制停止だけだ。素材だけは特殊だがな。」

 

・・・まさかと思うが・・・。

 湯呑をローテーブルに戻す。

 すでに部屋の匂いを酸っぱくしてしまったのに、さらにお茶まで吹き出したりすると、さすがに遥香も怒るだろう。


「これってまさか・・・遥香由来の素材?」


「ああ、私の背中の皮膚を(なめ)したものだ。まあ、聖釘は私以外の誰かの身体に刺さっているときも、私の魔法や魔術に対する干渉力がドカンとおちるみたいだがな。」


 ああ、だから第一体育館で遥香は魔法が使えたのか、あの大男に刺さったままだったしね。


 それにしても、人間、遥香の肋骨だと。


 心の準備ができていたから何とかなったものの、そうでなかったら取り落としてしまっていたかもしれない。

 あと、お茶を吹き出さなくてほんとによかった。


 かといって、長く触っていたくもないので、ローテーブルの上にゴトリと置いた。

 ・・・あとでポシェット、買い替えよう。


聖釘(アンカー)の本数は、おそらくだが全部で24本。人間の肋骨の本数と同じだ。これまでに9本破壊したから、残り15本。うち、4本はアレの封印に使われているはずで今は太平洋の底だから11本。ここにある1本を破壊できれば残り10本だ。」


「アレ?・・・『アレ』って何?」


「それを説明するとまた話が長くなるからな。まずは聖釘(アンカー)の説明を終わらせよう。」


 遥香は、部屋の隅からインターネット通販のロゴが書かれた段ボール箱を取り出すと、その中に聖釘(アンカー)を古布で包んだまま、そっとしまった。


「この聖釘(アンカー)の力は、大きく三つ。一つ目、私の魔力を完全に凍結する。この聖釘(アンカー)が私の体に触れていると、私は一切の魔法、術式が使えない。また、聖釘(アンカー)を刺されると自分で抜くことはできないし、肌から離すこともできない。」


「なんで抜けないの?」


聖釘(アンカー)には、少量の魂が残っているせいで元の持ち主に癒着しようとする力があるんだ。」


 ああ、だから黒川は私が聖釘(アンカー)を握っただけで攻撃せずそのまま呪縛しようとしたんだ。


「続けるぞ。二つ目、聖釘(アンカー)を持っている人間を、私の魔法から守る。それどころか、聖釘(アンカー)はそこにあるだけで私の魔法の詠唱や術式回路に割り込んでくるから、私は聖釘(アンカー)がそこにあるだけで、まともに魔法や魔術の行使ができないんだ。」


「もしかして、教会の連中がそれほど強く感じなかったのって・・・。」


「そうだ。聖釘(アンカー)さえあれば、奴ら程度の戦力でも私と戦えてしまうんだ。」


 遥香の言葉に、エアコンから吹き出す冷気とは違う寒さを感じる。

 そっと布団の中にもぐりこんだ。


「三つ目、私の魂を強制的に肉体に結び付ける。体に聖釘(アンカー)を打ちこまれると、私は肉体を捨てて逃げることができなくなる。教会(肥溜め)連中(クソども)屍霊術(ネクロマンシー)に非常に長けていてな。それの応用だろうが、たとえ肉体が腐り落ちても、聖釘(アンカー)を打ちこまれているだけでそのまま封印されてしまうんだ。まあ、その場合は複数本打ち込む必要があるようなんだがな。」

 

 ああ、話を聞いているだけで胸がいっぱいだよ。

 吐いたけど。


聖釘(アンカー)はあと11本って言ったよね。やっぱり、全部壊したい?」


「ああ、全部破壊する。教会(肥溜め)信徒(クソども)も皆殺しにする。一人残さずだ。」

 

 ・・・まただ。あの深い沼の底のような、絶望を煮詰めて人の形にしたような気配だ。

 でも、この気配の中には言いようのない悲しさも感じる。

 まだ聞いていないこともたくさんあるんだろうな。


「ふわぁぁ。」


 いけない。まじめな話をしているのに、あくびが出てしまった。

 そういえば、ここ数日の間にいろいろありすぎたなぁ。


 文化祭の準備とか手品ショーで忙しくて、終わったと思ったら琴音が襲われて、息をつく間もなく遥香が魔女だって知らされて、最後は教会の連中と(タマ)()り合い。


「すまんな。もう結構な時間だ。昨日今日で相当疲れただろう。今日はこれくらいにしてゆっくり休むといい。」


「ごめんね、さすがに眠くなってきた。でも、これでしばらくは教会の連中も襲ってこないんだよね。」


「ああ、琴音も千弦も魔女の疑いは晴れたはずだ。あとは、私が魔女であることがバレなければ、しばらくは安心して暮らせるだろうな。」


「うん・・・。そうだね・・・。ああ、あれ、ファーストキス、だったんだよぉ・・・。」


「ああ、あれは聖釘(アンカー)の影響下でも効率よく魔力を譲渡するための・・・。ああ、もう寝たか。おやすみ。」


 明日からは、日常に戻れるといいな。

 学校はいつ再開するんだろう。

 そんなことを考えているうち、意識が闇へと沈んでいった。


 なんと、ここまで琴音が襲われてからまだ1日半しかたっていません。このペースでいくと、千弦たちは高校2年のうちにラスボスまで到達してしまうのではないでしょうか?

 ラスボス?誰なんでしょうね?


 さて、魔女の正体、教会(肥溜め)信徒(クソども)聖釘(アンカー)の正体が判明したのですが、次回から新章に入ります。教会の出番はしばらくお休みです。

 魔女があんまり活躍していないって?大丈夫です。しっかり活躍しますから。そのうち。

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