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154 剣神vs武神/雷神

 2月21日(金)


 リビア南部 現地時間 午後6時(日本時間 午前1時)

 アルジェリア・ニジェール国境付近

 ノクト遺跡


 仄香(ほのか)(inバイオレット)


 振り向けば、目と鼻の先の距離、2メートルもないほどのところに長身痩躯の男が立っていた。

 その手には闇色の一振りの剣。


 今まさに、私の胸を背中から貫こうと突き立てられているそれは、黒い靄のようなものを刀身から吹き出し、怨嗟の声のような音を立てて振動していた。


「む!?貫けぬだと!?・・・貴様・・・何者だ。」


 ・・・それはこっちのセリフだ。

 男の特徴的な瞳が私の眼を射抜く。

 縦長の瞳孔、深紅の瞳。


 そしてこの感覚・・・濃厚な魔石のにおい。

 こいつ、魔族か!?


 問答の前に、振り向きざまに左手で胸の刀身を握りしめ、神降ろしの力を以て捻り上げる。


 ・・・へし折ってやるつもりで握りしめたそれは、ギチギチと気持ち悪い音を立てるだけで変形すらしなかった。


「ご挨拶ね。レディの背中に汚い靴箆(くつべら)を差し込むなんて。それに、人の名を聞くなら自分から名乗りなさい。それが礼儀よ。」


 折れないなら力ずくで引きずり倒す!

 力いっぱい下方向に力を入れた瞬間、その男は剣の柄から手を放し、私の顔面に蹴りを放った。


 神降ろしの動体視力をあまくみるな。

 だが、余裕をもって(かわ)したその足のかかとから、一筋の銀色の線がきらめく。


 ・・・!?これは!?


 頭を軽くダッキングして避けた瞬間、唸りを伴って耳元を通過していく。


「・・・隠剣・金糸銀光まで(かわ)すか。貴様・・・。そうか!貴様、魔女か・・・。なるほど、十二使徒でも傷一つ負わせられぬか。」


 さっきの男女か?

 彼らを倒したのは千弦なんだけどな。

 ま、いっか。

 魔族なら特に考える必要もない。サクッと殺しておこうか。


「・・・そう、私のことを知っているのね。では改めて。魔女『ジェーン・ドゥ』よ。あなたは誰?」


 左手で刀身を持ったままのそれを、砂の上に放り投げながら誰何(すいか)する。


「・・・我が名はワレンシュタイン。三聖者が一人。魔女よ。ここで会ったが最後と思え。」


 男はそうつぶやくと腰のあたりから居合のような動きで何かを抜き放つ。

 一条の光が私の身体の中を突き抜けていく。


「・・・!?く、神降ろしの防御が抜かれた!?」


 一瞬で腰のあたりを魔力で焼かれた感覚に襲われる。

 大した魔力密度だ。まるでレーザーみたいだな。


 だが、神降ろしの回復力を舐めないで貰おう!

 瞬時に身体を接合し、すべての組織を復元する。


 それより、今、こいつ、なんて名乗った?

 ワレンシュタインだと?


「・・・?我は今、確かに切ったはずだが?」


 ワレンシュタインは再び唐竹割にし、袈裟懸けにし、そして何本もの突きを放つ。

 だが、たかが魔力の刃程度の傷など、瞬き一つで元通りだ。


 それよりもコイツは絶対に逃がさない。

 あの子もそうだが、琴音と千弦が殺されたのも、おそらくはコイツの差し金だろう。


「・・・かけまくもかしこきたけみかづちのおおかみの・・・・きよきこころのまことをさきとし・・・たたえごとをえたてまつるこのさまを、・・・のびさいわいまどかにして・・・かしこみかしこみももうす・・・。」


 ズンッという感覚とともに、二柱目の神を降ろす。

 一瞬で視界の密度が上がり、手足の隅々までクリアになる。


 こいつは楽に殺さない。

 捕らえて、宇宙が終わるまで苦しめてやる。


「ふ、ふ、ははははは!会いたかったぞ!ワレンシュタイン!あの子の、あの子の心臓をよくも!」


 神降ろしの全能感に抑えていた感情が吐露する。

 思考が加速し、世界の時間が減速する。


「く!?くそ、ならばこうだ!」


 ワレンシュタインは、その場に落ちている漆黒の剣を拾い、刀身に光をまとわせながら切りかかってきた。

 速い!神降ろしの速度に追いつくとは!

 しかもこの刃、恐ろしく魔力密度が高い!


 雷神の力を宿した拳で受け流し、受け流し、止め、叩き落とす。

 それでも数発、肩や脇腹に(かす)る。

 神降ろしの回復治癒が、ほんの少しだけ遅れている。


 そうか!この刃、込められた魔力を相手に流し込んで回復治癒の力を阻害しているのか。

 見た目に似合わず器用なやつめ。


 それに・・・その剣閃は今まで戦ったどの剣豪よりも速く、そして重い!


 だが武甕槌(タケミカヅチ)大神(ノオオカミ)を舐めるなよ!

 日本最強の雷神にして戦神・武神だ。

 それにそっちが剣術を使うなら、こっちだって使わせてもらおう!


「来い!布都御魂(フツノミタマ)天叢雲(アメノムラクモ)!」


 雷火を纏って左手に布都御魂剣(フツノミタマ)の剣霊が、豪風を伴い右手に天叢雲剣(アメノムラクモ)の剣霊が現れる。


「魔女が剣で我と勝負をするだと!?舐めるな!宿れ!強き長久の刀剣『ドゥリンダナ』!」


 袈裟懸け、突き、払い、唐竹・・・剣戟がぶつかるたびに轟音、爆風が起き、周囲の空気が電離する。

 それにしても、大した剣だ。ドゥリンダナ・・・ローランの聖剣「デュランダル」か!


 先ほどから二振りの神剣と打ち合っているのに折れそうな様子がない。

 大した強度、そして良い鋼だ。


 だが、現在進行形で信仰され、かつ世界唯一の現存する神剣、布都御魂剣(フツノミタマ)天叢雲剣(アメノムラクモ)を舐めるなよ!


「雷よ!」


 夕暮れ迫る空から極太の雷の柱が降り立つ。

 すんでのところでワレンシュタインが後ろに下がり、それを躱すが、そっちは本命じゃない。


()げ!天叢雲剣(アメノムラクモ)!」


 大地に突き立つ雷柱を天叢雲剣(アメノムラクモ)で水平に薙ぐ。

 刀身は雷をまとい、光の速さで地平線まで津波のごとき雷撃が押し寄せる。

 大地は一瞬で焦土と化し、舞い散った砂が赤熱する。


「ぐ。うおぉぉぉ!ドゥリンダナ!強き炎よ!焼き尽くせ!」


 ワレンシュタインは漆黒の剣を大上段から振り下ろし、炎をまとわせて己を捕える雷撃を焼き切ろうとする。

 甘いわ!貴様の剣の誇りごと叩き切ってくれる!


 雷撃を追ってワレンシュタインの間合いに入り、左手の布都御魂剣(フツノミタマ)を逆袈裟に薙ぎながら刀身に渾身の魔力を叩き込む。


布都御魂剣(フツノミタマ)よ!名を示せ!断ち切れ!」


 ワレンシュタインの振り下ろす剣と交錯し、刃は跳ね、そして再び打ち合う。


「うおぉぉぉ!魔女め!殺してやる!」


「それは私の言葉だ!おおおおぉぉぉ!」


 ワレンシュタインの顔面を唐竹に割る勢いで叩きつけた布都御魂剣(フツノミタマ)は、奴の振り上げた剣と交差する。

 構わず、その上から天叢雲剣(アメノムラクモ)を振り下ろす。


 三振りの剣が交錯し、恐ろしく硬く、そして重い何かが砕け散るかのような音が響き渡り、ワレンシュタインの持つ剣が砕け、その肩に布都御魂剣(フツノミタマ)の刃が打ち込まれた。


「く、我が、剣の勝負で負けた、だと!?ぐ、ゴボッ・・・きさま、何を・・・。」


 ワレンシュタインは刀身の半ばから折れた剣を、私の胸に刺し当てる。

 肋骨の間から左肺を抉るが、それこそ知ったことではない。


 むしろお返しに、雷撃をまとったままの天叢雲剣(アメノムラクモ)を腹に叩き込む。

 そして近くの城壁跡に磔にする。


「楽に死ねると思うなよ・・・!宇宙の終わるその瞬間まで苦しめ!このクズ野郎!」


「グアァァァァ!」


 雷撃に焼かれてもなお身動き一つできないワレンシュタインに対し、複数の術式、そして魔法を組み立てる。


「強制睡眠!魔力封印!呪力汚染!思考阻害!霊圧干渉!時空圧縮!過負荷重力子発動!強制回復!そして空間断裂!」


 文字通り、私の魔力のありったけをぶち込んで未来永劫解けない檻を組み立てていく。


「我が、我がこの程度で負けてなるものか!」


 うるさい!お前は負けたんだ、観念して未来永劫、このまま苦しみ続けるがいい!

 あと少し、もう少しで魔法が完成する!


 最後にフルパワーの()()空間魔法でコイツの時間を止めて、強制惑星間跳躍魔法でエッジワース・カイパーベルト、いや、オールトの雲までブッ飛ばす!


 次にお前が目覚めるのは数百億年後だ!

 そして人類史が終わった後で己の過ちを悔いるがいい!


「星の彼方で未来永劫苦しめ!ワレンシュタイン!」


「・・・()()()()()()()()()()()()()()()()()()()・・・。()()()()嵐神(セト)()・・・。冥界神(オシリス)()()()し・・・()()()()()()()()()()()()()・・・!」


 微かな女の声に振り向けば、それなりに大きな雷撃がこちらに向かって放たれたところだった。


 見れば、女は腹から下がなく、断面は焼け焦げて生きているのが不思議な状態だった。

 ・・・そうか。男の方の魔法で千弦の魔法の射線から吹き飛ばされて生き残ったのか。


 セト?ああ、エジプト神話、ヘリオポリス九柱神の砂漠と戦争の神か。


 だが馬鹿め。今はすでに信仰を失った神、それも砂嵐の神の雷が、現役バリバリで信仰を集めている雷神そのものの武甕槌(タケミカヅチ)大神(ノオオカミ)を降ろした私に効くわけがなかろう。


 私を殺したければフラックスチューブ(木星-イオ間の雷)でもぶち当ててみろ。


 ちっとは効くかもしれないから。


 最期の魔法を使い息絶えた女に、せっかくの怒りに水を差された不満を感じながらワレンシュタインのほうを向くと、その手には見覚えのあるコインが二枚、握られていた。


「肉の駒風情が、よくやった。ミカエラ。誉めてやろう。」


「しまった!それは命の対貨(スケープゴートコイン)!」


 甲高い音を奏でながら、コインは私の魔法、術式を分解していく。


「させるか!く、くそ、くあぁぁぁぁ!」


 一枚のコインが砕け散る音ともに二本の神剣で磔にしたワレンシュタインの姿が書き消えていく。追跡術式を!なに?抵抗レジストされた!?


「ここまで来て!ここまで来て逃がすかぁぁぁぁ!」


 渾身の力を込めて残る魔力のすべてを打ち放つ。

 だが、放った純魔力の光は、遠く北の空に消え、ワレンシュタインを倒した手ごたえは感じられなかった。


 ◇  ◇  ◇


 アルジェリア・ニジェール国境 現地時間 午後8時(日本時間 午前3時)

 

 バイオレットの身体側の魔力をすべて使い尽くしてしまった影響で、やたらと身体が重い。

 枯渇した魔力については亜空間の魔力ストレージからチャージしているが、精神的な疲労は別物だ。


 また、本来は睡眠など必要ないはずだが、かなりの眠気に悩まされながら回復治癒呪でそれを払っている。


 今は弦弥が発掘した魔力結晶を使い、同じく彼が作ったゴーレムの術式を使って生き残りを南に向かって運んでいる途中だった。


 それに、最高位の神格を二柱も降ろしてしまった影響で、バイオレットの魔力回路(サーキット)がガタガタだ。まだほとんど新品だったから良かったものの、それでも修復に何か月かかるかわかったもんじゃない。


 さっきから割れるような頭痛が全くおさまらない。


 当初、予定していた眷属を召喚するとなると、最低でもあと3時間は休みたい。

 だが・・・あと5時間後には期末テストの最終日が始まるんだよな。


《ねえ、仄香(ほのか)さん。バイオレットの身体、相当ガタが来てるんじゃない?ちょっといいこと思いついたんだけど・・・聞かない?》


 ああ、遥香か。彼女はここぞというとき、かなり役に立つんだよな。

 今までの臆病さや、どうしようもない身体の弱さからじゃ想像もつかないくらいに・・・。


《なんです?もしかして何かいい考えが浮かんだんですか?》


《今、仄香(ほのか)さんは発掘チームの人を守って南に運んでるじゃない?でも、それって眷属の人を呼べばいいはずなのに、呼ばないってことは仄香(ほのか)さんの精神かバイオレットの身体に疲労がたまってるってことだよね?》


《ええ・・・そのとおりです。疲労がたまっているのは両方ですね》


《じゃあさ、身体だけ私のを使ったら少し楽なんじゃない?なんなら、私が召喚魔法の詠唱をしてもいいよ?》


《・・・それは・・・盲点でした。詠唱を行うのはそれほど大変ではないので私がやればいいけど、遥香さんの身体を使えば少なくとも肉体的疲労はごまかせる。》


《よし、決まりだね。今からそっちに行くから座標データだけちょうだい。》


《ええ、ここは北緯22.936572523598006, 東経13.790196660625906・・・ちょっと待って?どうやってここに?》


《えへへ。「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」》


《え?いま、遥香さん、何を?》


《うきゃあぁぁぁぁ!やっぱり怖い!ひいぃぃぃ!?》


 ・・・信じられん。遥香のやつ、自力で長距離跳躍魔法(ル〇ラ)を使いやがった。

 まあ、何度もその身体で使ってれば覚えるか。

 それに遥香には数回使えるくらいの魔力はあるから、いきなり魔力欠乏症になることはあるまい。

 

 さて、遥香を待つ間にリリスにこの体を引き渡す準備だけでもしておこうかな。


 ◇  ◇  ◇


 リビア首都 トリポリ


 聖者(サン)・ワレンシュタイン


「ガアァァァァ!!」


 目の前の景色が変わり、どうやら魔女から逃げられた事が分かった。

 ・・・ぐ、ここは・・・トリポリの事務所か・・・


 キンッと甲高い音がして、足元に二枚のコインが落ちる。

 一枚は完全に砕けており、もう一枚は黒ずんで使えなくなっていることを示している。


 ズタズタになった手足、風穴の空いた腹、肩から千切れかかった左腕・・・。

 侮っていたわけではない。


 まさか我が命の対貨(スケープゴートコイン)を使わなければならぬほど追い込まれるとは。


 それも、一枚では足りず二枚のコインの魔力を消尽しなくては逃れられぬとは。


 十二使徒全員に一枚ずつ持たせておいたが、ミカエラが自分とペドロのコインをこちらに放ってよこさなければ、危うく負けるところだった。


 魔女の存在を、その脅威を生涯に亘ってこの身に刻み剣をきわめてきたというのに、ほとんど手も足も出なかった。

 それも、剣で負けた。


 ・・・神より授かりし奇跡の力(超能力)を使う余裕すらなかった。

 ・・・そもそも、あの女は、魔法を使っていたのか?


 莫大な魔力の動きは感じられたが、詠唱も行わず、術式が動いた気配すらなかった。

 それどころか、放射系の魔法らしきものを使ったのはたった一回の雷のみ。


 他は、我を封印しようとしたときのみだった。


 いや、たとえ使っていたとしても、完膚なきまでに負けたことに変わりはない。

 なんという不覚。


 ・・・許さぬ。

 生涯不敗であった我に、剣をもって屈辱を与えた女を。

 いつか必ずわが剣にてその首を落として見せよう。


 ゆっくりと顔を上げ、あたりを見まわす。

 普段から誰もいない事務所だが、さらにしんと静まり返っている。


「・・・とにかく、この傷を治さなくてはならんな。マーリーは・・・日本か。仕方がない。呼び戻すとするか。」


 我々は人間の魔導士どもから魔族と呼ばれる存在だ。

 実際、人間用の回復治癒魔法は効果がない。

 体の構造が違うからだ。


 だが、人間に比べ、生来持って生まれた回復力は次元が違う。

 たいていの傷はすぐに血が止まるし、たとえ腕を切り落とされても、それなりに長い時間はかかるが必ず元通りになる。


 しかし、今回の傷は違う。

 魔女の呪いか、あるいはあまりにも傷が深かったのか。

 なかなか血が止まらない。


 それだけではない。

 我の核となっている魔石が傷ついたのか、魔力の流出が止まらない。

 残念ながらしばらくは、まともに剣をふるうこともできないだろう。


 手元の電話を取り、国際電話でマーリーの携帯電話に電話を行う。


「・・・はい、三条です。・・・ワレンシュタイン様?珍しいですね。どうされました?」


「・・・魔女と遭遇した。あの化け物め。我が剣はまるで届かなかった。すまぬがかなりの深手を負った。こちらまで来てくれるか?」


 ・・・サン・マーリーで三条満里奈か。わかりやすくて大変よろしい。


「承りました。朝一番の便でそちらに向かいます。私が到着するまで持ちそうですか?」


「ああ。休眠していれば大丈夫だ。・・・それにしても、魔女が使うという長距離跳躍魔法とやらが羨ましい。奴め、わざわざ魔族だけ使えないように魔法を構成しおった。」


「仕方ありません。あの魔法は完全にブラックボックスです。数百年間解析を行っていますが、我々だけ使えないように構成されていますからね。とにかく、詳しい話はそちらについてから伺います。」


 ・・・何たる屈辱。だが、マーリーの治癒魔法を受けるまでは何も出来ぬ。

 主、サン・ジェルマン様。どうか、御赦しを・・・。



 ◇  ◇  ◇


 南雲 弦弥


 確かに、僕は飛来する石の刃に胸を貫かれた。

 いや、そんなことはどうでもいい。

 娘は・・・琴音は助かったのか?


 あの時、両足の膝から下を失い、左腕の大部分を失って、石畳の上で独楽のように回っている琴音を見たとき、心の底から後悔した。

 なぜ、娘を戦わせたのか。


 傷ついた娘を抱き上げたときにその軽さに戦慄した。


 琴音の足を拾ってくれた(はなぶさ)先生の腹から臓物が飛び散るのを見た。


 マシュー隊長やそのほかの隊員が死ぬのを、確かにこの目で見た。


 直後、背中に衝撃を受け、自分の胸から石片が飛び出すのを見て意識が途切れた。


 そして目が覚めた時、琴音はいなかった。

 胸に開いた穴はなく、だが服に開いた穴は確かにそこにあった。

 あまりにも悲惨な死に方をしたはずの仲間たちは、3人を除いて蘇っていた。


 目の前にいる金髪・オッドアイの少女は、魔女「ジェーン・ドゥ」と名乗り、琴音の身体を元通りに治し、日本に送り返したといった。


 確認するすべはないが、僕の服の胸に開いた穴や、仲間たちのボロボロになった服を見れば、信じてもいいような気がしてくる。


 今、彼女は我々を巨獣の背に乗せて運んでいる。

 聞けば、この巨獣も彼女が召喚したものらしい。


「ミナさん。マモなく、マダマ空軍基地に到着します。・・・南西方向に複数の機影を確認。・・・形式、C-2X輸送機と確認。日本空軍の輸送機です。随伴する機影を確認。F-3S、日本空軍の戦闘機です。」


 ジェーン・ドゥはマダマ基地の手前200メートルくらいで我々を巨獣から降ろし、それを光とともに消し去った。


「・・・これが・・・召喚魔法か・・・。」


 (はなぶさ)先生がそれまで巨獣がいたところの地面を調べている。


「デハ、私はこれにて失礼します。皆さん。どうかお気をつけて。それと・・・南雲先生。あなたはコチラへ。」


 何故か私だけ呼び出されたので、彼女に従って岩の陰についていく。


「南雲先生だけはコノまま私と日本まで来ていただきます。帰路は彼が代わりに帰りますのでご安心を。」


 振り向けば、そこにはいつのまにか自分と同じ顔の男が立っていた。


「はじめマシテ。シェイプシフターと申しマス。帰路の安全を確実なものにスルタメ、出入国はボクが代わりに行いマス。南雲先生は一刻も早く二人の娘さんの元に帰ってあげてクダサイ。」


「あ、ああ。わかった。しかし、どうやって?」


「ワレワレにお任せを。」


 そう言うと、ジェーン・ドゥは懐から一枚の術札を取り出し、起動させた。


「先生。舌を噛みますので口を閉じてクダサイ。ではリリス。ノチホド。」

 僕そっくりな顔でシェイプシフター君はペコリと頭を下げた。


 次の瞬間、強力な加速度が身体にかかる。


「うわ、うわぁぁぁぁぁ!」


 気がつけば、僕は眼下に丸い地球を見下ろし、星の海の中を飛んでいた。



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