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21 昼 魔法習得/雷撃魔法

 千弦がついに魔法を使えるようになります。イメージ的にはライデ◯ンですかね。

 ちなみに、作者はFFの魔法の名前よりもドラクエの方が好きです。命名センスが良い。

 魔法体系としては、女神転生とかペルソナ系ですかね。耐性の扱いが秀逸すぎる。

 FF好きの皆様、申し訳ない。

 9月23日(月)


 南雲 千弦


 遥香が帰っていった後、長い夜が明けた。


 彼女の家は、病院から見て高校の反対側だったはず。

 終電なんてとっくに終わってたし、どうやって帰ったんだろう・・・? と思ったが、今日は休みだし、歩いて帰ったとしても不思議じゃない。


 いや、そんなことよりも──


 夜道を一人で帰らせたが、まったく心配していない。

 遥香はポンコツだが、ぶっちゃけ地球上でアイツを殺せる人間なんて、そう何人もいるとは思えない。


 自動販売機コーナーで座ってぼーっとしていたら、コーナーの入り口で母さんが呼びに来た。


「千弦。琴音の意識が戻ったって。」


「分かった。今行く。」


 病室に入ると、琴音はベッドに横たわったまますでに目を覚ましていた。


「あ。姉さん。おはよう。」


「おはようじゃないよ。全く心配させて。体の調子とかどう?痛みとかない?」


「うん、大丈夫そう。ちょっと左脇腹に違和感があるけど、どちらかというと体中のチューブとか点滴のほうが気になるかな・・・。自由に動けないし。」


 事実、琴音の鼻にも右腕にもチューブや点滴の針が刺さっており、寝衣の左脇腹はガーゼか包帯かよく分からないもので固定され、身動きができないような状態になっていた。


「おはよう諸君。琴音、気分はどうだね?」


 九重の大叔母様が元気よく挨拶をしながら、病室に入ってくる。


「おはようございます。和香(のどか)先生。昨日のケガがうそのようです。」


 琴音が挨拶をすると、壁際に畳んであったパイプ椅子を開き、ベッドの横に座り、母さんに一枚の紙を渡した。


「昨日の手術の結果だ。検査も含めて突貫でやらせたよ。」


「叔母様、お手間を取らせます。」


「なに、うちの大学は九重の寄付で成り立っているようなもんだ。やれと言えば何でもやるだろうさ。」


 母さんが受け取った検査結果を見ても、よくわからないアルファベットと数字が並んでいるだけで、琴音の容態が良いのか悪いのかさっぱりわからない。


「叔母様、この書類を見ただけではよくわからないんですが・・・。」


「ああ、悪い悪い。ちゃんと口頭でも説明するから安心してくれ。」


 九重の大叔母様は居住まいを正し、言葉を続ける。


「まず腹の傷についてだが、刺さっていた杭が思いのほか鋭かったおかげで、傷口がえぐれたりしていなかった。回復治癒魔法も併用したから数針縫うだけできれいにふさがったよ。多分傷も残さず治るだろう。」


 琴音が自分の腹を寝衣の上から撫でている。


「内臓については、小腸の一部を軽くこすった程度だな。出血も杭を抜く前に回復治癒魔法でふさいだおかげか、大した量ではなかった。輸血の必要もなかったしな。まあ、輸血に関しては最悪の場合は千弦がいるから心配はしていなかったけどね。」


 ・・・やっぱり、一卵性双生児だと輸血も楽なのかしら?っていうか、血は抜く前提なのね。断る気も理由もないけどさ。


「足は、両膝下の腓骨(ひこつ)が折れていた。靭帯も損傷していたから、今週中は歩けまい。まあ、これもきれいに折れていたから、すぐに元どおりにしてやるよ。」


 「感染症の心配については、現時点では何とも言えないが、例の杭を調べてみたところ、まるで消毒されたみたいに微生物や毒素の付着がなかったことから、杭を介しての感染は心配しなくてもいいだろう。」


 あ。師匠に杭のこと言うの忘れてたよ。まあもうすぐ来るって言ってたから。その時にでも伝えるか。


「で、だ。ここからが重要なところなんだが、琴音。お前は今回、回復治癒魔法を使うな。」


 唐突に言われて、琴音がびっくりしている。


「お前が中途半端な回復治癒魔法を使ったせいで、出血は止まったが傷口が変な形で癒着し始めていたんだ。それに、一つの傷に複数人が回復治癒魔法を使うと、魔力衝突が起きて危ない、っていうことは教えてあるよな。」


「分かりました、先生。回復治癒魔法は控えます。」


「よろしい。身体強化系や制御系の魔法は別に使っても構わんからな。あと、今週中には完治させてやるが、いくら何でも一週間で治ったらおかしいだろうから、しばらく入院していけ。夏休みパート2だ。」


 大体の話が終わったところで、大叔母様はあくびをしながら病室から出ていき、入れ替わりに師匠がバイオリンケースと大きなビニール袋を持って入ってきた。


「姉さん久しぶり。災難だったな。」


 師匠が母さんに挨拶をしている。

 そういえば、私が左手を切られた時は電話で済ませたんだっけな。


「ししょー。お見舞いの果物はー?」


「まったく、生傷の絶えない姉妹だな。これ、見舞いのブドウとスイカな。」


 ビニール袋に入ったお見舞いの果物を受け取って、サイドテーブルの上に置いて、さっそく琴音がブドウを一粒つまんだ時だった。


 バン!という音がして病室のドアが開く。


「千弦!琴音!無事か!?まだ生きてるか!?」


 すごい勢いで病室に飛び込んできたのは、遥香だった。


 母さんと師匠がものすごいびっくりしているし、琴音は口まで運んだブドウをベッドの上にポロリと落としながらつぶやいた。


「遥香・・・。生きてたんだ・・・。」


 やばい。そういえば言ってなかった。あわてて誤魔化すように言う。


「遥香、一応ね、重傷者だからね、安静にしないと」


「遥香ぁぁぁぁ!」


 私の言葉が終わる前に琴音がベッドから跳ね上がり、遥香に抱き着いた。


 ・・・おい、琴音。お前気づいてないからいいけど、ソイツ、私の左手を切り落とした魔女だよ・・・。とは言えないよなぁ。


 琴音が遥香に飛びついたまま、離れようとしない。

 いや、というか、お前本当に重傷者だったんだよな!?

 さっきまで点滴だのチューブだの繋がれて「動けない~」とか言ってたくせに、なんでそんなに元気なんだよ!?


「琴音、ベッドに戻りなさい。遥香さんでしたっけ?学校のお友達?」


 母さんが琴音の寝衣の首の後ろをつかんでベッドに戻しながら、遥香に聞いた。


「あ、はい。琴音さんとは席が隣でして。久神遥香です。あの時体育館で」


「遥香!まだ面会謝絶!とりあえずこっちに来て!」


 やばい、コイツ、今自然に口を滑らせそうになった。

 慌ててその手を引きずって病室の外に連れ出した。

 このポンコツ魔女め。


「お母さん。私、面会謝絶なの?」


「さあ?」


 病室からそんな声が聞こえるが構わず、遥香の手をひいて少し離れた階段まで連れていく。


 ◇  ◇  ◇


 病室から十分に離れたところで、遥香の手を放す。

「ちょっとアンタ、どういうつもりなの!?琴音の前で死にかけておいて、ケロッとして現れてるんじゃないわよ!せめて包帯するとか、松葉杖とか使いなさいよ!」


「すまない!いやすみません、それどころではないんです!」


「・・・何よ。まだ終わってないわけ?それと、口調。ホントは違うんでしょ。もう普通にしていいわよ。」


「すみま・・・いや、すまない。助かるよ。・・・教会(肥溜め)連中(クソども)なんだがあの時、琴音のことをナグモセンゲンと呼んでいたんだ。多分、狙いは君だ。千弦。」


 ちょっと待て。コイツ、今なんて言った。


「マジ?どどどどどうすんのよよよ!」


 ヤバい、ヤバい、ヤバい!

 今CURVE(カーヴ)しか持ってないのよ!

 術弾9発しかないのよ!

 そんなんでどうしろっていうのよ!


「落ち着いて聞いてくれ。今聖釘(アンカー)はあるか?ないなら長距離跳躍魔法(ル〇ラ)で取りに行くから置いてある場所を教えてくれ。」


「こ、こ、ここにあるわ。」


 震える手でポシェットの中から聖釘(アンカー)を取り出す。

 遥香はそれを一瞥し、ふっと息をつく。


 ・・・ん?いまサラッと伝説級の魔法(ル〇ラ)の名前が出て来なかった?

 それに、ずいぶん口調が変わったな?


「よし。教会(肥溜め)奴ら(クソども)が来たら、それを握ったまま何でもいいから魔法を使え。それだけで魔女ではないと思わせられる。魔術だと据え置き型や時限作動式のものがあるから、魔女ではない証明にはならない。」


「ちょっと待ってってば!私、琴音と違って魔法は使えないんだよ!」


 焦りで声が裏返る。

 それを見た遥香が、軽く眉をひそめた。


 琴音と違って魔法が使えないことがコンプレックスだったが、それが命にかかわる事態になるとは思わなかった!


「落ち着いて、よく聞いてくれ。初歩的な魔法なら、今すぐ教えてやる。5分もしないうちに使えるようにしてやるから心配するな。」


 魔法が使えるようになること自体は大歓迎ではあるのだが・・・。

 そんな都合のいい話あるわけが・・・。


「私、魔力回路(サーキット)を持ってないから魔法なんて使えないよ・・・?」


 魔力回路(サーキット)の構築方法自体は、母さんと師匠から何度も教わっているから知っているが、知っているのと出来るのとでは雲泥の差があるのだ。


「まずはコレで聖釘(アンカー)を包め。そうしないと話が始まらない。」


 言われるままに古い布を受け取って聖釘(アンカー)を包む。柔らかい皮を鞣したような布だ。


「よし、では早速だが両手を出せ。私が直接魔力回路(サーキット)を刻んでやる。」


 他人が刻むなんて出来るのか?

 恐る恐る両手を出す。

 出した右手を遥香がひったくるようにしてつかむと、目を瞑り、詠唱のような物を始めた。


 遥香が触れているところから一気に右手が熱くなる。


「・・・?あつっ、熱い熱い熱い!」


「我慢しろ!今手を離したら、切り落として生やさない限り二度と同じところに魔力回路(サーキット)は組めないぞ!」


 なにその脅し文句!?!?


 ・・・あ、そういえば一度アンタに左手切り落とされてるよな。

 それより生やせるのか?トカゲのしっぽじゃあるまいし。


 そんなやり取りをしつつも、熱湯コマーシャルさながらの熱さが収まったころには、右腕の肘から先が淡く発光していた。


 遥香は、それを見て満足げに頷くと、ミニのトレンチスカートのポケットから術札のようなものを取り出し壁に貼り付け、何かの術式のようなものを何の音もなく発動する。


「よし、ではさっそくそこの壁に向かって何でもいいから攻撃魔法を使ってみろ。」


 無茶なことをいう。

 いきなり詠唱も知らずに魔法なんか使えるはずないじゃないか。

 それに、病院内で攻撃魔法なんかぶっ放せるか。


「呪文、知らないんだけど?」


「・・・ああ、そうだった。じゃあ一回だけ雷撃魔法を平文(ひらぶん)で唱えて見せてやる。暗号化は自分でできるか?」


「・・・できると思う。」


 魔法の詠唱なんて長ったらしいものを一回で覚えろってか。コイツ、いきなり左手をぶった斬ったことといい、かなりSッ気があるんじゃあなかろうか。


(いかづち)よ!敵を討て!」


 遥香は呪文だの詠唱だのと言えるようなものではない、ただ魔力を込めたままの短い言葉を紡いだ。


 ・・・短すぎない?

 ドンッ!

 次の瞬間、目がくらむような青い光と、耳をつんざくような轟音があたりに響き渡った。


「ギャアァァ~!目が!目が!」


 詠唱の短さに油断したせいで、まともに雷光を見てしまった。

 目を押さえてのたうち回っていると、遥香が私の頭を押さえ、無詠唱で回復治癒魔法?をかけてくれた。


「呪文は覚えたな?次はお前の番だ。終わったらすぐ結界術式を解くぞ。周りの気配がわからないのは都合が悪いからな。」


 やっぱり、結界のようなものを張っていたのか。結構な威力だったのに、壁には傷一つついてない。


「ねえ、詠唱短すぎない?回復治癒魔法も無詠唱だったし、あれでちゃんと魔法使えるの?」


「回復治癒は魔法ではなく、(まじな)いだ。詠唱はいらん。知りたければあとで教えてやる。そもそも概念精霊(スピリチュアル)魔法(マジック)を使うのには十分な魔力と自分で設定したキーワードさえあればいいんだ。長々と詠唱しても何もいいことはない。ナンセンスの極みだ。いいから早くやれ。」


 ・・・概念精霊(スピリチュアル)魔法(マジック)

 魔法にも種類があるのか?


「えーと。壁に向かって『()()()()()()!』・・・!?」


 詠唱終えると、轟音と共に雷の塊が壁に向かって恐ろしいまでの速さで撃ち出された。なんつー威力だ。これが初歩的な攻撃魔法?撃ち出した右手はびりびりとしびれている。


「出来た・・・。」


 ・・・え、やば。普通に撃てた。

 妙な疲労感が身体を包んでいるが、それ以上の感動が押し寄せてきた。


「上出来だ。結界術式を解くぞ。・・・何を呆けている?」


「いや、魔法・・・使えたなと思って。」


「他の魔法は使うなよ?回路(サーキット)の最適化も済んでないからな。そろそろ病室に戻ってもいいか。面会謝絶は嘘なんだろう?琴音にも襲撃に備えるよう伝えなければ。」


 反射的に病室に向かおうとする遥香の後ろ髪を掴む。


「ぐぇっ。・・・いきなり何をする。髪が痛むじゃないか。」


「ちょっと待て。襲撃のことをアンタが知ってたらおかしいでしょうが。それに琴音にはアンタが魔女だってバレちゃいけないのに、どうやって説明するのよ?あと口調。病室にもどるなら、いつものに戻しなさいよ。」


 遥香は一瞬怪訝そうな顔をした後、ハッとした顔をしてこちらを向いた。


「どうやって説明しましょう・・・?」


 コイツ、私と琴音の区別はついているはずなのに、忘れてやがった。

 やっぱりポンコツ魔女じゃねーか。


 千弦は長い間、訓練し続けたのに使えなかった魔法がいきなり使えるようになったので、感動というか衝撃を受けています。

 妙な疲労感・・・一発撃っただけで疲労感を感じるって、大丈夫なんでしょうか。

 なんの苦労もせず、いきなり魔法が使えるようになるとか、世の中そんな美味い話はないんですけどね。

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