162 白神/パラジトリクス・ヴェルミス
3月2日(日)
南雲 千弦
「・・・なに、・・・あれ?」
自分でも気付かないうちに、呆けたような声が口から勝手に出る。
その声に己を取り戻し、あわてて魔力密度可視化術式を発動する。
魔力密度を示す視界の濃淡は、まるでサーモグラフィーで高温の物を撮影したかのように西側の斜面にはっきりと赤く巨大な人型を形成していた。
恐ろしく濃密な魔力。
仄香に比べれば大したことはないのだろうけど、少なくとも私の数十倍を超える魔力量。
・・・持ってきた装備では足りないかもしれない。
「姉さん・・・あれ、まだこっちに気づいていないみたいだよ。今のうちなら・・・。」
「賛成。長距離跳躍魔法で退避するよ。」
琴音が大きくうなずく。
念のためではあるが、電磁熱光学迷彩術式を使ってから脱出するか?
それとも・・・。あれ、もしかしたら魔力検知能力があるかもしれない。
様子を見るか?
情報収集も仕事のうちだし・・・。
あたりを見回すように白い巨人が体を左右に振る。
巨人・・・のように見えたが、なにか、ぬめぬめとした白い、蛇のような・・・ミミズのような何かが人の姿を作っているようにも見える。
うわ、キモ。群体だとすると結構めんどくさいな、と思っていると、それは一瞬低く屈む。
「・・・!姉さん!」
琴音がいきなり私の首に抱き着いた。
「な、なに?」
「跳ぶよ!勇壮たる風よ!汝が翼を今ひと時我に貸し与え給え!」
グンっと強い加速度が体を包み、斜め上に放り出された瞬間、その白いなにかは、私たちがいたところに降り注ぐ。
すんでのところで躱したそれの、顔に当たる部分を見て思わず体が凍り付いてしまった。
それは、白いウナギのような姿に、女の頭がついていた。
明らかに人間の顔、そして、だらしなく開いた口には、明らかに人間であることを示すもの、歯の矯正器具がついていた。
◇ ◇ ◇
二十数秒、飛翔しただろうか。
岡山の吉備津神社、その境内の裏手に降り立つ。
周りには、いまだに眠る男性1名、女性3名が横たわっていた。
「な、な、な・・・。」
驚きのあまり、声が出ない。
あと1秒遅ければ。いや、あと0.5秒遅ければ。
あいつらに食われていたかもしれない。
いや、同じ姿にされていたかもしれない。
カタカタと奥歯が鳴る。
生理的に、何としても恐怖を抑えられない。
「姉さん、何を見たの?いきなり蛇のようなものに襲われたから反射的に跳んだけど・・・。」
琴音は時々、何の脈絡もなく正解を引き当てる。
まるで天啓のように。
「こ、琴音、あ、あんた、あれ、見た?見てない?」
「・・・姉さん、何を見たの?あの白い巨人がどうか・・・!?」
「ぐ、あぁぁぁ!ぎゃああぁぁ!」
琴音が最後まで言い終わる前に、女性の一人が腹をおさえてのたうち回り始めた。
白目をむいて暴れまわる。
・・・妊娠していた女性だ。
このままでは流産してしまう。
反射的に女性に手を伸ばそうとしたとき、琴音がその手をつかみ、後ろに飛び下がった。
「様子がおかしい!これ、もしかして妊娠じゃない!寄生!?何!?」
「ぐ、ぐ、けぼっ、ごぼっ。・・・た、助け、ギャアアアアアァァァァ!」
女性の股間から血が混じった黄色い液体がふきだし、その中には白い、大きなミミズみたいなものが蠢いている。
ミミズは琴音に向かって鎌首をもたげ、まるで跳躍しようかとするように身構えた。
「琴音!消し飛ばすから離れて!」
腰の後ろにあるポーチからSTEYR L9A2を引き抜き、新しく開発した術弾入りの弾倉を叩きこむ。
遊底を引き薬室に術弾を送り込む。
たった25発しか完成が間に合わなかったが、使うなら今しかない。
「魔導付与術式!闇よ!暗きより這い寄りて影を食め!」
両手で握りこんだSTEYR L9A2の銃把が激しく振動する。
腰につけた魔力貯蔵装置から、恐ろしい量の魔力が薬室に向かって流れ込む。
暴れる照星を照門に無理やり収め、引き金を引き絞る。
パン、という乾いた音とともに撃ち出された術弾は、白いミミズの胴体のあたりに着弾した。
その瞬間、術弾を中心に空間がゆがむ。
音もなく表れた黒い影は、白いミミズの胴体と地面までをも抉り取り、その大部分をこの世界から消し飛ばしていた。
「ね、姉さん、今の、何・・・?」
何、とはどれのことだろうか。
ミミズの死骸なら3割くらいはまだ残っている。
コレの正体なんか私には分からないし、すでに虫の息の女性についてはさっぱり分からないし。
あ、今使った術弾のことか。
「・・・魔導付与術式のこと?それなら、銃の本体に魔力回路の代わりになる術式回路を刻んで、魔力貯蔵装置の魔力を使って魔法のような効果を発揮する、ってシロモノだけど、術弾が無茶苦茶高くつくのよ。人工魔石を6mmに削って作ったやつだからね。」
人工魔石を作れるようになったのは誰にも話していない。
実は四国に行く直前に、例の魔石売りのお兄さんと秋葉原で偶然会って話が盛り上がった結果、術式榴弾と引き換えに原料を分けてもらいながら作り方を教えてもらったんだよね。
まさか、樹液と重曹で自分の魔力を固めて作るなんて思いもしなかったよ。
・・・うん、確かに植物が原料だ。
でもこの樹液は特別な木のものらしくて、分けてもらった分はあと小瓶一本分しかない。
「いや、今、空間ごと、抉り取った!?」
「あ、うん。だって今の空間浸食魔法だからね。」
本来なら私の魔力や魔力回路では使えないほどの制御能力と魔力を要求される魔法だが、実力以上の魔法が使えるのが魔術師の強みだ。
特にコレは、魔力回路すら使わないから私自身にほとんど反動がない。
「相変わらず非常識ね。でも助かったわ。・・・あのミミズ、たぶんなんだけど女性の腹の中、おそらくは子宮に寄生する生き物みたいなのよ。あんなのに襲われたらと思うと寒気がするわ。」
うん。今更だけど私も背筋がゾワゾワするよ。
琴音は気を取り直して、女性の様子を見る。
「・・・だめ。腹の中を食い荒らされていて重要な器官を根こそぎやられてる。助けようがないわ。」
女性は何かを言いたそうに口をパクパクと動かしていたが、すぐに動かなくなり、その瞳から光が消えた。
「・・・私も仄香のような回復治癒魔法が使えたらよかったのに・・・。」
回復治癒魔法が使える魔法使いは、日本でも数えるほどしかいない。
それでも助けられない命がある。
私はSTEYR L9A2から弾倉を引き抜き、薬室に残った新型術弾をその弾倉に戻して、それらをポーチに収めた。
・・・あの村は危険だ。
明朝、太田さんが来たらこれまでのことを報告してこのまま手を引こう。
すでに使った経費については返すつもりはないが、報酬については受け取れなくても構うまい。
眠ったままの男性1人、女性2人を合流ポイントに用意してあった簡易テントに押し込み、毛布を掛けて朝を待つことにした。
◇ ◇ ◇
琴音と交代で仮眠をとり、朝を迎える。
今、時間は午前7時。すでに日が昇っているがテントの外はかなり冷え込んでいる。
太田さんが来る約束の時間は午前8時。
そろそろ全員を起こして状況の説明をしなければならない。
「姉さん。栗田さんと菅生さんの目が覚めたよ。今もう一人の女性を起こしたところ。一応、みんな落ち着いてるよ。」
「そう、よかった。・・・三人とも寄生されている様子はない?」
「・・・分からない。とくに女性は自分の身にあったことを話したがらないから。それより栗田さんが私たちにだけ話があるって。急ぎみたいだよ。」
私たちにだけ?菅生さんやもう一人の女性に聞かれたくないのか?
「わかった。女性たちはテントの中で待っててもらおう。外で話を聞くよ。」
菅生さんともう一人の女性をテントの中に残し、少し離れたところにある梅林へ向かう。
梅林の中で人がいないことを確認した後、栗田さんは重い口をゆっくりと開いた。
「・・・まずは助けてくれてありがとう。さっき、妹さんに聞いたっちゃけど、ここは岡山の吉備津神社らしかね。こんな遠かとこまでずっと寝とったっちゃ、びっくりしたばってん、これだけ離れとればアイツらに襲われる心配もなかろうもん。」
長距離跳躍魔法で移動したことは黙っていよう。色々と説明が面倒だ。
「無事で何よりです。もうすぐ、私たちの仲間が迎えに来ます。警視庁?ええと、公安の警察官だから安心していいですよ。栗田さん。それで、話したいことって何ですか?」
「公安?あんたたち、一体なんもんね・・・。話したかことっちゅうのは、あの二人のことたい。あの二人、いや、確実に凪咲は白神に寄生されとるっちゃん。もう一人も寄生されとるっち思うて間違いなかろうもん。」
白神?あの、ミミズのことか?
確かに白いけど、神と呼べるもんじゃないと思うが。
「栗田さん、白神って何です?せっかく助けた女性を一人、殺されているこちらとしては可能な限り情報が欲しいんですが・・・。」
琴音としては、助けられなかったことがかなり悔しいのだろう。
私としては、アレが寄生している女性が二人もいることのほうがよほど怖いのだが。
「白神・・・俺が知っとることは・・・」
栗田さんはゆっくりと思い出すように「アレ」の情報を絞り出す。
彼の話をまとめると、次の通りだった。
外見は1メートルから10メートルくらいの白いミミズ。
肉食である。
知能はほとんどない。
日中は土の中にいる。
女性の子宮に寄生する。
寄生された人間は末期になると脳を乗っ取られてほかの人間を呼び寄せる。
人間の腹を食い破って孵化する。
寄り集まって巨人のような姿をとる。
あの山の中で村人の信仰対象になっている。
地下に大きな穴を掘るのでその跡地が坑道になりやすい。
それがいるところには何らかの鉱物資源が必ずある。
・・・そして、恐ろしく頑丈で刃物も銃弾も通さない。
弱点は・・・酸と炎のみ。
「姉さん、よくそんな相手を拳銃で倒せたね。」
「新開発の魔導付与術式だからね。次回から火炎放射器も準備しておこうか。あ、火炎系の魔法を使ったほうが手っ取り早いかな?」
「拳銃で倒したっちゃ?・・・いや、さっきアレの死骸ば見たけん、倒したとは知っとったばってん、特殊な銃弾でも使うたとや?それに今、火炎系の魔法とかって・・・。」
栗田さんが驚いて何かを聞こうとしたとき、琴音のスマホの着信音が鳴った。
「あ、ちょっと待って。・・・はい、お疲れ様です、私です。ええ、えびす宮の奥、あじさい園でお待ちしています。・・・太田さん、そこの駐車場に着いたって。」
「詳しい話は太田さん・・・太田警部が来てからにしましょう。」
◇ ◇ ◇
南雲 琴音
太田警部が到着し、これまでのことをまとめた報告書を手渡す。
ノートパソコンとモバイルプリンターを使って作成しておいたのだが、こういったことは書類にして渡したほうが早いのだ。
「琴音さん、千弦さん、お疲れさま。・・・まさか行方不明者のうち3人も保護してくれるとは思わなかったよ。」
「一人、助けられませんでした。それに、もう一人は行方不明のままです。」
身柄を保護しておきながら、みすみす死なせてしまうとは痛恨の極みだ。
女性の亡骸を目の前にして、目を閉じ、黙とうする。
「・・・それは琴音さんの責任ではないよ。それに、初日の研修で話した通り、どのような状況でも救急車を呼べないことについてはこちらの責任だ。」
初日の研修でも聞いた通り、あの村の出身者がどこにいるかわからない状況では、たとえ岡山まで移動したとしても救急車を呼ぶことはできない。
救急隊員、あるいは搬送先の病院の医者が、あの村の出身者である可能性だってあるのだ。
太田さんと、その部下らしい人が彼女の遺体を遺体袋に入れて運んでいく。
「太田さん、っち言うたか。俺は栗田大翔、砦南大学民俗学部の3年や。そこで眠っとる髪の長かほうが俺の彼女で、同じ学部の菅生凪咲たい。俺からも大事な話のあっとよ。」
それまで黙っていた栗田さんが、ズイっと前に出て太田さんに話し始めた。
「凪咲はたぶん寄生されとる。同じ目には遭わせたくなか。何とか摘出してほしかっちゃけど、病院に運んでもらえんやろうか。アレがどんくらいで腹ば食い破って出てくるかわからんけん、できるだけ早よ処置してほしかとよ。」
そうだ。せっかく助けた二人も、寄生されているとなれば早く摘出しないと死んでしまう。
「もちろんだ。だが、今すぐにというのは難しい。この後すぐにヘリで東京の警察病院まで搬送する。君も一緒に来るといい。3人ぐらいなら乗れるはずだ。」
栗田さんはいまだに怯えたままの二人の女性とともに、毛布でくるまれたまま警察車両でどこかに連れていかれた。
「はあぁ~。疲れた。さて、私たちはどうしようか。とりあえず、続けるにしても手を引くにしても、屋根のあるところに行きたいよ。」
姉さんが装備を身に着け、荷物をまとめている。
確かに、要救助は一人見つかっていないし、主犯格は逃してしまった。
・・・っていうか、主犯格はもう死んでるんじゃないだろうか。
「あ、二人とも。これだけしっかりした報告書をまとめてくれたんだ。それに、見つけられると思っていなかった行方不明者まで保護した上に、あの村に巣くっている白神の体の一部まで回収してくれたんだ。もう十分だよ。あとは任せなさい。」
「え?じゃあ、バイト代は?」
「ああ。満額支給する。安心しなさい。機密費からの支出だし、税金は申告する必要がないようにしておいたから。今日の午後にでも二人の口座に25万ずつ、しっかり振り込まれるよ。」
「やったあぁ!・・・あれ?姉さん、うれしくないの?」
「ん?ん~。もう少し撃ちたかったなぁ、なあんて。」
この拳銃キ〇ガイめ。まあいいや。
姉さんに自動詠唱機構と魔力貯蔵装置の修理代を渡せば借金なしだ。
う~ん。やっと肩の荷が下りたよ。
◇ ◇ ◇
???
やっとの思いで鎮火した民宿の前で、村の男たちが鎌や鍬など、雑多な武器をかき集めて集合している。
中にはその手に猟銃を持った男までいた。
「あの戌っ子はバスには乗っちょらん。まだこの辺りに潜んじゅうはずや。山狩りや!」
「見つけ次第、両手両足切り落として白神様の生贄にしちゃる!」
「鬼塚の朔太郎と基司は焼け死んだがや!あの顔を焼いてやらにゃあ、腹が据わらん!」
「二神は村の中を、明神は南の山を、五百蔵と浜渦は東の沢と山を、近森と入交は北と西の山を調べてこい。」
村人たちは妙に統率が取れた様子でそれぞれの持ち場に向かおうとする。
だが、彼らの頭上からあまりにも場違いな、鈴が転がるような声が響き渡る。
「それには及ばないわ。あなたたちはここでおしまいよ。タルタロスの深淵に在りしニュクスの息子よ。安らかな夜帷の王よ。汝が腕で彼の者を深き眠りに誘い給え。」
男たちは何も抵抗できず、バタバタと倒れていく。
妙に重武装な魔法の箒に跨り、その荷台に大学生くらいの女性を乗せた髪の長い少女がその場にゆっくりと降り立つ。
「・・・まったく、あの二人は詰めが甘いわね。こういった手合いは東京だろうが外国だろうが、しつこく追いかけてくるものなのよ。ま、これから根切りにするから関係ないけどね。」
抱えていた女性をゆっくりと地面に寝かせ、まるで容体を確認するかのようにその上着をめくる。
「・・・はあ、ひどいことをするわね。適性のある女性を魔物の苗床にするとか・・・こいつら、正気なの?」
少女が何かを唱えると、その右手が白く輝きはじめた。
そしてそのまま、女性の腹に刺し入れる。
不思議と女性に出血はなく、少女はその右手で何かをつかむと一息に引き抜いた。
「あら。これって『パラジトリクス・ヴェルミス』じゃない。困ったわね。村人だけをどうにかすればいいような問題じゃなくなったわ。」
少女はため息をつきながらポケットからスマホを取り出す。
そして、村の近くの火山を地図アプリで探し始めた。
◇ ◇ ◇
仄香
琴音と千弦は忘れているのか、念話のイヤーカフは私の術式だ。
だから、その内容は常に私に筒抜けになっている。
ずいぶんと実入りのいいアルバイトを見つけたようで、いわゆるブラックバイトではないかと心配したが、黒川早苗からの紹介ということで一度は安心した。
・・・あの女、一応は警察官だしな。
ところが蓋を開けてみればどうだ。
そこら辺のブラックバイトが霞むほど危険な仕事ではないか。
確かに琴音も千弦も私から様々な知識を吸収し、研鑽を続けたおかげでそこらの魔法使いでは相手にならないほど強くなった。
油断さえしなければ、悪しき風習にとらわれた村人など百人でも千人でも相手にならない。
だが人の恨みというのは恐ろしい。集団となればなおさらだ。しかも、怪異がかかわっているとなると話は別だ。
今日一日は咲間さんのコンビニのバイトも休みだし、様子を見に来て正解だったよ。
足元に転がる村人の一人の頭をつかんで引きずり起こし、強制自白魔法(念話版)を行使する。
「天空にありしアグニの瞳、天上から我らの営みを見守りしミトラに伏して願い奉る。日輪の馬車を駆り、彼の者の真実を曝け出し給え。」
「・・・お、こいつ、村長の孫だわ。ええと、結構いろいろ知ってるじゃない。これは幸先がいいわね。」
村長の孫だけではなく、その場に転がった男たちすべての頭の中を浚い、およそ分かったことは次の通りだった。
どうやらこの村は、かつては良質な銅を産出する鉱山であったらしい。
だが、江戸時代の半ばに銅が枯渇した。
村人は手あたり次第に山を掘ったが、なんの収穫もなく、一人、また一人と村を捨てるものが出始めたところで、たまたま村に戻っていた女が奇妙なものを産んだ。
それは、白く大きなミミズのような姿をしており、その女の親は気味が悪くなり、銅が枯れた廃坑に捨てたという。
女はほどなくして亡くなり、山の墓地に葬られたが、翌年から不思議なことが起きる。
すでに枯れ果てたはずの銅山から再び銅が、それも以前にもまして良質で大量の銅が見つかった。
村人たちは不思議に思いながらも、再び採掘を始めたところで2体の白いミミズに出会う。
1体は顔がなく、ただ巨大なミミズ。そしてもう1体は亡くなったはずの女の顔をしたミミズ。
それ以来、白いミミズを白神様と呼び、若い娘を生贄に捧げる文化がこの地に根付いたようだ。
「・・・ふん。自分たち崇めているモノの正体も知らずにいい気なものね。」
この白いミミズの正体はまごうことなき怪異、それもかなり危険なシロモノだ。
人づてに聞いた話だと、1000年ほど前、プラハの錬金術師が作った魔法生物だという説もあるようだが、魔法使いの間では「パラジトリクス・ヴェルミス」と呼ばれている。
その能力は、端的に言えば地層内の鉱物資源を浅い層まで移動するというものだが、そんなことよりもっと危険な習性があるのだ。
こいつは適合した女の腹に寄生する。そして腹の中で分裂し、増殖する。
さらには宿主が完全に適合した場合、特に魔力が高く抗魔力が低い場合、身体の構造をパラジトリクス・ヴェルミスのものに変えられ、奴らの同族にされる。
不完全な適合の場合、増殖したこいつらに内臓を食い荒らされて死に至る。
・・・それに、たとえ外科的に摘出して一命をとりとめても、一度寄生されると子宮内壁をすべて食い尽くされてしまうというおまけつきだ。
足元に眠る女性は、通常の方法では二度とわが子を抱くことはできないだろう。
蛹化術式を使えるのが私だけであることを考えると、あまりにも残酷な話だ。
「・・・蛹化術式を起動。セット、10min。私がいてよかったわね。完全に元通りになったら、強制自白魔法で全部調べてから強制忘却魔法でこの村で受けた被害を全部忘れさせてあげるわ。」
それにしても本当に腹が立つ。
この村の男どもは女を何だと思っているのか。
おっと、まだ生きてる被害者が2名ほどいたっけな。
どうにかして病室に忍び込む方法を考えようか。