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14 文化祭初日/封印の聖釘

 平和なんて、少しの異物が混入するだけで簡単に崩れてしまうモノです。

 9月22日(日)


 南雲 千弦


 手品部の催し物は去年と同じで大盛況だった。

 瞬間移動マジックだけは同じものを去年もやったのでネタが割れていたけど、十分すぎる拍手はもらえた。


 そういえば、久神さんがご両親と一緒に、午後の部の手品ショーを見に来てくれた。


 しかし、驚いたのはそのあとだ。

 わざわざ同じ衣装を着て、メイクまで完璧に合わせたというのに、久神さんだけが琴音と私を一発で見分けた。

 師匠でさえ間違えるのに、一体どうやって・・・?


「顔を見ればわかります」


 その答えに、思わず言葉を失った。


 二講(にこう)を利用できるのは今日一日限りだ。

 明日は環境シンポジウムだか何かで使うらしいので、午後4時には撤収の準備を始めなくてはならない。

 久神さんはご両親と一緒に文化祭を見て回りたいそうなので、琴音に撤収作業の手伝いをさせよう。


「姉さん、私は遥香に校舎内の案内を頼まれているので、後はみんなと頑張ってね。」


「えっ。琴音、撤収も手伝ってくれるんじゃないの?」


「私は手品部員じゃないよ。毎回々々手伝わされてるから忘れているみたいだけど、私は剣道部員だって前にも言ったよね?」


 どうやら労働力が一人減ったらしい。


 まあ、撤収といっても機材は一人で抱えて持ち運べる程度のものだし、清掃だってホウキとチリ取りで軽く掃くだけでいい。


 部員も10人以上いる。

 1時間もかからない。

 活動報告書の作成は、文化祭が終わった後でも構わないだろう。


「ぐぅ。ま、いいや。手伝ってくれてありがと。片付け終わったら六時くらいに校門で。手品部のみんなと早い打ち上げに行くから咲間さん(サクまん)にもよろしく。もちろん久神さんも連れてきてよ。」


 まあ、部員でもないのに今年も付き合ってくれたんだから、これ以上のぜいたくは言うまい。

 でも、久神さん(可愛い女の子)とずっと一緒なのはうらやましい。


「了解、姉さん。後で遥香さんのご両親に確認をしてから、参加できるかどうかLINEで連絡するよ。」


 二講(にこう)を出ていく4人に向かって手を振る。さあ、さっさと片付けるか。


 ◇  ◇  ◇


 同日 午後5時30分 校舎内


 文化祭の初日がまもなく終わろうとしていた頃、いつの間にか擦り切れた修道服を身にまとった大男が昇降口に立っていた。


 それは、異様なほどに巨大な男だった。

 2メートル半を超える筋骨隆々の体躯。

 灰色の肌。

 無機質な仮面をかぶり、まるで動く彫像のように立ち尽くしている。


 異様な存在感にもかかわらず、教職員を含めて、周囲の生徒たちはまるで意識していない。

 いや、文化祭の出し物か何かだと勘違いしているのか?

 むしろ、通行の邪魔に感じる者はいても、不自然に思う者はいないようだった。


 男の傍らに立つ見た目は小学生くらいの、青いエプロンドレスを着た女児。


「ふん、認識阻害術式を解除しても何も騒がんとは。平和ボケどもめ。」


 彼女は一人毒づきながら肩から下げた赤いツールポーチから写真を一枚取り出した。


南雲千弦なぐもせんげん?女のわりにずいぶん男らしい名前だな。まあ、殺すやつの名前なんてどうでもいいか。」


 それを聞いた大男がくぐもったく声で慌てたように言った。

「おい。殺してどうする。また誰かに憑依するだけだぞ。」


「あ?分かってるよ。聖釘(アンカー)で動きを止めて弱らせてから拉致(回収)するんだったっけな。ったく、手順が多くてめんどくせーな・・・。」


 女児は大男をその場に立たせたまま校舎内に入り、近くにいた男子生徒にニッコリと笑いかけ、それまでとは打って変わったような丁寧な口調で話しかけた。


「すみません、この人知りませんか?」


「ああ、剣道部の南雲さんか。ちょっと前に二講の方から第一体育館のほうに歩いていくのを見かけたよ。3分くらい前だから、まだ体育館にいるんじゃないかな。」


「ありがとうございます。」


 女児は教えてくれた男子生徒に頭を下げ、第一体育館に向かいながらつぶやいた。


「まったく個人情報までガバガバかよ。ま、巻き込まれて死ぬ奴らのことなんてどうでもいいか。」


 そして、大男の耳元で低く囁いた。


「いくぞ、ヴェータラ。認識阻害をオンにしろ。クソ、聖者の衣(かくれみの)魔力貯蔵装置(バッテリー)の残量が心もとない。不意は打てないかもしれん。」


 大男が大きな足音を立てながら歩き始めたにもかかわらず、周囲の人間はその異様さを気にも留めなかった。


 ヴェータラが装備している「聖者の衣」は、教会が保有する遺物です。「聖者の衣」は、かなりのレベルでも見破ることが出来ない認識阻害術式と、漏出する魔力を周囲の仲間のものも含めてほぼ完全にカットする魔力隠蔽術式が組まれています。

 以前、琴音が平文で魔法を使おうとした時に遥香(魔女)が心配していた術式ですね。

 また、魔力検知は通常であれば術式や魔法を用いなければできませんが、一部の魔力持ちには検知できる者もいます。

 ちなみに千弦は敏感なようですが、琴音は鈍感なようです。その分、隠蔽にはあまり気を使わないようですね。

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