181 天才魔術師と近代魔術の祖
3月17日 午後
仄香
今日は朝からジェーン・ドゥの身体に入り、紫雨と二人で宗一郎殿の会社を訪問した。
紫雨の話によれば、佐世保市内の孤児院で保護されて以降はずっと世話になり続けていたというから少し慌ててしまった。
宗一郎殿は紫雨と私の関係に驚きながらも、快く礼を受け入れてくれた。
それにしても、驚いたことに紫雨はナーシャとも知り合いだという。
・・・6000年以上探し続けて見つからなかったというのに、まるで急に運命の歯車が回り始めたかのようだ。
「母さん、その身体が予備の身体?遥香さんの身体よりかなり高性能に見えるけど・・・。」
「ええ。高性能なのはかなり改造されているからね。でも、この前少し無理をさせてしまったから、しばらくは全力を出せないんだけどね。」
そういえば、紫雨には古代魔法帝国時代以降、新しい血族が生まれていない。
早い段階でだれかとの間に子供を作ってもらうか、たとえ血が薄くても子孫を探してもらわないとせっかく親子が出会ったのに、二人の生活に時間制限があるようなものだ。
「ねえ、母さん。今日はこの後どこに向かうんだっけ?西東京だっけ?」
「私の子孫で、今通っている学校の友人の家よ。双子なんだけど、二人とも優秀な魔法使いと魔術師なの。LINEで今日行くことを伝えたら、遥香さんも来てくれたみたい。家で待ってるって。」
そういえば遥香に身体の制御を任せてから6時間が経過する。
適当なところで休ませないと翌日に差し障るから、あとでリリスを呼んでおこうか。
東伏見の駅で降り、しばらく歩いて南雲家にお邪魔する。
呼び鈴を鳴らそうとしたとき、紫雨はその表札を見て目を丸くしていた。
「どうしたの?」
「・・・いや、世の中広いようで本当に狭いなと思って。」
首をかしげながら呼び鈴を押すと、待ってましたとばかりに扉が開き、千弦と琴音、そして遥香が顔を出す。
「いらっしゃーい!あ、やっぱりジェーン・ドゥの身体なんだね。う~ん。やっぱり魔女って感じがしていいなあ。」
「え~。千弦ちゃん、ひどい。私の身体だと魔女っぽくないの?結構似合ってると思うんだけどな。」
「姉さんはジェーン・ドゥ派なのね。私は遥香派だわ。やっぱり魔女には妖艶さがないと。」
女三人寄れば姦しいとはよく言ったものだ。
玄関先で騒ぐのも迷惑だし、とっとと上がらせてもらおう。
「お、お邪魔します・・・水無月紫雨です。よろしくお願いします。」
「うわ!すごいイケメン!ねえ、君、どこの高校?それとも大学生?」
紫雨の自己紹介を聞くと、なぜか三人とも黄色い声を上げる。
そうだろう、そうだろう。
私の息子はいい男だからな。
「あれ・・・?もしかしてこの娘たち・・・?」
琴音と千弦を見て、紫雨が目を丸くしている。
「紫雨。もしかして知り合いなの?」
「あ、いや、そうじゃないんだけど。もしかしてレギウム・ノクティス・・・ノクト遺跡でものすごい魔法を使ったのって、君?」
「え?あ、いや、あれは魔法っていうか全自動詠唱機構っていうか・・・ってか、何で知ってるの?もしかして魔術で調べたとか?」
「うわ!君があの魔法使いなのか!是非あの魔法の詠唱・・・いや、あの装置の術式を知りたい!代わりに僕が知ってる術式を教えてあげるから!ね、お願い!」
「え?マジ!?よしよし、私の部屋で話しましょ。仄香。ちょっと紫雨君、借りるわよ。」
勝手に盛り上がった挙句、千弦は紫雨を連れて二階に上がっていってしまった。
まあ、ノクス・プルビア一世といえば、近代魔術の祖とも呼ばれる大魔術師だ。
千弦にとってもいい勉強になるだろう。
「・・・ねえ。今、紫雨君、私と姉さんの区別、完全についてたよね?う~ん?奥手すぎて全然手を出してこない理君より、お似合いじゃない?」
琴音が腕を組んでいる。私はそれでも別に構わないんだが・・・。
「え?それはやだなあ。・・・紫雨君って仄香さんが私の身体に入っているとき、私のことを『母さん』って呼ぶんだよ?そしたら私、千弦ちゃんに『義母さん』って呼ばれちゃうの?」
「う゛え゛っ・・・!?それ・・・ただの変態なんじゃ・・・?」
・・・遥香。それは少し考えすぎだ。
それと琴音。
まだ全部話していない私が悪いんだが、そんなに嫌そうな顔をしなくてもいいじゃないか。
「とりあえず、詳しい話をしましょう。・・・それと紫雨は変態じゃありません。」
はあ・・・先が思いやられるよ。
◇ ◇ ◇
琴音に一通りの話を済ませたが、千弦はまだ自分の部屋から出てこない。
リリスが霊体のままで部屋を覗きに行ったが、部屋中メモだらけにして術式談議に興じていたようだ。
こちらはといえば・・・。
「う゛え゛ぇ゛ぇ゛ん・・・。」
「遥香・・・ハンカチじゃもう足りないじゃん。ほら、タオル。」
私の話を聞いて、遥香はさっきから泣きっぱなしだ。
涙もろい娘ではあるんだが・・・よく見れば琴音も泣いてるな?
「・・・以上が私があの子と再会するまでの話です。」
「・・・ごめん、変態だとか言って。私、すごく無神経なことを言った。」
「気にしないでください。・・・さて、湿っぽい話はここまでにして。春休みの旅行は南の海のリゾートへ行こうと思うんですが・・・いかがでしょう?」
「え?・・・ハワイとかグアムとか?」
あ、言葉が足りなかったか。
「赤道直下でアスピドケロンを召喚して、その上にマヨヒガを召喚してリゾートにしようかと思いまして。それぞれの許可も取ってありますし、他の眷属も人型で参加する予定です。」
「それって完全なプライベートビーチじゃん!仄香さん!眷属さんたち以外は誰を呼ぶの!?」
あ、泣いたカラスがもう笑った。
遥香は泣いているより笑っているほうが可愛い。
・・・それに、最近はその身体を使い慣れてきたせいか、まるで自分が泣いているのを見るような感じがして嫌なんだよね。
あ、とりあえず遥香にはそろそろ杖の中に戻ってもらおうか。
そろそろタイムリミットだ。
ジェーン・ドゥの身体はリリスに任せて・・・よし、交代完了。
「今のところ話をしてあるのは、咲間さんとグローリエル、それから紫雨だけですね。他に誰か呼びたい人がいたら、今のうちに言っておいてください。」
・・・うわ、目頭がヒリヒリする。
「あ、もしかして現地までは長距離跳躍魔法で行くの?だったら、アレクを呼びたいんだけど・・・?」
「ええ、構いませんよ。イギリスまでは私が迎えに行きましょう。」
《千弦ちゃんは理君を呼ぶのかな?》
「さあ?姉さんには水着よりも軍用潜水装備が似合いそうなのよね。理君と水着デートとか、想像もつかないわ。」
《あはは!双子で同じ顔なのに面白い!》
日程や必要なモノのリストを作成していくが、千弦が部屋から降りてくる気配がない。
あ、そうだ。私も千弦に大事な用があったんだっけ。
仕方がない。後で覗きに行こうか。
◇ ◇ ◇
南雲 千弦
仄香が連れてきた男の子・・・水無月紫雨君は、とんでもなく優秀な魔術師だった。
もしかしたら師匠よりも優秀かもしれない。
それに、琴音と私の区別が明らかについていたみたいで、なんでわかったのかを聞いたら「そこまで似ていますかね?」と言われてしまった。
思わずクラっと来ちゃったよ。
琴音の気持ちが少しわかったような気がする。
・・・いやいや、私は理君一筋なのよ。
浮気、ダメ、絶対。
「千弦さん。この自動詠唱って概念、本当にびっくりしたよ。確かに詠唱は声帯を震わせて声という音声信号で概念精霊や神格に語り掛けているけど、声帯だって所詮は複雑なだけの楽器だ。要は、紙とペンをプリンターとインクに切り替える時に術者がどう関与するかということと同じなんだね!」
「そうなのよ!その関与の部分は自動詠唱機構に内蔵した極小の魔力コンデンサーに蓄えた魔力を呼び水にして回路に直流電流を走らせると、スピーカーで再生した詠唱にも自分の魔力が乗るの!・・・本人の声じゃないとうまく乗らないから専用設計になっちゃうんだけどね。」
う~ん。楽しい。
いや、理君とシューティングレンジで銃を撃ってるのも楽しいけどさ。
「これは、僕のとっておきの術式をプレゼントしないと申し訳ないかな?ええと、立体造形術式と言って、鉄だろうがガラスだろうが、個体であれば自分の好きな形にできるという術式なんだけど・・・いるかい?」
「え?それって、対象の強度に関係なく?」
「あ~。強度というより、魔力がどれだけ浸透しやすいかで決まるんだけど・・・例えば・・・あ、この釘、もらっていい?」
「あ、うん。」
紫雨君は、ステンレス釘を握って微量の魔力を流し込む。
「たとえば、金属ならほとんど抵抗がない。石やガラスも似たようなもので、単一の構造になっているものは簡単に造形できる。」
手のひらを開くと、そこにはステンレス製の円盤が出来ていた。
円盤・・・いや、硬貨?
誰かの横顔と、ラテン語のような文字、そして何かの植物が打刻されている。
「うわぁ・・・すごい。あ、じゃあプラスチックとか木材は?」
「プラスチックは金属や石、ガラスに比べると少し抵抗があるけど、そこまで難しくはないかな?木材は・・・造形というより切削加工になるね。」
紫雨君は近くに置いてあった蒲鉾の板を手に取り、術式を発動する。
・・・蒲鉾の板は一瞬で小さなスプーンとフォークになり、削り取られた破片が床に落ちていく。
あれ?その立体造形術式もすごいけど、さっきから術式も刻まずにどうやって魔術を起動しているんだ?
「あ、あの、ちょっといい?」
「ん?なんだい?ああ、ごめんよ。使う板だったのかい?」
「いや、そうじゃなくて・・・今、どうやって術式を発動したの?術式を刻んでいるところなんて見えなかったけど?」
たしか、仄香でさえ術式を起動するときには術式束を設定して起動ワードを唱えていたはずだ。
ええと、霊体に直接刻んだ術式回路に魔力を流し込んで制御するんだっけ?
見たところ紫雨君はそれすらしていない。
「ああ・・・僕の術式は皮膚に直接刻んだ文字に魔力を流して意味ある言葉にして制御してるんだよ。君が作った自動詠唱機構に考え方は似てるかもしれないけど、そこまで大したものではないし、複雑すぎる術式は発動できない。ま、子供だましみたいなものだね。」
子供だましって・・・魔術の究極を見ている気分よ!?
「よ、よければそれ、教えてくれないかしら?私にできることなら何でもするからさ。」
「な、なんでもって・・・こんなことぐらいタダで教えてあげるけど・・・じゃあ、立体造形術式を使って教えてあげようか。じゃあ、基本概念から・・・。」
うはぁー!なんでも言ってみるもんだね!
ふっふっふ。
笑いが止まらないよ。
そうだ、師匠にも教えてあげよう。
◇ ◇ ◇
時間も忘れて紫雨君の話を聞いて、実際にそれをやってみてその応用の広さに驚きながらも、試していく。
うひゃ~。
今までいちいちメモ用紙や付箋紙に鉛筆で書いてたのがバカみたい。
これ、ほとんど魔法と同じレベルで魔術が発動するじゃない!?
・・・まあ、発動するときに魔法陣みたいなエフェクトが出るのが少し恥ずかしいかもしれないけど。
「姉さ~ん。晩御飯だよ~。いつまで話してるのよ~!」
階下から琴音の声が聞こえる。
慌てて時計を見ると、すでに6時半を超えていた。
「あ、紫雨君、ごめん。熱中してすごい時間になっちゃった。晩御飯、食べてくよね?」
「ああ。お邪魔でなければ。それにしても・・・すごいな。術式を科学と融合するなんて。このパソコンで術式を制御できるなんて思わなかったよ。君、本当に天才なんだね?」
う~ん。天才ってのは私じゃなくて琴音のほうなんだけどな?
だってアイツ、術式の勉強とか魔力の制御とかほとんど練習せずにこなしてるし・・・
それに、勉強時間だって私よりずっと短いのに期末テストで2点差で追いついてくるし。
だけど、褒められて悪い気はしない。
「紫雨君こそ魔術の天才ね。ほとんどがオリジナル術式じゃん?私なんて先人が残したものを解きながら使ってるだけだしね。」
「いや、僕の時代の前には魔術そのものがなかったから・・・あ、そろそろ下に降りようか。琴音さんが怒りそうだよ。」
魔術そのものがない?
紫雨君って、東側諸国の出身かしら?
まあいいわ。
晩御飯が終わったらもうちょっと教えてもらおう。
◇ ◇ ◇
ダイニングに行くと、珍しく早い時間に大学から帰ってきた父さんが食卓に座っていた。
代わりにジェーン・ドゥの姿が見えない。
遥香の横に例の杖があり、アホ毛が寝ているところを見ると、仄香と交代したんだろうか?
「あれ?父さん早かったね。」
「ああ、今日は早くに仕事が終わってな。それに、明日から沖縄の海底遺跡調査だ。美琴もつれていくからお前たちは4月3日まで家を頼む。・・・お?誰かと思ったら水無月君じゃないか。久神さんが一緒ということは・・・宗一郎君の紹介かな?」
「ええ。突然押しかけて申し訳ありません。お邪魔してます。」
紫雨君と父さんが挨拶しているところを見ると、やっぱり父さんのところに来たアルバイトって彼の事だったのか。
「あれ?お父さん、紫雨君と知り合いだったの?」
琴音が目を丸くして驚いている。
・・・やっぱり父さんの話、聞いてなかったんだね。
「ああ。以前話したろ?古ラテン語だけじゃなくてオスク語やウンブリヤ語、エルトリア語まで話せるんだよ。それだけじゃない。魔術を魔法と同じレベルで運用する魔術師なんて初めてさ。」
さすが父さん。
よくわかってらっしゃる。
「そういえば、沖縄には水無月さんも一緒に調査に行くのよね?」
母さんが6人分の味噌汁を食卓に並べながら、父さんに確認している。
「ああ。まずは仕事に慣れてもらおうかなと思って。紫雨君はアルバイトという扱いだけど、ちゃんとホテルも予約してあるから安心してほしい。」
・・・ん?仄香が珍しい表情をしている。
残念そうだな?
「どしたの?沖縄に行きたかったの?」
「あ、いえ、てっきり紫雨は私たちと一緒だと思っていたので・・・そ、そうですよね、お仕事なら仕方がないですよね。」
う~ん?なんかこの二人、怪しいな?
まあいいや。
ご飯が終わったら仄香からも何かお願いがあったみたいだし、今夜は少し忙しくなりそうだね。
◇ ◇ ◇
3月19日(水)
東京都足立区
オリビア・ステラ(フォンティーヌ)
教会を抜けてから・・・いや、連絡を絶ってから1か月ちょっとが経過した。
そろそろ追手がかかるかと思っていたが、教会もなかなか人手不足のようだ。
・・・私もこの1か月は目が回るような忙しさだった。
ルイーズの足跡を探して教会の施設を何か所も巡り、情報をかき集めた。
そしてついにノルウェー・・・リレハンメルにあったバシリウスの研究所に移送途中だった彼女を、教会から何とか強奪することに成功したのだ。
・・・あとちょっとでルイーズは教会の生体兵器に改造されるところだった。
教会の東京支部に忍び込んで手に入れた書類を片手に、ルイーズと二人で目の前にある一軒家の表札を確認する。
「ねえ、オリビア。この家に住んでいる娘が知り合いなの?」
「・・・そうなのよ。そうなんだけど・・・ちょっと厄介なことになってしまってね。」
久神遥香・・・まさか、魔女の子孫だったとは。
それに、ミスティちゃん・・・じゃなかった、バイオレットちゃんが魔女その人だとは思いもしなかった。
・・・教会の十二使徒も、下位6名の使徒には魔女の詳細が知らされていないからな。
まあ、「魔女ジェーン・ドゥ」の二つ名である「光陰」は左右の眼の色の違いということは有名だったから気づかない私のほうが悪いんだが。
・・・教会を抜けた私としては、魔女に敵対する気はサラサラない。
それに、教会が作った術式に関連する装備はすべて置いてきてしまった。
命の対貨なしで魔女に相対するなど、正気の沙汰ではない。
ルイーズに目配せした後、玄関のドアチャイムのボタンを押す。
数秒してから、「はぁ~い」という間延びした返事とともに、30代半ばくらいの女性が玄関から顔を出した。
「はじめまして、オリビアと申します。遥香さんとは、冬のアニメイベントで知り合った者でして。すぐ近くまで来たものですから、お土産をお渡ししようと思って立ち寄らせていただいたんですが、彼女はご不在でしょうか?」
「あらぁ~?そういえば魔法少女っぽい衣装を着た写真を額に入れて飾ってたわね?もしかして一緒に写っていたのって、あなた?」
・・・なんと。
私が作った衣装を着て撮った写真をそれほど大事にしてくれているとは。
「はい。写真を撮ったのは理師匠・・・いえ、遥香さんの学校のご友人ですね。あ、これ、お土産です。」
「あらぁ。これはご丁寧に。・・・困ったわね。遥香は今、近所のコンビニに買い物に行ってるのよね。もうすぐ帰ってくると思うけど・・・。あら?ほら、帰ってきたわ。」
その言葉に振り向けばエコバックを右手に、長いものが入った拵え袋を片手にこちらに向かって歩いてくる彼女の姿が見える。
・・・杖?ああ、重装魔砲少女メルティの杖が入っていた拵え袋か。
もしかしていつも持って歩いているのか?相当なオタクだな。
「・・・あれ?ママ?お客さん?・・・あ、オリビアさん?お久しぶりです。ええと、こちらの方は?」
「あ、ああ。彼女はルイーズ。ルイーズ・ティエリーだ。私の古い友人でね。二人で日本に住むことになったのでご挨拶をと思ってね。」
「それはそれはご丁寧に。ぜひ上がっていってください。・・・ママ。お友達の対応は私がするから休んでて。」
彼女の言葉に従い、家の中に入らせてもらう。
遥香は買ってきたものを冷蔵庫に収めた後、私たちを二階の自室へと案内した。
品のいいローテーブルの前に置かれたクッションにルイーズと二人で並んで座り、遥香が淹れてくれたコーヒーに口をつける。
そんな私たちを前に自家製と思われるクッキーの乗った皿を差し出しながら、遥香ちゃんは突然それまでとは違った口調で言った。
「・・・さて。その様子だともう分かっているようね・・・。教会の使徒が何の用?私を封殺しに来たわけではないようだけど?」
「ん?今なんて?」
思わず間抜けな声が出てしまう。遥香ちゃん、今、なんて言った?
「・・・ん?」
あれ? この反応は・・・。
「・・・ええと、あなたが付き合ってるバイオレットって子は魔女って呼ばれている子で、あなたはその子孫で彼女のことをよく知っているみたいだから、教会が目をつけてる可能性があるよ、だから気を付けて、と言いたかったんだけど・・・どういうこと?」
一瞬、その場の空気が凍り付く。
これは・・・言葉を間違えたら死ぬ?
「くそ・・・私としたことが迂闊すぎたわ。まさか、自分からバラすことになるとは。」
瞬時に遥香ちゃんの身体から魔力が噴き出し、目視できるほどの黄金の波が部屋中に広がり始める。
黄金の波の中を、数本の腕のような何かがうごめいている。
「あ!いや、私はもう教会やめたから!聖釘も持ってないし、むしろ遥香ちゃんの味方をしに来たのよ!」
「・・・とりあえず、家の中でドンパチ始める必要はなさそうね。話を聞かせてもらえるかしら?」
・・・マジでビビった。本気で死ぬかと思った。
こんなの、肉弾戦でどうにかなる相手じゃないじゃない!?
「じゃ、じゃあ、とりあえず私が教会を抜けることになった理由から・・・。」
うわ・・・こ、腰が抜けてる。
まさか、遥香ちゃんが魔女その人だなんて思うわけ、ないじゃない!
・・・だけど、さらに面倒なことになったのだけは間違いなさそうだ。