126 のどかなお正月
1月1日(水)
南雲 琴音
初詣の帰りに、みんなでそろって富山市内の写真館に行って、集合写真や個別の写真を撮影した。
はじめは落ち着かない様子の咲間さんも、遥香が迷子になったりエルがズッコケたりしたのを見て慣れたのか、写真に写るときは顎を引いて背筋をピンと伸ばしていたよ。
遥香の写真を撮っている時に、写真館の人がファインダーをのぞいたまましばらく固まっていたけど、あれはただ見惚れていただけのようだ。
私はというと、去年と同じように姉さんと二人でそろって写真を撮ってもらった。今年は立ち位置を逆にして撮影してもらったけど、考えてみれば去年までは振袖も逆だったからほとんど同じ構図になってしまったよ。
・・・これ、撮影された本人たちが忘れたら、どっちが私でどっちが姉さんかわからないんじゃない?
撮影された写真は額装してそれぞれの自宅に届けてくれるんだそうだ。
デジタルプリント方式だから、それぞれの出来上がった写真をサンプルとしてもらって帰ることにした。
写真館の人が遥香の写真を絶賛して、看板代わりに店頭に飾りたいって言ってたっけ。まあ、悪用はしないと思うし、遥香自身も二つ返事でOKしてたけど。
そんなわけで、今は青木さんが運転する車の中で、みんなのプリントされた写真を見せ合っている。
「エルちゃんかわいいね。このままお人形にして飾りたいよ。」
「ふふふ。遥香がそういうんじゃないかと思ってほら。しっかり撮影しておいたよ。」
姉さんがどこからともなく健治郎叔父さんからもらったフルカラー3Dポラロイドカメラとフィギュアを取り出す。
そういえば写真館の人に渡して撮影させてたっけ。ということは人数分あるのか?
「うわ!すごい!表情まではっきりしてる!じゃあもしかして遥香っちのもあるの!?」
咲間さんがエルのフィギュアを手にして驚いている。
「もちろん!ほら、よく撮れているでしょ?素材は4色のレジンだから柔らかくはないし、壊れやすいけど、飾っておくだけなら十分だと思うよ。」
「うわ・・・。細かい・・・。振袖の細かい柄まで再現してるのか・・・。」
咲間さんが遥香の振袖姿のフィギュアを手に取って感嘆の声を上げている。
「ん?私のもある。もしかして宗一郎のも?」
「もちろん。ってか、エルは宗一郎伯父さんのが欲しいの?別荘に帰ったらレジン液がまだたくさんあるから焼き増ししてあげるよ。他には誰の分が欲しい?」
姉さんの言葉に遥香は一瞬考えるが、エルや咲間さんと目を合わせたあと、三人で声をそろえるように言った。
「全員分!」
ま、そうなると思ったよ。後で私も全員分もらっておこうかな。
◇ ◇ ◇
初詣も終わり、別荘に到着して、リビングにある畳スペースで振袖を脱ぎ始めた。
さすがに私と姉さんは何回か振袖を着たこともあって手慣れたものだ。
勝手知ったる双子の身体、お互いの帯締めを解き、帯揚げを外していく。
遥香はすでに仄香と交代しているようで、すでに振袖・長襦袢・帯を着物ハンガーに掛けている。
当然だが、振袖は洋服のように丸めて洗濯籠に放り込むなんてことはできない。脱いだ後、まずは日光が当たらないところで湿気を飛ばす必要がある。
遥香の振袖は見たところ、ものすごく高価そうだ。姉さんならどれくらいの値段かわかるかもしれない。後で聞いてみよう。
どちらにせよ、仄香に任せておけば全く問題ないだろう。
「マスター。手伝って。」
声のしたほうを見れば、解きかけた帯を絡ませながら、エルがワタワタとしている。
着た順番と逆に脱げばいいのに・・・。
意外だったのは咲間さんだ。結構慣れた手つきで帯を解き、脱いでいく。
「あれ?咲間さん、振袖脱ぐの早いね?」
咲間さんに声をかけると、彼女は仄香のほうを指さしてにやりと笑いながら言った。
「今朝、着付けてもらったときに手順を見てたからね。それに目の前で仄香さんがお手本を見せてくれているしさ。」
そう言いつつ、妙に手慣れた感じで振袖を着物ハンガーにかけるところまで一人でやっていく。
「グローリエル。ほら、背中を向けて。まったく、振袖を着たのは初めてじゃないでしょうに。」
そうは言いつつも、仄香はエルの着替えを手伝っている。
・・・なんというか、エルが120歳だということを忘れそうだよ。
「・・・さて。みんなの振袖をざっと確認しましたが、すぐに何とかしなければならないようなシミや汚れはありませんでした。これで半日ほど乾燥させて、畳んでたとう紙で包んでしまうだけです。おそらく、しばらくは着ないと思いますのでそのままお手入れに出してください。」
エルの振袖を含めて、帰ってきてから全員の振袖を仄香が魔法でクリーニングしていたしね。ていうかお手入れ、いらないんじゃない?
「お手入れ・・・どこのお店に出したらいいんだろう?」
咲間さんが髪飾りを布張りの箱にしまいながら首をかしげている。
それならええと・・・あ、あった。
「私たちがいつもお世話になっている店でよければ紹介するよ。これ、そのお店の会員証。このURLで検索してみて。」
咲間さんにいつもお世話になっている呉服クリーニング店の会員証を渡すと、彼女はスマホでその裏に記載されたQRコードを読み取り、さっそく保存した。
「仄香はクリーニング、どうするの?」
聞いておいてなんだけど、もしかしたら自分でできるのかな?江戸時代に着物の洗い張りの仕事をしていたっていうくらいだし。
「遙一郎さんと香織さんの手前、自分でやるわけにもいきませんからね。購入したお店で紹介してもらえるそうですからお願いしようかと思ってます。」
「遥香の振袖、総絞りだしものすごく高いだろうからね。アフターサービスもしっかりしているんだね。さっきスマホで検索してみたけど、ほら。これと同じレベルの振袖じゃない?」
そう言って姉さんがスマホの画面を見せてきた。
そこには、遥香が着ていたのとほぼ同じ柄の振袖の写真が写っていた。
「ええと・・・あ、売約済みか。どれどれ・・・?値段が一、十、百、千、万・・・二千四百万円!?税抜き!?振袖だけで?まさか仄香?」
「あ、それ、そこに掛けてある振袖ですね。特注ではなく日展に出品されていたものを購入したので、それほど高く感じませんでしたが・・・。それにしても売り切れたのにまだホームページに載せてるんですね。」
日展?たぶん展覧会用に作成されたもの?でも車が買える値段どころか、家が一つ買える値段だぞ?ってか、遥香ったら不動産価格みたいな振袖を着てよく歩いていられたね?
《こ、琴音ちゃん、どうしよう、今になって膝が震えてきたんだけど・・・。》
あ、仄香ったら遥香に振袖の金額を教えてなかったみたい。
そんな金額の振袖を着て買い食いをさせていたのか。
もし遥香が汚したり破いたりしたらどうするつもりだったんだろう?
というか、あの杖の中、どうなってるんだろう?「膝が震える」って、まるで身体があるみたいな言い方だ。
あ、姉さんが白目をむいてる。後で日展って何の展覧会か聞いてみよう。
◇ ◇ ◇
久神 遥香
仄香さんのおかげで、綺麗な振袖を着てみんなと一緒に初詣ができて、何度も男の人に声をかけられたけど、すごく面白い方法で追い払ってもらえて、写真館で一生の思い出になる写真を撮影してもらえた。
脱いでから初めて知った振袖の値段に、仮想空間であるにもかかわらず膝がガクガクと震えたが、仄香さんが念話でどれほどの財産を持っているのかを教えてくれたおかげで少し落ち着いてきた。
・・・海底鉱山を40個以上持っていて、そのうち二つが金とプラチナの鉱山、一つがダイヤモンド鉱山とか・・・。小さいながらも魔力結晶鉱山もあるとか・・・。
それらの採掘権を持っている仄香さんやその眷属が代表を務める会社が世界中に20社もあるとか・・・。
総合オフィスはマンハッタンにあるとか・・・。
うん。スケールが大きすぎて何を言っているんだかわからなくなったよ。
杖の中の私の部屋の机の上に、千弦ちゃんが作ってくれたみんなのフィギュアがガラスケースに飾られている。
今さっき、3Dデータを仄香さんが送ってくれたらしい。
「はあ・・・。幸せだな・・・。」
ガラスケースの天板を触りながら、ついそんな言葉がこぼれた。
仄香さんの話だと、あと5年くらいで私の霊的基質が完成し、自由に身体を動かせるようになるらしい。それまで私の身体は歳をとることすらないみたいだ。
仄香さんは、その後もずっと一緒にいてくれると言っていたけど、私が死ぬまで一緒にいてくださいなんてお願いしていいんだろうか。
いつか別れの時が来るんじゃないだろうか?
ふと、漠然とした不安が襲ってくる。まるで前を走っている琴音ちゃんや千弦ちゃん、咲間さんに置いて行かれているような・・・。
《遥香さん。グローリエルが夕食におせちを用意して待っているらしいですよ。・・・どうしました?何か考え事でもしていたんですか?》
《何でもないよ。ちょっと将来のことを考えていただけ。私の霊的基質の修復が終わったら、仄香さんはどうするのかなって思って。》
私の言葉に仄香さんは一瞬だけ考えるようなそぶりをした後、ゆっくりと言葉をつづけた。
《遥香さん。夕食が終わった後、大事なお話があります。遥香さんの身体と私の新しい身体に関することです。》
《新しい・・・身体?え?もしかしてもう、一緒にいられなくなるの?》
《いえ、そんなことはありませんが・・・詳しいことは夕食後、宗一郎さん以外の全員にお話しします。》
・・・途中から仄香さんの言葉が聞こえなかった。漠然とした不安が形になって、目の前がぐるぐる回るような、足元が定まらない感覚が襲ってきた。
その後、ダイニングで身体の制御を返してもらったけど、せっかくエルちゃんが作ってくれたおせち料理の味がわからなかったよ。
◇ ◇ ◇
仄香
つい先ほど、玉山の隠れ家でバイオレットの身体を管理しているリリスから念話があったのだが、その身体に「あの日」がきてしまったらしい。
基本的に私が制御している身体は、子供を作る予定がない限りそういった機能を完全に止めている。
遥香は気付いていないようだが、この身体は去年の3月から一度も「あの日」が来ていない。
・・・いや、実は遥香に身体を返したときに「あの日」を再開させるべきだったのだろうが、すっかり忘れていただけなのだ。
いずれにせよ、来てしまったものは仕方がない。途中で止めるわけにはいかないからな。今回は魔法を使わず対応するしかないだろう。
《マスター。リリスです。隠れ家内をスべて探したのですが、生理用品はどこにも見当たりません。イマから外出して購入してきてもヨろしいでしょうか?》
・・・あれ?グローリエルの分は?おこづかいは十分に渡していると思ったが・・・?
《リリス、ニュー台湾ドルは持っているのか?》
《イエ、ありません。デスが、ソこらの男を魅了して払わせればよろしいかと。》
《・・・やめてくれ。その身体の魔力回路を使って魅了魔法なんて使ったら、相手の男が廃人になるぞ。》
琴音や千弦、あるいは咲間さんならばそういった物を持っている可能性もあると思うが、少なくとも遥香は持っていないことは間違いないだろう。
遥香は完全に失念しているようだし、グローリエルはエルフだから周期が極端に長いはずなんだよな。っていうか、もしかしたらまだ来てない?
どちらにせよ、玉山の隠れ家まで持って行ってやるにしても三人に頼んで分けてもらうか、一度近くの町まで行って買う必要がある。
仕方がない。夕食の後にでも往復してやろうか。
あ、それと遥香にも話しておかなくては。人によってはあの日が来ないだけでパニックになるらしいからな。
そんなことを考えていたら、階下からグローリエルが呼ぶ声が聞こえた。
「マスター。遥香。夕食の支度ができた。来て。」
おっと、もうそんな時間か。とりあえず遥香にだけは知らせておこうか。
《遥香さん。グローリエルが夕食におせちを用意して待っているらしいですよ。・・・どうしました?何か考え事でもしていたんですか?》
《何でもないよ。ちょっと将来のことを考えていただけ。私の霊的基質の修復が終わったら、仄香さんはどうするのかなって思って。》
はて?遥香の寿命が尽きるまで一緒に居るという約束はしたと思うのだが・・・?
もしかして、あの日が来ないことで不安になってしまっているのか?
しかし食事の前だし、下の話はしないでおこう。話があることだけ伝えておこうか。
《遥香さん。夕食が終わった後、大事なお話があります。遥香さんの身体と私の新しい身体に関することです。》
《新しい・・・身体?え?もしかしてもう、一緒にいられなくなるの?》
ん?妙な悲壮感が漂っているな?体重も変わってないし、胸も少し大きくしたし、そんなに悩むようなことあったっけ?
「マスタぁー!遥香ぁー!お吸い物が冷めるー!」
階下でグローリエルが叫んでいる。
あいつ、食事のことになると食べる時も食べさせる時も目の色が変わるからな。早く行かないと怒り出しそうだ。
《いえ、そんなことはありませんが・・・詳しいことは夕食後、宗一郎さん以外の全員にお話しします。》
とりあえず、先に夕食にしてしまうか。グローリエルのおせちは前に食べたことがあるがかなり美味しいからな。遥香も悩みを忘れて楽しめるだろう。
◇ ◇ ◇
おせちを食べ終えて、洗い物はグローリエルに任せて2階の12畳の部屋に琴音、千弦、咲間さんの3人を呼び、車座になって話し始めた。
「夕食前にお伝えしていた大事な話ですが・・・実はバイオレットの身体が手に入りまして。」
「え?バイオレットって、あの?SL9迎撃後に常温常圧窒素酸化触媒術式弾頭ミサイルと暴走魔導兵器で跡形もなく吹っ飛んだんじゃないの!?」
琴音がびっくりしている。いや、私もエルリックから聞いたときは本当にびっくりしたんだよ。
「え?SL9ってもしかしてシューメイカー・レビー第九彗星消滅事件の?あたし、その部分見てない。いいな〜。仄香さん、後で見せて〜。」
あ。そういえば咲間さんには見せてなかったっけ。
「じゃあ今夜、グローリエルと一緒に見ましょうか。それで、その身体をエルリックが回収してくれていたみたいなんですよ。・・・たぶん、遺物を使ったんだと思いますけど、どうやったかまではわからないんですよね。」
「すごいな。ガドガン先生・・・。」
千弦がボソッとつぶやく。
いつの間にか先生と呼んでいるあたり、アイツに魔法か術式でも習う気なんだろうか?連絡先の交換もしていたようだし。
あいつはほかの魔法使いに比べて確かに優秀だし、私の知らない魔法もいくつか使えるようだが、師事させるには性格がちょっとな・・・。まあいい。
「彼から受け取って、私が憑依する予備ボディとして保存しておくことにしたんですけど、先ほどその身体を管理する眷属から念話がありまして。『あの日』が来てしまったそうです。」
私の言葉の後、三人の間に妙な空気が流れる。
「そりゃ、宗一郎伯父さんがいないところでの話になるわけだ。確かに大事な話だね。」
その妙な空気を払いのけるように千弦がうなずいた。
「エルリックから受け取ったときはコールドスリープ状態でしたし、当分の間は憑依する予定もないから完全に失念していました。来たものを止めるわけにもいかないので、もし余っていたら分けていただきたいんですが・・・。」
私の言葉に、三人ともお互いの顔を見合わせている。
しばらくして杖の中からそれまで一言もしゃべらなかった遥香の声が聞こえた。
《・・・まさか、ごはん前に仄香さんが言っていた大事な話って・・・それ?》
結構大事な話だと思うんだが、違うんだろうか?
「ええ、そうですよ。あ、それと遥香さんの身体は『あの日』が来ないように止めてあります。いろいろ不便ですからね。」
《はあぁぁぁぁ〜。年明け早々に悩んで損した!完全に悩み損じゃん!私、仄香さんがいなくなっちゃうかと思って泣きそうだったんだから!》
あの日が来ないように止めてること自体はいいのだろうか?まあ、特に言及がないということは現状維持でいいということだろう。
「ええと、それで、余ってるものがあれば・・・分けていただけますか?」
「・・・姉さんと私が同時だから、旅行の時とかは少し多めに持ってきてるのよね。今部屋から持ってくるから待ってて。」
琴音が立ち上がり自分たち部屋に戻ってすぐ、紙袋に入ったソレを持って戻ってきた。
紙袋を開けると、未開封のものが入っている。十分な量だ。これならどこかに買いに行く必要もないだろう。
「・・・仄香って何でもできる天才だと思ってたけど、結構普通なのね。まあいいわ。その身体、ちょっと見てみたい気もする。どうせだからここに持ってこれない?」
千弦はバイオレットの身体に興味があるようだ。だが、ここに呼ぶのであれば家主の許可が必要だ。
「おそらく大丈夫だと思います。呼ぶのであれば宗一郎さんに許可を取りましょうか。」
「あ、じゃあ、私が許可とってくる。」
千弦が席を立ち、小走りに部屋を出ていく。そんなにバイオレットの身体を見たかったのか。
とりあえずリリスにも確認をとっておこう。さすがに問題はないとは思うが。
《リリス。バイオレットの身体の稼働状態はどうだ?力加減や魔力に異常はないか?》
《ハイ。力加減は全く問題ありません。ムしろ、非力なくらいです。魔力については制御にやや難ありです。》
やはり魔力回路の出力が高すぎるか。だがリリスはかなり年経た眷属だ。魔法を使わないだけなら問題なくこなすだろう。
リリスに念話がつながったのと同時に、千弦が駆け足で階段を上ってくる。
「OKだって!伯父さんも会ってみたいからリビングで集合しようってさ!」
宗一郎殿も見たいのか・・・。ま、いいか。ショーツと生理用品の準備だけ先にしておこうか。
《よし。今からこちらに来れるか?もし来れるようなら、長距離跳躍魔法は術札を使うといい。私の執務室のデスクの一番下の引き出しに術札のファイルがある。》
《カしこまりました。30分ほどでウカがいます。》
「今から30分くらいでこちらに来られるそうです。それではリビングに降りて待ちましょうか。」
《うわ~。楽しみ。あのバイオレットと会えるなんて。敵役だったけどSL9事件の後の戦闘シーンはかっこよかったからなぁ~。》
遥香・・・敵役じゃなくて敵だってば。一応、魂は完全に揮発してるから危険性はないけどさ。
リビングに降りて、洗い物が終わったグローリエルが淹れてくれたコーヒーを飲みながら全員で待っていると、呼び鈴が鳴る音が聞こえた。
琴音が玄関の扉を開け、バイオレットの身体をまとったリリスを招き入れる。
「オ待たせしました。マスター。皆さん、ハじめまして。マスターの眷属のリリスとモうします。マスターの予備ボディの管理をシています。」
リリスはそう言いながら、バイオレットの頭をペコっと下げた。
琴音は彼女の体についた雪を払い、そのままリビングに招き入れる。
それにしても、そのうちバイオレットの身体を紹介しようとは思っていたが、こんなに早くなるとは思わなかったな。
「うわ、ホントに目の色がバイオレットだ。・・・うわ、左右で色が違う?もしかしてジェーン・ドゥの左眼球、移植した?」
どうやら千弦は気付いたようだ。というか、バイオレットとエメラルドグリーンのオッドアイは目立つからな。適当なところでコンタクトでも入れておくか。
「ジェーン・ドゥの左眼はいろいろと役に立ちましたからね。もちろんバイオレットの元の左眼球も保存していますよ。」
琴音から分けてもらった生理用品をリリスに渡したあと、グローリエルが淹れてくれたコーヒーを飲みながら、宗一郎殿を交えてジェーン・ドゥの頃の話や、三好美代、南雲仄香の時代のことなどを語り明かした。
・・・咲間さんと約束していたので、話が一段落したところでSL9迎撃時の記憶を幻灯術式で再度上映することになったが、思いのほか宗一郎殿に好評だった。
琴音や千弦、遥香は2回目だというのに、食い入るように見ていたよ。
幻灯術式が終わった後、宗一郎殿はアニメ化したら大ヒットするって大騒ぎをしていた。
一応、魔女の存在は各国ともに最高機密に属するからキャラクターの名前や設定はかなり変更する必要があることを言っておいたが大丈夫だろうか。