187 抗魔力の正体/元の鞘に無理やり突っ込む
南雲 千弦
全身を包む絶望感と諦観に突き動かされ、力いっぱい引き金を引こうとした瞬間、自分と同じ声が響き渡る。
「解呪!!」
一瞬で頭にかかった霞が消え、脳が冴えわたる。
え?私、何をやっているんだ!?
・・・ヤバい!このままでは確実に死ぬ!?
だが指にかかった力はすぐには止まらない。
慌てて銃口を右にそらし、同時に顔を左に振りぬく。
銃口から出た術弾は、天井に大きな穴をあけ、そのまま轟雷魔法の威力をその場で解き放った。
轟音とともに天井は抜け、二階の床と天井を打ち抜き、その後、破片が落ちてきた。
◇ ◇ ◇
頭から冷水をぶっかけられたような感覚とともに、今まで寝ぼけていたかのような余韻が残っている。
同時に、咲間さんが遥香のために作ったメロディが、頭の片隅で流れている。
まるで、自分を取り戻す道標のように。
だが、パラパラと頭上から落ちてくるがれきが気になって上を見上げると、1階のリビングにいるはずなのに青空が見えた。
「うひゃあぁぁぁ!・・・何、何が起こったの・・・。」
思わず間抜けな声を出してしまう。
・・・確かこの上って・・・琴音と私の部屋の間の廊下だったっけ?
あたりを見回すと、半泣きになった琴音と母さん、そしてなぜか紫雨君がこちらを見ていた。
「あれ?紫雨君、来てたの?・・・これ、何の騒ぎ?仄香は?一緒じゃないの?」
頭が混乱して何が何だか分からない。
あれ?いま私、何をしていた?
「・・・姉さん、思い出した?ホントに、全部、思い出したの?」
「だから何の話よ。それに・・・どうすんのよこれ。明日から新学期だってのに、天井・・・屋根まで大穴が開いちゃってるじゃん。」
「・・・千弦さんは、今混乱しているだけだ。しばらくすればここ数日の記憶も整理されてすべて思い出すだろう。」
・・・紫雨君?状況がわからないんだけど?思い出すって何をさ?
あたりを見回すと、まだ早い時間のようだ。
急いで業者に・・・この場合はどこに連絡をしたらいいんだ?リフォーム業者か?それともこの家を建てたときの大工さんか?
思わず天井を眺めて右往左往していると、はな声の突っ込みが入った。
「姉さん、始業式は終わったよ。・・・今日は4月12日、土曜日だよ。」
マジか。またかよ。
「本の悪魔の時と同じ流れか。まったくもう。また仄香の停滞空間魔法ね。・・・ん?どうしたの琴音。なんで泣いてるの?」
「姉さん・・・私のこと、怒ってる?もうお前なんて妹じゃない、なんて言わない?」
う~ん?何がどうなってるんだ?
それに、なんでこんなに頭が痛いんだ?
風邪でも引いたのか?
「とにかく、片付けようか。」
紫雨君の言葉に我を取り戻したかのように、一同、黙々とその場の片付けを始めることになった。
◇ ◇ ◇
ざっとリビングを片付け、2階に上がると私と琴音の部屋の間の廊下に大きな穴が開いていた。
・・・天井を突き抜けて屋根まで破壊されている。
「どうすんのよこれ。姉さん、この修理代、この前の黒川さんのバイト代じゃ足りないかもね。」
目を真っ赤にはらした琴音がいたずらっぽく笑っている。
紫雨君たら、きっちりと私が暴走した瞬間の映像を録画していたよ。
・・・直観像記憶能力を元にした記憶補助術式もすごいなとは思っていたけど、紫雨君のこの術式は、術者が見たもの、聞いたことを音声付きの「動画」として記録し、再生することができるらしい。
もしかしたら仄香の幻灯術式も同じ原理によるのかもしれない。
それにしても、何が原因かは知らないけど、我ながら酷いことをしたものだ。
紫雨君はそのうち思い出すって言ってたけど、思い出したくないよ。
たぶん、あの暴走以外でもロクなことはしていないだろうし。
「おーい。ここと天井は僕が片付けるから、二人はそれぞれの部屋を片付けるといいよ。」
紫雨君がA4のコピー用紙とボールペン、セロテープを持って2階に上がってきた。
轟雷魔法封入の術弾が撃ち抜いた床と天井、屋根を見ながら、何かを書き込んでいるようだ。
破損個所のメモでも取るつもりなのだろうか。
いや、あんなモノで頭を撃ったら首から上が無くなるって。
マジで精神操作系の魔法って危険だな!?
仄香にあったら文句を言わなくては。
ゲンコツ・・・はやめておこう。
何度も世話になってるし。
遥香の身体に入ってるかもしれないし。
危うく死ぬところだったけどさ。
「じゃあ、任せるわ。姉さん、私の部屋は無傷みたい。そっちの部屋は?手伝うわよ。」
琴音の部屋が無事なら、私の部屋も大丈夫だろう・・・と思って扉を開き、部屋の中の惨状に目を回す。
「うわ・・・なにこれ。グチャグチャじゃない。なんで?いくらなんでもひどくない?」
「うわぁ・・・なにこれ。姉さん、この部屋で暴れたの?」
「いや・・・私もなにがなんだか・・・あ?なんで日記がココに・・・もしかして琴音、読んだ?」
「ね、姉さん、そ、それは・・・。」
「ははは、子供の時に書いたくだらない日記よ。・・・コンプレックスだらけのね。・・・お?これ、本の悪魔化してるじゃない。へぇ~。作者は触っても大丈夫なんだ。新発見だわ。」
捨てようかとも思ったけど、本の悪魔化をしているとは面白い。
きっと魔力結晶が大量にあるからだろう。
ってことはこの家、ダンジョン化してるのか?
いや・・・待てよ?
「これ、もしかして琴音も読めるんじゃない?試してみる?字が汚いから読みづらいけど・・・なんてね。ごめん、そんなに怖がるとは思わなかったわ。」
日記を手に振り向くと、それまで笑顔だった琴音の顔が一瞬で凍り付き、恐怖に慄くような表情に変わっていく。
ま、琴音が怖がってるから、とっとと見えないところにしまっておきますか。
「姉さん、もし、その日記、私が読んじゃっても・・・姉さんの秘密を知ろうとしても・・・怒らないの?」
「あまりいい気はしないけどね。そりゃ日記だもの。勝手に読まれたら許さないわよ。ゲンコツ一発くらいは覚悟してもらうかな。でもまあ、本人がいいって言ってるんなら気にしなくていいんじゃない?」
私の言葉に、なぜか琴音はその場にへたり込む。
「それ、姉さんに黙って読んじゃって・・・もう少しで姉さんを死なせるところだったわ。」
なにそれ?
確かに勝手に日記を読まれたら許さないけど、それが理由?
そんなことで生かすの殺すのとか、気でも狂ってるんじゃない?
いや、自分のことだけどさ。
「・・・とにかく琴音。後でゲンコツ一発ね。」
琴音の手を借りてグチャグチャになっている部屋を片付けているうちに、また頭痛がひどくなってきた。
「姉さん、すごい脂汗だよ?どこか痛いの?」
「うん、ちょっとひどい頭痛がね。風邪でも引いたかしら?」
部屋の片付けが一通り終わり、あまりにも頭痛がひどいのでリビングにおいてある薬箱の中の頭痛薬を使おうかと廊下に出て、あまりの自然な状態に一瞬、気づかずにそのまま通り過ぎようとしてしまった。
「あれ?床・・・それと天井・・・。あれ?あれ!?」
「穴が・・・ない。っていうか、破片もない。どうなってんの?」
紫雨君の術式で見たものが真実であるならば、轟雷魔法封入の術弾で確かに吹き飛ばしたはずなのだが・・・。
穴どころかほこり一つ落ちてないって・・・どうなってるんだ?
二人そろって首を傾げながら階段を下りてリビングに入ると、紫雨君が母さんに何かの説明をしているところだった。
「・・・建物の構造そのものには大きな影響はなかったようなので、そのまま術式で修復しました。破片をかき集めてみたところ、99.9%以上の質量が回収できたので、足りない分はほとんどありません。ついでにモルタル部分のヒビとアルミサッシのパッキン、水回りは全部直しておきました。」
「すごいわね!?弦弥さんからは聞いていたけど、あなた、本当に魔術を魔法のように操るのね!」
母さんが感嘆の声を上げている。
それにしても・・・わずか数分で、術式だけで壊れたものを・・・家サイズのものを元通り修復しただって!?
天井や床には配線だって通ってるし、単一の素材じゃないし、それどころか紫雨君は壊れる前の状態を知っていたわけでもない。
うわ、思わず背筋がゾワッとしたよ。
・・・まるでどこぞの漫画に登場する国家錬金術師並みの術式じゃない。
きっと両手をパンって合わせて術式を使うんだ。
・・・琴音も母さんも、二人とも魔法使いであって魔術師ではないからなぁ。紫雨君の異常さに気付いているのは私だけか?
「ああ、部屋の片付けは終わった?千弦さん、そろそろ頭、痛くなってきたんじゃない?・・・うん、熱も出てきたようだね。」
紫雨君は私の顔をのぞき込み、額に手を当てる。
「どうしてそれを?まさか、まだ続いてるの?」
「・・・うん。洗脳魔法は繰り返し適用されてるね。このまま放っておくと、また元の木阿弥だ。琴音さん、もう一度解呪してあげて。そしたら一時的に頭痛が治まるから。」
仄香・・・魔女が使う洗脳魔法ってそれほどやばい魔法なのか。
頭痛は治まるどころか、どんどんひどくなっていく。
「姉さん、こっち向いて。解呪。・・・紫雨君、これ、根本的に治す方法はないの?」
琴音のおかげで頭痛はすうっと消えたが、この短時間で頭痛が繰り返されるんじゃたまったもんじゃない。
それに、また暴走するのはもっと嫌だ。
「う~ん・・・抗魔力があと少し高ければ大丈夫だと思うんだけど・・・抗魔力を上げる魔法や魔術なんて存在しないからなぁ。・・・どうしたものか。結界でも張るかな。でもあれは魔法だし、僕の専門じゃないんだよなぁ。」
紫雨君ほどの魔術師でもダメなのか。
ん?
・・・え。ちょっと待って。
抗魔力を、上げればいいって・・・。
あたしの部屋の、段ボール箱の上にあった・・・。
「ちょっと待ってて!たしか、術式管理用のパソコンに・・・。」
階段を駆け上がり、片付いたばかりの部屋に飛び込む。
・・・作業台の上に置かれたノートパソコンには、みんなでアスピドケロンの南海リゾートに遊びに行く前に作った、ブレスレット型の抗魔力増幅機構が・・・同期状態のままで挿さっていた。
◇ ◇ ◇
パソコンを稼働状態にしたままリビングに戻り、抗魔力増幅機構について簡単に説明する。
母さんは・・・私たちの仲直りを記念してご馳走を作るって言って買い物に行ってしまった。
「千弦さん・・・君、本当に天才なんだね。これは・・・僕には作れないよ。」
「大げさな。構造は自動詠唱機構の焼き直しだし、琴音が寝てるときにその抗魔力を対象に、観察・仮説・実験・論証を繰り返しただけよ。・・・それとちょっとの閃きもあったかもしれないけど。」
「ごめん。姉さんが何言ってるのかさっぱりわからない。」
う~ん、どこから説明したものか。
「魔法とか魔術ってさ、魔力を使ってアチラ側の存在や理屈をこの世界に引き摺り出して現象を起こすじゃん?その時、術者は自分の魂と肉体を介して詠唱や術式に『願望』を乗せるんだけど、それはOK?」
「うん。まあ、魔法使いなら最初に習うから・・・魂って人格情報や記憶情報といったモノが霊的基質によって保持されてる状態を指すって仄香が言ってたっけ。」
「そうそう。じゃあ、逆に抗魔力ってさ、魔力とどこが違うの?」
「それは・・・どこが違うんだろ?」
「少なくとも、僕の時代には抗魔力の存在は知られてたけど、そこまで深く考える人間はいなかったかな。」
「そこでね、私は仮説を立てたのよ。抗魔力って、『そんなこと、理屈的にあり得ない』っていう理性に基づいた『魔力』なんじゃないかなって。」
琴音は魔法を使うことにかけては私をはるかに上回る天才だ。
詠唱を端折ったり、即興で作ったりするくせに、今のところ大きな事故は起こしていない。
普通ならあり得ない。
だが、もし『魔力』が願望に、『抗魔力』が理性に基づいて動いているチカラだったら?
何も考えていなそうに見える琴音が、誰よりも理性で魔法を使っていたとしたら?
なるほど、琴音が魔法を正しく制御できるのもわかるような気がする。
琴音の才能に少し嫉妬しながらも、説明を続ける。
「魔力と抗魔力が同じものなら、なんで魔力結晶や人工魔力結晶、魔石や人造魔石はあるのに、抗魔力結晶みたいなものがないのか、考えたことってある?」
「そういえば・・・ないわね。」
「うん。ないな。」
「実は似たようなものはあったのよ。琴音は前に仄香・・・三好美代が『破魔の角灯』に苦戦したことっておぼえてる?ええと、紫雨君の心臓・・・どう説明したものか・・・。」
「言いたいことは分かった。僕の心臓を魔力結晶化したのに、なぜ魔法を打ち消す方向に力が働いたか、ってことだね。あの時結晶化された心臓が破魔の角灯というものになったのは母さんから聞いたよ。・・・ついでに遥香さんの入ってる杖になってることもね。」
うわ。
それを知ってるってことは、生きたまま心臓を抉り出されるだけでなく、それを魔力結晶にするところまで見ていたってことか。
すごい災難だな。
「そう。つまりは何らかの方法・・・おそらくは人工魔力結晶に理性を持ったモノ・・・それも、理性を保ったままの誰かの魂、あるいはそれに類するモノを足して作ったのが『破魔の角灯ってわけ。」
「・・・反吐が出るわね。でもその作り方なら、もしかして二つ目があるかもしれない、ってこと?」
「さあ?とにかく私はそこまで仮説を立てた上で、『理性』を記録できる素材を片っ端から試したわけ。・・・それがまさか、ヒスイだとは思わなかったけどね。」
幻灯術式で見た光景の中で、ヒスイは魔力を遮断したり、吸い上げたり、あるいはミサイルの弾頭としてジェーン・ドゥに撃ち込まれたりしていた。
それに、破魔の角灯の素材にも使われていたっけ。
精神世界に直接つながる石といわれているのに、召喚魔法で喚びだされたクー・フーリンさんに全く効果がなかったことに違和感を感じていたから、もしかしたらと思ったんだよね。
「んで、ヒスイと人造魔石、マイコン、その他術式を組み合わせたら、・・・抗魔力増幅機構ができたってわけ。どう?それほど大した話じゃなかったでしょ?魔女の洗脳魔法まで跳ね返せるとは思ってなかったけどさ。」
「すごいな・・・一つの現象を解き明かしたうえで応用までするとは・・・。」
「姉さん、自分が天才だとわかってないでしょ。」
手放しで称賛する二人に、少し天狗になりそうになる。
いかんいかん、社交辞令を真に受けてどうする。
すでに破魔の角灯が存在している時点で、私の抗魔力増幅機構は二番煎じなのよ。
それに、これを装備すると自動詠唱機構が使えなくなるのよね。
・・・戦力が低下するようなものができたと知ったときは、本気でスランプだと思ったわよ。
「ま、そんなわけだから、抗魔力増幅機構はもう身から離せないかもね。・・・あれ?このパソコン・・・そういえばこのフォルダ・・・?」
頭痛がすっかり治まったおかげで軽くなった頭をかきながらパソコンのフォルダを開くと、そこには花が咲くような笑顔で笑う遥香と、必ず何かの食べ物を持っているエル、そして慈しむような目を向けるジェーン・ドゥの写真が残っていた。
そうか。抗魔力増幅機構が同期していたから、そしてネットワークに繋がなかったから干渉術式でハッキングされなかったんだ。
「姉さん。仄香に会いに行こう。行って、理由を聞かなくちゃ。」
「うん。そうだね。じゃあ・・・すぐに支度をしよう。」
会って、確かめたい。
なぜ、私たちの前から姿を消したのか。
なぜ、自分や遥香の存在をすべての人間の記憶から消したのか。
・・・そして、遥香を日常に取り戻すために。
◇ ◇ ◇
4月18日(金)放課後
南雲 琴音
あの後、姉さんは段階的に洗脳中のことを思い出していった。
・・・何かのきっかけがあって思い出すのではなく、どうやら突然、何の脈絡もなく思い出すようで、時々身をねじりながら悶えていたよ。
仄香の行き先については、未だにわかっていない。
長距離跳躍魔法で行けるところに行き、遥香の入っている杖に失せモノ探しの魔法を使うということを繰り返したが、とうとう見つからなかった。
玉山の隠れ家は長距離跳躍魔法の行き先が4000メートル級の山の中腹ということもあって、入り口を探すのに一苦労した。
紫雨君の助けでダンジョン部分は踏破できたけど、最奥の扉だけは何としても破壊できなかったよ。
さすがに転移系の術式は使えないから、近くの岩にラッカースプレーで書き置きだけして帰ってきたけど・・・。
「よし!抗魔力増幅機構の調整終わり!これで咲間さんも毎朝解呪する必要もなくなったね。」
「ああ、あたしとしたことが遥香を忘れるなんて信じられないよ。それに、毎晩の頭痛のせいで学業がおろそかになっちゃってさ。この前の小テストは久しぶりにヤバかったよ。」
遥香がいなくなったことで咲間さんは名実ともに学年1位だ。
おそらくは次の中間テストでも非常識な点数を取るのだろう。
・・・まあ、仄香に比べれば「常識的な非常識」の範囲に収まるんだろうけど。
「いや~。まさかこの抗魔力増幅機構が役に立つとは思わなかったなぁ。これを作ったときは完全にスランプだと思ってたよ。」
「魔術の歴史に名前が残りそうな発明をしておいて何を言ってるのかしらね。仄香といい、紫雨君といい、みんな姉さんのことを褒めっぱなしなのよ?」
「ん~?実感ないなぁ。おっと、抗魔力増幅機構の名前を考えなきゃ。何にしようかな・・・。Anti-Interference Amplification System(アンチ・インターフィアランス・アンプリフィケーション・システム)・・・長いな。もうA.I.A.S.(アイアス)でいいか。」
聞いてないし。
この数日の間、帰宅するなり姉さんは抗魔力増幅機構を作りっぱなしだ。
今のところ私たち以外では、お母さん、お父さん、宗一郎伯父さん、健治郎叔父さんに渡してある。
宗一郎伯父さんはエルのことを忘れていたことがかなりショックだったみたいで、抗魔力増幅機構の製作にかかる費用を全部持ってくれるんだってさ。
おかげでパソコンから3Dプリンター、レーザー刻印機まで新調できたって、姉さんが大騒ぎしてた。
ちなみに理君については、姉さんと二人で一緒に謝罪して事なきを得たよ。
さすがに魔法だの魔術だの言ったら、ひどい言い訳にしか聞こえないからね。
「それにしても、やっぱり放課後や土日だけしか調べられないのはツライわね。何かいい方法ないかしら。・・・ねえ、姉さん。その抗魔力増幅機構ってあと何個作れるの?」
「もしかしてガドガン先生にも渡すつもり?・・・やだなぁ。魔法協会の元協会長だよ?それに、忘れてるかもしれないけど、戦闘狂だよ?絶対悪用されるにきまってる。」
むぅ。姉さんの言うことにも一理ある。
それに、ガドガン先生のことだから仄香を探してリベンジマッチ、なんてことにもなりかねない。
うん。アレクのことが気になるけど、ガドガン先生に渡すのはやめておこう。
それに、魔法協会で姉さんの発明品の悪用でもされたらロクなことにならない。
「はぁ~・・・。仄香、どこにいるんだろね。」
もうすぐゴールデンウィークだ。
それまでに仄香が帰ってこなければ、休みをフルに使って探しに行くしかないだろうな。
ああ、早く遥香やエル、仄香に会いたいよ。