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22 昼 再会/なぜ彼女は生きている?

 実は、作者は生まれてから一度も入院したことがありません。

 本来であれば、入院が必要ないほど健康であることを喜ぶべきなんでしょうが、実際には入院したくなるほどの大怪我や、心拍数が40を切って身動き出来なくなるほど病気が悪化した事があります。

 

 ひどい腹痛で救急車で運ばれた時も、生魚を食べたのもちゃんと話したし、症状もちゃんと話したのに「原因は分からないですねぇ、本当にそんなに痛いんですか?コロナ感染予防のため今日は帰ってください。」と言ってそのまま帰らされた事が。

 その後、放置され、さらにひどくなってもう一度病院に行って胃カメラで調べてもらったら、しっかりとアニサキスがいましたよ。

 笑いながら「うわーw、三匹もいるよw」じゃねーよ。

 ヘイ、ドクター。患者が痛いって言ったら信じようよ。

 9月23日(月)


 南雲 琴音


 目を覚ますと、病室の白い天井がぼんやりと視界に入ってきた。


 意識が戻ったばかりの頭はぼんやりとしていて、まるで夢の中にいるような感覚だったが、次第に現実の記憶が戻ってくる。


 脇腹を貫かれた鋭い痛み。床に広がる血の匂い。遥香の倒れる姿。


 それらが一気に脳裏に蘇り、心臓がドクンと大きく跳ねた。


 呼吸を整えようとすると、左脇腹にわずかな違和感を覚えた。痛みはほとんどないが、何かが引っ張られるような感覚がある。おそらく傷跡を保護するガーゼか包帯のせいだろう。


 しばらくすると先生が来て、ケガの状態や術後について説明をしてくれた。

 脇腹に風穴が開いたときはどうしようかと思ったが、和香先生の話を聞く限りでは、心配はいらないようだ。


 今週中には左脇腹も元通りにしてくれるっていうか、夏休みパート2か。

 ・・・でも、もうすぐ中間試験だよ。

 一週間も休んでたら中間試験始まっちゃうよ。


 半分ぼーっとして和香(のどか)先生の話を聞いていながら、あの日のことを思い出していた。


 いきなり現れた大男に、なすすべもなく柱にたたきつけられて絶命した遥香。

 たたきつけられた直後であれば、助けることはできたのだろうか。 

 血だまりに沈んでも口を動かしていたのは、やはり助けを求めていたのだろうか。


 遥香のご両親に、いつか挨拶をしなくてはならない。その前に葬式には参列できるだろうか。


 いつの間にか来ていた、健治郎叔父さんがお見舞いの果物をサイドテーブルにどさっと置いたのを見て、何気なくブドウを一粒手に取り、口に運んだ。


 ・・・だめだ。涙を我慢できなそうだ。


 バン!という音がして病室のドアが開く。


「千弦!琴音!無事か!?まだ生きてるか!?」


 すごい勢いで病室に飛び込んできたのは、遥香だった。


「遥香・・・。生きてたんだ・・・。」


 これほどこの目で見たものが信じられないと思うのは生まれてはじめてだった。


 視界の端で姉さんが何か言っている。


 生きててくれた。

 胸に熱いものがこみ上げる。

 いや、これは幻だろうか。

 今すぐ捕まえないと消えてしまうのではないか。


「遥香ぁぁぁぁ!」


 そんな感動とも何とも言い表せないものが体を突き動かし、足が痛いのも構わずベッドから跳ね上がり、遥香に抱き着いた。


「琴音、ベッドに戻りなさい。遥香さんでしたっけ?学校のお友達?」


 ぐぇ。苦しい。

 お母さんが私の寝衣の首の後ろをつかんでベッドに戻しながら、遥香に聞いた。


「あ、はい。琴音さんとは席が隣でして。久神遥香です。あの時体育館で」


「遥香!まだ面会謝絶!とりあえずこっちに来て!」


 遥香が何か言いかけた瞬間、姉さんがその手を握り、そのまま連れて行ってしまった。

 せっかくの再開だというのに姉さんはイケずだ。


 まあ、遥香が生きていてくれてよかった。

 よくあのケガで助かったものだ。

 よほど打ちどころが良かったのか、それとも私の勘違いだったのか。


 ところで、姉さんはいつの間に遥香と仲良くなったんだろう。前は「久神さん」って呼んでいたのに、今は名前呼びしていたし。


「お母さん。私、面会謝絶なの?」


「さあ?」


 面会謝絶じゃないなら、そのうち二人とも病室に戻ってくるだろう。


「あ、おじさん。ブドウありがとうございます。」


「ああ、スイカもな。ところでさっきの子、魔術師か?」


 いきなり何を言ってるんだ。あんなかわいい子が魔術師なわけないだろう。


「いや?遥香が魔術使うところなんて見たことありませんよ。」


「そうか、スカートのボタンにクロウリーの六芒星が描かれていたからな。あまり有名でもないし、魔術的な目的無しにあれを使うデザインなんて見たことがなかっただけだ。」


 クロウリーの六芒星?なんじゃそら?


 それより、健治郎叔父さんが左手に下げているAMATIと書かれた楽器ケースを見て不思議に思った。

 多分、無茶苦茶値が張るやつだ。


「おじさん、そのバイオリンケースは何ですか?楽器なんて始めたんですか?」


 健治郎叔父さんはベッドの空いたスペースにバイオリンケースを置き、パッチン錠を開けた。


「これは千弦用の新しい火器だ。FN P90。装弾数は300発。リチウムポリマーバッテリーで連射速度は一分間に900発だ。術弾は指向性炸裂(HEAT)瞬間硬化(アーマーピアシング)、安全切替機構の三重構造、銃身は出力が上がった高速射出術式に加えて弾道安定術式(ライフリング)を搭載。さらには光学サイトには照準補正術式だけでなくターゲットに応じて術弾の指向性炸裂(HEAT)瞬間硬化(アーマーピアシング)の術式を瞬時かつ自動的に切り替えられる火器管制術式(ファイアコントロール)を搭載し・・・」


「あーもういいです。姉さんが来たら説明してあげてください。なんでバイオリンケースにそんなものが入っているんですか。」


 このガンマニアめ。まさか楽器ケースの中にそんなもんが入ってるとは。クソ、地雷を踏みぬいたか。いつどこに地雷があるかわからないから困るんだよな。


「?バイオリンケースって言ったらP90だろ?」


 何言ってるか、サッパリわからないわよ。

 でも、その説明をさせると大変な目に合うのが分かっているのでそれ以上は突っ込まない。


「ええ、そうですね。きっと姉さんも喜びます。いつ戻ってくるかわからないから、それはしまっておきましょうね。」


 おじさんを適当にあしらい、ほかの果物に手を伸ばそうとした時、病室の扉が開く。


「失礼します。検温と清拭(せいしき)の時間です。ご家族の方以外は病室の外でお待ちください。」


 金髪ピアスの看護師さんが台車に洗面器とバケツ、それからタオルをいくつか台車に乗せて病室に入ってきた。


 おじさんは、バイオリンケースを持って病室からそそくさと出ていき、お母さんも飲み物を買ってくるといって病室から出て行ってしまった。


 ◇  ◇  ◇


「南雲琴音さん、ですね~。検温と全身清拭(せいしき)をさせていただく看護師の黒川と申しますぅ。」


 看護師のネームプレートには黒川早苗と名前がある。

 ・・・独特なしゃべり方をする人だな。


「あ、はい。よろしくお願いいたします。」


 黒川さんは手短に清拭(せいしき)の方法と時間の説明をし、私が体温計を脇に挟んで検温しているうちに、床に新聞紙を敷き始めた。


 バスタオルで体を覆い、寝衣の両袖を脱がせながら黒川さんが聞いてくる。


「先ほど廊下ですれ違ったのは、妹さんですか?双子かしら。本当にそっくりね~。」


 二つの洗面器にお湯を張りながら、黒川さんは話をつづけた。あ、世間話で羞恥心に配慮してくれているのかな。


「いえ、姉のほうで千弦といいます。」


 黒川さんの動きが一瞬止まる。


「あらぁ、あちらがお姉さんだったの。あなたの方がしっかりしてそうだから逆だと思ってたわ~。」


 うん、姉さんより私の方がしっかりしていると思う。さすが黒川さんは看護師をやってるだけあって見る目がある。

 話しながらも手を休めることはなく、上腕部から順にフェイスタオルで拭き、すぐにバスタオルで覆ってくれる。


「双子だと周りのみんなが区別つかなくて勘違いされることとかあるんじゃない?」


「ええそうですね。最近も姉さんと間違われたばかりですしね。」


「あらあら。はい、石鹸拭きとりますよ。」


 黒川さんは手際よく清拭を終えた後、バスタオルを外し、新しい寝衣を着せてくれた。


「はい、終わりです。ご苦労様でした~。お大事にしてくださいね。」


「ありがとうございました。」


 使用済みのバスタオルやバケツを台車にのせ、なぜか満足そうな顔をした黒川さんは病室を出ていった。


 看護師なのに、金髪ピアスはおかしいと思ったあなた、鋭い!

 え、普通分かるって?

 黒川さんは後々、結構重要なキャラとなりますので。

 そういえばそんなキャラがいたっけな、と思っていただけたら幸いです。

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