143 蠢動する悪意
ビキニアーマーって全く防御力がないと思うんですが、激しい戦闘でどうせ着ている服はボロボロになるし、素の防御力、あるいは回避能力が高くて鎧はいらないや、だったら服は最低限でいいか、という場合には有効である気がします。
ついでに言えば、アーマーは金属などで出来ているので、返り血や泥は雑巾で拭くだけでとれますので、汚れを気にせず戦えますし、戦闘が終わったら上に何かを羽織ればいい訳です。
2月2日(日)
南雲 琴音
警視庁本庁舎の会議室で姉さんが倒れた後、黒川さんをはじめ、警察官の人たちが大騒ぎになった。
医務室に運ばれ、外傷がないか徹底的に調べたけど、どこにもケガはなかった。
・・・姉さん、銃もナイフも持ってなくって本当によかったよ。
それにしても、なんで空間線量計がカバンの中から出てくるんだ?
なぜか酢昆布と一緒に入ってるのを見て、医務室の人が笑っていたよ。
とりあえず、黒川さんの車で和香先生の病院に運ばれたけど、精密検査の結果は異状なしだった。
和香先生曰く、強いPTSDによるものだろうということだった。
あのあと、犯人たちを尋問した結果、大規模な犯罪組織の一員であることが分かった。
黒川さんはものすごく大きな獲物を捕まえたと喜んでいたよ。
それとあの後仄香から連絡があって、私たちを襲ったグループは一人残らず、それも関係グループや親類縁者まで含めて根絶やしにするから安心して学校に行っていいってさ。
あんなことがあった後だし、今日一日は家でごろごろしてることにしたよ。
「ふう、琴音。これの次の巻は?」
すっかり元気になった姉さんが、リビングで遥香から借りてきた漫画を読んでいる。
「その紙袋の中。もう読み終わったの?読むの早いね。」
私はといえば、姉さんが作った「自動詠唱機構」とやらに姉さんのパソコンを使って、自分が使う魔法を登録しているところだ。
パソコンに接続されたマイクに向かって、魔力を込めずに詠唱をし続ける姿は少しシュールかもしれない。
それでも、最大一万種類の詠唱を記録することができ、必要に応じてそれらを組み合わせて音声出力するらしいけど、コレってかなりやばいものなんじゃない?
試しに姉さんの自動詠唱機構で魔法を使ってみたけど、雷撃魔法とか普通に使えちゃったんだけど?
それを姉さんに伝えたら、なぜか姉さんがびっくりしてたよ。
・・・本当は自分の声を再生しないと詠唱は有効にならないはずなのに、って。
いろいろ試してみた結果、私たちは双子だからか、どちらの魔力を使っても、どちらの声でも同じように魔法が作動したよ。
不思議なことに回復治癒魔法だけは私の魔力、私の詠唱でないと発動しなかったけど。
「琴音ー。あとどれくらいかかりそう~?」
「ん~?あと3分くらいかな~?」
・・・よし、終わった、かな?
しっかし、この自動詠唱機構、すごいとしか言いようがないな。
詠唱速度はガドガン先生の高速詠唱より早いし、仄香の発動遅延詠唱や連唱と似たようなことができるし、何より魔力貯蔵装置に直結できるし。
「ねえ、姉さん。この自動詠唱機構なんだけど、できたら仄香以外には見せないほうがいいんじゃないかな?使い方次第では、一般人が魔法を使えるようになったりしない?」
「あはは、そりゃ無理だよ。自動詠唱機構は装備してる本人の魔力回路を使うからね。それに、魔力回路にかかる負荷はむしろ大きくなる。つまり、魔力と制御能力の前借りをしてるだけ。ただの子供だましよ。」
子供だまし、ねぇ?
私にはスマートフォンよりもすごい発明にしか見えなかったよ。
◇ ◇ ◇
黒川 早苗
昨日琴音さんたちを襲おうとした連中について早速尋問を開始しようとしたところ、内調の室長が一人の少女を連れてきた。
・・・魔女、ジェーン・ドゥだ。
本来であれば関係のない人間を取り調べに同席させることなんてありえない。
当然、私はそのように意見具申した。
ところが、室長は初めから彼女を同席させることは考えていなかったらしく、ただ数枚の呪符のようなものを彼女から受け取って、私たちに二種類ずつ渡した。
なんでも、彼女が直接来たのはその呪符が悪用されることがないように、また使った後は確実に回収するためだそうだ。
私が太田警部に渡してる魔力補充用の呪符とはずいぶんと形式が違うわねぇ?
呪符の名前は・・・強制自白の術札、そして自動書記の術札というらしい。
自白剤でもあるまいし。いくら魔法だからってそんなことができるはずはない。
最初のうちは私も太田警部も、そして池谷以下すべての人間がそのように考えていた。
半信半疑で襲撃犯たちを取調室に入れて二枚の術札を起動する。
強制自白の術札は襲撃犯たちに、自動書記の術札は取調官に。
・・・驚愕した。というよりも、笑いが止まらなかった。
それまでかたくなに何も話さなかった襲撃犯たちは、その呪符に記された術式が発動すると同時に、黒幕の名前から受け取るはずの報酬額、組織の構成員の名前や住所、これまでに行った犯罪行為、果ては自分の性癖までぶっちゃけやがった。
思わずスマホで呪符を撮影したよ。・・・写真に写ったのは、ただの白い紙きれだったけど。
みっちりと腰を据えて取り調べを行おうと思っていたけど、わずか数時間で終わってしまった。
・・・しかし、この自動書記の術札は・・・ちょっといただけない。
いや、襲撃犯が自白した内容を書くのにはとても重宝したのよ。
ものすごい勢いでしゃべるしね。
でも・・・明日からしばらく腱鞘炎になりそうだわぁ。
取調調書が完成し、報告書と合わせて室長のデスクの決裁箱に放り込んだ後、ふと見ると太田警部のデスクの横に見覚えのある紙袋が置いてあるのが目に入る。
「お、早苗。これ、表参道の店で買ってただろう?千弦さんが魔力欠乏症で倒れたせいで持って帰るのを忘れたみたいなんだよ。本庁の会議室に置き忘れてたからさ。お見舞いがてら持っていったらどうだ?」
「気が利くわねぇ。じゃあ、ちょっと行ってくるわぁ。あとのことはお願いねぇ。」
せっかくだ。今日は定時で上がらせてもらおう。
私は背伸びをしながらデスクのパソコンの電源を落とし、いつも退勤間際に仕事を持ってくる室長に見つからないよう、素早く席を立った。
◇ ◇ ◇
車を走らせ、琴音さんたちの家の前につける。
事前にLINEでお土産に買ったスイーツを持っていく旨を連絡しておいたので、私の車のエンジン音が聞こえたからだろうか、すぐに玄関の扉が開き、琴音さんが出迎えてくれた。
「こんばんわぁ~。忘れ物、持ってきたわよぉ。」
「すみません、わざわざありがとうございます。あれ?その右手、どうかしたんですか?昨日の襲撃でケガしてたんですか?」
琴音さんは私の右手の湿布を見て少し驚いている。ちょっと湿布の貼り方が大げさだったかしら?
「ああ、これ。報告書と取調調書の書きすぎよぉ。いつもはパソコンで作るんだけどね。なぜか今回に限り手書きになっちゃって。まったく、困ったものだわぁ。」
「うわ、それはお疲れ様です。災難でしたね。・・・良ければ上がっていきません?回復治癒魔法ですぐに治せますよ。悪化する前なら、かなり簡単に治るんですけど・・・。」
そういえば、骨まで焼かれた右足を治してもらったことがあったっけ。よし、太田警部には悪いけど、私だけ治してもらっちゃおうかしら。
「おねがいするわぁ。夕食の時間にごめんなさいねぇ。」
「今日は母の帰りが少し遅れるので夕食はもっと遅い時間の予定です。すぐにすみますから、遠慮しないでください。」
この子の回復治癒魔法、結構気持ちいいのよねぇ。
はぁ~。役得役得。
◇ ◇ ◇
三条 満里奈
丸山邦夫が魔女に殺される寸前、わずかな時間の間に山中組を通じて九重総理の孫に再びちょっかいを出したらしい。
それもよりによって我ら教会とつながりがある裏社会の組織に暗殺を依頼したという。
これでは万が一、魔女が九重総理と繋がっていたら、そして暗殺に失敗して捕まりでもしたら、我々教会の関与を魔女に知られる可能性がある。
「まったく面倒なことをしてくれたものです。魔女の尻尾をやっと掴めそうなときに、こちらの手駒を減らさなければならないなんて。」
不満を口にしたくもなるが、愚痴を言っても始まらない。極東の島国にいつまでもいたくはないし、手っ取り早くすべてを片付けてしまおうか。
常に近くに侍る駐在武官の女にオリビアを呼ぶように申し付けると、すぐ近くにいたのだろうか、30分ほどで息を切らせながら私の執務室に入ってきた。
・・・両手にいっぱいの紙袋。はみ出しているのは・・・アニメか何かのフィギュアだ。丸い筒は何かのポスター?
紙袋に描かれている黄髪の少女の顔は一体?レモンブックス?
何か、大事な買い物の途中だったのだろうか、少し申し訳ないことをした。
「忙しいのによく来てくれました、オリビア。あなたにお願いしたいことがあります。」
「い、いえ、忙しいだなんて。大したことはしていません。ちょっと、ネットで知り合った友人に会いに出かけていただけです。それよりも、新しい任務ですね?」
オリビアの顔表情が引き締まる。後ろ手に、表紙に半裸の女性が描かれた薄い本を持っているが、その眼光は鋭く、戦闘職としての使徒の顔つきになっていた。
「このファイルに書かれた者すべてを消してください。可能であれば、灰も残さず。」
オリビアは、ファイルをパラパラとめくると、そのまま薄い本がたくさん入った紙袋の中に入れた。
「承知しました。直ちに取り掛かります。では。」
オリビアは踵を返し、部屋を出ていく。
その両手に、アニメグッズや薄い本が入った紙袋を抱えたまま。
◇ ◇ ◇
オリビア・ステラ
せっかくの日曜日。
来週、幕張メッセで開かれる大イベントの前哨戦として、秋葉原の同人ショップ巡りを日本で知り合った友人と楽しんでいたら、突然スマホが鳴り響いた。
まったくついてない。
聖女マーリー様のご下命とあらば、はせ参じなければ十二使徒の末席とはいえ、ステラの名が廃る。そう・・・ガドガン殿に新しい生き方を教えてもらうまではそう思っていたのだけれど。
泣く泣く石川理師匠と別れ、代官山まで電車を乗り継いで駆けつけることとなった。
ゆるせ、師匠。フィギュアの作り方については是非、またの機会に教えてくれたまえ。
それにしてもガドガン卿の人脈は素晴らしい。
彼が教師として赴任した先に、あれほどの造形の匠がいるとは思わなかった。
いつか理師匠に本格的に師事して、私も武装魔法少女のフィギュアを作ってみたいものだ。
そのためには、せいぜい長生きしたいものだ。
・・・長生き・・・教会の教義にはその考え方はなかったな。
西日暮里のガドガン殿の家でいろいろ話したが、まさに蒙が啓かれるの言葉がふさわしい。
聖女様から受け取ったファイルを開き、抹殺する対象を・・・いかん、これは今日買った薄い本だった。
何々、「先輩の指はまるでトリガーを引き絞るように私の・・・。」
いかんいかん、つい目が離せなくなってしまう。
これは、もはや神秘の書だ。
・・・真面目に仕事のことを考えよう。
ええと、今回のターゲットは新宿百人町の交差点から南西に入ったところの五階建て雑居ビル、か。
新宿駅ではなく大久保駅から降り、コインロッカーに大事なお宝を入れておく。
戦闘で折れたり汚れたりしたら大ごとだ。
木製の看板が掲げられている。なんて読むんだ?「鳴老組」?
日本は反社会的組織が堂々と看板を出しているのか。
警察組織は何をやっているんだ?とっとと全員逮捕してしまえばいいだろうに。
人数は・・・戦闘員が確か15人だったか。ならば問題ない。
ターゲットが潜伏するビルの前に立ち、ポケットから愛用のグローブを取り出し、両手にはめて拳を胸の前で軽くぶつけると、ガンっと心地よい、鋼がぶつかる音が鳴り響いた。
おおっと、お気に入りのコートは脱いでおこう。どうせ着ている物はズタズタになるんだ。
こんなこともあろうかと、下にビキニアーマーを着てきて正解だったよ。
無茶苦茶寒いけどな。
「強さ、勝利、暴力、鼓舞。ステュクスとパラースの子らよ。鍛冶神とともに勇者を磔にせし神々よ。我が腕、我が拳に宿りて神敵を滅する力を授けたまえ。」
ドンっという音ともに、淡い光に身体が包まれる。この身に大いなる力が宿ったのを確認すると、固く閉ざされたビルの正面玄関の鉄の門扉に指をかけ、左右に押し開けた。
厚さ5センチはあろうかという、鉄と合板で作られた門扉は金切声のような音を立てながら、まるで紙屑のように引き裂かれた。
「なんだ!お、お前、何者だ!」
入口を入ってすぐの小部屋には、ガラの悪いチンピラのような男が二人いる。
安物の石油ストーブが部屋の隅にあり、部屋はかなり暖かい。
テーブルの上にはトランプ、その横には吸いかけのタバコが置かれた灰皿・・・そして、無造作に置かれた拳銃。
ビンゴ。男たちは私の顔を見るとすぐさま、その銃をこちらに向けて発砲した。
肩と胸、そして右頬に被弾。
当然、神の力で強化されたこの身にとっては、髪の毛一つほどの傷も与えられない。
だが不快であることは変わりはない。
「フッ!ハァッ!せいやぁっ!」
片方の男に素早く肉薄し、左手で男の右手を叩き落す。
男の右手は肘のすぐ先あたりから折れ千切れ、銃と一緒に吹き飛んでいく。
「・・・!」
何が起きたのか理解できないまま立ち尽くす男のみぞおちに、右手を叩き込む。
拳は男の腹にめり込み、男は身体をくの字に折り曲げながら、部屋の奥の壁に叩きつけられ、腹から臓物をまき散らしながら絶命した。
「こ、この、化け物がぁぁぁ!」
残った男が拳銃を乱射してくるが、たかが.45ACP。
私に傷をつけたいならフルサイズのライフル弾くらい持ってこい。
銃弾を打ち尽くし、後ずさる男の顔面に掌底を叩き込み、そのまま近くの書類棚にブチあてる。
まるでアスファルトに落ちた水風船のように血と脳漿がぶちまけられ、残った首から下が床にグチャっという音を立てて落ちた。
「さて、あと13人。魔法使いか魔術師がいたら少しは楽しくなるんですけどね。」
たいして大きくはないビルだ。逃げられないように非常口をつぶしておくか。
エレベーターと階段がある小さなホールを通り抜け、非常口のマークが記されたドアを開けると、そこには非常口と鉄製の階段があった。
「う~ん。二方向避難、ってやつですか。仕方がない。出口をふさいでおきましょう。ああ、そういえばさっきの部屋にいいものがありましたね。」
非常口のドアノブを握り、斜めに力を入れる。
いくつかの金属が千切れ、あるいは壁側のコンクリートにひびが入る感触とともに、非常口のドアはひしゃげて開かなくなった。
そして、そこに先ほどの石油ストーブの中に残された灯油をぶちまけ、書類棚から持ってきたファイルを引きちぎり、紙が灯油を吸い込むようにまき散らす。
灯油はそのままでは火がつかないからな。芯になるものがないと。だが、しっかりと温まれば十分に燃えるだろう。
灰皿の横にあったオイルライターの火をつけ、灯油を吸った紙の中に放り込むと、はじめはチリチリと、そして勢い良く燃え始めた。
正面ホールに戻り、エレベーターを呼び出してドアを破壊し、1階で動かなくした後、階段を上り始めると、階下の異常に気付いたのか、やっと何人かの男たちが階段を下りてきた。
「なんだぁ?火事か?いや、・・・お前、誰だ?」
まったく、この国の人間は裏社会の人間まで危機感がないというのか。お前らだって社会に対する脅威だろうに。
「・・・敵襲ですよ。あなたたちを殺しに来ました。」
「なんだぁ?てめぇ、舐めてんのか!」
愚かにも先頭の男は怒鳴りながら私の首に手を伸ばす。それも、丸腰で。
「ふっ!」
私は軽く息を吐きながらその男の懐にもぐりこみ、腰のベルトに指を差し込んで、天井に向けて持ち上げた。
ドンっという大きな音ともに、男は身体の半分を天井にめり込ませ、数度痙攣した後動かなくなった。
これで、残り12人。
「撃て!殺せ!撃ち殺せぇ!」
拳銃を持った男が3人、散弾銃を持った男が2人。
数発の銃弾、あるいは散弾が私の肌を叩く。
だが、そんなことはお構いなしに手前の男の頭を掴み次の男の顔面に叩きこむ。
頭蓋骨がひしゃげる感覚。頭の半分を失った二人の男が崩れ落ちる。
隣の男の肩に手をかけ、下向きに、体重をかけて押しつぶす。
同時にその後ろの男の腹に、左足で足刀を打ち込む。
肩から先を重機で潰されたように失った男と、腹から身体を上下に分かたれた男が階段に、あるいは床に倒れ伏す。
その間もずっと銃弾は止むことはなかった。
最後の一人が散弾銃をこちらに向けて発砲し、おそらくはバックショットが脇腹にあたる感触があったが、12番ゲージくらいなら痣にもならない。
振り下ろした手刀がその身体を縦に切り裂き、私を迎え撃った男たちはすべて沈黙した。
「これで残り7人。2階は・・・これで全員ですね。あとは3階から5階か。まったく手ごたえがありません。少しは骨のある猛者はいないのでしょうか。それとも構わず燃やしてしまったほうがよかったでしょうかね。」
階段をのぼりながら、腰の雑嚢を開く。
中には大出力の焼夷術式と、限定的ながらも常温常圧窒素酸化触媒術式、そして作動中の通信妨害術式の金属製の術札が入っていた。
3階はどうやら事務所のような空間だ。
部屋の隅の方で二人の女性事務員が震えている。
顔を見られた。いや、顔を見られなくても同じだ。
この組織の人間である限り例外はない。
人の生き血を吸った金を給料としてもらっているのだから。
近くにあった大型の二穴パンチを手に取り、片方の女性事務員の顔面に叩きつける。
ズン!という音とともに、女性事務員は崩れ落ちた。
「キャアァァァ!帮助我!别杀我!」
うるさいな。他に投げるものは・・・ったく、入り口近くのコピーFAX複合機しかないか。
片手を複合機に突き刺し、そのまま振りかぶってもう一方の女性事務員に投げつけると、交通事故のような轟音とともに赤い何かをまき散らしながら潰れ、悲鳴は聞こえなくなった。
「ちっ。非戦闘員は数に含めないからまだあと7人ですか。めんどうですね。」
4階に上がると、会議室のような空間が二つあった。片方には誰もいない。もう片方を開け放つと・・・。
ん?頭の半分が金髪に染められた、高校生くらいの少女が半裸で縛られて床に転がされている。
そうか、こいつらに誘拐でもされてきたのだろうか。
だが私は助けに来たわけではない。まあ、縛られているし後回しでもいいだろう。
それに、猿轡をされて目隠しまでされているんだ。あとで処理すればいい。
5階に上がると、そこは少し様子が変わり、居住スペースのような構造だった。
「貴様!どこの組のもんじゃぁ!」
「会長!下がっててください!」
一人の小太りな男を背に、拳銃やライフルを持った4人と、日本刀のような刃物を持った男が2人、こちらにとびかかってきた。
こんな狭いところでライフルを使うとか、こいつら完全に素人もいいところだろう。
我ら「教会」もこの程度の人間を使わなければならないほど人材が不足しているとは、少し頭が痛くなってきた。
まあいい。同じように全員をひき肉にした後、ビルごと燃やすだけだ。
先に襲い掛かってきた男の日本刀を躱し、その目に指を突っ込んで近くの男に投げつける。
よほど痛かったのか、ほとんど抵抗なく投げつけられた男は、ライフルを持った男と衝突し、双方身体を大きく変形させて動かなくなった。
左斜め後ろの男が発砲。左肩に軽い痛みが走る。
お、血が出てるな。
ほう?軍用ライフルか。さすがに7.92mmともなるとそれなりに痛いな。
軽くステップし、後ろ回し蹴りをその首に叩き込むと、ライフルを持った男の首は引き千切れ、そのまま天井にあたり、床に落ちた。
あと4人。いや、戦力は実質3人か。
「くそぉ!この化け物が!」
「会長!逃げてください!」
拳銃を持った二人が、ガタガタと震えながら何かを言っている。
だが、日本刀を持った一人は少し冷静なようだ。
コイツ、少しは出来るかな?
ま、いいか。そう思って踏み出そうとしたときだった。
「あら、お取込み中だったみたい。ずいぶんと忙しそうね。でもまたの機会はなさそうだわ。ちょっと、順番を譲ってくれないかしら?」
あまりにも場違いな、心を揺さぶるような澄んだ声に思わず振り向くと、そこには腰のあたりまである薄い色の金髪、大人になる前の幼さを残したかわいらしい少女が立っていた。
手に持っているのは・・・金の板前のバッグ?
そうか、アルバイト中に巻き込まれたのか!?
うわ、左右の眼の色が違う!?
右の瞳がバイオレット、左の瞳がエメラルドグリーンのオッドアイだ。
すごい!武装魔法少女のミスティちゃんそっくりだ!
こ、これは、理師匠にぜひとも写真を見せたい、いや、まずはコスプレをしてもらって、それからフィギュアを作れば・・・。
「うわー。ミスティちゃん。本当にいたんだ~。・・・じゃあなくて!ここはあなたみたいな女の子が来るところじゃありません!後で話を聞いてあげますから!お姉さんが悪人を退治するまで待っててください!」
あ、つい声に出てしまった。キモいとか思われなければいいんだが・・・。
「・・・悪人を退治?まあ、悪人であれば退治することに異論はないんだけど・・・。」
ふ、ならば話は早い。退治した後ゆっくりとお姉さんと話をしましょう。
私の勇姿を見せて、お友達になって秋葉原巡りをするのよ。そして武装魔法少女のコスプレを!
「何くっちゃべってるんだ!てめぇら!生きて帰れると思うなよ!」
あ、まだこいつら、残ってたんだ。とりあえずとっとと片付けるか。