159 四国の寒村/潜入開始
グロ描写はありますがエロ描写はありません。
また、作中では土佐弁と博多弁が使われますが、作者はネイティブではないのでもし間違いがあったら、そっと指摘してください。
2月27日(木)
南雲 千弦
黒川さんから事前にもらった国鉄の切符と必要経費を握りしめ、四国のど真ん中まで来た。
・・・まさか、アルバイトの初日が丸々研修に費やされるとは思わなかったよ。
伊予三島駅で降りて、バスに揺られること約4時間。
・・・ここ、本当に日本なんだろうか。
舗装されてないバス通りとか、生まれて初めてだよ。
崖が迫り、鬱蒼とした細い山道を抜けると、そこは山に囲まれた盆地のような所だった。
「次は矢木沢村~。矢木沢村~。終点です。お忘れ物の無いようにお気を付けください。国鉄四国バスのご利用、ありがとうございました~。」
少し道が広くなったところに屋根と壁だけがある停留所の前にバスが止まり、運賃を払ってバスから降りる。
「うわ~。姉さん、きれいなところだね。藁ぶき屋根の家がそこら中にあるよ。あ、あの沢、すごく水が透明だ。アレ、観光資源にならないかな。」
「・・・厄介ね。術弾の3割を焼夷術式に変えたばかりだっていうのに・・・ま、考えようによっちゃあこっちが有利か。だって家ごと犯人を燃やせるもんね。」
「・・・姉さん?言ってることがすごく怖いよ?」
琴音が脳みそお花畑なことを言っているが、黒川さんの話が正しければすでにここは敵地だ。
いや、警戒だけならバスに乗った時からしている。
《琴音。リングシールドとフレキシブルソードをいつでも使えるようにして。自動詠唱機構は常時オンに。1時間おきに魔力貯蔵装置のインジケータ表示を確認。残量が7割を切ったらすぐに予備のシリンダーと交換。仕事の内容に関する話はすべて念話のイヤーカフを使う。いい?》
「うぇ!?あ。《うん、了解。》」
琴音が慌てて自動詠唱機構の電源を入れ、魔力貯蔵装置のインジケータを確認する。
・・・装備が足りない。
はあ、リビアでの戦闘の後、仄香にこっぴどく怒られたんだよね。
おかげで業魔の杖は取り上げられるし、全自動詠唱機構は無断での作成を禁止されるし。
おかげで戦力が大幅ダウンだ。
いくら数式を使って作成したとはいえ、72万単語分の詠唱を作るのは大変だったのに。
まあ、やりすぎたのはわかってるけど。
「姉さん。私たちが宿泊するのってあそこかな。ええと、民宿『猿山』?へぇ~結構しっかりした旅館じゃん。」
琴音の指差すほうを見ると、それなりに豪華な旅館がある。
こんな山奥には似つかわしくないほど大きな建物だ。
そのわりに名前が「民宿・猿山」?
「とりあえず、チェックインしよう。宿代は・・・先払いか。まるでビジネスホテルみたいね。」
自動ドアをくぐり、フロントにあるベルを鳴らすと、奥から女将さんらしい人が出てきた。
「今日から2名6泊で予約した宇垣です。よろしくお願いします。」
「ありゃありゃ、女の子二人とは聞いちょったけんど、戌っ子やとは思わざったちや。ありがたやありがたや。」
「いぬっこ?それは双子という意味ですか?」
「ほうよ。子を授かったら戌の日に帯祝いをするがやき。犬はようけ子を産むき、この村じゃ双子のことを戌っ子って呼ぶがで。」
「へー。姉さん。よく分からないけど、ありがたがられるならいいんじゃない?女将さん。今日から一週間、よろしくお願いします。」
朝晩の二食付きで一泊当たり一人1万円か。
消費税込みで13万2千円。女子高生が使うには少し高い宿のような気もするけど、経費だから気にしない。
領収書だけしっかりともらっておく。宛名は日暮里高校文芸部だ。
黒川さんの指示通り、宿帳に二人の偽名と偽の住所を記入し、支払いを済ませてから宿泊する部屋を案内してもらう。
ちなみに私は宇垣弓子、琴音は絃子だ。
「結構見晴らしがいい部屋ね。・・・あそこの小屋、それとあの茂み、それからアレは・・・アンテナ?よし、確認しておこう。」
「ふう。とりあえず一息ついたわね。着替えたら夕食まで時間があるし、温泉にでも入ろっか。・・・姉さん、何やってんの?」
・・・琴音のほうを向いてイヤーカフをトントンと叩く。
《しばらくの間、会話禁止。必要なことは全部念話で話して。それと、まだ室内の確認が終わってない。盗聴器と隠しカメラを確認するから着替えるのは待ってて。》
《わかった。じゃあ、荷物広げてるよ。》
どんな盗聴器も隠しカメラも、必ず電気を消費して稼働する。
こんなこともあろうかと、電気の流れを可視化する術式を作っておいたのだ。
魔力密度可視化術式と合わせて、部屋の中すべてを調べていく。
《・・・やっぱりあったよ。盗聴器が3つ、隠しカメラが3つ。ご丁寧にそれぞれ一つずつは有線だよ。》
《マジかぁ~。で、どうするの?やっぱり壊すの?》
《いや、壊せば私たちが怪しまれる。だから、それぞれにダミーの音声と映像を走らせておく。ふふん。こんなこともあろうかと、仄香に干渉術式を習っておいたのよ。》
・・・いや、実際、干渉術式は術式回路の構造が難しすぎてギブアップしかけたんだよな。
おかげで基本的なことしか覚えられなかったよ。
とにかく、部屋の中にいるときはテレビを見ているかスマホを見ているか、あるいは眠っている映像を流しておく。
それにしても・・・トイレの中にまで仕掛けてやがった。
くそ、これを仕掛けたやつは変態に違いない。
だが・・・馬鹿め。有線ということは、こっちからどこにつながってるのか丸わかりだっての。
継ぎ目のない繰り返し映像を流す干渉術式を起動した後、スカートの裏地の電磁熱光学迷彩術式を静かに起動させ、ゆっくりと立ち上がった。
◇ ◇ ◇
???
旅館の事務所の奥、薄暗い警備員室で二人の男が話している。
「今日泊まりゆう娘は戌っ子らしいのう。年はいくつながや?」
「宿帳にゃ17歳って書いちゅうで。東京の高校に通いゆうらしいがよ。」
男たちは正面の大きな画面に映し出された和室で、座布団に座ってスマホを触る娘とテレビ画面を見ている娘を交互に見る。
「何しに来たがは知らんけんど、戌っ子っちゅうがは縁起がええのう。鴨が葱を背負うて来たっち、まっことこのことや。」
「ほいたのう。ええ子を産みそうや。あの二人、何泊するつもりながや?」
「6泊やと。ほいたら今回は何日目にするがで?」
カレンダーをめくり、日程を確認する。
「村長さんは明後日帰ってくるきのう。その後っちゅうことは3日目か4日目やのう。」
「ほいたら、3日目の晩飯に一服盛ることで決まりやのう。」
片方の男は立ち上がり、金属製の棚からガラス製の小瓶を手に取る。
「分量を間違えたらいかんぞ。めったにおらん戌っ子やきのう。殺すにはあまりにも惜しいき。」
「分かっちゅう。もう二人も死んじゅうがやき。さすがに分量は覚えたぜよ。」
小瓶をポケットに入れ、一人の男は薄暗い部屋を後にした。
残った男は一人、つぶやく。
「初物はいつも村長が食うがよのう。たまには先に俺らが食いたいぜよ。」
男は警備員室の大きなモニターを見ながら大きくあくびをしたのち、机の引き出しからいかがわしい雑誌を取り出し、読み始めた。
真後ろに姿を消した少女が息をひそめて立っていることにも気づかずに。
◇ ◇ ◇
南雲 琴音
姉さんが部屋から出て行って10分くらいだろうか。
隠しカメラもしっかりと欺瞞してくれたらしいので、荷物を解き、姉さんが貸してくれた銃を取り出す。
・・・まさか私までこんなもんを使う羽目になるとは思わなかったよ。
黒川さん曰く、「術式がなければただのエアガン。日本では魔法や魔術は法律で取り締まれない。ガンガン使いなさい。」って言ってたけど、コレ、普通に車のドアとか貫通するんだけどな。
姉さんが貸してくれたコレは、アサルトライフルというらしい。
よくわからないが、本物を作っているメーカーが作ったエアガンだそうだ。
ストックが180度折れる構造になっているおかげで、楽器のケースに収まる。
おかげで、二人そろって楽器ケースを持っての旅行になってしまった。
マガジンを差し込み、いつでも撃てる状態にする。
楽器ケースに戻し、担いで部屋を出る。
・・・その他の荷物は貴重品以外置いていく。
姉さん曰く、着替えや化粧品などは最悪の場合は放棄するから安物しか買ってないそうだ。
フロントまで降り、近くの沢を見に行くことを告げると、夕食まであと3時間くらいだと教えてくれた。
小さな村だからか、観光名所となりそうなものは少ない。
だが、落差10メートルの滝があり、透き通った水が流れる沢、そして温泉がある。
沢の向こうには、青緑色の鳥居があり、同じく青緑色の瓦葺の神社がある。
「ん?んん~?なんで青緑?鳥居って、普通は赤いものじゃない?」
「その鳥居と瓦は銅でできちゅうがよ。この村は昔、銅山があったがやき。銅は『あかがね』とも言うて、できた当時は見事な色の鳥居やったらしいで。」
ふいに後ろから男の声がかかる。
振り向けば20代半ばくらいの作業服を着た男性が立っていた。
身長は180センチくらいだろうか。浅黒い肌に金髪、そして二の腕は筋肉で盛り上がっている。
う~ん。こういうタイプ、苦手なんだけどな。
まあ、適当に相槌を打っておくか。
「へぇ~。そうなんですね。建てた当時は青錆が浮くことはあまり考えていなかったんですね。」
「いや、昔は村の若い衆が総出で磨きよったきのう。最近はそこまで手が回らんだけやき。ところで・・・君、どこから来たが?一人旅なが?きれいな景色が見えるとこがあるき、行かんかえ?」
男の自然なその言葉に、反射的に正直に答えそうになってしまったが、なぜか頭の片隅で警告のような感覚が走る。
「・・・関東からよ。家族と一緒。ナンパならお断りよ。」
スカートの裏地の状態異常抵抗術式を起動し、その場を立ち去ることにする。
「あ・・・ちっ。都会っ子はこれじゃき、扱いが難しいがよ。まあええ。俺にもおこぼれくらいは回ってくるろうぜよ。」
・・・後ろで何か男がつぶやいていたが、滝の音にかき消されて最後まで聞こえなかった。
◇ ◇ ◇
夕方、姉さんと村の中で合流し、これまで調べた情報を共有する。
《琴音。何かわかった?》
《う~ん。まだ初日だからね。とりあえず感じたことは・・・。若い女性を一人も見かけない。子供から40代くらいまですべて男のみ。村の中で唯一のコンビニに行ってみたけど、女性用の化粧品の取り扱いがなかった。》
《ということは、この村に若い女性はいない、ということかな?咲間さんから聞いたんだけど、コンビニの商圏は約500メートル、人口は3000人が目安だと言っていたっけ。》
姉さん、咲間さんの店でアルバイトしたことあるからな。聞いた話をきっちり覚えていたのか。
《うん。3000人もいれば女性はいるはずだからね。ええと、30歳未満女性の割合ってどれくらいかな?》
《全人口に対してだと約13パーセント、全女性に対してだと25パーセントってところかな。だから、単純計算でもこの村に390人は女性がいるはずなんだよ。化粧品のような日持ちして単価が高い商品を扱わないのはちょっとおかしいね。》
《ふ~ん。だから男どもの視線が妙に血走ってたのか。で、姉さんのほうで分かったことは?》
《ああ、それなら私たちが泊ってる部屋の隠しカメラの接続先がわかったよ。宿の警備員室ね。忍び込んだら監視している男がいきなりエロ本を読み始めたからちょっと焦ったわよ。》
《うわ、なにそれ、キモ。でも、宿泊客の監視をして何の意味があるんだろう?》
《わからないけど、私たちが泊ってる部屋の隠しカメラには術式で枝をつけておいたから、勝手に入って荷物に何かされたらわかるようにはしておいたわ。・・・今のところ大丈夫みたいね。》
ほんと、姉さんの使う術式ってどんどんすごいことになってるな。
そのうち私は回復治癒以外で役に立たなくなるんじゃないだろうか。
二人そろって念話をつづけながら道を歩いていると、不意に後ろから声がかかった。
さっきの男とは違う、大学生のようなイメージの男性だ。
「お二人さん、喧嘩でもしとると?さっきから一言も喋りよらんごたるばってん。」
《・・・琴音。私が相手する。下がっていて。》
姉さんはそういうと一歩前に出て丁寧な口調で話し始める。
「この子、普段から大人しくて外じゃほとんど喋らないんです。でも双子だからお互いの考えてることは分かるから、コミュニケーションで困ってるわけではないですよ。ね?絃子。」
・・・あ、そうだった。偽名を宇垣絃子と記名したんだった。
慌てて首を縦に振る。
・・・てか、姉さんはズルいな。同じように偽名を名乗っているけど、私からの呼び方は「姉さん」だから迷うことはないだろうし。
ん?いや、呼び方を気にしないで済むから私のほうが楽なのか?
「そうね。せっかくの旅行やのに仲違いしとる双子ば見て、ちょっと気になっただけたい。悪かったね。・・・ここは田舎やけど、治安はそげん良うなか。夜は出歩かんほうがよかばい。」
ん?この人・・・何か・・・。
「もしかしてお兄さんも旅行?方言からすると九州、博多の辺り?」
そうか、方言が違ったんだ。よく姉さん気付いたな。
「・・・ああ、よう分かったばい。俺は栗田っち言う。そこの民宿・・・猿山の204号室に泊まっとるけん、何かあったら声かけてくれんね。」
「・・・宇垣よ。宇垣弓子。妹は絃子。何かあったら頼るかもしれないわ。その時はよろしく。」
栗田と名乗る男性と話をしていると、数人の村人がこちらをチラチラと見ている。
なんというか・・・村人が彼を見る目が少し様子がおかしい。
「じゃあね。私たちは散策してから宿に戻るから。」
栗田と名乗った男性と別れ、村の中の調査を続ける。
祠のような場所、神社、公民館・・・。
そして宿の窓から見えた建物。
《姉さん、何やってるの?・・・それ、炸裂術式じゃない。》
《う~ん?まあ、念のためね。》
最後に黒川さんに教えられた駐在所に顔を出す。
なんでも、ここの駐在さんは黒川さんの高校の同期の人が勤務しているらしい。
「さて、初日はこんなもんでいいか。晩御飯を食べたら一風呂浴びて寝るか。」
姉さんはそういいながら自然と私の手を引いて歩きだした。
◇ ◇ ◇
栗田 大翔(博多弁をしゃべる大学生)
村内を歩き回っていると、標準語を話す高校生くらいの少女に出会った。
まったく見分けがつかない双子で、姉のほうは弓子、妹のほうは絃子というらしい。
姉のほうがバイオリンのハードケース、妹のほうはギターサイズのソフトケースを持っている。
旅行に来てまで楽器の練習をするのだろうか。
ほとんど喋らない妹に比べ、姉のほうは雄弁だが同時に強く警戒をしているように感じた。
だが、この村は彼女たちのような若い女性にとっては危険極まりない。
「・・・凪咲・・・どこにおると・・・。」
ポケットの中のブレスレットを強く握りしめる。
高校時代から付き合いはじめ、二人で砦南大学に進学してからも付き合い続けた彼女だが、今年の初めにこの村に民俗学のフィールドワークに来てから行方不明になった。
・・・そういえば、考古学の発掘チームがリビアで戦闘に巻き込まれている。今年の砦南大学はまさに災難続きだな。
気を取り直して、村内の人間に聞き込みをする。
だが、帰ってくる答えはいつも同じだ。
まさか、村ぐるみということは・・・いや、3000人以上いる村人が一丸となって何かできるとは思えない。
必ず彼女を見た人間がいるはずだ。
自分にそう言い聞かせて思い足を引きずり、聞き込みをつづけた。
◇ ◇ ◇
翌朝
南雲 琴音
それほど大きくない村だというのに昨日の夕食はかなり豪勢だった。
姉さんは食べ始める前に、普段かけない眼鏡をしていたところを見ると、睡眠薬か何かを警戒しているのだろう。
一通り見て、しっかり食べていたところを見ると、宿の食事に何か盛られている可能性は低いようだ。
「姉さん、朝食も部屋まで持ってきてくれるんだって。贅沢だね。」
「そうね。でも、もしかしたら宿泊客が少なすぎて大広間を使えないだけかもしれないわよ。」
そういえば、私たち以外の宿泊客って一人しか見ていないや。
「そっか。それにしてはこの旅館、掃除も行き届いているように見えるけど・・・。」
浴衣から普段着に着替え、髪を梳かしていると、部屋の入り口から女性の声が聞こえた。
「失礼します。朝飯を持ってきたがよ。開けてもええか?」
「は~い。どうぞ~。」
引き扉を開くと、朝食を乗せたワゴンとともに、年配の仲居さんが立っていた。
・・・やはり、年配の女性か。
それと・・・なんだろう、この臭い。
血?いや、膿のような・・・。あ。
《姉さん!細菌・化学防護術式を起動!急いで!》
「え、あ。」
やばい、姉さんが変な声を出している。
急いでスカートの裏地の術式を起動する。
起動した術式が反応し、何かの化学物質、または細菌に術式が反応したことを示す振動がスカートのウェストに伝わってきた。
「どうかしたがですか?…朝飯を持ってきたがやけど、部屋の中に運んでもええか?」
「ええ、どうぞ。」
私が警戒する横で、仲居さんは朝食を運び込んでいく。
「食事が済んだら、廊下に出しちょってください。」
そう言うと彼女は部屋から出て行った。
《琴音・・・今のって何かの攻撃?》
う~ん。さすがにこの分野だけは私の専門だったか。
それに、ちょっと警戒しすぎたかもしれない。
《今の仲居さん、おそらくは複数かつ重度の性感染症ね。臭いからするとクラミジア感染症、淋病、カンジタ症・・・あとはトリコモナス原虫症あたりかしら。独特な臭いがするのよね。一応、料理の方も鑑定魔法で調べておこうかしら。》
姉さんが露骨にいやそうな顔をする。
気持ちはわかるけど、今私が挙げたものは性行為でしか感染しない。
それに、料理にクローシュはかぶせてあったし、仲居さんは運んできただけで料理そのものには触れていないだろう。
目の前のトーストやフルーツ、コーンスープなどから感染する可能性は低いんだけど・・・。
「・・・自動詠唱。0-0-2、実行。・・・大丈夫、ヤバイ感染症や毒素に汚染されている様子はないわ。姉さん、早く食べちゃおう?」
「う・・・。そんな話をした後なのによく食欲があるわよね。っていうか、リビアから帰ってきた後、普通にミートスパゲッティとか食べてたよね。・・・言ってて気持ち悪くなってきたわ。」
「失礼な。確かに小腸と大腸の切除とか、脹脛の筋線維の縫合とかやったけどさ。パスタとは関係なくない?・・・いーわよ。マイタケとか湯豆腐を食べるときにどの辺が脳細胞と似てるのか説明してやるから。」
眉間にしわを寄せたままの姉さんを放置し、トーストにジャムをつけて食べる。
あ、サラダにのってる温玉、黄身がまるでアレのようだ。
「ねえ、この黄身がこぼれてる様子ってさ・・・。」
「あ゛―――!聞きたくない、聞きたくない!」
大騒ぎをする姉さんを前に、何であんな年配の仲居さんが性感染症に、それも複数のものに感染しているのか考えていた。