167 竹藪の中へ
遥香のために仄香が昔話をし始めたところです。
久神家の起源と、この国における魔女の最初の活動についての話になります。
少し長いですが、しばしのお付き合いをお願いします。
久神 遥香
深い、深い夢の中に沈んでいく。
海の匂い。肌に当たる風の感触。そして、心地よい太陽の光。
気付けば、かなり古い時代の港のようなところに、一人の少女が立っていた。
少女はアジア系のような顔立ちをしており、その肌は日に焼けて健康的な小麦色をしており、手足はしっかりと筋肉がついている。
その目は力強く、また旅慣れているような体つきをしている。
そしてゆっくりと大きな、時代が古いデザインの帆船に向かって歩いて行った。
◇ ◇ ◇
7世紀半ば~8世紀末頃
小麦色の肌の少女
300年ほど前から急速に力をつけ、各国の政治の場に台頭し始めた教会の勢力に対応するのに嫌気が差し、私は遥か東の地を踏んでいた。
開発してからすでに1000年以上となり、ほぼ使い慣れた長距離跳躍魔法も実際に世界をめぐり続けなければ意味がない。
東に海を臨む港で帆を広げ、今まさに出港しようとしている船がある。
積まれている船荷からすると、他の国との貿易船のようだ。
「よし、あれでいいわね。」
私は一人でうなずくと、周囲の人間に気づかれぬよう、その船の船倉に潜り込み、どこに向かうかわからない船旅を楽しむことに決めた。
船は波をかき分け、海風に押されて一路、東へと向かっていく。
出港から1日ほどたったころには、魅了と催眠魔法を使い、乗組員の中に私は溶け込んでいた。
「娘さん、一人で海に出るなんてずいぶん無謀なことをしたもんだ。この海で何隻の船が沈んだか知っているかい?」
「きっと大丈夫よ。熟練の水夫がいるし、この船には守り神の像もついてるわ。」
話しかけてきた、すこし歳のいった水夫に適当に答えておく。
ずいぶんと長く生きてきたが本物の神仏に会ったことはまだない。
・・・偽物を使役したことは何度もあるけどな。
確かに、陸を行くのに比べれば海を渡ることは至難の業だ。
だが、安心してほしい。
私は今までに何度も遭難しているし、何度もそれが理由で身体を失ったものだが、最近ではかなり生還率が高くなっている。
それに、直近で海で遭難したのは50年も前だ。ついでに、その前は90年位前だ。
・・・あれ?前回の船旅も50年前だったっけ?前々回は90年前、か?
「右舷前方!海の中にデカい影がある!大海蛇だ!」
言ってるうちからこれかよ。もしかして私って死神なのか?
甲板から身を乗り出して海面を眺めると、龍のような身体を持った馬鹿でかい生き物が一直線にこちらを目指して泳いでくるところだった。
恐ろしく速い!このままでは船底を齧られる!
「光よ、集え。そして薙ぎ払え。!」
揺れる甲板の上、舷側に左手で捕まり、右手を海に突き出して光撃魔法の詠唱を行うと、白い光が海面に当たり、轟音とともに海水が沸騰して爆発した。
だが、馬鹿でかい海蛇は一瞬だけたじろいだ後、海に潜り、その姿が見えなくなる。
横からではなく下から船に穴をあけるつもりか?
「くそ、光撃魔法一発では殺しきれなかったか。ならば、・・・八連唱!“कर्णाय वज्रायुधं दत्तवान् भोः! वृत्रहन्तृनाम्ना विभूषित इन्द्र! मम प्रार्थनां शृणु, तं गौरवयुक्तं वज्रं दैत्ये पतय!”(雷霆の槍を高潔なる者に授けし者よ!障碍を打ち砕く者の名を戴きしインドラよ!我が祈りに答え、その誉れ高き金剛杵を神敵に振り下ろし給え!)」
耳をつんざく轟音とともに、よく晴れ渡った空から極太の轟雷が波間に向かって垂直に突き刺さる。
「もう一丁!百連唱!“सलिलस्थ महोदधिस्वर्गाधिपते! आदिस्वरूप धर्मसंधिधृग् वरुण! स्वमहाबाहुभ्यां मम शत्रुं निर्दलय!”(水面にありて大海と天空を統べし者よ!始原にして正義と契約を司る水天よ!その大いなる腕で我が怨敵を押し潰し給え!)」
最近分かったことだが、塩水はよく雷を通すが、その塩辛さで通し方が異なるのだ。
特に、海水ほどの濃度ともなればよく通す。
さらに、魔力で膜を作り、その片側に強い圧力をかけると、塩水から水の成分だけが膜を突き抜けて反対側に抜けるという現象がある。
これを利用すると海の中で一瞬だけ真水を作り、散逸する雷を一か所に集中することができるのだ。
神聖魔法は制御を精神世界に結像した神格に丸投げできるから楽でいい。
まあ、神格クラスを召喚するとなると一苦労だがね。
しばらくすると、左舷側のすぐ近くに大海蛇があおむけになって浮かび上がってきた。
蛇のように長い首、膨らんだ胴体、そして四枚のヒレ。
なんだこれ?胴体より首のほうが長いし、トカゲ?にしては馬鹿でかいな。
20キュビット、いや、3丈(10メートル)くらいはありそうだぞ?
召喚魔法で喚び出す以外でこんなデカくて変な形のトカゲは初めて見たな。
よし、こいつはクビナガトカゲと呼ぼう。
まるで、前に落書きに寄ったアレクサンドリアの大図書館にあった、ドラゴンの骨を象った石の飾りのようだ。
・・・まさかアレ、本物だったのか?
水夫たちが小舟を下ろし、クビナガトカゲにロープをかけて曳航していく。
どうやらこの船旅における食糧問題は解決したようだ。
よきかな、よきかな。
え?クビナガトカゲの味?
・・・まあ、食えたよ。何とか。
◇ ◇ ◇
いくつかの島々を転々として真水や果物などを補給しながら東に10日ほど進んだところで、いよいよお目当ての島に到着した。
古くは倭と呼ばれ、今ではそこに住む者たちが自ら日本と呼ぶ国だ。
北東から北西にかけて四千里(古代中国では一里400メートル)に及ぶ巨大な島々は、およそ400年位前に統一されたらしい。
四方を海に囲まれ、神仏を崇める者しかいないというこの国は、教会の手が及んでいないことは間違いないだろう。
その神仏についても知識を得ないと、神聖魔法や召喚魔法は少し心もとないだろう。
しばらくは術理魔法と精霊魔法で遣り繰りするしかない。
・・・探し物を続けた私としては、少々疲れてしまった。
できることなら、この国で100年位ゆっくりしたいものだ。
船はゆっくりと湾の中で停泊し、水夫たちが小舟で物資や旅人を下ろしていく。
私はその中の一艘にのり、緑豊かな大地を踏みしめた。
ちなみに、例のクビナガトカゲの骨はこの国の金持ちが買い上げたそうだ。
使い道もなかろうに、物好きもいたものだな。
◇ ◇ ◇
町を歩き、だんだんとこの国の言葉に慣れていく。
どうやらこの町は筑紫大宰と呼ばれる機関が置かれているようだ。
海辺では男たちが土塁を建てており、兵が町を守っている。
町の男に話を聞いたところ、海の向こうの国と大きな戦いの気配があり、この国の大王が出兵をする決意をしたようだ。
戦いの前に移動できてよかった。
私がこの国の言葉に慣れていないせいで一つのことを聞くために時間をかけていると、大陸の言葉がわかる男たちが来て通訳をしてくれた。
彼らの話をまとめると、ここから北の海を渡って隣の島に移り、さらに東に進んだところに京という名の大きな町があるという。
ゆっくりで構わない。どうせ、時間はたっぷりあるんだ。
・・・そうだ。そろそろ子を作らなければ。この国にもあの子の足取りが残っているかもしれない。
ゆっくり、ゆっくりとあの子の足跡を追いかけよう。どうせ間に合わなかったんだ。
あの子の足跡を探す旅も、飽きるまでやればいい。そして、飽きたら死ねばいい。
◇ ◇ ◇
すでにこの国にわたってきてから20年ほどたっただろうか。
私はあの後すぐ、この国で稗田と呼ばれる男と番い、幾人かの子をなした。
夫となった男は大変頭がよく、なかなかの美男子で、この国の神、天宇受賣命に連なる血筋だという。
子供たちが大きくなったころ、夫婦で淡道之穂之狭別島、のちに淡路島と呼ばれる、日本の内海で最大の島に移り住んだ。
内海にしては島の周りがとても荒々しい海で少し驚いたが、半農半漁を営み、穏やかな生活を送っていた。
その後、私の子のひとりが、村でも評判の器量の良い娘との間に一人の女子をもうけたが、はやり病によって亡くなってしまうという痛ましいことがあった。
のちに阿礼と呼ばれるその子の病の知らせが海を渡って私の耳に届いたのち、すぐさま長距離跳躍魔法で駆け付けたが、すでに魂を失った後だった。
冷たくなった孫娘を抱いて泣き崩れるわが子を前に、この国で初めて身体を乗り換える決心をした。
◇ ◇ ◇
孫娘の身体を得て、物心がついたとされる年齢になると、私の識字力と記憶力の高さを利用して様々な史書を暗誦させられた。
数えで28になるころ、この身体が生まれたころにあった事件・・・のちに大化の改新と呼ばれる事件で大量に焼失した文書に代わる歴史書の編纂を命じられ、私が暗誦した内容を太安万侶と名乗る男が書物にまとめる作業が始まった。
およそ40年の歳月をかけて完成したそれは、この国のもっとも古い公文書として歴史に名を残した。
だが・・・その内容が気に入らなかったのか、それとも私が用済みとなったのか。
あるいは悪意などなく純粋に女子しか生まれなかったのか。
私が次の身体に移って以降、稗田の家は現在に伝わっていない。
◇ ◇ ◇
この国にきて、そろそろ140年が経った。
阿礼の次の身体の耐用年数も過ぎ、さらに次の身体を探しているところで小さな問題が起きた。
憑依する身体がないのである。
いや、本来は問題などではない。
私の子供たちが健やかに、非業の死を遂げることなく暮らしているのだから、身体が見つからないのは良いことだ。
半ば諦め、この国で果てることもやむなしと北の山の中に小屋を建てて隠遁する。
古くなった身体を騙し騙し使い、魔法で野生動物を狩って暮らしているうちに山姥と呼ばれ、恐れられていた。
そんなある日、一人の身重な女が一晩だけ泊まらせてほしいと小屋の戸をたたいた。
山姥などと呼ばれる私の小屋に、夜遅くに泊まろうとしているとはいい度胸をしている。
それとも、大きな腹を抱えてどこかから逃げてきたか。
だから、獲れたばかりの猪で鍋を作り、旅の疲れをねぎらっている時だった。
唐突に私は直感した。この娘は私の子孫であると。そして、その女の腹の子は助からないと。
夜が明け、重い身体を引きずりながら山道を下る女を追うと、彼女は青ざめた顔をして竹藪から出てくるところだった。
・・・大きかった腹が、小さくなっている。
私はあわてて回復治癒呪で手当てしたが、流れてしまった子供はどうしようもなかった。
なぜ、この女を出立させたのかと後悔したが、すでに後の祭りだった。
泣く女を山道で会った近くの村の男に任せ、竹藪の中に分け入ると、そこには死産であった胎児が、冷たくなって転がっていた。
同時に、私の身体はすでに限界で、その魂は今すぐにでも新しい身体を求めていた。
ついに、私は決心した。
胎児の身体を修復し、新たなる身体を構築することを。
まだ使い慣れない蛹化術式を展開し、周囲の竹に似せた構造の容器を作り、古くなった自分の身体と胎児の身体を使って人体を一から構築する。
同時に成長促進をするため、女が食べ残した猪鍋の肉を不足する材料にあてた。
そして、ゆっくりと、この国で四人目の身体に魂をなじませていった。
◇ ◇ ◇
何刻、いや、何日経っただろう。
ふいに、竹を切る音で目を覚ます。
蛹化術式の容器を鉈のようなものでこじ開けられ、60を少し過ぎたくらいの男が私の顔を覗き込む。
・・・しまった。人払いの結界の効果が切れてしまったか。
成長促進の途中で、身体が自由に動かない。
ついでに言ってしまえば、この身体に名前がないため、術式のほとんどが使えない。
魔法だって制御が覚束ない。
下手に使えば辺り一面焼け野原だ。
残念ながら、制御が不要な召喚魔法を使うのが関の山だ。
「でかくて妙に光る竹があると思うたら、中に赤子が入ってるとは思わなんだ。しかも・・・えらい別嬪さんじゃ。とにかく、こんなところじゃ冷えてしまう。近くに親御さんは・・・おらぬよな。仕方がない。うちで預かるか。」
この国にしてはかなりの大男だ。
彼は懐から手ぬぐいを取り出し、優しく私を抱き上げる。
・・・随分と人の良い男だ。普通なら、このようなところにいる赤子など妖か鬼の子と思うだろうに。
男は、讃岐の男と名乗った。
京から一日ほど歩いたところに住み、夫婦で竹を採って加工することを生業にしているという。
そのまま男の家に連れていかれ、彼と同じくらいの歳の妻の胸に抱かれた。
「めんこいのう。ジジ様や。このめんこいややこ、どこでさらってきたのじゃ?」
「めったなことをいうな。竹を切ったら・・・いや、竹藪・・・ババ様。ややこは竹からも生まれるのか?」
「ジジ様。おまえ様はアホウか?」
彼女はかなり口が悪いが、ひとしきり男を罵った後、二人で笑い転げ始めた。
それを見ていて、なぜか微笑ましくなってしまった。
どうやらこの夫婦は、子を作れなかったらしい。妻は私をまるで我が子のようにかわいがった。
そして、彼女たっての希望で、私は娘として育てられることになった。
ババ様の寝物語で奥山の山姥が娘の腹の子を食ったこと、そして、侍に討たれたという「昔話」を聞き、思わず笑ってしまったのは良い思い出だった。
◇ ◇ ◇
その夫婦の暮らしは、楽ではなかった。
最初の秋になれば食うものはおろか、着るものもなく、竹で作った小屋は隙間風どころか雨まで入ってくる始末。
健康状態も最悪で、眠る夫婦に対し何度も回復治癒呪をかけるありさまだった。
そんな中にありながら、その夫婦は私が凍えないよう、常に抱き続けた。
朝になると、野分(台風)の風が吹き荒れる中、夫婦が交代で食べ物を探しに行く。
「よしよし、今、ジジが精がつくもんを持ってきてやるからな。おいババ様、この着物を着せてやってくれ。冷えるといかんからな。」
「おまえ様、裸で雨の中を行くつもりかい?死んじまうよ。この子にはワシの着物をかけるから着て行っとくれよ。」
この夫婦、次の冬を越せるのか?このままでは凍え死ぬか、飢えて死ぬか・・・。
竹籠を売って得たなけなしの米も粥にして私に食わせるし、魚や果物が手に入れば私の産着と交換してくるし・・・。
・・・仕方がない。少しテコ入れするか。一宿一飯どころか、親の恩ができてしまったしな。
せめてこの二人が老いて死ぬまでは娘として振る舞おう。
◇ ◇ ◇
秋のうちに夫婦から与えられた粥や雑炊を何とか遣り繰りして、無理やり身体を成長させる。
本格的な冬が来るまで、期間にしてわずか、3か月。
無理やり身体を再構築したおかげで、かなり細くて色白な肉体になってしまったが仕方がない。
そして、半月経った頃、何とか構築した魔力回路をやっと稼働させられた。
二人が寝静まる夜、重要な眷属を一体、召喚した。
その名は金霊という。
はいそこ!断じて金玉ではない。
無欲善行の者に福が訪れることを象徴するといわれる妖の一種だが、こいつはそんなに都合のいい存在ではない。
何をするにも、無から有を作ることはできないのだ。
幸い、ここから南へ3日ほど歩いた辺り、大きな社がある山の中に、赤い石を産する山があるという。
その赤い石を鉄鍋に入れて焼くと、汞という重い銀色の液が取れる。
それは遥か西の国では生きている銀とも呼ばれており、金霊は強い毒の光で黄金に変えることができるのだ。
金霊によれば、第一階梯正一位と従一位、そして第三階梯第一位の根源精霊の力を借りて作り出した毒の光をぶつけ、汞の元素精霊の階梯を一つ、下げているんだそうだ。
よく分らんが、もっと元素精霊魔法に精通しなくてはならないな。
・・・汞も猛毒、金霊の出す光も毒。
当然のこと、取扱いには細心の注意を払う。
そして、金霊が作った黄金を、夜のうちに富貴竹の精霊に例の竹藪の竹の中に仕込ませる。
あとは、ジジ殿が見つけるのを待つだけだ。
おおっと、他の人間が入れないように結界を張っておくのも忘れないようにしないと。
◇ ◇ ◇
???
近頃ジジ様の様子がおかしい。
いつもの竹を採る藪から戻ってきたかと思えば、割った竹を持ってあっちに行ったり、こっちに行ったり。
思わず問い詰めると、いつもの竹の中から一抱えもある黄金の塊が出てきたという。
思わずその竹藪でジジ様が拾った我が娘を見ると、楽しそうにキャッキャと笑っている。
その後もたびたび、その竹藪の竹を割ると、節一杯に詰まった黄金が出てくることが続いた。
早速、人を頼り、その黄金の一部を米や衣に変えてみると、粗末だった竹の家に入りきらないような米俵や唐櫃、塩、野菜、獣の肉が軒先に並べられた。
「おまえ様、小屋におさまりきれないよ。」
「と、とにかく、雨に濡れちゃいかん。小屋の中に運び込んでもらおう。入りきれん分は、ゴザでもかけておくしかないだろう。」
・・・不思議と、それらは雨に濡れることも、腐ることもなかった。
その後、黄金の残りを使って大きな小屋を建ててくれる者を探すと、何人もの大工が名乗りを上げたので、ジジ様にザル一杯の小金を持たせ、京で一番腕の良いと評判の男に任せた。
◇ ◇ ◇
本格的な冬が始まる10日ほど前に、その小屋・・・いや、家ができたというので娘を抱いて教えられた場所に見に行くと、そこは京の大路からそう遠くないところであり、そこには真新しい大きな屋敷があった。
「なんじゃこら。お貴族様が住むような屋敷でないか。わしらは大工に黄金をザル一杯しか渡してないぞ。」
「おい、ジジ様。門の前に侍がいるぞ。道を間違えたかとしか思えん。聞いてみよう。」
ワシが急かすと、ジジ様はその大きな体を縮めて、恐る恐るその侍に声をかける。
「悪いんだけども、ワシは讃岐の造というんだが、このあたりにワシの小屋が建てられてるはずなんだけんど、場所がわからんので教えてはもらえんだろうか。」
人のよさそうな顔をした侍は、一瞬ぽかんとした顔をすると、ジジ様の顔を見上げ、得心が言ったように頷いた。
「おお、噂通りの風体。わが主、讃岐殿でいらっしゃったか。どうぞ、この屋敷があなたの屋敷でござる。拙者は門番をつとめる左衛門の郎党の六郎と申す者。どうぞ六郎とお呼びくだされ。」
あれよあれよという間に、門の中に通される。
そこには、家を建てるように頼んだ大工が満面の笑みで仁王立ちになって待ち構えていた。
「讃岐の造殿!ザル一杯の黄金、見合うだけの屋敷を建てさせていただきましたぞ!ささ、どうぞこちらに!」
「ジジ様。ワシら、黄金の価値がわかっていなかったかもしれん。どうする?こんなに大風呂敷を広げてやっていけるんかのう?」
「ババ様。話してなかったが、黄金ならまだ米俵3俵ほどある。これは人様に知られんようにせんと。」
ジジ様によれば、あの竹藪では娘を背負っていく時に限り、竹から黄金が出るという。
まさにこの娘は天からの授かりものかもしれん。
大事に、大事に育てていかんとならん。
だがワシもジジ様も髪がすっかり白くなった歳だ。
この娘が大きくなるまで、生きていられるだろうか。
日本人なら誰でも知っている昔話ですね。