202 悪夢と贖罪/屍霊術師
南雲 琴音
5月15日(木)未明
長崎県佐世保市
ハナミズキの家
紫雨君に担がれ、同じく召喚獣のおっさんに担がれた満身創痍の半分頭とともに児童養護施設のようなところから敷地外に飛び出した瞬間、その建物を赤い光の柱が包み込む。
かつて仄香の幻灯術式で見た、ジェーン・ドゥが教会の信徒を人工魔力結晶にした時の光とよく似た光の中で、建物の3階の窓からこちらを不安げに見下ろす子供たちが次々に倒れていくのが見えた。
「ちょっと!紫雨君!これってまさか!」
「くそ!やられた!地下にあった機械はすべて破壊したはずなのに!」
間違いない。
ダンバース精神病院で行われていたのと同じく、子供たちから抽出した魔力で人工魔力結晶を作り出す装置があの建物の中にあるのだ。
「まだ中に子供たちがいる!このままじゃみんな魔力結晶にされる!」
仄香の幻灯術式では、ジェーン・ドゥが使った魔法でもほんの少しの時間があった。
だけど、こんなのどうしたらいいんだ!
赤い光の柱に飛び込むこともできず、ただ見ていることしかできなかったその時、玄関ロビーの中、何かの術札の上でふよふよと浮いていた業魔の杖が私の声に反応したかのように、真っ白な光を放った。
「なんだ!?母さんの魔法!?」
業魔の杖からは水平に、まるで赤い光の柱を真横に叩き切るかのように光の板・・・壁のようなものが噴き出している。
その魔力は、杖の真下にある術札から供給されているようだった。
「これは!防御障壁術式!?こんな使い方もできるなんて!」
1分近くだろうか、杖から出る光と建物の真下から出る光が拮抗している状態が続き、次第に杖側の出力が押し負け始める。
「あと少しなのに!もう!」
反射的に体が動く。
気付いたときには、私はすでに赤い光の柱の中に飛び込み、業魔の杖を握りしめていた。
「琴音さん!」
赤い光の中、肩に紫雨君の手が触れている。
その手から、私の身体に暖かい魔力が流れ込んでくる。
「抗魔力、全開!いっけぇぇぇ!!」
本能でどうしたらいいか、この理屈が分かる。
姉さんは抗魔力の正体は、願望ではなく理性に基づいた魔力だと言った。
ならば、簡単だ。
冷静に、ただ思うだけでいい。
こんな方法で、子どもたちを魔力結晶になんて出来るはずがない!
どう考えても、理屈的におかしい!
業魔の杖は、まるで私の思いに同調するかのように両手の中でブルリと震え、真下に叩き下ろすかのように白い輝きでその場を埋め尽くした。
閃光と轟音、建物全体がきしむような音を立て、ロビーの観葉植物が吹き飛び、天井に亀裂が走る。
最後にズンっという音が響き、足元を白い光が埋め尽くしたあと、業魔の杖から吹き出していた白い光は徐々に小さくなっていった。
「ふう・・・。なんて無茶なことをするんだ。魔力結晶抽出時の魔力の流れを、それも100人を超える生命エネルギーをたった1人、杖1本で押し返すとか・・・。どんだけの抗魔力だよ!?」
いや、上手くいくとは、・・・3割くらいしか思ってなかったよ。
完全に赤い光がおさまった後、周囲を見回すと辺りには何体ものアンデッドの破片と思しきものが転がっていた。
その身体から赤い血液は流れ出ていない。
そして、2階へと続く階段には防火扉が降ろされており、その向こうからは全く人の気配がしない。
子供たちはどうなった?
生きているのか?
・・・だが、まずは目の前の患者のことを何とかしなくては。
相手は半分頭だけど、この前とはちょっと様子が違いそうだしね。
「・・・彼女を移動させたい。止血と麻酔、それから縫合くらいしかしていないから、そのままでは危険を脱してはいないわ。それと、紫雨君。上の子供たちはお願いしていい?」
「ああ。でもナーシャさんの手足は母さんじゃないと治せない。ゴーレムの義手義足くらいなら僕でも作れるけど・・・」
・・・ナーシャ。それがこの半分頭の名前か。
どこで紫雨君と出会ったか、そしてなぜ佐世保にいるのかは興味がないけど、コイツがどんな人間かを紫雨君は知っているのだろうか。
私や遥香があの廃工場の地下でされたことを考えると、とてもじゃないけど許す気にはならない。
だけど・・・このまま死なせるのはもったいない気もする。
「仄香に声をかけるかどうするかを決めるのは、彼女の目が覚めてからにしよう。この近くで彼女をかくまえる場所はある?」
「確か、彼女の住んでるマンションがこの近くにあったはずだ。佐世保市湊町のリバーサイド南雲、佐世保川に面した7階建てのマンションの5階、歩いて7分くらいだったと思うけど・・・。」
・・・カギは見当たらない。
だが、強制開錠魔法で開けてしまえばいいか。
「・・・7分か。よし、ええと・・誰か案内を頼めるかしら?」
半分頭・・・ナーシャを囲む4体の召喚獣に声をかけると、革鎧に革の盾を持ったおじさんがナーシャを担ぎ上げ、施設の外に向かって歩き出した。
「某が案内しよう。アバルと申す。マスターの命を救ってくれて感謝する。アマロック。彼女を背に。貴方の名を聞いてもよろしいか?」
アマロック・・・この大きな犬・・・じゃなくて狼?
目の前で伏せているところを見ると、背中に乗れと言っているのか?
「南雲琴音よ。・・・その恰好は目立つわね。電磁熱光学迷彩術式を発動。よし、じゃあ、行きましょうか。」
アマロックの背に跨り、電磁熱光学迷彩術式を発動すると、アバルは先導するかのように走り出す。
私が跨ったアマロックは意外にもゆっくり、そしてだんだん速く走り出した。
そして、その後ろを手足の生えたウナギ、子犬くらいの赤いドラゴンが続き、街灯の少ない道を、足音もさせずにかけていった。
◇ ◇ ◇
水無月 紫雨
満身創痍のナーシャさんは琴音さんに任せておくとして、僕は周囲を見回し、その対応を始めることにした。
「・・・母さんの言う通り、人工魔力結晶の技術は国だろうが誰だろうが渡すわけにはいかない。となれば、警察や消防が介入するのは絶対に避けるべきだな。」
懐から釘を取り出し、ハナミズキの家の四隅の地面に垂直に刺し入れる。
釘といっても、サインペンで術式回路を描いただけのアイスの棒がビニールひもで括り付けられている、簡易的な奴だ。
「準備よし。・・・“Nemesis, filia deae noctis, quae poenam et aequitatem regis,Caecae velum et oblivionis odorem fer,Superbia oculorum et cupiditatem scientiae Ab hoc loco remove, precor.”(夜の女神の娘にして神罰と均衡を司りしネメシスよ。盲目の帳、忘却の香りを以て衆目の驕りと知の欲をこの場より退け給え。)」
複数の術式を重ね、認識妨害・忘却結界魔法を発動する。
この魔法は、僕よりも抗魔力が低い人間は、結界の内側にあるものを認識することができず、同時に忘却し、関心を完全に失うというものだ。
これで結界が発動している間は、警察も消防も、この施設に関連している人間でさえ関与することはないだろう。
ロビーに落ちているナーシャさんの術札を拾い、2つある階段を確認する。
「さて、まずは子供たちを・・・防火扉にバリケードか。外側から回るしかないな。」
ナーシャさんが子供たちを守るために防火扉を閉めさせ、バリケードを作らせたのか。
浮遊術式を使って2階の窓から侵入すると、2か所ある階段の防火扉の内側には、机や椅子、棚などが積まれており、その重さで防火扉が開かなくなっていた。
3階へ上がると、廊下や個室、窓際など至る所に子供たちが倒れている。
外傷はなく、眠ったように動かない。
「脈拍も呼吸も極端に低下しているが・・・まだ生きている。だが・・・人格情報と記憶情報が停止している?揮発してはいないようだが・・・?」
僕は人間を素材にした人工魔力結晶の作り方についてはそこまで詳しくはないが、おそらく大気中の魔力を結晶化させるタイプの魔力結晶に近い方法をとっている可能性がある。
一旦、人間から人格情報や記憶情報を維持・動作するための魔力まで引きはがす、ということか?
であるならば・・・。
今、この施設内は魔力と生命力が溶け出した状態になっているということか。
すぐさま結界を張って正解だったな。
「ならば地下、だな。幸い、階段の踊り場はバリケードのこちら側か。とにかく、魔力抽出装置を壊さないと何ともならない。」
踊り場の鏡を開き、地下への階段を下る。
足音を立てず、静かに地下1階を調べると、以前来た時にはなかった、さらに下に続く隠し階段が開かれていた。
「深いな・・・地下2階は・・・書庫?このファイルは・・・魔力抽出装置のマニュアルか。ん?まだ下があるのか。」
迷路のように入り組んだ書庫を抜け、地下3階に降りる階段の手すりに手をかけた瞬間、ふわりと背後で風が動いた。
反射的にその場を飛び退く。
刹那、不可視の刃がすぐ真横を駆け抜ける。
「おいおい。抽出装置にアラートが出たから見に来てみりゃあ、侵入者かよ。・・・テメェ、魔術師、いや、魔法使いか?」
「ヴァシレ。俺のアンデッドを解呪した魔力波動と同じ魔力を感じる。かなりの手練だ。油断するな。」
俺のアンデッド?
コイツ、母さんが言ってた屍霊術師とかいう奴か?
それにしても、僕が封印されている間にずいぶんと魔術や魔法が進歩したな?
僕の時代には、アンデッドなんて事故か呪いでしか発生しなかったぞ?
幸い、屍から霊体を引き剥がす魔法は変わらず効果があるようだが・・・。
「マフディ。俺にやらせろ。混沌を裂きしマルドゥクよ、汝が力を以て一筋の光剣を我が掌に!」
ヴァシレと呼ばれた男は短く詠唱すると、掌に光を束て作り出した輝く剣を生成し、一足飛びに間合いを詰めてきた。
「魔法戦士か!?"Spiritus tenebrarum placidarum! Convenite et ensis fiatis ad hostem perdendum!"(静謐なる闇の精霊よ!集いて敵を討つ剣となれ!)」
ヴァシレの剣を躱しながら詠唱し、右手に闇の剣を生み出す。
闇の剣はヴァシレの持つ光の剣と交差し、バチバチと爆ぜるような音を奏でて鍔迫り合いをしている。
「やるじゃないか!オマエ、そこいらの魔法使いとは違いそうだな!ならば!冥府の番犬アヌビスよ、この肉に夜の加護を纏わせよ!」
こいつ!光の剣を生成した上で身体強化魔法だと!?
「くっ!?斬撃が重い!"Audi, Iovis celeres,leges corporis frange.Pedes fulgoris, solve vincula!"(聞け、疾き雷神よ。身体の法を打ち砕け。雷の足よ、束縛を解け!)」
闇の剣でヴァシレの光の剣を切り払いながら、対抗して身体迅速化魔法を発動する。
脚部を中心に膨大な魔力がまとわりつき、神経伝達と筋繊維の稼働速度が極限まで強化される。
人間が認識できない速度域での踏み込み・跳躍・疾走が可能となり、同時に、骨や筋肉の破壊を防ぐため、全身にも瞬時に補強魔力が行き渡る。
ヴァシレを大きく上回る移動速度で壁や天井を駆けまわり、頭上や背後に一瞬で回り込みながら剣戟を交わす。
「ぬう!ええい!ちょこまかと!復讐の女神ネメシスよ!この眼に罪の光を宿し給え!」
ヴァシレが詠唱すると、それまでこちらの動きにほとんど対応できていなかったにもかかわらず、一瞬で光の剣をこちらに合わせ、すべての打ち込みに対応し始める。
ヴァシレの目に闇色の炎がまとわりついている。
これは・・・ネメシスの力を借りた視覚強化魔法!?
何という偶然。
それも短縮詠唱!?ならば話は早い!
「"Ira et poenae dea, Nemesis! Ante te stat is qui Hybrin commisit!"(憤りと罰の女神、ネメシスよ!御前に立つは無礼を為した者なり!)」
ヴァシレの目に宿った闇色の炎は一瞬でその勢いを失い、その両目から黒い涙のようなものが流れ落ちる。
高位の神聖魔法を使うつもりなら、きっちり暗号化しないと神格との接続を切られるんだよ!
「グッ!?ギャアアァァァ!目が!目がぁ!」
ネメシスによって強化された視覚が一瞬で元に戻ったことにより、反動で眼球に相当の痛みが走ったようだ。
しかもそれだけじゃない。
ネメシスのような、死者の恨みを義憤の形で具現化した神格はその程度の簡略化された詠唱や魔力で力を借りていい存在ではない。
アヌビスだのネメシスだの、冥府や死者の力を借りるならもっと勉強してから来い。
「ヴァシレ!下がれ!こいつは手ごわいぞ!」
もう一人の男、マフディがそう叫び、おそらくはヴァシレが戦っている最中に用意していたであろう4体のアンデッドを前面に押し出す。
成人男性のアンデッド2体、成人女性のアンデッド1体、そして・・・少年のアンデッドが1体。
いずれも今先ほど死んだばかりのように新鮮だ。少年のアンデッドに至っては、胸の血がまだ乾いてすらいない。
「・・・貴様、まさかアンデッドにするために殺したのか。」
「ふん。だったらなんだ?我ら教会の不死の尖兵となれたのだから良いではないか。・・・なあに、屍霊術で人格情報と記憶情報は揮発しないよう処理済みだ。」
揮発しないように処理・・・そうか、屍霊術で人格情報と記憶情報を汚染する理由はそれか。
だが、その言葉通りであれば彼らの意識は残っているのか?
「グ、グ、グアァァァァ!」
4体のアンデッドのうち3体は直線的に、1体は回り込むような形で迫ってくる。
雄叫びを上げながら、苦悶の表情でこちらをにらみつけて。
反射的に闇の剣を振るい、先頭の成人男性のアンデッドを唐竹割に、続く女性のアンデッドを胴薙ぎにする。
ギイィィンっと高速で振動する闇の刃はほとんど抵抗もなく彼らの身体を切り裂くが、唐竹割にされ、胴体を二分されてもなお、動くことを止めようとしない。
「くははは!俺のアンデッドがその程度で倒せるものかよ!術式は全身に配置済みだ!」
「ちぃっ!お前ぇ!人の命を何だと思ってるんだ!」
そうは言いながらも、アンデッドたちはこちらを襲おうとするのをやめようとしない。
こちらをつかもうと伸ばす腕、つかもうとする指を闇の剣で切り払い、首を落とし、胴を薙ぐ。
「イたい・・・クルしい・・・。」
胴薙ぎにした女性のアンデッドが、うわ言のようにつぶやく。
「ヤめて、しにタクない・・・。」
両足を切り落とした少年のアンデッドが、懇願するように言葉を絞り出す。
・・・だが、切り落としたはずの手足は、断面にそれが押し付けられることにより再び繋がれ、あるいは他のアンデッドの手足をつなぎ、いつしか4体のアンデッドは2体となり、そして1体となる。
気づけば、そこには首が4つ、手足は16本の異形の化け物が鎮座していた。
「くひゃひゃひゃ!見ろヴァシレ!人が粘土細工のようだ!これぞ芸術!」
「マフディ。ここは任せる。・・・どうでもいいが遊ぶのはほどほどにしろよ。魔力抽出装置を再起動したら、確実に逃げろよ?」
いつの間にか視力を回復したヴァシレが、滑るように地下3階への階段を下りていく。
「あ!待て!くっ!?」
慌てて追おうとするが、肉塊となったアンデッドが階段をふさぐかのように立ちふさがり、邪魔をする。
鞭のようになった手足を振り回し、縦横無尽にこちらに打ち込んでくるために、魔法の詠唱をしている暇も、術式の集中をしている暇もない。
くそ!僕は母さんほど詠唱速度が速くないんだよ!
思わず心の中で毒づいてしまう。
その時、左手首につけたプラスチック製のブレスレットのようなものがカチャリ、と軽い音を鳴らした。
「どうした!名のある魔導士かと思ったがその程度か!俺のアンデッドの恐ろしさ、思い知るがいい!」
「・・・そういえば忘れていたよ。自動詠唱!2−3−1、1−3−1。4−2−0!実行!」
千弦さんからもらった自動詠唱機構を口元に構え、彼女から教えてもらったコマンドを口にする。
「きさま!なにを・・・。」
実行、と叫んだ瞬間、轟音とともに極大の閃光が迸る。
そして、それを追うかのように青白い炎が視界を舐めていく。
閃光が視界を埋め尽くす寸前、足元や壁からせり出した土壁が盾となり、それらから僕の身体を守った。
マフディは何かを途中まで言いかけたが、すぐさまその場に伏せて何かの術式を展開した。
ふわり、と熱気を感じたかと思た瞬間、衝撃波が地下室を突き抜ける。
自動詠唱の最後に防壁代わりの土壁生成用の詠唱を入れておいたのがよかったのか、目の前に展開した土壁が雷撃と炎熱を遮断する。
それがボロリと崩れ落ちたときには、地下2階にあった書類や本棚はおろか、壁や天井までもが跡形もなく、かろうじて数本の柱と階段の骨組みが残っているだけだった。
「うわ・・・なんという火力・・・。いくらなんでもこりゃあやり過ぎだろう・・・。千弦さん、なんて恐ろしいものを作ったんだ。」
上級中位、いや、最上位クラスの火力を、ほとんど無詠唱で発動できるなんて!?
以前、南雲家にお邪魔したときに見せてもらった抗魔力増幅機構にも驚いたが、自動詠唱機構は魔法使いに戦士並みの即時性を与えるシロモノだ。
これは、魔法使いの戦い方を劇的に変えるものだ。
はっきり言って子供が発明するようなものではない。
「マフディは・・・くそ、逃げたか。さては命の対貨を使ったな。アンデッドは・・・蒸発したみたいだ。骨しか残っちゃいないや。」
炭化しかけた室内と崩れ落ちる土壁を前に、次回から自動詠唱機構のコマンドは中か弱で使おうと心に決めたのであった。
◇ ◇ ◇
周囲を調べるも、マフディの痕跡らしきものは見当たらない。
「完全に見失ったな。仕方がない。まずは魔力抽出装置を止めなくては。」
思わず肩を落とし、マフディを追うことをあきらめかけた瞬間、ポケットの中の召喚符が、カチャリと音を立てた。
・・・これは・・・ヘルハウンド?
母さんがナーシャさんのために作った召喚符の最後の一枚だ。
猟犬みたいなものか。
試してみよう。
「・・・召喚、ヘルハウンド。・・・なんだこりゃ?」
召喚されたヘルハウンド・・・とやらは、黒い毛並みの美しい、かわいらしい小型犬のような容姿だった。
尻尾を振りながらハッ、ハッと僕の足にじゃれついている。
・・・これ、何の役に立つんだろう?
少なくとも戦闘用じゃない、よな。
「まあ、さすがに愛玩用ってことはないだろうし・・・君。この骨、アンデッドを作った男を追ってくれるかな?」
小型犬・・・ヘルハウンドは「ワン!」と元気良く吠えると、骨に頭を突っ込んでニオイを嗅ぎ、一目散に走りだす。
「・・・あれ、一応母さんが作った召喚符だよね。大丈夫だとは思うけど・・・とにかく、装置を止めなくては。」
アンデッドにされた者たちに安らかな死を願いながら、僕は魔力抽出装置があるであろう地下3階へと、下りて行った。