147 魔女・魔法少女になる
2月9日(日)
早朝 海浜幕張駅
仄香
駅の構内とはいえ、吐息が白くなる中で私は千弦と二人、オリビアとバイオレットが来るのを待っていた。
考えてみれば、相手が教会の信徒と知った上でこのような付き合いをしたことはなかったと思う。
また、シェイプシフターやメネフネ、その他の眷属を活用して教会の内情を調べているが、ただ一つ判明したことといえば、何らかの施設を失って混乱していることだけだった。
現状ではわからないことが多すぎる。
だが、エルリックの言葉通り、彼がオリビアを「唆すこと」ができたのならば、彼女から教会の重要な秘密を知ることができるだろう。
・・・強制自白魔法を使っても構わないのだが、なぜかオリビアには効きにくいような気がする。
停滞空間魔法を使った時も少し多めに魔力を持っていかれたしな。
そういえば抗魔力が恐ろしく高い琴音にも効かないかもしれないな。
試すのは最後の手段にしようか。
「さ、寒い・・・。仄香、なんとかして・・・。」
横を見れば、さっきから千弦がその場で足ふみを続けている。
「・・・仕方ないな。風は防御障壁術式で遮れるし、熱運動量制御術式で暖を取ることはできるから・・・術式束、80,569を対象に発動。これでもう寒くないだろ。」
防風と発熱の効果を持った結界をまとわせて、ついでに感覚鈍麻もかけてやった。
あとは風邪をひかないように回復治癒呪でもかけてやればいいだろう。
「・・・お。おぉぅ?すごい。暖かくなってきた。しかも風が身体に当たらない。相変わらずすごいわね。・・・あ、バイオレットとオリビアさんが来たよ。お~い。ここだよ~!」
千弦が手を振る先を見ると、少し大げさなほどの防寒着を身にまとったバイオレット(リリス)と、やや軽装すぎるオリビアが改札から出てくるところだった。
「おまたせ~。遅くなったかしら?」
「いえ、まだ集合時間15分前です。・・・随分と軽装ですね。寒くないですか?」
「普段から鍛えてるからね。暑いのはだめだけど、寒さなら結構強いのよ。さ、みんな揃ったし行こうか。あ、帰りも電車なら切符を買っておいたほうがいいわよ。」
オリビアがそう勧めるが、千弦も私も帰りは長距離跳躍魔法で帰るつもりだ。
「いえ、帰りはちょっと別ルートで帰るので。お二人だけ買ってきてください。待ってますから。」
私がそういうと、オリビアはバイオレット(リリス)と二人で切符を買いに行った。
海浜幕張駅から幕張メッセまでの道のりは歩道橋を一度上って道を右に曲がるだけなので、まず間違えることはない。
だが、この人の多さは・・・。念話なしだと迷子になってしまいそうだ。
「2ホールの屋外で一般コスプレの先行受付が9時からあるんだって。ディーラー参加じゃない遥香ちゃんはそっちね。コスプレフリーゾーンは11時からだってさ。私とバイオレットちゃんは8時半から受付だけど、タイミング的にそう変わらないから一緒にやっちゃおう。」
オリビアは前を歩きながら、イベントのスケジュールと受付場所などを確認している。
そうか。更衣室で着替えた後、撮影ができるところが使えるようになるまでは少し時間に余裕がある。それまでの時間、理殿の手伝いでもしていようか。
「あ、遥香。わたし、大日本帝国技研っていうところに行きたい。あと、少女戦記っていうところで魔導演算装置のガレージキットを買いたいんだよね。みんなが着替えている間、ちょっとそっちに行ってるよ。」
「わかりました。じゃあ、終わったら理君の卓まで来てください。」
入場の大行列を何とか超えてやっと中に入ることができたと思ったら、千弦は目にも止まらない速さでお目当ての卓番に向かってかけていった。
・・・はは、高機動術式まで使ってるよ。
入場の手続きを済ませて千弦を見送った後、私たち三人はコスプレの受付に向かった。
手早く手続きを済ませ、衣装の上に貼るシールのようなものをもらい、更衣室へ向かうと、そこはすでに大混雑となっていた。
「あちゃ~。かなり混んでるわね。まあ、端っこのほうでちゃっちゃと着替えちゃいましょ。」
オリビアは慣れた手つきで衣装に着替えていく。
・・・なんでまたビキニアーマーなんだよ。
しかもそれ、武装魔法少女シリーズでも大人気の鉄拳魔闘少女赫馨子の衣装じゃないか。
うわ、メタルナックル付きのレザーグローブのエイジング加工が・・・っておい。それ、鳴老組を襲撃した時に使ってた実用品じゃないか。っておい?そのビキニアーマー、実物じゃなかろうな!?
「マス・・・遥香サン。早く着替えないと。」
う、バイオレット(リリス)のやつ、もう着替えが終わってるよ。
くそ、急いで着替えなきゃ。あれ?胸パッド代わりのドッペルゲンガーはどこに行った?
◇ ◇ ◇
南雲 千弦
手早く入場を済ませ、高機動術式と新しく開発した空間機動術式を駆使してお目当てのサークルの卓に向かう。
よし!まだ並んでない!
「すいません!このガルガンチュア25式魔導演算装置と、パンタグリュエル98式魔導演算装置をください!」
「はい、おねぇさん、一番乗りだね。はいよ。合計24,000円ね。」
ふふふ、釣銭が発生しないようにぴったり準備してきたのだよ。
素早く代金を渡し、背中に背負ったリュックの中にお宝を放り込む。
次は!大日本帝国技研だ!
さすがに寄り道をしていたせいか、技研の前には数人の列ができていた。
だが、これなら大丈夫なはず。
そして10も数えないうちに、私の番になる。
「すいません!このグラビトンブラスターとP90アドバンス用ロアフレーム、それからマルチトリガーロックホルスターをください!」
「おぅ!お久しぶりだね。2年ぶりかな。はいよ。52,000円だよ。」
技研の社長さんに直接、釣銭が発生しないようにちょうどで渡す。
よっしゃあぁぁぁ!ほしいものが全部買えた!
・・・お年玉がかなり減ったような気がするが、まあいいだろう。P90アドバンス用ロアフレームは師匠の注文だしな。代金は少し余分に預かっている。
期末テストが終わったら、九重の爺様に頼んでまたアルバイトをやらせてもらおう。
そういえば、黒川さんからも三月の初めころのアルバイトを頼まれていたっけな。
だけど、一週間も拘束されて、交通費と宿泊費、食費等別途支給、手取り25万円のバイトとか、かなりやばいものに決まってる。
いっそ仄香にでも押し付けるか。・・・いや、遥香に押し付けるのと同義になるからやめておこう。
上機嫌になりながら理君の卓に向かう途中、鼻歌を歌いながらいくつかの卓を覗いていると、ふと珍しいものが並べられていることに気づいた。
「あれ?これって・・・魔力検知に引っかかった?でも・・・何も術式が組まれてない?」
並べられていたピアスヘッドの、橙色の炎が揺らめくようなデザインのオパールのような石に見入っていると、売り子さんのおっちゃんが声をかけてきた。
「嬢ちゃん。それはな、ウチの爺さんがせっせと作ってるアクセサリーなんや。爺さんかて売れるとは思っとらんよーなんやけど、シンプルなデザインで加工しやすいやろ?どや?コスプレの小物とかの材料にしてみいひん?」
値段は・・・3,000円か。人工魔力結晶ほどの出力はないにしても、小さな術式を刻めば数百年は稼働しそうな魔力量だ。
他に同じ石は・・・このピアス以外だとネックレスになっているものと裸石のものが2個、ピアスと合わせて4個か。
合計は・・・12,000円か。
ちょっと痛い出費だが、こんなものは他では手に入らないだろうな。
「じゃあ、このピアスと、そっちのネックレス。それからその裸石を買うわ。これと、それね。」
「・・・驚いたわ。ねぇちゃん、何者や?・・・いや、たまたまか?よっしゃ。まけたろ。全部で12,000円のところ、10,000円でどや?」
え?おまけしてくれるの?怪しい似非関西弁と思ってたら、バリバリの関西人じゃん!
「やった!ありがと!お兄さん!」
「はは!おおきに!」
これはいいものが手に入った。咲間さんの誕生日に何を渡そうか迷っていたけど、これでかなり高度な術式を組んでも大丈夫だ。裸石は同じものが二つもあるし、琴音とおそろいで何か作ろうかな。
それに、細工物で困ったら理君に協力してもらえばいいし。
ホクホク顔で理君の卓に戻る。
しかし・・・そこはすでに戦場だった。
「すいません!売り子さんの写真はここでは撮影できません!後でコスプレフリーゾーンに行きますのでそちらでお願いします!」
「ミスティちゃん!フィギュアを持ってこっちに目線お願いします!」
「メルティちゃん!杖、構えてみて!すごい!その杖、だれが作ったの!?頒布する予定とかないの!?」
「馨子さん!握手してください!すごい腹筋ですね!一日何時間ぐらいトレーニングしてるんですか!」
・・・恐ろしい長さの行列ができている。商品の受け渡しは仄香が、列の整理はバイオレットがやって、お金の受け渡しは理君とオリビアさんがやっているんだけど、ほとんど休む暇がないじゃないの。
あ、どこかのテレビ局が撮影に来たよ。
地上波で魔女の顔を放送されても問題はないんだろうか?
仕方がない。念のため認識阻害術式をかけて・・・いや、商売なんだからそれはまずいか?
《お、千弦。やっと戻ってきてくれたか。さっきから客足が途絶えなくてな。リリスもオリビアも動きっぱなしだ。それと、理殿を少し休ませてやってくれ。我々が来る前から動きっぱなしなんだそうだ。》
仄香から念話が来るということは、かなり大変そうな状況のようだ。
なるほど。理君の言う通り、これは大変な重労働だ。給料をもらわなくてはやってられないかもしれない。
《わかった。すぐに交代するよ。それより、さっきからテレビカメラが回っているんだけど、大丈夫なの?》
《ああ。電磁的記録阻害術式で対処している。デジタル方式のカメラでは静止画も動画もピントがずれた映像しか残らんよ。しかし・・・かなりの在庫があったのに残り一割も残ってないぞ。理殿はそんなに有名な原型師だったのか。》
ん?一割?まだ30個くらい残ってるよ?じゃあ、この短時間で270個も売れたの?
「理君。交代するわ。価格表とお釣銭は?」
うわ、この寒い中だっていうのに理君、汗だくじゃない。ええと、タオルタオル・・・。
少し大きめのタオルでワシワシと頭を拭き汗をとってあげると、少し落ち着いたのか、そのタオルを受け取って首回りなどを自分で拭き始めた。
「助かるよ。あ、でも着替え持ってきてないな。このままじゃ冷えるかもしれない・・・。」
「ふっ!こんなこともあろうかと!はいこれ。シャツとセーター。ホントは琴音用のつもりだったんだけどね。男女共用だから使っちゃって。」
よし。真田さんゼリフ、決まった。
《そこまで備えなくても・・・圧力制御と熱運動量制御術式ですぐに乾燥させてやったものを・・・。》
ふっ。仄香が何か言っているけど聞こえないことにした。
◇ ◇ ◇
オリビア・ステラ(フォンティーヌ)
お昼を少し回ったころ、理師匠の作品のすべてが完売となった。
理師匠の作品はその完成度に比べて一つ当たりの値段が8,000円から2万円前後とかなり安く、また非常に組み立てやすい構造のガレージキットであることもあり、300個ほどあったすべての作品が売り切れとなった。
理師匠曰く、今回は少し価格を高めに設定したから売れるかどうか心配だと言っていたが、私であれば5万だろうが10万だろうが買いに来る出来だと思うんだが、そうではないのだろうか。
トータルで400万を超える現金を前に理師匠と千弦という少女が固まっている。
遥香とバイオレットは並んでも購入できなかった人たちに連れられて、コスプレフリーゾーンへ行ってしまった。
だがあの二人の写真が手に入れば、理師匠のフィギュアが買えなかったとしてもかなり慰めになるだろう。
「ね、ねぇ・・・千弦。すごい金額だよ。みんなに給料払わなくちゃ。いくら払ったらいいんだろう?」
「理君。まずは落ち着こう。こういう時は、先に材料費とか必要経費とかの計算をしてあるもんじゃない?それをまず引くのよ。」
「ああ、そうだった。でも、材料費とか必要経費は蒼生兄さんが払ってくれたからな。ええと、どこかに書類が・・・あ、あった。材料費が17万円、送料や交通費が3万円、当日版権が一律2千円で、卓料が2万7千円、エトセトラエトセトラ・・・。うん。何度数えても70万は超えないや。」
「すごいわね。っていうことは、330万円以上稼いだの?午前中から午後一時までの三時間で?」
これはやばいな。理師匠も千弦という少女も、完全に金に目がくらんでいる。
仕方ない。一応、年長者としての務めは果たすか。
「師匠。それと千弦さん。先ほど給料という言葉が聞こえましたが、私は一円も受け取りませんからね。私は好きで参加しているのです。労働などという、義務感や苦役を伴うものと感じたことはありません。だから、そのお金は師匠が次回創作活動を行うときの肥やしにしてください。」
「う・・・。ごめん、理君。私も自分のお金じゃないのに少し舞い上がった。従兄弟の蒼生さんだっけ?お兄さんと相談して、次回の創作に備えて。頑張ってね。」
「・・・ああ。じゃあ、さっそくだけど、このお金、銀行口座に入金してくるよ。とてもじゃないけど、こんな金額、落ち着いて持ってられないからね。」
理師匠はそう言って手提げ金庫を持って歩きだそうとする。
なんというか、やっぱり危機感が足りないのかも知れない。
「理師匠。ATMに行くのでしたら、千弦さんと一緒に行ったほうがいいと思います。あるいは私が付き添いましょうか?」
「う・・・。じゃあ、千弦。一緒に来てくれるかい?」
「う、うん。すごく緊張するね。」
理師匠は千弦と二人、なぜか手提げ金庫を挟んで二人で手をつないで歩いていく。
う~ん。平和だ。私の拳は、本来はこういった子供たちを守るために使うべきものであるはずだ。
・・・よし。この先、この身がどうなるかわからないが、ルイーズを助けたら、そのあとは教会を抜けてどこか、孤児院のようなところの守護者となろう。
◇ ◇ ◇
同日 午後三時
蓮華・アナスタシア・スミルノフ(ナーシャ/半分頭)
バイオレットさんと別れたあと、九重和彦総理の昔話に付き合わされ、さらには浅尾一郎副総理の自慢話に付き合わされ、人生でお目にかかることなどないはずの高級ホテルに連れていかれ、部屋までデパートの人が持ってきた商品で試着を繰り返し・・・。
夜遅くまで日本を代表するような人たちと話をし、特に話し方を変えたわけでもないのにあたしの話にも相槌を打ちながら聞いてもらえて・・・。
やわらかいベッドで眠り、ルームサービスで朝食をとり、お昼は九重総理に紹介されたお手伝いの人にホテルのレストランでマナーについて教わり・・・。
・・・世界が、変わった。
それに、昨日買ってもらった部屋着に着替えたけど、鏡の中に映った自分がどうしても自分に見えない。
なんといえばいいか。
やさしそうな、面倒見がよさそうな、子供のことが好きそうな女の子がそこに立っている。
決して、ちょっと気に入らないことがあれば文句を言い、ふさわしい言葉が見つからなければ暴力をふるうようなアバズレには見えない。
そうか。あたしはこんな表情ができたのか。
急ぐ必要はないと言われたけど、あっせんしてくれる仕事のファイルを端から端まで穴が開くくらいに読み続ける。
住みたい街についても聞かれたが、まずは仕事だ。みんなにこれ以上迷惑はかけられないし、二度と御法に触れるようなマネはできない。
それがバイオレットさんへの恩返しだとは思わないけど、最低限の礼儀だ。
それにしても・・・まさか、バイオレットさんが魔女という存在だとは思わなかった。ってか、もしかしてあたしのご先祖様?
うわ、天涯孤独だと思っていたけど、親戚っていうか、ばあちゃんが生きてたんじゃん。
やばい。泣けてくる。
涙を拭き、何度もファイルに目を通す。
・・・これ。やってみたい仕事が見つかった。
児童養護施設の手伝い。最初は子供たちの食事を作る手伝いや、施設の掃除、帳票の作成とか、雑務や事務仕事をやるんだけど、仕事をしながら通信制の高校を卒業して、保育士の資格を取るために大学に行って勉強したい。
今、私が働ける職場は・・・。佐世保か。遠いけど、心機一転して頑張ろう。
東京から離れれば、悪い友達との縁も切れる。
よし、ここに決めた。
今夜、お手伝いの人が来たらこの仕事を紹介してもらえるようにお願いしよう。
そうと決まれば、まずはバイオレットさんにメールだ。
そうそう、バイオレットさんって、ジェーン・ドゥとか美代とかいろんな名前で呼ばれてるんだね。
好きな名前で呼べと言われたけど、カタカナより日本名のほうが好きだな。
よし。美代さんと呼ぼう。
◇ ◇ ◇
南雲 琴音
今日、姉さんは幕張メッセとかいうところで開催される、いわゆるオタクのイベントに出かけて行った。
なぜ仄香までついていったのはちょっと理解できない。
そんなことより、ウチでやることもなくゴロゴロしていようかと思ったけど、咲間さんの誕生日プレゼントをどうするか決めなくてはならない。
姉さんみたいに私も「こんなこともあろうかと」とか言ってみたいんだけど、そういった才能には恵まれていないので、ここは子供らしく大人の力を頼ることにする。
健治郎叔父さんに助力を願うと、二つ返事で手伝ってもらえることになったので、叔父さんがそろそろ起きているであろうお昼過ぎに家まで行ってみた。
「お邪魔しまーす。あ、宏介君。お父さんは?」
「部屋にいるよ。父さーん。千弦姉ちゃんが来たよ~。」
・・・残念、私は琴音だ。
まあ、アレクは区別がつくんだし、他の男の子のことなんてどうでもいいや。
「んん・・・ああ、来たか。宏介。コイツは琴音だ。」
「あ。ごめん。琴音姉ちゃんだったか。晩御飯は食べていくの?今日は手作りデミグラスソースのハンバーグだよ。」
「あ、じゃあご馳走になろうかな。」
う~ん。前言撤回。料理上手の宏介君も結構ポイント高いんだよな。
まあいいや。私にはアレクがいるからな。
「で?琴音。電話で言ってた物なんだが、材料と工作機械だけそろえておいたぞ。後で払えよ。・・・結構かかったが大丈夫かこれ?10万超えたぞ?」
「えぇ!?なんでそんなにかかるの?どうしよう。お年玉がなくなっちゃう。・・・叔父さん。貸しておいてくれない?」
まさか、そんなにかかるとは思わなかった。お年玉貯金を切り崩すしかないのか。
「・・・仕方ないな。金のある時に返せよ。っていうか、工作機械の類はいい値段するんだよ。で?何を作るんだ?友達にプレゼントするにしちゃあ、高すぎやしないか?」
発生した費用のすべてが咲間さんの誕生日プレゼントの代金というわけではない。実際には、全体の五分の一にもならないだろう。
「大丈夫よ。材料のほとんどは自分で使うためのものだからね。それに、作ったものは姉さんにも持たせるつもりでいるし。」
「そうか。そういうことなら何も言わないが。」
さて、私は姉さんみたいに器用じゃないし、複雑なカラクリを組み合わせて何かを作るということをあまりしたことがない。
だけど、仄香の誕生日プレゼントの時は姉さんに完全に負けていたし、咲間さんにちょっとはかっこいいところを見せてみたい。
とにかく、頑張りますか。