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160 襲撃/言うほど奇祭じゃない

 3月1日(土)


 南雲 琴音


 それほど多くの収穫を得ないまま、三日目の昼を迎えてしまった。


 特に見るものもない村でブラブラしているのもおかしいので、初日と二日目で分かったことを二人で記憶補助術式や自動書記術式を使ってまとめることにした。


「う~ん。この村、怪しいところは結構あるんだけど、その全部に不法侵入するのも抵抗があるのよね。まあ、この宿の温泉は気持ちいいんだけどね。」


 温泉の洗い場や露天風呂の中にも隠しカメラがあったようだが、姉さんがしっかりと無力化しておいてくれた。

 おかげで安心して長風呂ができたよ。


 それにしても・・・この村、ちょっと監視カメラ、多すぎやしないか?


 隠しカメラのことは置いておくとして、宿の中には共有スペースには必ず2つ、建物の外に各方向に一つずつ、そして電柱には50メートルおきくらいに監視カメラがついている。


 ここってそんなに治安、悪いのか?


「う~ん、よし、できた。今まで会った村人の似顔絵、全部書いたからスマホでクラウドに保存しておいて。」


 クラウドは黒川さんが用意したもので、アップロードしたデータはすぐにバックアップしてもらえるらしい。


「あ、私も村の中の建物の外観図と間取り、それから地図を作ったよ。・・・なんか公表されてる地図とずいぶん違うみたいなんだけどね?」


 まったく、記憶補助術式と自動書記術式は便利なことこの上ない。


 スマホで人の顔をバシャバシャ撮影していれば変に思われるだろうが、ちらりと見て回っているだけなら文句もなかなか言えないだろう。


 それに、「液タブ」とかいう(おさむ)君から借りてきた道具で書いたおかげで、いちいち書いた紙をシュレッダーにかける必要もない。


 まあ、建物とかはさすがに写真を撮ったけどね。

 それに、中には入れなかったけど、門の前まではきっちり行った。

 これでいつでも長距離跳躍魔法(ル〇ラ)でショートカットが可能だ。


 お昼時もかなり過ぎたので少し小腹がすいてきた。

 そういえば、今日はお昼ご飯を食べていない。


「姉さん、おやつにしない?」


「おやつっていうか軽くおにぎりとか食べたいわね。」


 ひょいと立ち上がり、財布をもって近くのコンビニに行こうとしたところ、廊下から男性の声がかかった。


「宇垣さん?今夜、村でお祭りがあるがやけど、せっかくやき参加せんかえ?うまい料理や面白い出店もあるき、ぜひ来とうせよ。」


 姉さんと顔を見合わせ、会話を念話に切り替える。


《いよいよ仕掛けてきた?黒川さんの言った通り、やっぱり村ぐるみなのかな?》


《琴音。新しくブラウスに刻んだ対薬品・毒劇物抵抗術式を常時オンに。行くわよ。》


 姉さんが部屋の入り口の引き扉を開けると、そこには女が一人、男が二人立っていた。

 ・・・三人とも40代以上だ。


「じゃあ、今から支度しますね。会場はどこですか?」


「ああ、支度できるまで待ちゆうき。会場に案内しちゃおう。」


 ・・・ずいぶんと押しが強いな。第一声で断ったらどうなったんだろうね?


 まとめてある荷物に液タブを突っ込み、姉さんが作った装備をすべて身に着ける。

 ・・・液タブはいつでも持ち出せるほうの荷物に入れておこう。失くしたら(おさむ)君が泣きそうだ。


 最後に、楽器のソフトケースを背負い、二人でもう一度扉を開けると、なぜか男がもう一人増えていた。


 大柄、浅黒い肌に金髪、ちょっと嫌な感じのマッチョ。

 初日に沢で私のことをナンパしようとした男じゃないか。


「ほらほら、村の公民館前の広場で祭りの準備が始まりゆうぞね!さあ、さあ!」


 宿の人は、お祭りに参加するのであれば、夕食はそちらで食べられるように取り計らうと言ってくれた。仕出し弁当でも出るのだろうか。


 妙に強引な男たちと一緒に、マイクロバスに乗り込む。

 姉さんは・・・。相変わらず涼しい顔してるね。


《姉さん。落ち着いてるね。》


《そりゃあもう。リビアで出会った教会の使徒とかいう連中に比べればかわいいもんよ。自動詠唱機構(オートチャンター)で一瞬で眠らせることも殺すこともできるし。》


 う~ん、最近姉さんが好戦的で困るな。もっと優しかったはずなんだけど。


《とりあえず、調査が目的だからいきなり暴れないでね。》


《わかってるよ。でも万が一、琴音が人質に取られたら問答無用で強制睡眠魔法をぶち込むからね。琴音の抗魔力なら大丈夫でしょ。》


《え~。自信ないなぁ。》


 姉さんと念話でそんな話をしているうちに、お祭りの準備をしているという公民館前に到着した。


「着いたぜよ。お客さんは主賓やき、こっちへどうぞ。それぞれ衣装を用意しちゅうき、更衣室も別々にしちゅうがよ。案内するきね」


 お?連携できないように二人を分断して、そのうえで装備を奪うつもりか?


「あ、すいません、妹の絃子(いとこ)は極度の人見知りなんで、私がいないとダメなんです。衣装って浴衣とかですか?」


「え、ああ、ただの半纏やけんど・・・。」


「それなら羽織るだけなんで更衣室は一つでいいです。ほら、絃子(いとこ)。行くよ。」


 姉さんは男が一瞬戸惑った隙を見逃さず、私の手を引いて公民館の中に入る。

 相変わらず反応が早いね。


《困ったわね。半纏を着て祭りに参加となるとPDW(P90)アサルトライフル(MASADA ACR)も使えないわね。しゃーない。更衣室に置いておくか。》


 更衣室には、何人かの高齢の女性が待ち構えていた。

 ・・・またあの臭い。


 姉さんはこちらを見ると頷き、細菌・化学防護術式を起動する。

 そういった感染症に罹っているということは、「そういったこと」をしたということだ。


 だが、これほど末期になるまで放置しているのはなぜだ?

 バスで4時間もいけば大学病院だってあるのに。


 更衣室の女性から渡された袢纏をメガネの鑑定術式で確認する。

 ・・・きっちりクリーニングされているようだ。

 毒や細菌の付着はない。


 姉さんと二人で着替えていると、先ほどとは別の高齢の女性からスポーツドリンクのようなものが手渡された。

 まだ封は切られていないようだ。


「まだ寒い時期やけんど、水分はちゃんと取っちょかんと危ないきね。」


《・・・琴音、どうする?》


《毒物・薬品の反応はないから大丈夫。ただ、一度封を開けたら、一気に飲んじゃうか二度と口をつけないで。それに鑑定術式は必ずしも万能じゃないから。》


 ・・・健治郎叔父さんが作ったこの鑑定術式付きのメガネ、実は鑑定に関するところには私の鑑定魔法を術式化したものが使われている。

 おかけで私が知らない未知の毒や病原菌に対しては無力なんだよね。


「ありがとうございます。では後でいただきますね。」


 姉さんはそう言い、スポーツドリンクを二本受け取った。

 ・・・少し警戒しすぎか?だが、先ほどから女性だけが感染している性感染症が気になって仕方がない。

 なぜ男には病原菌の反応がないんだ?


 袢纏を羽織り、荷物を大きめのロッカーに入れたところでナンバー式のロックをかける。さらにその上から姉さんが術式で施錠する。


 準備ができたので公民館の表に出ると、いよいよ祭りが始まろうとしていた。


「わっしょいわっしょいぜよ!」


 建物の影、辻を曲がったところから何か神輿のようなものを運んでくる掛け声が聞こえる。

 村人たちが辻を曲がり、運んできた「神輿」が見えた瞬間、私たち二人は思わず吹き出してしまった。


「「ブフォ!ゲホゲホ、ゲフンゲフン!」」


 でかい男性器って!しかも無茶苦茶リアルだし!

 これ、ダメなヤツじゃん!地上波で流せないヤツじゃん!


 慌てて頭の中でモザイクをかける。


「う、うわ~。男の人のってあんなになってるの・・・?」


 いや、確かにそうだけど!でもあそこまで似せることはないじゃん!

 ・・・私だって和香(のどか)先生のところで下腹部の手術とかの患者さんのを見たことがあるだけだよ。


 村人たちはものすごい熱気で、その・・・ナニを担いで沢のほうに下っていく。


 追うように村人たちのあとについていくと、先頭にいた小太りの男性が何かを叫び、滝つぼの中にナニをぶち込み、そして沢に白米をまき散らした。


「・・・ああ、なるほどね。この村は金精神を祀ってるんだ。東北地方から関東地方北部に多い信仰なんだけど、こんなところでも信仰されていたんだね。」


 何というか、分かってしまえば奇祭というほどのことはない。ということは女性陣の性病というのはやはり・・・?


「こと・・・絃子(いとこ)。どういこと?」


「金精神っていうのは、性器信仰の一種で子宝、安産、縁結び、下の病や性病などに霊験があるとされる道祖神の一種なのよ。温泉や水源を女性器とみなして、それが枯れないように男性器を模したモノを放り込むっていうのは日本中である信仰なのよね。」


 ということは、この村、金精神の信仰が強すぎて下の病や性病を医療で治そうとする気が起きなかっただけなのか。


 少し納得したように感じながら、興奮冷めやらぬ村人たちとともに公民館の前まで戻る。

 考えすぎだったかな。あとは出店を適当に回って、宿に戻ればいいか。

 あ、晩御飯、どうしよう?


 ◇  ◇  ◇


 南雲 千弦


 度肝を抜かれる奇祭が終わった後、琴音と一緒に出店を回る。


 射的や金魚すくい、ヨーヨー釣り、そしてカタヌキといった、口に入らないモノを取り扱う屋台をめぐった。


 祭りは十分に堪能したので、袢纏を返して荷物を回収しようかと公民館の更衣室に戻ろうとしたところ、数人の年配の男性に声をかけられた。


「お嬢ちゃんたち、楽しみゆうかえ?近くの町の(すし)屋が今年もうまい(すし)を持ってきてくれたき、どうぜよ?もちろん金なんか取らんき、安心して食べとうせよ。」


《姉さん、どうする?村長さんとか、結構偉い人もいるみたいだよ?》


 ・・・そういえば今日は何にも情報集めをしていなかったな。このまま宿に帰って休むのは黒川さんにも悪いだろう。


《虎穴に入らずんば虎子を得ず、ね。今日の分の情報収集、やっちゃいましょうか。》


「ではお言葉に甘えて。っと、その前にこの袢纏、汚すといけないから返してきますね。」


 琴音の手を引き、公民館の更衣室へ戻る。

 袢纏を脱ぎ、ロッカーから上着を取り出そうとしたとき、今日初めての異常に気付いた。


《琴音。ロッカーのカギ、一度開錠されてる。・・・術式による施錠は突破できなかったか。いよいよお出ましね?》


《マジか~。ま、初めからそういう仕事だったしね。》


 ロッカーから上着と身の回り品、そして楽器ケースを取り出し、装備する。

 P90、そしてSteyr L9A2(ステアー)、予備マガジン2本、・・・内一本は新開発の術弾を装填している。


 身支度を整えて公民館の中にある大広間に行くと、そこはすでにどんちゃん騒ぎの真っ最中だった。


「お、嬢ちゃんたち来たのう。ほれ、こっちぜよ。未成年やき、ジュースでええろう?」


 気前のよさそうなおっちゃんが炭酸入りのオレンジジュースの缶を差し出してきた。


 念のため自動詠唱機構(オートチャンター)を使って缶に付着物がないか鑑定する。


 ・・・よし。問題ない。

 中身までは分からないけど、炭酸入りなら注射器などで薬を混入されることもないだろう。


 桶に入った鮨は、まだ誰も手を付けていないものが回されてきた。


 同じように鑑定するが、毒物、薬品も含まれていない。衛生管理も問題ないようだ。


 琴音のほうを見れば、缶ジュースを開け、(すし)に箸を伸ばしている。


 う~ん。少し考えすぎなのだろうか。

 味のほうは・・・うん。普通に美味いな。

 宗一郎おじさんに連れて行ってもらったお店の味には勝てないけどね。


 あ、あの醤油はやめよう。

 カンナビノイドの反応が出てる。


 少しお腹もいっぱいになってきたところで席を立ち、何人かの村人に話を聞きに行く。

 警察の聞き込みのような聞き方ではなく、あくまで子供らしく、村の風習に絡めて昔話を聞くような感じで。


「ねえ、お兄さん。村のこと聞かせて?」


 お?こいつ、たしか村長の息子で鬼塚とか言ったっけか?


「お、かわいい娘さんやのう。お酌してくれるがかえ?」


 すでにかなり飲んでいるであろう男のコップに、さらにビールを注ぐ。

 男は嬉しそうにコップに口をつけると、上機嫌でしゃべり始めた。


 斜め前を見れば、同じように琴音も聞き込みを始めている。

 村人はすでにかなり飲んでいるようだ。

 今日は情報収集が一気に進みそうだな。


 ◇  ◇  ◇


 深夜(日が変わる寸前)


 栗田 大翔(はると)(博多弁をしゃべる大学生)


 頭が痛い。

 ・・・ここはどこだ。

 左の二の腕を刺された傷も、ジクジクと痛む。


 まったく自由が利かない体を何とか引き起こし、目を開くと、薄暗い牢屋のような格子がある部屋に押し込められていることに気付いた。

 ぼんやりとする頭を振りながら格子の向こうを見ると、同じような部屋がいくつもあるように見えた。


 ここは・・・蔵の中か。いわゆる座敷牢というやつだな。

 それにしても、ずいぶんと大規模な座敷牢だ。ざっと見ただけで4部屋、この部屋の左右にも同じように部屋があるなら6部屋の座敷牢があることになる。


 これほど大きな蔵を持つ家は一つしかない。ここは村長の鬼塚の屋敷だろう。


 どうやらほかの座敷牢にも誰かが入っているようで、ゴザの上に人のようなものが転がっている。


 しばらく周囲の様子をうかがっていると、蔵の扉が開き、何者かが入ってきた。


「村長、例の戌っ子(いぬっこ)の身柄を押さえちょります。すぐにこっちへ連れてきますか?」


「もちろんや。何年ぶりの神嫁(しんか)かのう。それも戌っ子(いぬっこ)とは、まっこと縁起がええ。儀式の後、降嫁(こうか)を下されたら、おまんらの好きにしてかまんぜよ。もちろん、最初は儂やけんどのう。」


「また生娘やったらええのう。」


「・・・ああ。この村にはもう中古しか残っちょらんきのう。アレは危険やき、年寄りにでもくれちょったらええろう。それより、戌っ子(いぬっこ)たちの写真や情報を集めゆう奴は何しゆうがや?」


「いや、防犯カメラやネットワークの不具合らしいがよ。今回ゃ思うたように映像が撮れんかったがです。」


「まあええ。身柄は押さえちゅうき、あとはどうにでもなるがよ。戌っ子(いぬっこ)がステレオで鳴くと思うたら、今から楽しみでならんぜよ。」


「まあ、それは明日以降のお楽しみやのう。今夜はこいつを使おうぜよ。もうヤク漬けやけんど、まだ五体満足やきのう。」


 男どもは下卑た声で笑うと、俺の隣の座敷牢を開け、その中にいた誰かを引きずり出す。


「アアア、アアアァァァァ!」


 獣のような声を上げ、女が暴れている。

 いや、どこかで聞いた声だ。


「・・・凪咲(なぎさ)?・・・おい!凪咲(なぎさ)か!返事せんね!おい!」


「ア、アァァ・・・ひ、大翔(ひろと)、た、助けて・・・。」


 慌てて座敷牢の格子に飛びつくが、木材で作られた割に恐ろしく堅牢なそれはビクともしない。


「なんじゃ、兄ちゃん、この娘のボウズ(彼氏)やったがか?そりゃすまんことしたのう。もう白神様んとこに嫁に行かしてもうたき。ほじゃきに、村長んとこで犯った後やったがよ。んで、男衆みんなで食べた後やき。」


「貴様!凪咲(なぎさ)ば離せ!俺たちばここから出せ!」


 格子から手を伸ばすが、届かない。

 その手を、木の棒のようなもので強く叩かれる。


「おい。この男、ずっとこの村を嗅ぎまわりよったろう。外部になんぞ漏らしちゃあせんか?」


「拷問しちゃあ聞き出すか?」


「そうやな・・・。死なん程度に痛めつけちょけよ。スマホの暗証番号も聞き出しちょけよ。あと、クラウドに何か保存しちゅうかもしれんき。仲間がおるかも確認しちょけ。」


「終わったら例のとこにか?」


「ああ。地獄の後は天国に連れて行っちゃりや。薬打つん忘れんなよ。そうせんと結局また地獄やきのう。」


「白神ってなんばい!おまえら、凪咲(なぎさ)ばどうするつもりや!」


 叫び続ける俺を無視し、男たちは蔵から凪咲(なぎさ)を連れ、出て行った。


 ◇  ◇  ◇


 ???


 祭りも終わり、夜も更けたころ、数人の男が村で唯一の民宿に向かって軽トラックを走らせている。


 荷台には、小さな村には不似合いな、本格的なNBC防護服を着た3人の男が乗り、うち1人は黄色く塗装された大きなボンベを背負っていた。


 民宿の前に駐車すると、その従業員たちの案内で正面玄関から堂々と入っていった。


戌っ子(いぬっこ)が泊まりゆうのはどこや?今、部屋の中におるがか?」


「406号室ですき。二人ともぐっすり寝ゆうがをカメラで確認しちょります。」


 実際にはカメラの映像だけでなく、合鍵でロッカーのカギを開けたにもかかわらず、ロッカーそのものが打ち付けられたかのように開かなかったので荷物を調べることもできなかったのだ。


 こんなことなら二人が不在の間に宿のほうの荷物を漁っておくべきだっただろうが。


 男たちはエレベーターで4階まで上がり、足音を忍ばせて廊下を進んでいく。


 部屋の前で立ち止まると、一人の男が扉の隅に開けられた穴からボンベにつながったホースを差し込む。

 シューというかすかな音がした後、1分ほどしてからゆっくりとホースを引き抜いた。


「よし、これで朝までぐっすりや。しかも、醤油に例の薬ぁ仕込んじょったき。今なら指ぁ切り落といても目ぇ覚ますことはないろうよ。」


 男たちはそれまで声を潜めていたのが嘘のように大笑いし、引き扉に手をかけ、合鍵で扉を開ける。


 いまだに煙が立ち込めている部屋に一歩、足を踏み入れた瞬間、思いもよらないところから声がかかった。


「ずいぶん遅かったわね。待ちくたびれたわよ。」


 ガスが煙る入り口横に、平然と少女がライフルを構えて立っている。


「な、なんでガスが効かんがじゃ!熊でも眠らせるがぞ!?」


「うるさい。っていうか姉さん、もう撃っていい?」


「いいよ。どうせスタン弾だから死にゃしないし。死ぬほど痛いけどね。」


 少女の問いかけに、部屋の奥からまったく同じ声が響き渡った。

 男たちは驚いて部屋から飛び出そうとしたが、体を翻す前にパパパ、という軽い発砲音が響いた。


 白い弾丸のようなものが男たちに当たった瞬間、軽い発砲音とは比べ物にならないほどの衝撃、そして激痛が襲い掛かる。


「ぐぎゃぁ!」


 まるでカエルが潰れたような声を出し、男たちはその場に倒れ伏す。

 

「相変わらず姉さんの術弾は非常識だわ。うわ、これ・・・神経ガスの一種じゃない。術式だけで対抗できるとか、ふつうはあり得ないから。」


「え?神経ガス?こいつら、私たちのことを殺す気だったのかしらね。・・・おっと、姿勢を低くして。外からも狙われてるよ。」


 部屋の窓ガラスが割れ、催涙弾のようなものが放り込まれる。

 一瞬で白い煙に包まれる。

 だが、あろうことか少女は催涙弾に咽せることもなく、それを冷静に蹴り飛ばした。


 男たちは煙の中に立つ二人の少女たちを前に、一切のガス、薬品が効かないことに驚きながら、意識を失った。


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