表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

134/277

134 図書館に潜む悪魔

 1月17日(金)


 エルリック・ガドガン


 開明高校の職員室であてがわれた、ノートパソコンとモニターが備え付けられた教員用のデスクで明日の教材を整理しながら、何気なくスマホのメッセージを確認する。


 ひ孫のアレクが無事、ロンドン・ヒースロー空港に到着し、自宅に戻ったあと、早速芸能活動を開始したらしい。


 アレクの随分と自慢げな報告によれば、双子の妹の方と付き合うことができることになったという。


 可能であれば仄香(ほのか)、いや、今は久神遥香の体を使っているんだったか。とにかく、魔女の恋人になってほしかったところだが、そううまくはいかなかったか。


 だが、少なくともこのまま仄香(ほのか)の血族と婚姻関係を結んでくれれば、僕の血筋が魔女の血族とつながることなる。これで僕たちの子供たちも、魔女の庇護が受けられるだろうか。


 可能であれば、僕自身が仄香(ほのか)・・・いや、魔女と夫婦になりたかったが、もうこの歳だ。魔術や魔法で延命をしているが、かなりガタが来ている。

 もはや子供を作ることはできないだろう。


 それにしても、仄香(ほのか)の弟子、たしか、名前はグローリエルだったか。

 まったく、エルフというのはうらやましい。


 我々人間が魔法や魔術の粋を凝らして何とか200年の寿命を得るのが精いっぱいだというのに、エルフたちは何もしなくても人間の8倍以上の寿命を持っているという。


 それに、おそらくだがあの娘、ルィンヘン氏族の出身だろう。かの氏族はハイエルフと呼ばれるだけあって、その魔力量が多ければ多いほど長い寿命を持っていると噂される。


 昨今の地質調査によれば、この世界が魔力に満ち溢れるようになったのが五千年前というから、たとえハイエルフといえども、仄香(ほのか)の年齢を上回る者はいないと思うが、千年以上生きている個体もちらほらといるようだ。


 ・・・まだまだ魔法の道は長いというのに、僕には時間が足りない。

 外法を使って800年、禁呪や聖遺物(レリック)を使ってやっと1500年。

 仄香(ほのか)には止められたが、いよいよとなれば手を出してしまおうか。


「ガドガン先生。今月末か来月初めのどこかの週末で先生の歓迎会をやる予定なんですが、ご都合の悪い日ってあります?」


 同僚の若い女性教師に声をかけられて、ハッと意識を戻す。

 ええと、養護教諭の脇坂先生、だったか。


 仄香(ほのか)の話によれば、この高校で数少ない魔法の理解者だというが、僕が魔法使いであることは話していないと言っていたな。

 必要に迫られるまで黙っていればいいか。


「いえ、まだ日本に来てから日が浅いですからね。週末にやることといえば、観光か食べ歩き程度ですよ。基本的にすべて空いてます。」


「そう。それはよかった。では日取りが決まったらお知らせしますね。」


 脇坂先生を笑顔で見送り、再びデスクに目を落とす。

 ・・・いかん、デスクが紙でいっぱいだ。そろそろ片付けながら作業をするか。


 ◇  ◇  ◇


 何とか作業を終え、退勤しようとするころにはすでに外はすっかり暗くなり、そしてかなり冷え込んでいた。


 職員室から出て正面の階段を下りると、そこにはすでに照明が消された図書館があった。


「この図書館、高校の規模にしては結構大きいんだよな。蔵書量も多そうだし、明日の昼休みにでも覗いてみようか・・・。」


 気を取り直し、校門に向かって歩き出そうとすると、図書館の中からドサッという、何かが落ちたような音が聞こえた。

 それと、これは魔力の流れか?人間由来の魔力を感じられないところをみると、魔術師と魔導書の類いだろうか。


「・・・誰かいるのか?お~い。・・・お?鍵が・・・開いてる?」


 こんな時間にドアが開いているとは不用心な。いや、奥の方に明かりがついているところを見ると中でまだ作業中なのだろうか。

 仄香(ほのか)以外の魔術師と遭遇するのも面倒だしな・・・。


 まあ、いいか。明日も忙しいし、見たいアニメもあるし、今日はとっとと帰ることにしよう。

 

 ◇  ◇  ◇


 石川 (おさむ)


 一月も半ばとなり、なかなか抜けなかった正月気分もやっと抜け始めた。


 図書委員の仕事もかなり慣れてきたと思っていたが、今週の初めになって突然、30年前にあった阪神大震災で死亡した卒業生から遺贈された書籍が書架の奥から発見されたため、その整理の作業を押し付けられてしまった。


 今日、千弦に途中まで一緒に帰ろうと誘われたんだけど、図書委員の仕事で帰れないと伝えたら、手伝ってくれることになったんだよな。


 図書館の受付のデスクに積まれた遺贈本を横に、書籍リストを管理するエクセルの管理簿の入力を続ける。

 この管理簿、どこが機密だか何だかよくわからないけど、図書委員以外の生徒に触らせられないことになっている。


 そのせいでせっかく手伝いに来てくれた千弦に肉体労働のほうをさせてしまうとは、なんとも歯がゆい限りだ。


 それだけじゃない。明日は千弦と初デートだっていうのに、前日から疲れていたらたまらないよ。


「ねえ、(おさむ)君。こっちの本はどこに置いたらいいの?」


 書架の奥から千弦が数冊の古ぼけた本を持ってひょいと首を出した。


「ああ、それはDの5の棚の上から3番目だね。あ、あと緑のカードを挟んでおいて。後でダブルチェックした後、ブックカバーフィルムを張る必要があるか確認するから。・・・遅くまで手伝わせてごめんね。」


「うん。わかった。あ、門限は気にしないで。母さんには晩御飯も外食ですませるってLINEで連絡しておいたから。・・・へぇ~。こんな本もあるんだ~。」


 千弦は一冊の本を開いてパラパラとめくりながら、書架の奥に消えていった。


 そのまま二人で作業を続け、腕時計の短針が6時と7時の間を指したころ、やっと一段落した。あとは日誌を書いておしまいだ。


 それにしても、本当ならオレ以外の二年生にはあと3人も図書委員がいるっていうのに、みんなインフルエンザで学校を休むとは、まったくツイてない。


 ・・・いや、ツイてるのか?

 ちょっと肉体労働だけど、千弦と二人きりで作業して、夕食まで一緒に食べていけるなんて、これはほとんどデートじゃないか。


 いやいや、そんなことを考えてるなんてキモいと思われたらヤバい。


 こめかみから変な汗を流しながら日誌を書き終え、遺贈されたすべての本が所定の場所に保管されたことを確認すると、一冊だけ足りないことに気づいた。


「あれ?この足りない本って・・・さっき見た、やたらと装丁が豪華すぎてブックカバーフィルムを張らないほうの区分に回したやつか?さっきまであったし、もしかしたら千弦のいる書架のほうかな?」


 おそらく、間違えて千弦が持って行ったんだろう。

 そう思って隣の書架へ向かおうとしたとき、奥のほうからドサッという、何か重いものが落ちたような音がした。


「千弦?何か落としたのか?・・・千弦?」


 書架に向かって声をかけるが返事がない。


 トイレにでも行っているのか?

 でも、そうするとさっきの音は一体?


 少し心配になって書架をのぞき込む。


 薄暗い照明の中、一番奥の書架の下に、何か黒・・・いや、紺色のものが丸くなっていることに気付く。


 あれは・・・。ちょ、おい!?千弦が倒れてる!?


「千弦!大丈夫か!落ちてきた本にでも当たったのか!?」


 うつぶせに倒れている千弦を抱き上げ、書架から図書館の受付横の4人掛けのテーブル席に運ぶが、その間、彼女はピクリとも動かない。


 冷えないようにオレのコートを敷き、たまたま近くにあった本を枕にして仰向けに寝かせたが、まるでただ眠っているようにも見える。

 ・・・呼吸は・・・している。

 規則正しくその胸が動いているのが、冬用のセーラー服越しにわかる。

 頭でも打ったのだろうか。


 そういえば、千弦の横に落ちていたこの本、妙に装丁が豪華なんだが、角は金属で補強されているし、こんなものが頭に当たったら脳震盪では済まないかもしれない。


「とにかく救急車、いや、琴音さんにも連絡が必要だな・・・。」


 たしか、今日は琴音さんも保健委員の仕事で遅くなると千弦から聞いている。

 もしかしたらまだ学校内にいるかもしれない。

 とにかく、連絡だけ入れてみよう。


「・・・もしもし、琴音さん?千弦が倒れたんだ。たぶん、脳震盪か何かだと・・・。ああ、今、まだ学校の図書館にいる。・・・そう、高校のほうの。え?今から来る?久神さんも一緒に?・・・分かった。救急車だけ呼んで・・・え?いらない?どうして?・・・あ、切れた。」


 先に琴音さんに電話してみたけど、救急車はいらないと言われてしまった。

 どういうことだ?


 電話を切ってから10秒ほど迷っていたが、やっぱり救急車を呼ぼうとスマホの画面を開いたと同時に、図書室の入り口から琴音さんと久神さんが駆け込んできた。


 そうか、まだ学校内にいたのか。琴音さんは保健委員だし、こういったことはマニュアルがあるのかもしれない。

 とにかく、千弦の容態が心配だ。


 ◇  ◇  ◇


 南雲 琴音


 姉さんが(おさむ)君と付き合うことになったと聞いて、妙な安心感とちょっとの寂しさを感じはじめた。


 私たちは外見も内面も能力も、すべてがとてもよく似た一卵性双生児だけど、私に比べて姉さんは常に姉であろうとして頑張っているような気がする。


 彼氏ができたら一緒に過ごす時間が減るのかな、なんて勝手なことを考えてしまう。


 いやいや、私だって彼氏ができたんじゃないかと思い直し、自分の部屋のベッドに腰かけてアレクに送るメールを書いていると、いきなりスマホが軽快な音楽を流し始めた。


 ・・・びっくりした。ん?(おさむ)君から音声の着信?はて?間違い電話?それとも、姉さんの好きな食べ物でも知りたいのか?


「はい、琴音です。・・・え?姉さんが倒れた?今どこに・・・分かった。高校のほうね。今すぐに行くから。それと、遥香も連れていくから。救急車はいらないわ。じゃあ。」


 姉さんが、倒れた?どういうことだろう?朝、あんなに元気だったのに。

 頭を打って失神した?


 そもそも、人間は漫画のように頭を軽く打ったくらいでは失神しない。

 ただし、強く打った場合は別だ。


 頭痛、嘔吐、意識障害、手足の麻痺などの症状が現れた場合、脳挫傷や脳出血など脳内に損傷が起きている可能性ある。


 たかが脳震盪、などと軽く見てはいけないのだ。特に頭を打撲した直後の6時間は、一切の外傷がなくても症状をしっかり観察しなくてはならない。

 だが、脳震盪だろうが重篤な障害だろうが、仄香(ほのか)なら何とかしてくれるに違いない。


仄香(ほのか)、助けて。(おさむ)君からの電話で、姉さんが高校の図書館で倒れたらしいの。今すぐに動ける?》


《何ですって?原因はわかっていますか?とにかく、今すぐに高校の図書館に向かいます。琴音さんもすぐに来れますか?》


《ごめん、原因はわからない。でも今すぐに長距離跳躍魔法(ル〇ラ)で私も向かうわ。現地集合でお願い。》


 念話で仄香(ほのか)に頼みながら、壁に掛けてあった制服にそでを通し、姉さんから借りた魔力貯蔵装置(バッテリー)を片手に玄関から飛び出す。


「あ、琴音、もうすぐご飯よ~。・・・もう。そんなに慌ててどうしたのかしら。」


 そして玄関の鍵の確認もせずに、長距離跳躍魔法(ル〇ラ)を発動する。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」


 何度も使ってすっかり慣れ始めた伝説級の魔法(ル〇ラ)は、何の問題なく発動し力強く私の体を夜空に蹴り上げた。


 ◇  ◇  ◇


 高校の図書館棟の前に勢いよく着地した時には、すでに仄香(ほのか)は到着していたらしく、図書室の入口ドアに手をかけているところだった。


「ごめん、待った!?」


「今来たところです!それより、千弦さんは!?」

 仄香(ほのか)に後ろから声をかけると、彼女はそのままドアの中に入りながら答える。


 図書館の中に駆け込むと、4人掛けのテーブル席にコートを敷き、その上に寝かされた姉さんと(おさむ)君の姿が目に入った。


「あっ!琴音さん!今、救急車を呼ぼうと・・・。」


 (おさむ)君はスマホを片手に、姉さんの左手を握っている。

 脈をとっていたのだろうか。


「救急車はいらないわ。それより、姉さんの症状は?何があったの?」


「・・・見た限りでは外傷はないよ。脈拍も呼吸も正常だと思うし、スマホのライトで確認したけど、瞳孔もちゃんと反応してると思う。それと・・・オレがドサっていう音で気付いた時には、すでに床に倒れていたんだ。何かの台に乗っていた様子もないし、この本・・・今、彼女が枕にしてる本以外は周りに落ちてもいなかった。だからきっと、棚からこの本が落ちてきて頭に当たったんだと思うけど・・・。」


 姉さんが枕にしている本を見ると、確かに重厚な装丁が施されており、角が金属で補強されている、いわば鈍器のような本だ。


 こんなものが頭に当たったら、大ダメージだろうな、と思いつつ、その本に手を伸ばそうとしたとき、突然仄香(ほのか)の大声が響き渡った。


「っ!その本に触るな!・・・琴音さん、ゆっくり、ゆっくりと下がってください。」


「何!?そんなに大声を出して。この本がどうしたの?それに触っちゃいけないって・・・もしかして、犯人の指紋がついてるとか!?」


 いつになく仄香(ほのか)が警戒している。それにこの本、何かヤバい雰囲気がするんだけど?


「・・・石川君。あなたはその本に触っても何も起きなかったんですよね。」


 仄香(ほのか)は確かめるように(おさむ)君に問いただす。

 ゆっくりと、間合いを取りながら近くにあった本棚から、百科事典の一冊を抜き、首に巻いていたマフラーを巻き付けた。


「え?そりゃあ、まあ、ただの本だし。毒は塗られてないと思うけど?」


 (おさむ)君は目を丸くしている。

 そりゃそうだ。

 私たち以外の人の前で、遥香の体であんな声を出したのは初めてだろう。


「申し訳ありませんが、その本に触れるのは、この場では石川君だけのようです。この百科事典と、その本を交換してください。そして、ゆっくりと隣のテーブルにおいてください。」


 (おさむ)君は、恐る恐る仄香(ほのか)から受け取った百科事典を姉さんの枕になっている本と交換し、抜いた本を隣のテーブルに置いた。


「・・・石川君。後は私たちで千弦さんの容態を見ます。保健室に行って毛布などの防寒できるものを持ってきてください。それと担架か、もしなければ2メートルくらいの長い棒を2本と、使ってない体操服などを3枚以上お願いします。あと、先生方にはまだ話さないでください。」


 (おさむ)君は仄香(ほのか)の迫力に押されたままなのか、カクカクと首を縦に振りながら保健室のカギを私から受け取り、図書館を出て行った。


 目を閉じたままの姉さんと、その額に手を当てて何かを調べている仄香(ほのか)と三人、薄暗い図書館に取り残される。


「ねえ、仄香(ほのか)。さっき、触っちゃいけないって言ってたけど、あの本、何なの?」


「あの本は本の悪魔です。おそらくは追憶の禁書と呼ばれるものでしょう。・・・厄介なことになりました。とりあえず、和香(のどか)先生に連絡はとれますか?何の対応をするにしても、千弦さんを絶対安静にさせる必要があります。」


「うん、わかった。でも、仄香(ほのか)の回復治癒呪でも治せないの?」


 スマホで和香(のどか)先生のスケジュールを確認する。

 うわ、今日はオペが入ってるじゃない。とりあえずメールだけしておこう。


「すぐに石川君が戻ってきてしまいますから簡単に説明しますが、あの本のせいで千弦さんは眠らされているだけです。身体には何の異常もありません。ただ、非常に強力な魔物の呪いなので、通常の方法では一生目が覚めることはないでしょう。」


 一生目が覚めることがないと聞いて思わずメールを打つ手が止まる。

 だが、眠っているだけとなると救急車で運ぶこともできないし・・・。

 あ、そうだ。


「ねえ、とりあえず、保護者ってことで健治郎叔父さんに迎えに来てもらおう。それと、二号さんは使える?」


「シェイプシフターの予定は特にありませんから、しばらくの間は千弦さんの真似をさせるのは難しくないかと思います。週明けまでに解決しなければ、しばらくシェイプシフターを登校させましょうか。」


「よし、そうと決まれば叔父さんに電話ね。・・・あ、もしもし叔父さん、ちょっと助けてほしいんだけど・・・。」


 私が叔父さんに電話する横で、仄香(ほのか)は何かの魔法の詠唱を行っている。

 あれは・・・召喚魔法かな?


 仄香(ほのか)の目の前の床が薄く光ったかと思うと、そこから身長60センチほどの小さな、でも妙に筋骨たくましいオジサンが現れた。


「メネフネ。その本をもってついてきて。ただし、必ず私たちから2メートル以上は離れてください。あと逃げ出す可能性があるので、厳重にこの布で包んで、決して腕の力を緩めないように。お願いしますよ。それから琴音さん。私はこの本を解析した後、病院に向かいますね。」


「了解デス。・・・ン?これ、本の悪魔じゃないデスカ。ご安心クダサイ。絶対に逃がしマセンヨ。」


 本の・・・悪魔?どういうことだろう?悪魔が書いた本なのか?

 とりあえず、病院に向かう前に解析しておいてくれるらしい。


 電話が終わり、健治郎叔父さんが迎えに来てくれることになった。

 幸いなことに宏介君と近くまで来ていたらしく、あと10分くらいで校門前に車をつけてくれるらしい。


「久神さん!毛布を持ってきた。あと、担架がなかったから言われた通り体操着3枚と旗竿を2本、持ってきたけど・・・これ、どうするの?」


 (おさむ)君が2メートルにちょっとの黒い旗竿と、保健室に非常用で置かれている体操着を3枚、そして少し大きめの毛布を抱えて戻ってきた。


 仄香(ほのか)は、二本の旗竿に体操着の袖口を裏返して器用に通し、即席の担架を作った。


 私と(おさむ)君で眠ったままの姉さんを担架に移し、毛布を掛けたところで校門のほうから聞いたことがある車のブザーの音が聞こえる。


 図書館の入り口からのぞくと、いつも叔父さんが乗っているステーションワゴンが校門前に止まっているのが見えた。


「叔父さんが来てくれたみたい。(おさむ)君、今日はありがとうね。このままかかりつけの病院に運ぶから、あとは任せて。」


 私の言葉に、(おさむ)君は心配そうな顔をして姉さんの顔をのぞき込む。


「本当に救急車を呼ばなくてもよかったのか?頭とか打ってるかもしれないから、精密検査とかしたほうがいいんじゃないか?」


「うん。だから、私たちのかかりつけの向陵大学病院に運ぶの。大丈夫、私たちの大叔母様がそこの外科部長だから、しっかり診てもらえるから。」


「う・・・。わかった。何かわかったら連絡してくれると助かる。あ、あと、千弦の目が覚めたら、ムリしないでって伝えて。明日の予定はキャンセルでもいいから。」


 う~ん。明日の予定・・・デートでもするつもりだったのかな?それに、もし入院するならお見舞いに来る気なんだろうけど、ちょっとな。

 魔法とか魔術で治療しているところは、あまり普通の人には見せたくないんだよな。


 生返事をしながら、仄香(ほのか)と二人で即席担架を担いで健治郎叔父さんの車に姉さんを運び込む。


「じゃあ、(おさむ)君。ほの・・・遥香。病院に着いたら連絡するね。」


 叔父さんの車、5人乗りなんだけど、実際には4人乗るといっぱいなのよね。

 宏介君は乗ってるし、姉さんは眠ったままだし。


「よし、じゃあ、このまま和香(のどか)先生のところまでお願い!」


 健治郎叔父さんの運転する車は、仄香(ほのか)(おさむ)君を残したまま、走り出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ