161 反撃/ダイナミックエントリー
3月2日(日)
南雲 千弦
すでに日付も変わり、村の中はまるで新月の夜のような暗闇に包まれている。
暗がりの中から断続的に、私たちがいる宿の部屋に向かって催涙弾のようなものが撃ち込まれている。
この射程距離からすると、グレネードランチャーを使って撃ち込んできてるな?
感心感心。なかなか本格的な連中じゃないか。
相手が私たちじゃなきゃ効果があったかもな。
部屋の中は白く煙るガスが充満し、足元には3人の男たちが倒れ伏している。
・・・さっき、琴音がスタン弾をぶち込んだ連中だ。
いや、スタン弾だから撃っていいとは言ったけど、数発でいいだろ。
なんで数十発ずつ撃ち込むんだよ。
そのうち術弾が足りなくなるぞ。
やはり、慣れている私が前に出るか。
「姉さん。窓の外、どうする?すぐにここから移動する?」
足元に転がる男たちのガスマスクを剥ぎ取りながら考える。
細菌・化学防護術式を展開しているおかげで、琴音も私も全く問題なく行動できる。
こんなNBC装備なんて必要ない。
あ、こいつ、祭りのときに琴音にしつこかった金髪男だ。
よし、とっておきの術式を全員の股間に仕込んでおいてやろう。
「・・・その前に外の連中を黙らそう。ええと、やっぱりあの小屋と茂みか。ついでにあのアンテナも落としておこう。」
上着のポケットから術札を3枚取り出し、順番に起動用の魔力を送る。
ドンっという、腹に響く爆発音が3回響き、その都度、窓の外が明るくなった。
「うわ・・・あの小屋、大炎上してない?それにあの鉄塔、根元からポッキリいったよ。姉さん、あとで逮捕されりしない?」
「そうね。でも警察が取調調書を書くときに、使った爆薬を付箋紙と鉛筆って書けるならね。」
実際、あの3か所に設置した炸裂術式は付箋紙に鉛筆で術式回路を描いただけのシロモノだ。
建物の壁に付箋紙を張っただけの私を爆取(爆発物取締罰則違反)で逮捕できるというならしてもらおう。
さすがに炸裂術式に驚いたのか、それとも今の爆発で外の連中は全滅したのか。
催涙弾は飛んでこなくなった。
「姉さん。荷物どうする?ちょっと邪魔かも。」
「仕方ないわね。パックB、Cはこの場で放棄。パックAのみを回収。準備が出来たら合図して。」
琴音はうなずき、安物の着替え、洗顔用具、化粧品の入った旅行鞄を放置し、貴重品と術式装備などが入ったバックパックだけを背負う。
私も同じように選別し、残りの荷物に焼夷術式を刻んだ術札を張り付ける。
理君から借りた液タブは、あらかじめパックAに収めてある。
・・・これ、結構いい値段するんだよ。
すぐに術式を活性化、これでこの荷物を開いたり動かしたりしただけで、この部屋は火の海だ。
「姉さん、準備できたよ。計画通り?」
「当初の予定通り、作戦は続行。ただし、潜入工作から破壊工作へ移行、村の中心部、村長宅を目指す。可能な限りの情報を収集し、場合によっては被害者を救出。その後は脱出。いい?」
「りょーかい。」
琴音はそう言うと、ヘルメットに装着した暗視装置を右目の前に移動する。
以前、父さんがカフカスの遺跡の調査が終わった時に買ってきてくれた、ソ連製の第2世代型暗視装置だ。
赤外線投光装置を使わないとあまりよく見えないが、村人が暗視装置を使っている可能性は低いので今回は琴音に使わせることにした。
私は試験的に作成した暗視術式を使っている。
・・・うん。やっぱり科学には勝てないね。視界が広いのはいいけどさ。
「・・・廊下から懐中電灯を持って男が2名接近中、装備は・・・木刀?」
ポーチから術式榴弾を取り出し、キャップを外して構える。
十分に引き付けたところで、ボタンを押し込み、投擲する。
男たちの足元に落ちた瞬間に作動、破裂音とともにあたり一面にかなり強い衝撃をまき散らす。
よかったな、今回は炸裂術式じゃなくて。
「ぎゃ!?」
2人の男は短く悲鳴を上げると、全身を強張らせたまま動かなくなった。
あ、炸裂したのが股の下だったか。
「姉さん、今回は術式榴弾に致死性の術式は入れてないんだね。」
「・・・人聞きの悪いことを言わないで。ほら、移動するよ。」
黙っていよう。たまたま今の術式榴弾に入れてなかっただけだということは。
部屋を注意深く抜け出し、廊下をかける。
すると、今まで私たちがいた部屋の前で何人かの男たちの声が聞こえた。
「戌っ子が逃げたぞ!まだ近くにおるはずじゃ!捕まえろ!」
「荷物を置いていっちゅうぞ!身元が分かるもんが入っちゅうかもしれん、開けて調べろ!」
・・・いきなりかよ。せめて、戦闘が終了してから荷物を開けろよ。
っていうか、戦場で敵が置いて行った荷物に無警戒で触るとか素人か。
ブービートラップがあるにきまってるだろうに。
慌てて廊下を抜けて階段を駆け下りようとしたとき、宿泊していた部屋のほうから轟音が聞こえる。
気絶した連中は転がしたままだ。こりゃ、死人が出たかもな。
「馬鹿な連中・・・。確認もせずに荷物を開けるとか、サルかっつうの。」
「姉さん?自分の荷物に爆弾仕掛ける女の子は普通はいないからね?」
琴音が何か言ってるが気にしない。
階段を駆け下り、非常口のドアに手をかける。
・・・カギがかかっている。非常口だっつうのに、何を考えているんだ?
「あ、カギ?それなら・・・。」
琴音が何か言いかけたが、素早く背中からドアブリーチャーを引き抜き、粘着衝撃術弾をぶち込む。
ドアノブと、上下の蝶番に一発ずつ。
ふふん、こんなこともあろうと、だ。
「ね、姉さん・・・。」
ドアを蹴破り、近くの植え込みに向かって術式榴弾を最大出力にして投擲。
敵が隠れている可能性のある場所は吹き飛ばすに限る。
「ぎゃあ!」
耳をつんざくような轟音、そして粉みじんになって飛び散る低木と石灯籠。そしてボロボロになって転がる男。
ほら。やっぱり隠れてた。
ついでにまだ生きてる可能性があるから2~3発撃ち込んでおこう。
PDWのトリガーを強く握りこむ。
地面に転がった男に術弾が当たり、反動で数メートル吹っ飛ぶ。
・・・あ、そのまま川に落ちたよ。溺れなきゃいいけど。
「姉さん?少し楽しんでない?すごい笑顔だよ?」
はは、体を動かすのは大好きだ。
それ以上に、銃を撃つのが好きだ。
特に、生きてる人間を撃つのが好きだ。
民宿の4階からかなりの炎が噴き出している。
おかげで周囲が明るくて非常に助かる。
まあ、ここにはもう用はないんだけどね。
少し腰が引けている琴音の手を握り、長距離跳躍魔法の詠唱を行う。
「余計なこと言ってないで村長の家に行くよ。勇壮たる風よ。汝が翼を今ひと時我に貸し与え給え!」
一気に勝負をかける。
そして、主犯をとっ捕まえて、強制長距離跳躍魔法で証拠と一緒に黒川さんのところに送れば任務終了だ。
たった数キロしかないけれど、夜の闇を琴音と二人、村長の家の前まで夜空をかけていった。
◇ ◇ ◇
村長宅前
長距離跳躍魔法で跳ぶには近すぎるせいか、3秒もたたずに到着してしまった。
村長の邸宅の前から下を見下ろせば、私たちの宿泊していた民宿が燃えているのがよく見える。
「・・・あれ、現住建造物放火とかになるんじゃあ?」
「私たちは付箋紙付きの荷物を置いてきただけ。それに宿代はもう支払っている。気にする必要はないんじゃない?」
琴音の腰が引けている。まあ、それは仕方ないな。
さて、どうやって突入しようか。殴り込むか忍び込むか。
どうしようか悩んでいると、門の内側からかすかに女性の泣き声のような、あるいはうなり声のような声が聞こえた気がした。
「・・・姉さん、今の、聞こえた?」
「うん、聞こえた。どうやら行方不明になった女性がこの中にいるみたいだね。」
それなら話は早い。とっとと殴り込もう。
村長宅の門扉を琴音が押しているがびくともしない。
おそらく、門の内側に閂のようなものがかけられているんだろう。
腰の後ろにつけた鞘から、術式振動ブレードを引き抜き、グリップを握って魔力を流し込む。
「あ、今度こそ私が鍵を・・・。」
ん?鍵?いや、閂だから鍵じゃないし。
勢いよく、縦に振り下ろす。
術式振動ブレードは甲高い音を響かせながら、分厚い門扉ごと閂を叩き切った。
「さっきからなんの騒ぎじゃ!・・・今度はなんじゃ!なんの音じゃ!」
門扉の隙間から、術式榴弾を放り込む。
ふふ、たっぷり持ってきたからね。
めったに使えないんだ。
全部使いきってやる。
素早く門扉に隠れると、門内で大爆発が起き、村の空を赤く染め上げた。
「・・・あ。衝撃術式じゃなくて炸裂術式のほうを使っちゃった。まあいいか。」
注意深く門扉を押し、中を覗き込むと、村長の邸宅の前庭には数人の男たちが倒れていた。
白い着物を羽織り、下半身はふんどしと草鞋のみ。
「なんじゃぁ!お、おまえ、戌っ子か!?なんでこんな所におるがよ!猿山が身柄押さえちょったんじゃなかったがか!?」
「かまん、捕まえろ!座敷牢がちょうど二つ空いちゅうき!」
う~ん。いくら成人男性でも、ほとんどすっぽんぽんで完全武装した私たちをどうにかできるとは思えないんだが。
まあいいや。サクっと殺しておこう。じゃなくて、倒しておこう。
琴音と二人、腰に下げたPDW、そしてアサルトライフルを構えると、奥からさらに一人の男が姿を現す。
縛られた女性を抱え、その手には刃渡りの長い刃物を持ち、女性の首に押し当てていた。
「この女をや殺されたくなければ、おとなしゅう銃を捨てて降参せえ!」
男たちは、勝ち誇ったような顔しながらジリジリと近寄ってくる。
・・・んな、会ったこともないような女なんてなんで助けなきゃならないのよ。
構わずPDWを構え、トリガーに指をかける。
「姉さん。あれ、たぶん黒川さんのファイルにあった菅生凪咲さんじゃない?どうする?」
おっと。見捨てて一緒に撃ち殺すところだったよ。
「観念したかよ。おとなしゅうしちょけ。その銃をこっちに寄こせ。」
ゆっくりとこちらに手を伸ばし、P90を奪おうと近づいてきた男の目を見て、ニッコリと笑いかけ、朗らかな声で叫んでやった。
「・・・タルタロスの深淵に在りしニュクスの息子よ!安らかな夜帷の王よ!汝が腕で彼の者を深き眠りに誘い給え!」
魔力総量底上げ済みの魔力と、腰につけた魔力貯蔵装置一つ分の魔力の全力、正真正銘私にできる最大の効力を持って、無差別広範囲に強制睡眠魔法をぶち込んでやった。
バタバタと男たちが倒れていく。
視界内のすべての人間が身動き一つしなくなったところで、ふと後ろを振り向くと、涼しい顔をして琴音が立っていた。
・・・やっぱりか、琴音の抗魔力、どんだけなのよ。
あ、共犯者っぽい連中には、撤収する前にちょっと仕込みをしておこうか。
◇ ◇ ◇
南雲 琴音
宿の部屋で襲撃を受けて、部屋に入ってきた男を撃ってから、ほとんど活躍できなかった。
非常階段出口のカギを強制開錠魔法で開けようとしたら、いきなりドアそのものを吹き飛ばすし、いつの間にか仕掛けてあった炸裂術式で小屋は燃やすしアンテナ鉄塔はへし折るし。
それに、術式振動ブレードの切れ味があそこまですごいとか聞いてないよ。
私のフレキシブルソードよりずっと怖いじゃない。
「何ボーっとしてるのよ?ほら、菅生凪咲さんだっけ?顔を確認して保護。強制睡眠魔法の解除時間を設定してから強制長距離跳躍魔法で合流地点へ直ちに移送。いい?」
「あ、うん、わかった。・・・よし、顔に間違いはないよ。本人で間違いない。それじゃあ・・・勇壮たる風よ。汝が御手により彼の者を在るべき処に誘い給え。」
合流ポイントには、明日の朝になれば太田さんが迎えに来てくれるように連絡済みだ。
それに、ここから約100キロ離れた神社の裏山、瀬戸内海を挟んで向こう側に設定してある。
ふふん。万が一合流ポイントが襲われても、あそこは吉備津彦さんの本拠地だ。
・・・鬼を100匹連れてきてもどうにもなるまい。
これでこの人の身の安全は確保した。
でも、ほかにも4人ほど行方不明になっているんだよね。
仄香みたいに強制自白魔法が使えたらいいんだけど。
ん?
「・・・姉さん、何やってるの?」
さっきから姉さんが棒切れをもって気絶した男たちの股間のふんどしを突っついている。
そんなものに興味でもあるのか?
「ん?ああ、二度と悪さできないように炸裂術式をね。大丈夫だよ、近くに女性がいるときに変形させなければ発動しないから。」
「・・・姉さん、男の人は興奮しなくてもソコを変形させるのよ。殺す気がないなら術式を解除したほうが・・・。」
姉さんは手を止めようとしない。
うん、だめだ、聞きゃしないよこの人。
◇ ◇ ◇
昏睡した村人たちを引きずり、屋根のあるところに放り込んだところで、村長宅の家探しを開始する。
キッチンや居間で数人の住人が昏睡していたが、命に別状はないようだ。
・・・だから姉さん、その術式を刻むのをやめようよ。知らずに勃起させたら大変なことに・・・。
「あ、こと・・・絃子。こいつ、村長じゃない?叩き起こして話、聞いてみる?私の強制睡眠魔法程度なら、殴れば起こせるよ?」
姉さんは座敷の奥で見つけた村長を後ろ手に縛りあげ、目隠しをしながら聞いてきた。
「う~ん?話を聞くのは賛成だけど、どうやって聞くの?」
私がそう答えると同時に、姉さんはいきなり銃の台尻で村長の股間を殴りつけた。
「おきろ~。起きないとちょん切るよ~。」
「ギャア!・・・ひぃ!お、おまんら、戌っ子かよ!なんでこんな所におるがぞ!わしをどうする気ぜよ!」
あ、起きた。
「おはよう、村長。ルールは三つ。一、私の言うことに正直に答える。二、質問をしない。三、私を不機嫌にしない。ルールを破ったらお前の体重が少しずつ減る。Did you understand?」
「ふざけるな!おまんら、何しゆうか分かっちゅうがか!こんなことして、この村のもん全部を敵に回す気か!」
「・・・早速ルールに違反したね。じゃあ、1か所。」
姉さんはポーチから拳銃を引き抜き、村長の左足の小指に押し当てた。
・・・そのまま発砲。
「ぎゃあぁぁぁ!おまん、正気かよ!こんなことを・・・。」
「また違反。もう1か所。」
同じく左足の中指に押し当て、発砲。・・・あ、よく見たらスタン弾を使ってる。さすがに切り取る気はなかったか。
「ぐ、ぐぅぅぅ!こんなことして、わしがしゃべる思うたか!?」
「うん、思ってる。じゃあ、次はこっちにしようか。」
姉さんは村長の足を握り、ひっくり返してから股間に銃を押し当てた。
「がぁ!な、なにを・・・。」
「あー、ここは二つしかないからね。いや、真ん中も含めば3回か?まずは右から行ってみようか。」
「わ、わかった!話すき!全部話すき!ほいたき、もうやめてくれ!」
「う~ん。じゃあ、一発だけはおまけしてあげよう。で、聞きたいのはこの村の・・・。」
姉さんの尋問が始まる。
・・・妙に手馴れてるな。さては、健治郎叔父さんに尋問の訓練でも受けたのか?
◇ ◇ ◇
姉さんによる一通りの尋問が終わり、大体のことが分かってきた。
村長は部屋の隅でガタガタ震えている。
あの後、十数発はぶち込んでたからね。
行方不明者について白神様とかいうのがすでに食ったとか、わけの分からないことを言っていたからまあ仕方がないか。
あ、黄色い液体に赤いものが混じってるよ。
たぶん、腎臓を損傷したな。こりゃ、死ぬまで人工透析だ。ちょっとやりすぎじゃない?
《琴音。村長の話によると、そこの土蔵に男性が1人、女性が2人捕らえられているはず。あと1人の女性については分からないけど、とりあえず身柄を保護するわよ。》
念話で姉さんが指示する。
・・・こういったことは姉さんに従っておけば間違いないだろう。
《じゃあ、手分けする?土蔵のほうは私に任せておいてくれれば・・・。》
《却下。それは死亡フラグよ。要救助者の命より、まずは私たちの身の安全。間に合わなければそれまでよ。》
・・・最近、姉さんの性格、変わった?
村長をもう一度眠らせた後、土蔵まで行くと不用心にも扉の鍵は開いていた。
くそ、本当に私、活躍していないな。
土蔵の中には、座敷牢が6部屋あり、うち3部屋に男性が1人、女性が2人囚われていた。
姉さんが術式振動ブレードで木の格子を切り落としていく。
まるで、豆腐か何かを切っているみたいだ。
「あれ?この人、栗田さんじゃない?顔、ボコボコだけど。」
「あ、ほんとだ。でもこのままだと死んじゃうかもよ?傷口が化膿し始めてる。破傷風になりかけてるね。自動詠唱。0-1-1。0-2-1、0-3-1、0-4-1、0-5-1、実行!ついでに0-15-1。実行!」
幸い、姉さんのおかげで座敷牢の中の人間はみんな眠りこけている。
それにしても、この自動詠唱機構、ものすごく便利だな。傷の縫合から破傷風対策まで1分かからないとか、完全に異常だよ。
和香先生が見たらなんていうだろうか。
「・・・琴音。相変わらずすごいわね。まったく勝てる気がしないわ。」
何を言ってるんだこの人?
まあいいや。気を取り直してほかの座敷牢を覗く。
こっちの女性は・・・衰弱してるけど、命に別状はない。
もう一人は・・・。
・・・妊娠してる。
「くそ、最悪だわ。満22週を完全に超えてる。」
「琴音?どうしたの?・・・うっ。なにこれ。・・・ひどい。」
村長宅にいた村人たちの服装、奇祭の内容、村人たちの目線、この村に若い女性がいない理由、そして高齢の女性の性感染症の多さ・・・。
理解できた。理解してしまった。
目の前で眠る女性を前に、思わず手を止め立ち尽くしてしまった。
この村は、最悪だ。
こんなところに、姉さんを連れてくるんじゃなかった。
気を取り直し、姉さんと協力して3人を土蔵から出す。
空が見える場所に寝かせ、強制長距離跳躍魔法の詠唱にかかろうとしたところだった。
ズズンっという、腹に響く音が村中に響き渡る。
爆発音でもない、まるで何かとてつもなく重いものが動いたような音が。
「・・・姉さん!とにかくこの3人を安全なところまで送るよ!勇壮たる風よ!汝が御手により彼の者を在るべき処に誘い給え!」
3人が宙に浮かび上がり、北東の空に消えていくのを見送りきる前に、西の空に輝いていた星のいくつかの光が消える。
「・・・なに、・・・あれ?」
そんな呆けたような声を出したのが、自分か、姉さんか、分からなかった。
見れば、西の山の中腹に、燃え盛る民宿の炎に照らされてその身を赤く染めた白い巨人が立ち上がっていた。