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166 ハッピーホワイトデー/バースデー

 3月14日(金)


 南雲 千弦


 今日は遥香の誕生日だ。

 琴音と私、そして咲間さん(サクまん)とエルは西日暮里駅で待ち合わせ、日暮里・舎人ライナーの見沼代親水公園駅で下車し、遥香の家に向かって歩いていた。


 エルはかなり大きめの箱を大事そうに抱えている。それ以外にも紙袋を持っているところを見ると、プレゼントとは別に何か料理を作ってきたようだ。


「しっかし、この道、よく通ったわよね。姉さんなんてもう目をつぶってても歩けるんじゃない?」


「さすがにまだ無理だよ。でもまあ、卒業までにはできそうかな。」


 琴音と軽口をたたきながら遥香の家に向かって歩いていると、不意に念話のイヤーカフから声が聞こえた。


《え?ボリスさんとリザさんからも何か届いたって?・・・今日は仄香(ほのか)さんじゃなくて私の誕生日なのに・・・もらっていいのかな。》


《遥香さん、念話が全体通信になってますよ。個別通信にしないと・・・。》


「ボリスのやつ。去年の私の誕生日には何もくれたことないくせに。」


 念話に反応してエルが鼻を膨らませている。


「あ、そういえばエルの誕生日っていつだっけ?教えてもらってないよね?」


 エルは仄香(ほのか)の誕生日にも咲間さん(サクまん)の誕生日にも色々としてくれた。だから、彼女の誕生日も祝ってあげなくては。


「・・・今年はない。去年あった。」


「今年はないって・・・一年に一回は必ずあるでしょ?」


エルの言葉に思わず突っ込んでしまう。


「今年はなくて去年あった?あ、もしかして、エルの誕生日って2月29日?」


 あ、なるほど。琴音の言う通り去年はうるう年だったっけ。


「ん。4年に1歳しか歳を取らない。だから、ホントはまだ30歳。ヴイ。」


 エルは鼻を膨らませたまま、右手をVの字にしている。

 あれ?2月29日が誕生日ってことは、毎年の誕生日はいつになるんだ?

 ええと、確か・・・。


「それって確か3月1日になった時点でひとつ歳をとったとみなすんじゃなかったっけ?」


 そうだ、咲間さん(サクまん)の言う通り、そんなことを聞いた覚えがある。


「エル。少し遅くなっちゃったけど、どこかで誕生日祝い、しよっか。今日は遥香の誕生日だから一緒ってわけにはいかないけど。」


 そういうとエルはしばらく考え込んだ後、ニヤリと笑いながら言った。


「じゃあ、何か珍しいものを食べたい。」


 珍しいものってなんだろね~?というような話をしているうちに、いつの間にか遥香の家に到着してしまった。


 よし、今月中にどこか珍しくておいしいものが食べられるお店に連れて行ってやろう。


 ◇  ◇  ◇


 玄関チャイムを押し、仄香(ほのか)の出迎えで家に上がらせてもらう。

 今日は香織さんだけで、遙一郎さんは仕事のようだ。


「いらっしゃい。みんな揃ってますね。グローリエル。それが昨日言ってたケーキ?またずいぶんと大きいですね。」


「ん。8人がかりで食べるから少し量を多めにしてある。」


 8人・・・ああ、仄香(ほのか)と遙一郎さんのこともカウントしてあるんだ。


「8人がかりって・・・私と遥香さんの胃袋は合わせて一つしかありませんよ。・・・それにこの体は小食ですし。」


 あれ?修学旅行の時、恐ろしい程の量を食べてなかったっけ?


《エルちゃんが頑張って作ってくれたんだから、私は一人前ちゃんと食べたいな。》


 仄香(ほのか)と遥香はそんなことを言いながらリビングにみんなを連れていく。


 リビングに続く扉を開けると、そこは手作業で飾り付けられた誕生日の会場となっていた。


 遥香のお母さんの香織さんが満面の笑みで出迎えてくれる。


 きっと一日くらいかけてこの準備をしてくれたのだろう。疲れているに違いない。


「いらっしゃい。ほら、遥香。皆さんを席に案内して。」


 香織さんにエルから受け取った箱を手渡した仄香(ほのか)は、4人掛けを2つつないで8人掛けにしたテーブルの席を勧める。


 そして、一瞬だけだけど目をつむり、再び目を開く。


 ・・・頭の上のアホ毛がふわりと立ち上がる。遥香に今、身体を返したようだ。


 テーブルの上には色とりどりの料理が並んでいる。

 最後に香織さんがエルが持ってきた箱から大きなケーキを取り出すと、賑やかな誕生パーティーが始まった。


「ふふ、去年の今頃はこんなに幸せな一年になるとは思わなかったわ。遥香、病気はつらかったでしょうけど、この1年、よく頑張ったわね。本当にありがとう。」


「ママ。頑張ったのは私じゃないよ。見守ってくれたママとパパ、それと、みんなのおかげだよ。」


 二人とも目じりに涙を浮かべている。

 去年の2月には急性骨髄性白血病で死にかけ、医師も匙を投げた状態から回復し、そして12月に再び倒れた。


 香織さんにとっては、言葉では言い表せない1年だっただろう。


 その二人を見ながら、エルは柔らかに微笑んで懐からロウソクを取り出し、ケーキにさしていった。


 ◇  ◇  ◇


 南雲 琴音


 遥香の誕生パーティーは賑やかに進んでいった。


 遥香はケーキの直径が大きすぎて17本のロウソクを一息で吹き消せなかったり、料理が多すぎて少し残してしまったりということはあったけど、母娘で心の底から楽しんでいるようだった。


 そして、おなかもいっぱいになったところで、いよいよプレゼントを渡すタイミングになった。


「よし。じゃあ、今回はあたしからでいいかな?遥香、誕生日おめでとう!」


 咲間さん(サクまん)はそういうと、自信たっぷりにかわいいデザインの紙袋を遥香に渡した。


「ありがとう、咲間さん(サクまん)。開けていいかな。」


「うん。今回は私だけじゃなくて兄さんにも手伝ってもらったからね。自作にしては少し複雑な構造のものができたよ。」


 遥香は紙袋から小さな箱を取り出し、丁寧に包装紙を外していく。

 そして中から出てきたものは、小さなゼンマイがついた寄木細工のようなデザインの宝石箱だった。


 遥香がそっと蓋を開くと、かわいらしい曲調の曲が流れだす。

 そういえば咲間さん(サクまん)、休み時間にずっと楽譜をひろげてたっけ。


「うわぁ。すごい、もしかしてこの曲ってこの前作曲してた・・・?」


「うん。遥香のために作った。宝石箱は私が作って、オルゴールの部分は兄さんが作ったんだ。あ、それとその封筒はウチの母からだよ。」


 遥香が封筒を開けると、中から出てきたのはプラスチックケースに収められたSDカードとCDだった。


「あ、母さん、あの曲をCDに焼いておいてくれたんだ。後で演奏しようかと思ってたけど、これでいつでもオルゴールバージョンじゃなくて原曲も聞けるね。」


《よかったですね、遥香さん。後で杖の中の仮想空間でも聞けるようにしておきましょう。》


 遥香はうっとりとした顔をしながら、曲に聞き入っている。

 それにしても・・・いきなりハードルが上がったわね。


「次は私ね。はい、遥香。誕生日おめでとう。これからもよろしくね。」


 姉さんが小さな紙袋を取り出し、遥香に手渡す。

 彼女がそっと包装紙を外すと、中から出てきたのは幾何学的な金色の台座の中で炎が燃えているかのような滴型の宝石のペンダントだった。


《香織さんがいるから、それに込められた術式についてはあとで説明するね。その橙色の宝石は人工魔石、って言ってこの前やっと安定化に成功したの。》


 ・・・相変わらずこの人、無茶苦茶だな。

 どうせトンデモ術式を刻んでいるに違いない。


 やばいな。姉さんがどんどん手が届かない高みに上っていくような気がする。

 いや、まだ慌てるような時間じゃない。それに、女子力は私のほうが上だ。


「すごい。きれい。もしかしてこれ、手作りなの?」


「うん。でも台座は3Dデータで作ったんだけど、細かすぎて外注に出しちゃった。」


《魔力結晶と違ってそんなにたくさんの魔力は込められないけど、繰り返し使えるから時々仄香(ほのか)さんに頼んでチャージしてもらってね。》


 いよいよ私の番だ。咲間さん(サクまん)と姉さんのプレゼントの跡だと、ちょっと渡すのが怖いよ。


 前回姉さんが健治郎叔父さんに仄香(ほのか)の誕生日プレゼントを作らせたせいで術式に関する協力をしてもらうことはできなかったし。

 おかげでオリジナルの素人術式だよ。


「次は私。お誕生日おめでとう。みんなのプレゼントと比べると、ちょっと自信がないけど。開けてみて。」


「うん、ありがとう。・・・これって・・・アルバム?わ、きれい。それに、何枚か写真が入ってる。もしかしてこの装丁って手作り?箔押しになってる横顔って、私?」


「うん、姉さんや咲間さん(サクまん)に比べると不器用だから、ホームセンターのDIYコーナーで扱ってる素材を使っただけのものだけど・・・。」


 あ、ついでに込めてある術式についても説明しておこうか。


《そのアルバムには一応術式が刻まれていて、入れてある写真の下にあるフキダシのしるしを触ると、写真を撮った当時の思い出が目の前に再現されるって構造になってるの。自分で撮った写真を入れても有効だから色々試してみて。》


「すごい!琴音ちゃん、手作りでこんなものが作れるなんて。一生大事にするね。うわ、どんな写真入れようか。すごいワクワクしてきた。」


 どうやら遥香は喜んでくれたみたいだ。

 ・・・ふう、和香(のどか)先生に脳神経外科の講義を受けた後に人間の記憶の構造について説明を受けておいてよかった。

 あれ?なんか、姉さんがすごい顔をしている。


「琴音・・・。あんた、反則みたいなもの作ってんじゃないわよ・・・。」


 反則?いや、私は仄香(ほのか)に習った夢操術式を応用しただけなんだけど・・・。


「最後は私。はい、プレゼント。これからもよろしく。」


 最後にエルがラッピングされた箱を取り出す。

 結構大きい割に軽そうだな。


「開けるね。・・・うわ、革靴だ。え?これも手作りなの?靴って作れるものなの?」


 革靴・・・少し緑色の光沢をもつ黒い革靴だ。赤いラインがピンポイントのかわいらしいデザインだが、滑らかな表面に爬虫類っぽい輝きが・・・。


「ん。玉山のヒュドラの革で作った。重量軽減効果と強い回復効果を持ってるから履いていても疲れない。滑らないし軽くて頑丈。対人地雷くらいなら傷もつかない。」


 このイカレエルフ。

 なんて材料を使ってるのよ!

 ヒュドラの革とか、伝説級のシロモノじゃない!?

 っていうか、地雷相手に靴だけ頑丈でも意味ないでしょ!


「うわ、足のサイズがぴったり。すごい!それに、このデザインなら学校にも履いていけるね。ありがとう!大事にするね。」


《エル・・・あんた、ヒュドラの革なんてどうやって加工したのよ。咲間さん(サクまん)の誕生日の時もフレイムドラゴンの革とか使ってたし、そんなに簡単に加工できるもんじゃないでしょ?》


《ん。マスターに加工に必要な道具は作ってもらった。単分子振動ハサミとか圧入力強化縫い針とか。縫い糸もカーボンナノチューブ。》


 そうか、仄香(ほのか)が黒幕だったか。

 あれ?そういえば仄香(ほのか)は遥香に何をプレゼントするんだろう?


 プレゼントも渡し終わり料理も食べ終わったところで、姉さんと二人でお皿を洗っていると、香織さんが私たちに深々と頭を下げてきた。


「娘が大変お世話になっています。日ごろから本当によくしていただいて、去年の暮れには入院と旅行までお世話になって。本当にありがとうございます。」


 ああ、そういえば向陵大学病院は私が和香(のどか)先生に頼んで紹介してもらったことになっていたっけ。


「気にしないでください。私たちこそ、日ごろから遥香さんにお世話になっていますから。それに、遥香さんのおかげで学校の成績がすごくよくなったんですよ。第一志望の大学だって姉妹そろってA判定なんですから。」


「そう、ですか・・・。あの子、いつの間にそんなに頭がよくなったのかしら。それに、まるで別人のように感じる瞬間があるの。夫と二人で話しているときだって、言葉遣いがおかしいこともあったし・・・。」


 う。やばいじゃない。どうすんのよ仄香(ほのか)。香織さんは魔法とか魔術とか知らないのに、どうやって説明すんのよ。


 言葉に詰まっていると、横から姉さんの助け舟が入った。


「遥香さんは去年の今頃まで病気で臥せっていらしたんですよね。もしかしたら、彼女の内面にその病気が影響しているのかもしれません。死に直面したことで一度しかない人生を全力で駆け始めたってことなんじゃないでしょうか。」


「そうよね。私ったらどうかしてたわ。ごめんなさいね、変なこと言って。それにお客様に片付けを手伝わせてごめんなさいね。あとの片付けは私がやるから、もう2階に上がってゆっくりしてください。」


 何とか香織さんに納得してもらってから、リビングの片付けをしていた3人と合流して2階の遥香の部屋へと上がる。


 今夜はお泊りをする予定だ。それにしても子供部屋にしては大きな部屋だな。まるで二人分はありそうだよ。


 ◇  ◇  ◇


 久神 遥香


 今日は最高の一日だった。私の誕生日をみんなにお祝いしてもらって、途中でママはうれしくて泣きだしちゃったりして。


 そういえば千弦ちゃんがくれたペンダント、何の術式が刻まれているのか聞いてなかったっけ。


「ねえ、千弦ちゃん。このペンダント、何の術式が刻まれているの?」


「う~ん。直感的に思いついて刻んだ術式なんだけど、なんて説明したらいいか・・・。その魔石ってね、スラタラサーヤナっていう木の樹液を固めて作ってるのよ。それで不思議な特性があってね。起動信号を送ると爽やかな香りを発生させるのよね。」


 へえ~。じゃあ、香水の代わりにもなるペンダントなんだ。ええと、説明書は・・・あ、起動信号はこうやって送るのか。


 説明書の指示に従って起動信号を送ると、ふわりと梅の花のような香りが部屋の中に広がった。


「うわぁ。いい香り。それにすごく気分が落ち着くね。これ、何度でも使えるんだよね?」


「うん。万病に効く霊薬の香木なんだって。何度でも・・・ってエル?どうしたの?」


 千弦ちゃんの声に振り向くと、エルちゃんがカーペットに膝から崩れ落ちていた。


「う、なに?いきなり、めまいが。」


《いけません!!遥香さん、停止信号を!!》


 慌てて琴音ちゃんが窓を開け、咲間さん(サクまん)が近くにあった薄い雑誌でバタバタと空気を入れ替える。

 そして、私は慌てて取扱説明書をめくって停止信号の打ち方を調べ、実行する。


「え?なんで・・・もしかして、その香水、毒ガスだったの?万病に効く香木じゃなかったの?」


 千弦ちゃんが呆然としている。

 でも毒ガス?すごくいい香りだと思ったんだけどな。すごく気分がよくなったし。


《まさか、霊薬の香りだけでなく副次効果まで発生させるとは・・・とりあえず遥香さん。そのペンダントを箱に戻してください。私から説明しましょう。》


 ペンダントを箱に戻し、ローテーブルの上に置く。

 可哀そうに千弦ちゃんはものすごく小さくなっている。


「姉さん、まさか魔術で化学兵器を再現するとは思わなかったわ。その匂いだってプレゼントする前にちゃんと調べなかったの?」


 琴音ちゃんが千弦ちゃんに怒ってる。そんなに強く言わなくても・・・。


「・・・ちゃんと調べたんだよ。自分で何度も吸って、鑑定術式まで使って健康に害がないことも確認したし、体力だけじゃなく魔力の回復効果もあることも確認したし。原料の樹液をくれた人も、身内に『魔族』がいなけりゃ大丈夫、って言ってくれたし・・・。」


「はあ?じゃあエルが魔族だっていうの!?なにそれ!?」


「魔族と仲がいいのはフェアラス。私はルィンヘン。」


 あ。いつの間にかエルちゃんは持ち直して持ってきたお菓子を並べている。

 もう大丈夫みたいだね。


《怒らないでください、琴音さん。私から説明しますから。》


「コトねん、千弦っちだって悪気があったわけじゃないし、エルもそんなに怒ってないし。まずは仄香(ほのか)さんの話を聞こうよ。」


 何とか落ち着いた琴音ちゃんを座らせ、仄香(ほのか)さんがゆっくりと話し始めた。


《まず、いきなり大騒ぎをしてすみませんでした。琴音さん、先ほどの香りは化学兵器ではありませんし、香りには何も問題はありません。むしろ、霊体の疲労を回復する効果があります。》


「じゃあ、エルがめまいを起こしたのはなぜなのよ。」


《今の香りはスラタラサーヤナを香木として焚いた時の香りと同じものです。香りとは別にスラタラサーヤナには独特な効果がありまして、それは燃えるなどして分解された時、「周囲の魔石を初期化する波長を出す」というものです。》


「周囲の魔石を初期化する?それって、エルと何の関係が・・・?」


《グローリエルはエルフです。その長命を支える魔石を身体の中に持ち、記憶情報や人格情報のバックアップと魔力を保存しています。おそらく、その波長を乱されたのでしょう。》


「そういえばダンジョン産の生き物・・・幻想種は身体の中に魔石を持っているって言ってたっけ。じゃあ、そのペンダントって幻想種にとってはヤバいものなの?」


《そうですね。一時的に魔法や魔術が使えなくなる程度の効果はあると思います。相手が魔族でもない限り、致命的な効果はないと思って差し支えないでしょう。》


「魔族には効くんだ。」


《魔族は魔石をバックアップではなく、メインとして使って人格と記憶情報の演算を行っていますからね。》


 とにかく、エルちゃんが無事でよかった。

 でもこのペンダント、すごくデザインが気に入ったんだけどな。まあ、起動しなければ身につけていても大丈夫かな。


 ◇  ◇  ◇


 魔石のペンダントでちょっとした騒ぎがあったけど、そのあとはみんなでおしゃべりしたり、小さい頃の写真を琴音ちゃんがくれたアルバムに移したり、咲間さん(サクまん)のお母さんが焼いてくれたCDを聴いたりして楽しんだ。


 交代でお風呂に入って、お布団に横になったところで、いよいよ仄香(ほのか)さんから誕生日プレゼントの発表がある。


 っと、その前に身体の制御を交代しなきゃ。そろそろ5時間くらい経過しちゃったかもしれない。


 ゆっくりと目をつむり、仄香(ほのか)さんに身体を預ける。


「さて、みなさん。今日は遥香さんから誕生日のプレゼントとしてのリクエストがありまして、昔話を一つ、させていただこうかと思います。」


「え?あ、そういえば仄香(ほのか)さんからのプレゼントはなかったっけ。」


《いやぁ・・・。私、仄香(ほのか)さんの誕生日にプレゼントを用意しなかったから、もらえないって言ったんだけどね。じゃあ何か、形に残らないものをくれるって話になって。》


「遥香さん、気にしすぎですよ。それにこの話は遥香さんの、いえ、久神家の起源の昔話です。いつか話そうかと思っていたのでちょうどよい機会でした。では、皆さん。横になって、布団をかけてください。」


「遥香っちの家の起源か。あたしが聞いていいのかな?いや、仄香(ほのか)さんはご先祖様だし、本人の許可が出ているってことになるのか。よし。準備できたよ!」


 みんなが布団の中に入り、部屋の電気を消すと、仄香(ほのか)さんがゆっくりと私の声で流れるように歌を歌い始めた。

 ・・・そして、瞼がゆっくりと重くなっていった。


遥香は十七歳になりました。

実は、香織さんはもうニ人くらい子供を作る予定だったようですが、遥香を出産した時に問題があって、二人目以降は産めない身体になっています。


そのため、遥香の部屋が妙に大きいんですね。

・・・ただ、仄香がそんな香織さんを放っておくはずもなく・・・。

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