183 最後のバカンス
仄香
3月21日(金)
今日も朝早くから遥香は琴音や千弦たちとともに白い砂浜で元気に遊んでいた。
昨日はしばらく泣いていたが、私が部屋に戻るころには涙は止まっていたようだ。
一分一秒も無駄にできないため、急いで身体の制御を預かって杖に戻したが、彼女はその精神状態がかなり悪かったようで杖の中で眠ることはしなかった。
そういえば、明け方、まだ薄暗い時間に遥香に頼まれて自宅までカメラを取りに行った。
香織が病床にあった遥香のために願をかけて用意した、少し古い型のデジカメだ。
残念ながら防水仕様ではなかったため、防水術式を刻んで海水に濡れてもいいようにしておいた。
同時に、琴音が遥香の誕生日に贈ったアルバムと、遥香のノートパソコン、インクジェットプリンターをマヨヒガの個室に用意した。
昼食の後、遥香は自宅にあった幼少時からの自分の写真に加え、高校で撮影されたもの、旅行中に撮影したもの、家の近くでふとした瞬間に撮影したものなど、ありとあらゆる写真をコピーする。
「・・・これは私が生まれた時、それから七五三の時、あ、こっちは幼稚園の卒園式の時ね。琴音ちゃんのアルバムってすごいねぇ。・・・全部の瞬間が昨日のことのように思い出せるよ。」
「ええ。まさか、そのアルバムがこんな形で役に立つとは思いませんでした。」
かけがえのない宝物を扱うように、オリジナルを一枚一枚、アルバムに収めていく。
自宅にはコピーを残していくつもりらしい。
「・・・うん。8割くらいはアルバムが埋まったかな。あとは・・・今日からお別れの瞬間までいっぱい写真に収めよう。」
「カメラマンは、私が引き受けましょう。」
「うん。仄香さん。よろしくね。」
遥香はアルバムを旅行カバンの一番上にしまい、再び水着に着替えて部屋を出る。
遥香から受け取ったデジカメは、香織が作った刺繍入りの巾着袋に収められていた。
刺繍されている花はハーデンベルギア・・・花言葉は「あなたに出会えてよかった」そして、「幸せが舞い込む」だ。
あと、およそ一週間。
高校3年の新学期前に、私はそのすべてを奪う。
◇ ◇ ◇
午後は予め用意しておいたモーターボートでパラセイリングを楽しむことにした。
公海上であり、絶海の孤島に等しいこの海域では、他の艦船の航路とも大幅にズレているおかげか、衝突事故の可能性は考慮する必要がない。
・・・当然、座礁もだ。
遥香は琴音や千弦、咲間さんと一緒に歓声を上げて浮遊感を楽しんでいた。
・・・身体の制御時間を稼ぐために、時々挟む休憩時間はすべて私が管理する。
グローリエルと同席するときは千弦がくれたペンダントをオフにする必要があることを知っているからか、彼女は「暑いから」とだけ言って宗一郎殿を連れてクーラーの効いた屋内プールで楽しんでいることが多かった。
それでも1日当たりの時間は足りない。
だが、カメラのモニターに写る遥香は、精一杯楽しんでいた。
◇ ◇ ◇
2日目の夕食は浜辺でバーベキューを楽しむことにした。
スラタラサーヤナの波長は、グローリエルにとってはかなり辛いだろうに顔色も変えずに肉を焼いている。
「グローリエル。スラタラサーヤナの香が辛かったら休んでもいいのよ?あとは私が焼くから・・・。」
「ん~。マスターがこれからすることは知ってる。マスターにとっても大事な時間。だから、私のことは気にしない。」
すべて見透かされていた。
・・・これからやろうとしていることは、グローリエルにも別れを強制することになるのだが、彼女は黙って前を向いていた。
「そう・・・ありがとう。」
私はただそう言い、焼けた肉や野菜を受け取って、ビーチチェアに戻ることにした。
◇ ◇ ◇
3月22日(土)
3日目の朝が明けた。
今日は朝から女性陣だけでシュノーケリングを楽しむことにした。
とはいえ、アスピドケロンの背中の甲羅から出てしまえば深度数千メートルの大海原だから、それほど遠洋に出ることはできないのだが。
「ふっふっふ。こんなこともあろうかと、軍用の潜水装備を持ってきて正解だったわ!」
「・・・じゃあ、水中呼吸術式と耐水圧術式、千弦さんだけ無しでいいですね。」
「えっ?水中呼吸・・・耐水圧術式?」
ラバー製の大仰な潜水装備を着た千弦が、目を真ん丸にして固まっている。
そりゃそうだろう。
何の訓練も受けていない子供に、術式なしでいきなり潜水なんてさせないよ。
それに、水中呼吸術式がなければ水中で魔法の詠唱ができないだろう?
「あはは!姉さんは健治郎叔父さんのところで潜水の訓練を受けてるからね。術式なしで行けるんじゃない?」
「コトねん・・・。ふつうは潜水装備が必要だと思うよ。まあ、あたしも仄香さんの術式は使ってみたいけどさ。」
慌てて潜水装備を脱ぐ千弦をみんなで笑いながら全員に術式を付与し、アスピドケロンの左前ヒレのあたりで潜水を楽しむ。
「うわ~!きれい!このサンゴ、本物!?」
「あ、あっちにいるのってグリーンダムセルフィッシュじゃない?ハワイアンバイカラークロミスもいる!」
「琴音・・・なんでそんなに魚に詳しいのよ?私には区別がつかないわね。」
どうやらアスピドケロンが気を利かしてくれたようで、ヒレの上はきれいなサンゴや海草、色とりどりの熱帯魚が泳ぐ楽園になっていた。
あとで彼に礼を言わなくては。
ちなみに、男性陣は内陸に作ったアスレチックに興味があったようで、迷彩服をきて、エアガンをもって走って行ってしまった。
午後は再び全員で集まり、ビーチでゆっくり昔ながらのボール遊びやスイカ割りにチャレンジする。
驚いたことに遥香は杖の中にいるときに使っていた透視呪をいつの間にか身に着けていて、迷うことなくスイカに向かって行き、勢いよくバットを振り下ろしていた。
・・・力が足りなくて割れなかったけど。
ビーチの向こうではオリビアを含めた眷属たちがビーチバレーを楽しんでいる。
オリビアのやつ、吉備津彦相手にビーチバレーで勝ちやがった。
身体強化魔法を使っていいとは言ったものの、多分あいつ、大多鬼丸相手でも素手で勝てるんじゃないか?
それと、ビーチにあけた穴は直しておけよ。破裂したボールまでは弁償しろとは言わないからさ。
そしてゆっくりと水平線に日が沈んでいき、空に星が輝き始める。
「ふ~。遊んだ遊んだ。いよいよ明日はこの島・・・じゃなかった。アスピドケロンさんともお別れだね。あ・・・まだお礼言ってないや。」
「千弦。アスピドケロンさんって?」
「あ、理君。アスピドケロンさんってのは、この島の・・・管理人さんみたいな人かな。」
理殿には魔法や魔術の話をしていないが、バレてしまってもそれほど気にしなくてもいいのでは?
そんな二人を見て、遥香が私にそっと耳打ちする。
「ねえ、仄香さん。どれくらい写真取れた?アルバム、埋まりそう?」
「いえ、まだ遙一郎さんと香織さん、叶多さんの分が残ってます。帰ってからも写真を撮りましょう。」
「・・・うん。仄香さん、ありがとね。」
遥香は嬉しそうに、にこっと微笑む。
ちょうどその時、遠くにボートの影が見えると同時に、空に大輪の花火が打ちあがる。
旅行のトリを飾る花火が、遥香の横顔を照らし出す。
照らされた横顔は楽しそうに見えたが、陰になった側の目からは、光るものが一滴、落ちるのが見えた。
◇ ◇ ◇
南雲 千弦
あっという間の3日間が終わってしまった。
人数が多いこともあり、宗一郎伯父さんもいたせいもあって理君とはイチャイチャできなかったけど、とても楽しい旅行だった。
・・・何より、黒川さんのアルバイトで貯めたお金を全く使わずに済んだのが最高だったよ。
最後の夜に理君と花火を見た後、二人でホテルに帰る途中、道から少し離れたガゼボを見つける。
「千弦。すごく楽しい旅行だった。二人っきりになれないのは残念だったけど。」
「私もすごく楽しかった。ねえ・・・ちょっとそこ、寄ってかない?」
彼の手を取り、ガゼボに誘い、ベンチに並んで腰を掛ける。
「それにしても、千弦の伯父さんってすごい大金持ちなんだね。それと、九重宗一郎さんって、九重総理の息子さんと同じ名前だよね。ってことはもしかして・・・?」
「うん。ウチの母方のお祖父さんが九重和彦・・・現職の総理大臣よ。どう?腰が引けちゃった?」
「う~ん。それは・・・ないな。」
「あら?どうして?」
「ウチのクラス、近衛とか西園寺っているだろ?あれ、旧華族だぜ?それにあいつら、中学の修学旅行の時、石舞台古墳に藁やら落ち葉を放り込んで火をつけてたんだぜ?『石焼き芋だ!』とか叫んでさ。」
ああ、近衛 明彦君と西園寺 公子さんか。
二人が旧華族、かつ公爵家だというのは知っていたけど・・・。
「え゛っ!?あれ、近衛君と西園寺さんがやったの?それに、石焼き芋って・・・それで、ちゃんと焼けたの?」
「それが、生焼けだったらしい。食えたもんじゃないって騒いでたよ。幸い警察がかけつける前に逃げおおせたみたいだけど、全国ニュースで大騒ぎになったんだよな。」
知らなかった。
とはいえ、確かにあの二人ならやりそうだ。
旧華族の御曹司とご令嬢が史跡に放火って・・・うん、私は何も聞いてない。
そんなことより、理君が家柄とか関係なく私のことを好きでいてくれるのがうれしい。
でも・・・。
「ねえ、もし私が・・・人殺しだったり、魔法使いだったり・・・化け物だったりしたら、理君は好きでいてくれる?」
少し夜風が冷えてきたのか、ぶるっと身体か震える。
「少し冷えてきたか?ほら。これを羽織って。そうだな・・・。人殺しの理由にもよるけど、それ自体では気にしないかな。俺の従兄弟、軍人なんだけどさ。戦場で何人か殺してるんだよ。でもいい兄貴でさ。だから、その行為自体で人が変わらないのは知ってる。・・・あ、そういうことを聞きたいんじゃなかったのか?」
「うん。でも聞きたいことは聞けたかな。」
理君が背中にかけてくれたウインドブレーカーから、ふわりとサンオイルのにおいがする。
あ、そういえば初日に塗ってもらったオイルの匂いだ。
2日目と3日目は、琴音とお互いで塗りあったんだっけ。
・・・どういうわけか、どちらかが塗り忘れると、塗った方まで日焼けするんだよな。
海風が吹き、ガゼボの照明が、明滅する。
反射的に彼の手を探し、つかむ。
自分の息が、荒い。
心臓の音が、大きい。
ふと横を見ると、理君の顔が、すごく近くに感じる。
「千弦。・・・いいか?」
「うん。いいよ。」
ゆっくりと顔が近づき、唇が重なる。
初めてのキスは、サンオイルの匂いと、さっき理君が飲んでいたコーラの味、そしてよくわからないけど、柔らかくて暖かい感触だった。
◇ ◇ ◇
ホテルに戻り、自分の部屋に戻った私はパソコンを起動する。
火照る身体を誤魔化すように、画面に向かってキーボードを叩き、マウスを動かす。
「にゅふふふ・・・。うひひひひ。」
だめだ。笑いが止まらない。
理君とキスしちゃった。
んーーーー!
キスだって!うひゃー!
「姉さん、キモいよ。それ、新型の自動詠唱機構?そんなに面白いの?」
「う~ん?別に新型じゃないよ~?この間、仄香に頼まれてたんだけど、必要な音声ファイルがやっと届いたのよ。急ぎじゃないって言ってたんだけど、ノってる時に作っちゃおうかと思ってさ。」
今作っているのは、改良型の全自動詠唱機構だ。
自分のために作ったものと違い、一切のセイフティやリミッターが搭載されておらず、ひたすら堅牢性と安定性を追求したモデルで、出力に制限がない代わりに装着している者の魔力を湯水のように無駄遣いするシロモノだ。
むしろコレは呪いの道具だ。
仄香でもない限り、起動した瞬間にすべての魔力が枯渇して昏倒するようなシロモノだ。
だが・・・。
はっきり言って性能は折り紙付きだ。
圧縮・記録された詠唱は実に512GB。
音声データは複数の国の言語で50億単語を超える。
それを、装着者の意思に従い、全自動で詠唱する。
その速度は、実に秒間100万単語だ。
さらに、インナーフレームはタングステンカーバイド合金を使っており、並大抵の衝撃では壊れない上に、16枚の防御障壁、8枚の耐熱障壁、4枚の電磁障壁を常時展開しているという、キチガイ染みた頑丈さを誇る。
「よし。すべての詠唱と術式を収納。ふっふっふ。ついでに私のパソコンにもバックアップ保存完了っと。」
さあ、完成したぞ。
これで仄香はノーリスクで無詠唱魔法を使える。
これならバイオレットクラスが襲ってきても、全く問題ないね。
◇ ◇ ◇
南雲 琴音
楽しかった3日目の夜が終わり、いよいよ明日は帰路につく。
仄香曰く、マヨヒガの中にあるものは、なんでも1つ持って帰っていいらしいんだけど・・・普通にお土産を販売してるコーナーがあるよね?
1つしか買えないってこと?それとも、別枠?
まあいいや。
どこぞの国の旅行者じゃあるまいし、ホテルの備品なんて勝手に持っていけるかっての。
ビュッフェ形式の夕食を終え、ロビーのプレイコーナーで遊んだ後、部屋に戻ると姉さんが気持ちの悪い声で笑いながらノートパソコンに向かっていた。
・・・この人、今回の旅行で相当楽しんでいたのに、部屋に戻るなり趣味の術式とか・・・。
すごいバイタリティだな!?
それにしても・・・遥香のことがどうも気になって仕方がない。
普段とほとんど変わらない笑顔、言葉遣い、そして笑い声。
でも、初日の夜以降、妙な違和感が広がっていった。
それに、普段より撮影している写真の枚数が多いのが気になる。
別に新しいカメラを買ったから使ってみたいというわけでもないよね?
あのデジタルカメラって、結構古い型式に見えるけど・・・バッテリーの持ちもよくなかったし。
何か、身体に異常でもあったんだろうか。
それとも、霊体?
仄香が憑いているのに?
だめだ、わからない。
「ねえ、姉さん。仄香から遥香のこと、何か聞いてる?」
「え~?特に聞いてないけどなぁ・・・。どっちかっていうと、オリビアさんが遥香のことを言っていたような気が・・・うん?ルイーズさんだっけ?」
「なんて言ってたの?」
「ええとね・・・。『リアルでメルティちゃんがいるとは思わなかった!』だっけ?それと、『ミスティちゃんの作者は魔女の伝説をもとに描いたのね!もしかして作者って棄教者なの!?』だっけ?」
「え~。そんなのなんの参考にもならないじゃない。それにそのメルティ?ミスティ?何の話よ?」
「あー。アニメだよ。『武装魔法少女』っていう深夜アニメ。原作は二五郎だったかな?そんなことより、アレクさんとの仲は進展したの?」
「あ・・・うん。今度ガドガン先生と2人で九重の爺様のところに挨拶に来ることになったよ。」
「おぉ~!じゃあ、ついに九重家の跡継ぎは琴音ってことで決まったんだね。いやあ~。肩の荷が下りたよ。私は将来何になろうかな。あ、理君と一緒に世界中を回るのもいいかな。」
こ、この人は・・・。相手の都合くらい確かめなさいよ。
まあ、いいか。
小学生の時から姉さんは私を守り続けてくれた。
そろそろ、私も一人で生きていく段階だということだろう。
「姉さん。たまには手紙くらいよこしなさいよ。」
「え?やだなあ。メールかLINEでいいんじゃない?」
2人で顔を見合わせて、ゲラゲラと笑う。
さあ、この旅行が終わればすぐに新学期だ。
最後の高校生活を思いっきり楽しもう。
遥香や仄香も一緒だ。
きっと最高の高校生活になるに違いない。
◇ ◇ ◇
久神 遥香
3月23日(日)
いよいよ、旅行最終日がやってきた。
今日はお世話になった人にお礼を言ってから飛行機に乗り、東京に帰るだけだ。
・・・仄香さんは私が杖の中で悶々としている間に、着々と準備を進めていた。
千弦ちゃんに頼んでおいた新兵器を受け取り、作動チェックを行い、東京に帰った後使う大掛かりな術式の構築を行い、そして今後行動を共にする予定のオリビアさんと綿密な打ち合わせを行っていた。
エルちゃんは、昨日は宗一郎さんの部屋に行ったきり、朝まで帰ってこなかった。
いつもお酒を持っていくのに、なぜか枕を持って行ったよ。
朝になると、妙に疲れた顔の宗一郎さんが腰をさすっていたけど、エルちゃんは口を真一文字に結んだままいつも通り料理をしていた。
朝食で宗一郎さんがエルちゃんの料理を美味しいと褒めたら、両手で顔を覆ったまま厨房に引っ込んじゃった。
朝食も終わり、荷物をまとめて飛行機に乗せるカーゴに収めた後、アレクさんと理君に積み込みを任せて、他のみんなでそろって島を回る。
「おお、マスター。今日で帰るのかの?これで背中が軽くなるわい。まあ、ビーチはなくせないから潜れんことに変わりはないがの。」
白いひげを生やしたお爺さんがジェーン・ドゥの身体に入った仄香さんと話している。
彼はこの島・・・アスピドケロンさんの人型なんだそうだ。
慌ててみんなでお礼を言ったよ。
「ほほほ。私も珍しい家の構造を知ることができてうれしいです。マスター。ご友人の皆様。今後も是非ごひいきに。ホテル・マヨヒガは皆様をお待ちしております。」
着物を着た大和撫子を絵にかいたような女性が、上品な所作でお辞儀する。
彼女はマヨヒガの人型だそうだ。
「ホテル・マヨヒガって・・・商売でも始めるつもりなのかしら?競業他社が軒並みつぶれるからやめなさいよ。」
仄香さんの言葉にみんな頷いている。
魔力さえあればいくらでも改装できて、人件費のすべてを無視できるって・・・ほとんど反則だよね。
「お世話になりました。またいつか伺わせていただきます。何か気の利いたお土産でも持ってね。」
「あらあら。それじゃ、建築関係の本なんてあったら是非お願いしたいですね。」
宗一郎さんとマヨヒガさんは相性がよさそうだ。
でも・・・それは無理・・・かな。
私が去年の年末に倒れた時にお世話になったという、蛟さんやスキュラさんにも挨拶を終え、チャーター機に乗ってアスピドケロンさんの背中を後にする。
最高の旅行だった。
最高の思い出を手に入れた。
さあ、最後はパパとママ、そしてお祖母ちゃんに会いに行こう。
・・・ああ。出来たら弟に会いたかったな。
千弦ちゃんみたいなお姉さんになりたかったな。
ふいに鎌首をもたげた未練が、心の中で囁くのを抑えながら目を閉じ、身体の制御を仄香さんに預けた。