199 協力体制/遥香の帰還
南雲 千弦
あの後、運動会が終わるまではみんなに待ってもらって、終わったら一斉に宗一郎伯父さんが用意した赤坂のホテルに移動することになった。
・・・ん?運動会の結果?
琴音の組が優勝したよ。
あんにゃろめ、紫組の全員に身体強化魔法をかけやがった。
白組の男子が数人、宙に舞ってたよ。
オリビアさんほどではないにしても、身体強化魔法をかけられた人間に普通の高校生が勝てるわけないだろうに。
紫組の打ち上げには、琴音のふりをした二号さんが行くことになったって。
そして、ホテルでは仄香を中心に久神家と日米両国の要職にある人たちが一堂に会することになった。
仄香自身も、遥香を守るためには存在を隠すんじゃなくて能動的に動く意思を決めたようだ。
この人たちは、あの後すべて宗一郎伯父さんが連絡して集めた・・・らしい。
すでに料理が並べられ、どこぞの政治集会みたいになってるよ。
よくもまあ、たった数時間で集まったものだよ。
私は端っこのほうに立っていようとしたら、なぜか協力体制の発起人として琴音と2人でど真ん中に座ることになったよ。
「あ~。みなさん、お集まりいただきありがとうございます。これから魔女を中心とした協力体制の決起集会を始めます。あわせて久神家の警固、それと遥香が日常生活に戻るためのご協力をお願いします。それでは、わたくし、言い出しっぺの南雲千弦が音頭を取らせていただきます。カンパイ!」
「うおぉぉ!カンパイ!」
おおい!?
なんで琴音が私のフリしてカンパイの音頭を取っているのよ!
そこは父親である遙一郎さんがやるべきでしょう?
遙一郎さん!なんでちっちゃくなってるのよ!
香織さんなんて震えてるよ!
・・・いや、在日米軍の司令官に陸軍参謀部の参謀総長、それから情報部の風間中将に宇宙航空研究開発機構の理事長にアメリカ航空宇宙局の副長官、在日アメリカ大使夫妻、果ては現職の総理大臣である九重の爺様に浅尾副総理まで出席するなんて聞いてないわよ!
「ふむ。堂々としておるわ。九重の跡取りは琴音か千弦、どちらにしようか迷っておったが・・・これは千弦で決まりかの。ならば婿はどうするか・・・そういえば松橋のところの次男が・・・いや、浅尾ン所にも男子がいたか?」
「お?いいのか?俺んところの正志はもう40になるけどよ。歓迎するぜ?」
おいコラ!クソ爺ぃども!
勝手に決めんな!
それに堂々としているのは琴音よ!
マジで区別できないなら、その白髪頭に轟雷魔法をぶち込むぞ!
「千弦ちゃん・・・テレビで見たことしかない人がたくさんいるよ・・・緊張して味がわからないよ・・・。」
遥香・・・残念、そっちは琴音だ。
それからフォークは左手、ナイフは右手。
いや、琴音のやつ、「不肖、南雲千弦」って名乗ってたから間違えるのは仕方ないか。
・・・不肖ってなんだよ。
「遥香さん、そっちは琴音さんです。千弦さんはこっち。・・・あら、これ、すごくおいしいですね。グローリエル。これ、作れそうですか?」
「ん。・・・ん。簡単。レシピよりも下準備が大事。でも魔法で何とかなる。」
さっきまで面食らっていた仄香は、あっさりと持ち直して料理を楽しんでいるよ。
相変わらず図太い神経をしている。
それと・・・いつの間にか参加したエルが、メモ帳片手にものすごい勢いで料理を食べている。
あれ、きっと後で同じものを作るつもりだ。そしてエルも随分図太いな。
そしていつの間にか仄香の周りに人が集まり始めている。
ジェーン・ドゥの身体があって本当によかったな?
「いやあ~。ジェーン殿が94年以降、国防総省にあまり来てくれなくなってからは、将兵の士気が下がりましてな。どうしようかと思っていたのですよ。」
「ケガ人の治療には行ってたじゃない。3か月に1度は必ずウォルター・リード陸軍医療センターに顔を出していたわよ。聞いてないの?」
「ジェーン。死にかけの兵隊の治療だけじゃなくてさ。航空ショーとか観艦式にも出てくれないから広報官が毎回左遷されるんだよ。」
「知らないわよ。30年も前に公式行事に出ないって宣言したでしょう?」
仄香とにこやかに話してるあの人・・・階級の星が・・・4つ!?げ、大将じゃん!
うわ、もう1人は星が5つ!元帥じゃん!
あ、こっち来る。来ないで!
ってか、琴音のやつ、いつの間に私と席を入れ替わったのよ!?
「初めまして、私は・・・ハハハ。昔、ジェーンに助けられた名無しのオジサンだ。君はジェーンの子孫で親友で恩人なんだろう?困ったことがあったらいつでも言いなさい。オジサンとオジサンの部下が、君が世界のどこにいても助けに行ってあげよう。地球の裏側でもOKさ。」
そういって星4つのオジサンは少し小さめな名刺を差し出した。
両手で受け取り、頭を下げながら目の前にかざすと、そこにはフレデリック・ウォーレンの名前が・・・。
現職のアメリカ特殊統合軍の司令官じゃん!!?
その部下って何人いるのよ!?
「おいおい、抜け駆けはよくないな。じゃあ、俺は月の裏側でも助けに行くぜ。というか、君、宇宙には興味はないかい?今からなら十分に間に合うぜ。女性初、人類初の火星着陸クルーになってみる気はないか?」
そういいながら差し出された名刺には、でかでかとNASAの文字が・・・。
まあ、事故か何かあっても、長距離跳躍魔法で安全に帰ってこれるし、一度行けばまた行けるし・・・。
あ、私なら片道で済むからかなり現実的ではあるんだな。
「千弦さん?地球と火星を往復するには、長距離跳躍魔法ではなくて惑星間跳躍魔法が必要になりますよ。それに、移動にかなりの時間が必要になりますからあまり現実的ではありません。・・・アイザック。私の子孫をそんな危ない仕事に勧誘しないでほしいわね。」
ぐ・・・アイザックって・・・NASAの、次期長官・・・わざわざ日本に来たのか・・・このためだけに・・・。
次から次へと仄香のところに挨拶に来るお偉方が、ベルトコンベアに乗ったようにそのまま私のところに来る。
もう緊張で死にそうだよ。
あ、そうだ。
琴音に後を任せよう。
そう思って後ろを向くと・・・。
くそぅ。琴音も遥香もいないでやんの。
・・・仕方がない。あとでトイレに行くふりをして二号さんでも喚ぶしかないか。
召喚符は・・・あ、これか。
「あ、千弦さん。シェイプシフターの契約なんですが、そろそろ返してもらえます?千弦さんと琴音さんの契約はこちらで破棄しておきます。・・・あら、どうしました?」
詰んだ。
う、めまいが。
誰か助けて。
◇ ◇ ◇
南雲 琴音
ホテルの大広間はとんでもない騒ぎになっている。
それはそうだ。初めてアメリカと日本の政府が「魔女に恩を売れる」んだもの。
まともな政治家ならこんなチャンス、絶対に逃すはずがない。
仄香の義理堅い性格を知っていれば、国家千年のグランドデザインが決まるこの判断を、間違えるはずがないのだ。
「ねえ、琴音ちゃん。こっそり抜け出してきちゃったけど、大丈夫かな。」
「大丈夫よ。会場は何重にも護衛が取り囲んでるしね。・・・ね、黒川さん。」
「まったくもう。久しぶりの休みだったのにぃ。いきなり呼び出されて仕事だなんてツイてないわぁ。・・・でも大体の事情は分かってるし、ま、私の目が届くところなら安全だと思ってもらっていいわよぉ。」
黒川さんの話では、すでに仄香がかけた洗脳魔法の効果は消失し、遥香は体調不良で長期入院していたというニセの記憶に差し替えられていることまで確認されているという。
開明高校でもすでに学籍は復活し、戸籍も住民票も、パスポートも元通りになっているとのことだ。
「戸籍とか住民票とか、そういうのをいじると犯罪なんじゃなかったっけ?仄香、大丈夫なのかな?」
「心配はいらないわぁ。一応確認したんだけど、すべての担当者が『そこにあるんだけど気付かない』、または『そうではないんだけど、そう思い込む』状態にされていただけで、書類やデータに手を加えられた形跡はなかったわぁ。・・・魔女・・・恐ろしい存在ねぇ。」
うわ・・・よく私だけ洗脳されないですんだな。
それにグレムリンの能力って・・・すごいな!?
「とにかく、明後日からまた普通に学校に通えるね。遥香。これからもよろしくね。」
「うん。琴音ちゃん。・・・私のこと、忘れないでいてくれてありがとう。とっても、とっても嬉しかった。」
う~ん。ヤバい。
無茶苦茶かわいい。
思わず百合に目覚めてしまいそうだ。
じゃあなくって。
「遥香。こうやって遥香が日常に戻れたのって、たぶんだけど姉さんのおかげなんだと思うのよ。あの人が二号さんを召還したのも、運動会に連れて行くように言ったのも、遙一郎さんと会ったのも。今思えば全部計画だったのかも。」
「え・・・千弦ちゃんが?」
「そう。考えてみれば何もかも出来すぎなのよね。でも、姉さんのやることだからね。何も言わずに信じていればいいわ。ふふっ。姉さんたらちょっと風呂敷を広げすぎたと思ってるみたいだけどね。」
「そっか。千弦ちゃんが・・・うん。わたし、ちゃんとお礼を言ってくるよ。」
「そうねぇ。でも今は会場に戻らないほうがいいわよぉ。男の子のいる政治家とか軍人とか、遥香さんのことを狙っている人がたくさんいたからねぇ。・・・これから大変よぉ?」
黒川さんの言葉に一瞬で遥香が凍り付く。
そういえば、九重の爺様は、お母さんがお父さんと駆け落ちしたことが理由で勘当同然の扱いをしていたというが、それは当時の自由共和党のお偉方が自分の子供との婚姻を迫ったから、お母さんを逃がすために仕方なくやったことだって言ってたけど・・・。
同時にお父さんが初めから魔女の血族だと知っていたら、自由共和党なんてぶっ潰して新しい党を作れてたと言っていたっけ。
魔女の血族って、上流階級の中でも相当のサラブレッドなんだね。
ということは、魔女の現在の依り代になっている遥香を自分の親族に迎えることができるなら・・・?
「・・・よかったね遥香。旦那さん候補は選り取り見取りだね。いや、権力関係で結構苦労するかも。選択肢が多すぎるのもつらいよね。」
「こ、琴音ちゃん!?わ、私はそんなコトしないよ!・・・それに仄香さんは健治郎さんが好きみたいだし、私も結構好みというか、ごにょごにょ・・・・。」
・・・いつの間に・・・あのクソミリオタ師弟め。遥香を不幸にしたら許さないんだから。
そんな私たちを、黒川さんは妙に生暖かい目で見ていたよ。
◇ ◇ ◇
5月13日(火)
私立開明高校3年1組
あの後、会場に戻ったら大変なことになっていたよ。
陸軍の風間とかいう中将とアメリカのフレデリックとかいう大将が自分の子供を遥香に紹介するとかで、その順番を腕相撲で決めるとか言い出して、さらにノリノリになった両国の軍人や力自慢たちが料理をどけて腕相撲大会を始めていたよ。
仄香ったらそれを止めもしないで、「紹介するだけです。決めるのは遥香さんですから。」とか言い出したから、誰かが「よしゃあぁ!お墨付きだ!」とか言い出して、さらにヒートアップしていたよ。
それを止めるために何故か私まで参加させられて・・・。
身体強化魔法を使って勝ったら、魔法なしでもう一回とか言われて・・・。
とうとう姉さんが玉山まで往復して、オリビアさんを連れてくる羽目になっていたし。
っていうかオリビアさん、すごいな?
身体強化なしで3人まとめて相手しても負けないとか・・・。
あれで病み上がりとか、もはや人間じゃないんじゃないの?
なぜか海兵隊の人たちがオリビアさんにプロポーズをして、私に勝ったら結婚してやるとか言って。
・・・完全にお祭り騒ぎになっていたよ。
結果、なぜか今日は私と遥香、そしてオリビアさんの3人でデート?をすることになってしまった。
当然、黒川さんが護衛で付いてくる。
そして明日は風間中将の息子さん、明後日はフレデリック大将の息子さん。
毎回、私か姉さんが付いていくことで遙一郎さんからOKが出たよ。
もうすぐ中間テストだっつうのに・・・。
授業が終わり、教科書やタブレットをカバンの中にしまって教室を出る。
「ふ~。久しぶりだから授業についていけるか心配だったけど、大丈夫そうだよ。特に英語は本場で話してきたのがよかったのかな?」
「そう、よかったわ。それにしても、私たち以外の生徒はみんな遥香が長期入院していたという記憶になっていたから、今朝は教室の中がお祭り騒ぎだったわね。でも、勉強なんかに活動時間を使っちゃってよかったの?1日6時間しかないんでしょ?」
「うん。時々でいいから高校生らしいこと、したかったんだよ。それに、杖の中に教室と同じ空間を再現してもらってるから、ちゃんと授業は受けているんだよ。リモートに近い感覚なのかな?」
「そう。じゃあ、今日はあと5時間ね。原宿と池袋で夏物の洋服を見て、それから甘い物でも食べて帰りましょうか。咲間さんは5時からのシフトに入ってるから、次回誘おっか。」
校門を出ると、黒川さんがいつものオープンカーで待っていてくれている。
助手席にはオリビアさんがすでに乗り込んでいる。
「お、時間通りねぇ。さ、乗ってちょうだい。・・・ま、このメンバーを襲おうとするバカはいないと思うけど・・・太田警部と岸部君、池谷君がバックアップで付いてるわ。安心していいわよぉ。」
「なあ、黒川さん。私は守る側ってことでいいんだよね?生まれてこの方、守られるってことはなくってさ。」
・・・まあ、オリビアさんを倒すのはかなり難しいんじゃないかな。
あの後、健治郎叔父さんからリングシールドを受け取っていたし、姉さんも抗魔力増幅機構を渡してたし。
そうでなくても拳銃くらいじゃ殺せそうになさそうだし・・・。
「あなたも警護対象だから、何かあったときは遥香さんを連れて逃げてほしいんだけどぉ・・・ま、遥香さんの盾になるっていうなら、とめないわよぉ。」
「よし、盾役は任せてくれ。あの後、仄香さんから新しく防御魔法を習ったのさ。今ならガトリング砲だって弾き返せるよ。」
・・・うん。仄香の幻灯術式で見たけど、この人、マジで人間じゃないんだよな。
九七式とかいう大砲を片手でぶっ放しているのを見て、姉さんが「ありえない」って悲鳴を上げていたっけな。
普通にしてれば長身の美人なんだけどな。
◇ ◇ ◇
傍から見ても明らかにおかしい凸凹グループだったけど、オリビアさんが意外にも女の子っぽい趣味をしていて助かったよ。
遥香の行動限界時間の1時間ほど前に、久神家の玄関先まで送ってもらう。
・・・オリビアさんはそのまま久神家に泊まっていくんだそうだ。
万が一の時は家の中における最終的な防衛ラインになるんだってさ。
さて、帰ろうか、と思った瞬間のことだった。
《もしもーし。琴音?久しぶりに念話のイヤーカフを使ってみたんだけど、どう?》
《感度は良好だよ。どうしたの?急用?》
《う~ん。急用っていうか、ちょっと修羅場になっててさ。ウチらと二号さんの契約を破棄して仄香に返すって話になってたじゃん?それで、今、ウチに仄香が来てるんだけど・・・母さんが二号さんと離れたくないみたいでさ。》
ああ、お母さん、二号さんのことを無茶苦茶気に入ってたからな。
まるで娘がもう1人できたような喜びようだったよ。
《二号さん自身はどうなの?仄香のところに戻りたくないとか言ってる?》
《ん~。なんか、帰りたくなさそうなんだよね。でも元々は仄香の召喚獣だったんだし、ああいった形で契約を奪っちゃった以上は、いったん返すのが筋とは思うんだけどね。》
二号さんを初めて召喚したとき、仄香との契約が破棄されたことが二号さんにとってものすごくショックだったみたいし、私としても仄香に契約を返すべきだと思うんだけど・・・。
《とにかく急いで帰るからちょっと待ってて。》
姉さんとの念話を終了し、物陰に入って電磁熱光学迷彩術式を起動する。
・・・あ、警護の人に移動することの連絡だけしておかなきゃ。
「・・・あ、もしもし?太田さん?・・・今から長距離跳躍魔法で帰宅します。・・・はい。自宅のほうは高杉さんがガードしてくれているので。いえ、お疲れさまでした。では。」
太田さんに電話だけしてから、自動詠唱機構で長距離跳躍魔法を発動する。
仕事とはいえ、毎日交代で守り続けてくれている彼らには頭が上がらないなぁ。
自宅の庭先に姿を消したまま着地し、高杉さんに電話をしてから電磁熱光学迷彩術式を解除する。
この手順は、長距離跳躍魔法と電磁熱光学迷彩術式を使うにあたっての陸情二部と警視庁公安部、双方との約束になっている。
・・・っていうか、日本政府もアメリカ政府も長距離跳躍魔法と電磁熱光学迷彩術式をやたらと欲しがっていたっけ。
仄香が教えないと言った時のその場にいた人たちの落胆ぶりと言ったら、それはそれはすごいものだった。
姉さんも世界の軍事バランスがおかしくなるような魔法を教えることには反対していたけど・・・そりゃそうだ。
おかげで私たちは完全に公安にマークされちゃったよ。
いつでも姿を消して、どこにでも現れる魔法使いなんて危険なことこの上ないからね。
気を取り直して自宅のドアを開ける。
そこには、ちょっと思っていたのと違った修羅場が広がっていた。
◇ ◇ ◇
リビングの端、テレビの横に敷かれた「人をフヌケにするクッション」の上で、遥香の姿をした二号さんが小さくなっている。
その前には、ジェーン・ドゥの身体に入った仄香の姿があった。
「シェイプシフター。今すぐ戻る気はないのですか?」
「ウ・・・。はじめは戻りたいナとは思っていたノデス。でも、今はママさんと別れるのは嫌ナノデス。でも、マスター・・・仄香サンのお手伝いもシタイとは思っているのは事実デス。」
「そうよね。二号ちゃんはもうウチの子なのよね。ずっとウチにいたいわよね?」
・・・何だこりゃ?
リビングの中央で仄香が仁王立ちをしていて、お母さんは二号さんに抱き着いていて・・・。
「あ、琴音。困ったことになっててさ。二号さん、戻りたくないんだって。そんなにウチの居心地がよかったのかな?」
「・・・どうすんのよ、コレ?今は高圧縮魔力結晶があるからいいけど、この先どうなるかわからないのに・・・。」
二号さん・・・お父さんとお母さんが無茶苦茶かわいがってたからな。
それに、猫缶と猫ちゅーるがそんなにおいしかったのか。
「シェイプシフター・・・困りましたね。あなたの代わりができる眷属なんてめったにいないのですけど・・・。どうしようかしら。プロテウスは喚びたくないけど、めったに聞けないわがままだから聞いてあげたいのは山々なんですけどね。」
・・・プロテウス?ギリシャ神話の海の神だっけ?
たしか予言と変身・・・あ、二号さんの代わりか?
「・・・仄香サンと契約したラ、また100年は契約したままデスヨネ。そしたら、ママさんに会えなくなるノデス。ナデナデしてもらえなくなるのは悲しいノデス。もうちょっとだけ一緒にいたいノデス。」
100年もしたらお母さんどころか私も姉さんも多分生きていないだろうし、二号さんは魔女に近い寿命を持っているだろうし・・・。
私たちでは考えられない悩みがあるのかもしれない。
しばらく仄香は考え込んでいたが、軽く息を吐くと、私たちに向き直ってゆっくりと言葉をつづけた。
「仕方ありません。本人が嫌がっているのを無理やり連れていくことはできませんね。ただ・・・2つほど提案があります。まずは契約を元通りにすること。これは、召喚維持コストの関係です。今はまだ何とかなっていますが、将来的に魔力結晶を使い切るかもしれない。ですので、召喚維持コストは私が賄います。」
「契約を横取りしたのは私たちだから何も言うことはないけど・・・もう1つは?」
「シェイプシフターはこのまま南雲家にいてもらいます。必要な時に喚ぶ・・・そうですね、パートタイム召喚獣ってことにしましょうか。その代わりですが、着るものと食べるものはアルバイトでもして自分で何とかしなさい。シェイプシフター。」
・・・またずいぶん思い切ったことを。
私としては学校でも家でも、遥香の姿を堪能できるからうれしいけどさ。
「仄香は相変わらず甘いわね。琴音、母さん。二号さん、しばらくうちにいてくれるってさ。」
相変わらず仄香は甘い。
教会の連中が魔女と呼んでいるのがおかしいくらい、人が良い。
どのへんが「魔」なんだか。
「ふう・・・私の召喚獣はみんな自由というかなんというか。そういえば路上でホットドッグを売っている者や、おもちゃ屋で着ぐるみに入っている者もいましたっけ。あなたがそうなるとは思いませんでしたけど。」
「ヤッター!ママさん。これからもよろしくお願いシマス!」
結果、我が家には正式に1人・・・1匹?家族が増えたのであった。