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193 新たな障碍/母と子の再会

 三条 満里奈(サン・マーリー)


 ゴットランド島

 古都ビスビュー 郊外

 古い城壁の見える丘の地下


 全島が4億年以上前の化石サンゴ礁からできており、地球上で第二位の島型魔力溜まり(ダンジョン)であるゴットランド島は、ゴート族の地という名の通りゴシック調の歴史的建造物が立ち並ぶ地である。


 密閉型魔力溜まり(ダンジョン)に比べれば魔力の密度は低いものの、この地に住まう者たちのうち、古い血に連なるものは、強靭な肉体、そして明晰な頭脳と器用な手先を手に入れるにいたり、ドワーフと呼ばれるようになった。


「相変わらず狭いところですね。・・・天井が近いです。」


聖女(マーリー)様。もう間もなく工房です。工房は天井が高いですから、どうかそれまでご辛抱ください。」


 ゴットランド島のドワーフは、その腕と槌だけで化石サンゴ礁のはるか下、岩盤まで掘り進み、魔力を帯びた様々な鉱石を採取し、加工することに長けている。

 表向きは何も地下資源がないこの島は、魔術的な地下資源の宝庫となっているのだ。


「ええ。わかっています。もとは坑道です。ぜいたくを言うつもりはありません。」


 背の低いクラリッサはファイルブックを片手にすいすいと進んでいくが、天井高が170センチ前後であるここでは、瑞宝と私は油断すれば頭をぶつけてしまいそうだ。


「お。工房だ。ゴルドの旦那!聖女(マーリー)様がお見えだよ!」


 先行していたクラリッサは工房のドアを見つけるとすぐに駆け寄り、ドアノッカーをたたきながら工房の主を呼び出す。


「あ?・・・ああ、あんたたちか。入りな。例のものは準備できてる。あとは魔女の心臓を()めるだけだ。」


 扉を開いて顔をのぞかせたのは、顔の下半分を白髪の混じる茶色い髭に包み、後頭部まで禿げ上がった頭を持つ身長140センチ程度の小柄で武骨な男だった。


 けして広くはない工房の中央まで進み、工具が雑然と置かれたテーブルの中央に断界の壺を置く。


 ゴルドはすぐさま封印を破り、断界の壺を銀色の皿に向かって逆さにする。


「ゴルド殿。こちらが魔女の心臓です。・・・それは?」


魔導銀(ミスリル)の皿とトングだ。魔女の心臓なんてモン、素手で触れるわきゃないからな。・・・みろ。一瞬で魔導銀(ミスリル)がこのありさまだ。こりゃあ、ランタンの中央に金剛鉄(アダマンタイト)を使って正解だったな。」


 そういいながらゴルドは、四方を鍛鉄の格子で囲まれた、三角屋根のデザインが特徴のランタンの底蓋を開け、その中に注意深く魔女の心臓を格納する。


 金剛鉄(アダマンタイト)の薄青い光が燐光のように残像を引く。


「・・・よし。できた。使い方は簡単だ。周囲の魔法や魔術を打ち消したいときはこのダイヤルを右に。アナログ式で効果範囲を指定できるようにしておいた。最小範囲は半径3メートル、最大範囲は半径5キロだ。・・・それにしても、よくこんな材料が手に入ったな?」


 効果範囲を切り替えられるのか。

 たしか、以前作られたモデルでは、問答無用で広範囲の魔法を打ち消していたと思ったが・・・。


「我ら教会の聖遺物(レリック)ですから。ゴルドの親方でないと、安心して作業のお願いなんてできませんよ。それで、このランタンの銘は?」


「あ?銘なんぞ好きにしやがれ。何と呼ぼうが俺が作ったモノの力は変わりゃしねぇ。ほれ、用が済んだならとっとと帰えんな。」


「ゴルド。いつも世話になります。代金はいつもの口座に振り込んでおきます。では。」


「ふん。」


 相変わらず愛想のない男だ。

 そう思いつつ、ランタンを手にもと来た道を戻ろうと工房の扉に手をかけようとしたとき、ゴルドと一緒にいた別のドワーフに声をかけられた。


「・・・ちょっと待ちな。その壺はなんだい?」


 ドワーフの女?

 珍しいな。

 ドワーフの女はこういったことではなく、料理や裁縫に興味がある個体が多いのだが・・・。


「この壺は『断界の壺』といって、魔女の心臓を封じてあったものだけど・・・どうかしましたか?」


「・・・悪いことは言わない。それをここに置いていけ。それが嫌なら、せめて破壊しな。・・・何に使うか知らないけど、絶対にろくなことにならない。」


 なんだ?まるで未来を予知でもしているような・・・?

 さすがに私でもそんな遠い未来は見えない。

 確かにこれはもう不要ではあるけど・・・。


「コラ!またお前か!工房に出入りするなと何度言ったらわかるんだ!・・・すまねぇな。エリスライトが余計なこと言ったようで・・・。」


 ゴルドにエリスと呼ばれた若い女ドワーフは、何度も頭を小突かれながら奥に引きずられていった。


 だが・・・絶対ろくなことにならないというのは・・・どういうことだろう。

 坑道を抜け、古都ビスビューに戻る車の中でも、エリスライトの言葉が頭から離れなかった。


 ◇  ◇  ◇


 翌朝、ビスビューの郊外でランタンの実験を行ってみる。


「瑞宝。クラリッサ。準備はよろしいですか?」


「はい。いつでもどうぞ。」


「ゴーレムの準備、OKだよ。」


 瑞宝たちの返事とともに、ランタンのつまみをひねる。

 フワッという風ととともに、金に少量の赤を混ぜたような光があたり一面に広がっていく。


 光に触れた瞬間、クラリッサのゴーレムは崩れ落ち、ただの土くれに戻ってしまった。


「作動中の術式の消滅を確認。・・・では瑞宝。お願いします。」


「はい。・・・()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。・・・なるほど、まったく魔法が発動しませんね。」


 瑞宝は神聖系火炎魔法を行使するが、火炎はおろか、魔力の流れも起きない。

 瑞宝は続けて次の詠唱を開始する。


概念精霊(スピリチュアル)魔法(マジック)はどうでしょうか。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。・・・これも同じですね。」


 やはり、そよ風すら起きない。今のは中級上位の風魔法だったはずだが・・・。


「じゃ、私の番だ。"Andi goðs! Gak þú í leir ok gef því skamma líf. Skapa þú gólm!"(()()()()()()()()()宿()()()()()()()()()()()()。クリエイトゴーレム!)」


 瑞宝に続いてクラリッサがゴーレム作成術を行使する。

 だが・・・その手のひらをかざした先にある土には、何の変化もない。


「マジか~。じゃあ、術式は?・・・えい!」


 クラリッサは抱えていたファイルを開き、一枚の術札を土の上に落とす。

 だが・・・何の変化も起きなかった。


「これが・・・破魔のランタン。まさに魔法使いの天敵ですね。こんなものが量産されたら、魔法使いや魔術師は何もできなくなります。・・・材料として要求されるものが魔女や魔王の心臓であったことが逆に救いですね。」


 瑞宝はそう言いつつ、その手の乾坤弓の弦を魔力を込めて引き絞るが、やはり光の矢は現れなかった。


「・・・成功です。これで、魔女を圧倒することができる。あとは・・・魔法ではない火力が必要ですね。」


 西側諸国は我々教会をカルト集団としてみなしている国が多く、自由に活動できないが、東側諸国ならばいくらでも戦力が手に入る。


「次の行先は・・・ソビエト連邦内でしょうか?」


「はい。ソビエト連邦-北カフカス連邦管区、タゲスタン共和国です。・・・そうですね。週明けにはカフカスの森のエルフと共同で軍事訓練を行う予定があるはずです。せっかくですのでその訓練でこのランタンを使わせていただきましょうか。」


 東側諸国やイスラム諸国はその主義・教義のために魔法使いや魔術師を戦力とすることが非常に難しく、アメリカやイギリス、日本、オーストラリアにその分野で大きく後れを取っている。


 特に、アメリカは1994年までは公式に、それ以降は非公式に魔女という規格外の戦力を国防計画の要に据えているという。


 ・・・そういえば瑞宝とクラリッサが日本に調査に行ったとき、魔女の憑依先は分からなかったが、自由共和党のトップが都内のホテルで魔女と非公式な会談を行ったという気になる情報があった。


 ・・・ただでさえあの国は世界最大の島型魔力溜まり(ダンジョン)だというのに。

 それに・・・本州北端で確認された魔力結晶鉱山も気になる。


 まさか・・・日本という国こそ原初の石板の破片が落ちた地だというのは真実なのだろうか。


聖女(マーリー)様?顔色が優れないようですが・・・?」


「いいえ、何でもありません。行きましょう。」


 西側諸国の動きや断界の壺に対する女ドワーフの言葉など、いくつかのしこりは残るものの、手札はそろいつつある。


 我ら教会の、そして我ら魔族の明日のため、破魔の角灯(ランタン)を手に私は歩き出した。


 ◇  ◇  ◇


 仄香(ほのか)


 空路と陸路、そして徒歩と魔法の(ほうき)を駆使して私たちはカフカスの森の中を進んでいた。

 遥香は最初から杖の中に入れてあり、代わりにリリスを()び出してジェーン・ドゥ(バイオレット)の身体の制御をさせてある。


 黒海とカスピ海に挟まれた大小コーカサス山脈と、それを囲む44万平方キロメートルからなるこの地は、ヨーロッパ最高峰のエルブルス山をはじめとする5000メートル峰が連なる厳しい土地であり、同時に大小40を超える民族の暮らす場所でもある。


 その奥深く、紀元前2~3000年代の遺跡が眠る森の奥深くに、目指す場所があった。


「お、仄香(ほのか)さん。左前方・・・11時半くらいかな。街が見える。あそこかい?」


 特別仕立ての4人乗りの(ほうき)の先頭に(またが)ったオリビアが、前方の(かす)んだ山のふもとを指さす。


「ええ。あのあたりですね。・・・というか、見えるんですか?まだ100キロ以上ありますけど?」


「高度が高いし、空気が澄んでるからね。・・・お?ヴァルス・ニヴェルと違って車は走ってないね。高層建築どころかコンクリートの家はなさそうだ。」


《オリビアさん、どういう視力をしてるんだろう?それも身体強化の一つなのかな?》


「どうでござろうな?オリビア殿は素で人間離れしてござるからな。拙者、身体強化なしでクオーター(25セントコイン)を四つ折りする女性なんぞ、初めて見たでござるよ。」


 ・・・うん。二人とも知らないだろうけど、オリビアは素手で鉄アレイを変形させてたぞ。

 握ったところが指の形に凹んでるからオリビアに新しい鉄アレイを買うか聞いたら、昨日買ったばかりの新品だって言いやがった。


 握力を鍛えるために鍛鉄性の鉄アレイを曲げるトレーニングをしてるなんて誰がわかるかっつうの。


 そんな女が身体強化魔法なんぞ使った日には・・・

 思わず震えがくる。


「ん?仄香(ほのか)さん。トイレか?だったらそこいらの森にでも降りて・・・。」


「いえ、少し冷えただけです。速度を上げましょうか。」


 振り返りながら首をかしげるオリビアをよそに、カフカスの森中の、一番手前のエルフの集落の入り口に魔法の(ほうき)を下すことにした。


 ◇  ◇  ◇


 比較的人間と同じような服装をまとったエルフたちの集落に入っていく。

 エルフたちは一瞬私たちのほうを怪訝そうな目で見るが、一瞬で興味を失ったかのように通り過ぎていく。


 この村には、舗装されてはいないものの、一本の道路が通っており、古いながらもソ連製と思しきバスが何台かとまっているところを見ると、外界との交流は少ないながらもあるようだ。


「おお。ここがウワサのフェアラス(コモンエルフ)氏族の集落でござるな。たしか、コモンエルフは魔族との交流があったはず。では拙者に任せるでござるよ。」


 そういうとアマリナはバス乗り場で切符を売っているエルフたちに声をかけに行った。


 しばらく何かを話したかと思うと、少し情けない顔で戻ってきた。


「ぐ、ノルウェー語も、英語も、日本語も通じぬでござる。面目もござらぬ。」


「Привет. Ты путешественник? Демонов я не видел уже много лет. Извини, но в этой деревне по-английски не говорят. Хоть бы на аварском или русском говорил.…Olmazsa, azərbaycanca da olar.(よお。旅行者かい?魔族なんて何年ぶりかな。すまないがこの村では英語は通じないんだ。せめてアヴァル語かロシア語を話してほしいんだが・・・。だめならアゼルバイジャン語でもいいからさ。)」


 エルフの男は友好的ではあるようだ。

 アマリナが魔族であることもプラスに働いているのだろうか。


「仕方ありません、この身体で目立つのは避けたかったのですが・・・。Salam, tanış olduğumuza şadam. Azərbaycanca danışsam, olar?(初めまして。アゼルバイジャン語でいいかしら?)Или лучше по-русски?(それともロシア語のほうがいい?)Сагъираб, авар мацӏ къаб бугеб. Дергъан з къаб бугеб.(アヴァル語でもダルギン語でも話せるわ。)Nai quenya ilyë, nai?(何なら古エルフ語でもいいわよ?)」


 がっくりと肩を落とすアマリナの前に出て、エルフの男にそれぞれの言語で声をかける。


「うわ・・・。あんたスゲーな。中国人か?まあいいや。古エルフ語なんて奥のほうの村にある遺跡にしか残ってないよ。ロシア語でいいぜ。で、旅行だろ?最近やっと党の締め付けが緩くなってきたからな。」


「・・・ええ。そんなところね。彼女はアマリナ。見てのとおり魔族よ。私はその通訳。それと、彼女は護衛。そっちは・・・メイドね。」


 オリビアは何を話してるのかわからないような顔をしていたが、ジェーン・ドゥ(バイオレット)の中に入っているリリスはロシア語が分かるので、彼に対して優雅に片足を斜め後ろに引き、もう一方の膝を軽く曲げて挨拶した。


「おう・・・ご丁寧にどうも。で、お嬢ちゃんたち。フェノーリスから出るリュザリア行きのバスはあれが最終便だ。乗ってくかい?他にはエルフの乗客が4人しかいないからほとんど貸し切りだぜ?まあ、バスの後ろには鶏がいて眠れやしないだろうけどなぁ。」


 彼の言葉に周囲を見回すと、バス停の看板にロシア語とエルフ語の併記で見張りの梢(フェノーリス)発、風の村(リュザリア)行きと記載があった。


「ありがとう。運賃はおいくらかしら?」


「ええっと、大人1人に子供が3人でいいのか?まったく不用心だな。大人が1000ルーブルで、子供が500ルーブル、合わせて2500ルーブルだ。・・・はいよ。切符、なくすなよ。じゃあ、良い旅を!」


 それぞれが切符を受け取り、手荷物をもってバスに乗り込んでいく。

 ちなみにこの手荷物だが、中身はほとんどアマリナの私物だ。


 私たちはその都度、玉山の隠れ家(セーフハウス)に戻って必要なものを持ってこれるからな。


《ねえ、仄香(ほのか)さん。バスの運賃、大人1000ルーブルって高いの?日本円にするといくらくらい?》


「1730円くらいです。移動する距離のことを考えれば高くはないですが・・・ちょっと衛生環境が悪いですね。術式束(パッケージ)、123,533を範囲発動。・・・これで何とか我慢しましょうか。」


 感覚鈍麻、消音、微生物除去の術式を全員に対し発動し、鶏糞に含まれる微生物やエンジン音、そして舗装されていない地面からの振動を誤魔化す。


 オリビアとジェーン・ドゥ(リリス)は全く気にもしていないようだが、アマリナと遥香の身体はそれほど頑丈でもないし、精神的に強いわけでもないからな。


 バスがエンジンの回転数を上げ、いよいよ出発しようとしたとき、突然ガクンと止まったかと思うと、サングラスをかけた乗客が一人、慌てて乗り込んできた。


「ふう、間に合った。・・・ん?やあ、母さん。やっと追いついたよ。それと・・・君たちは母さんの友達かな?」


 重そうなリュックを背負い、銀髪をなびかせて飛び乗ってきたのは、私の息子・・・紫雨(しぐれ)だった。


 ◇  ◇  ◇


 バスは森の中を切り開いただけの道と呼べない道を、土ぼこりを上げながら走っていく。


 リュックを前の座席に放り出し、私の隣に座った紫雨(しぐれ)は、アマリナとオリビアの話し相手・・・いや、おもちゃになっていた。


「すごいでござるな。紫雨(しぐれ)殿の髪の毛・・・いくら魔力を込めてもびくともしないでござるよ!これは、仄香(ほのか)殿にも試してもらわねば!」


紫雨(しぐれ)君って仄香(ほのか)さんの息子さんなんだって?あなた、なかなかイケメンじゃない。私と一緒に鍛えない?」


 オリビアの口調が変なことになっている。

 こいつ、エルリックが相手だと普通に敬語を使えるのに、最近はオタクと女戦士の間を行ったり来たりしてたからな。紫雨(しぐれ)が相手だとああなるのか。


「ええ・・・鍛えるって、どこを・・・?」


「全身よ!特に腰回りを!腰はすべての動きの基本、腰がしっかりしていなければ、すべての動きは中途半端になるんだよ!」


「・・・オリビア。筋肉談義はそれくらいにして、紫雨(しぐれ)を返してもらってもいいかしら?」


「・・・わかったよ、仄香(ほのか)さん。ちぇっ。せっかくこの上腕二頭筋でやさしく抱いてあげようと思ったのに。・・・うひゃっ!」


 その筋肉で私の息子に何をするつもりだ?

 ・・・いかん、少し殺気が漏れたか。


仄香(ほのか)殿。鶏が一斉に黙ったでござる。さすがは魔女。恐ろしいお方でござるな。」


 面倒だ。この二人のことは無視しておこう。

 リリスは・・・寝てやがる。


「それで、母さんはこれからフェアラス(コモンエルフ)氏族と会って何を聞き出そうと思ってるんだい?」


「はあ。貴方を巻き込みたくはなかったんだけどね。・・・教会(肥溜め)の本拠地と、教皇・・・サン・ジェルマンの正体よ。それと、教会(肥溜め)信徒たち(クソども)のリストね。」


「それを見つけて・・・皆殺しにするつもりかい?」


「当然よ。一日も早くこの子をみんなのもとへ返してあげるために、敵はすべて根切りにするわ。」


「・・・うん。教会を根切りにするのには賛成だ。僕も初めからそのつもりだったからね。それより・・・魔族を絶滅させるつもりなのかって心配してたんだけど・・・どうやらそのつもりはなかったみたいだね。安心したよ。」


 紫雨(しぐれ)はアマリナをちらりと見て安心したように言った。

 そういえば紫雨(しぐれ)の国は魔族に滅ぼされたと言っていたが、魔族には恨みはないのだろうか。


「そういえば、古代魔法帝国(レギウム・ノクティス)を滅ぼしたのって、魔族だったわよね?あなたこそ魔族に恨みがあるんじゃないの?」


「個人的にはね。でも・・・僕の親友の妻は・・・魔族だったんだよ。2人とも一緒に魔族の剣士に殺されたけどね。」


「それは・・・もしかしてワレンシュタイン?」


「母さん、もしかして知ってたの?・・・まさか、もう殺しちゃった?」


「残念ながら仕損じたわ。そうと分かってたら、自爆してでも殺してやったものを。」


 気付けば、オリビアとアマリナは座席の隅のほうでガタガタと震えていた。

 いかん、思い出し殺気が強すぎたか。


 しばらく無言が続き、いつの間にか次の村・・・いや、規模的には町が見えてきた。

 今まで結構な数の魔族を殺してきたが、考えてみれば彼らと少しは言葉を交わすべきだったのかもしれない。


 ・・・まあ、いきなり攻撃されたら反撃するよな。ふつうは。

 だが、アマリナや紫雨(しぐれ)が間に入れば、もしかしたら彼らのことが少しは分かるかもしれない。


 すっかりと暗くなってしまった道を、バスは町に向かってひた走る。

 町に着いたらさっそく宿を取ろうか。

 それと、少しはおいしいものがあるといいのだけれど。


 澄み渡った夜空から降るような星の中、私たち一行はバスから降り、何時間ぶりかの大地を踏みしめた。

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