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124 年越し前の暴露

年末年始なので臨時投稿です。

3日から通常通り投稿となります。

 12月31日(火)


 夜 年明けまであと数時間


 南雲 琴音


 一年の計は元旦にあり。ならば一年の反省は大晦日にあるのだろうか。

 残念ながらそんな言葉は聞いたことがないし、あったとしてもちょっと違うな、と思う。


 一年間お疲れさまでした、一生懸命生きてきて偉いね、というならまだしも、反省しろなんて言うやつがいたら、とりあえず覚えたての石弾魔法をぶち込んでやろう。


「琴音、エルが夜食に年越し蕎麦を作ってくれたからダイニングに集合だってさ。」


 年越し蕎麦!?そういえば初日にエルが担いできた荷物の中に蕎麦粉とつなぎ粉が入っていたっけ。

 っていうことは今年の年越し蕎麦は手打ち蕎麦なの?

 エルったら、いくつのレパートリーを持っているんだろうか。


「姉さん、もしエルがどこかでレストランを開いたら、大繁盛店になるんじゃあ・・・?」


「・・・連日繁盛、大行列間違いなしだね。まあ、エルフ自体が珍しいからそれを目当てに来る客もいるとは思うけどさ。」


 エルはエルフだけあってかなりの美形に入る。

 看板娘としての役割だって十分に果たせるだろう。


 だが、お客は最初だけは物珍しさで来るだろうが、彼女の料理はどんなCMよりも雄弁だ。

 あの味を知れば確実にリピーターになる。


 階段を下り、ダイニングに顔をだすと私たち以外はすでに席についていた。

 さっきまで年末特番を一緒に見ていたはずなのに、この短時間でどうやって蕎麦なんて打ったんだろう?


「あ、来た。今年は鴨南蛮にした。食べて。」

 席に着き、目の前の器を見ると鴨肉とネギがたっぷりと入った鴨南蛮蕎麦が美味しそうな匂いをしている。


 なぜかテーブルの中央には板わさ、焼き海苔、出汁巻き卵といったおかずのようなものまで並んでいる。


 なぜエルと伯父さんの前にだけ一升瓶とコップまであるのか非常に気になるが、さすがに文句を言うのは野暮というものだ。ってか、鬼殺しなんてどこにあったんだ?


 全員で手を合わせて「いただきます」といい、いっせいにズルズルと蕎麦をすすり始める。


「お〜。本格的だね。いつの間に作ったの?蕎麦を茹でる以外にもこの出汁だってかなり手間がかかっているように見えるけど?・・・うん、すごく美味いね。本職以上だ。」


 宗一郎伯父さんが丼をもって汁をすすり、感心している。


 伯父さんが「本職以上」というからにはその比較対象は銀座や赤坂などの一流の老舗と比較してもなお美味いということだ。


「ん。マスターの加速空間魔法を・・・何でもない。」


 ヲイ。今ものすごくヤバいことを口走ったぞ。このアル中エルフ。

 っていうか、まだ飲んでないか。


 一瞬だがものすごく気まずい空気が流れた。

 ・・・咲間さん(サクまん)だけは気にもせずズルズルと蕎麦をすすり続けている。


 あれ?仄香(ほのか)もきょとんとした顔を・・・いや、これは遥香か。

 ということは、エルのやつ、今頃仄香(ほのか)から念話でこっぴどく怒られているのだろうか。


「・・・あ〜。君たちが何か大事なことを隠しているのは知っているから。まずは年越し蕎麦を食べよう。美味しいものを食ってるときに暗い話は無しだ。というか、暗い話になるとは限らないだろう?」


 そういいながら伯父さんは遥香のほうをちらりと見る。

 ・・・残念、それは本物の遥香だ。遥香はまだキョトンとした顔を・・・あ、ダラダラと汗を流し始めた。


《どどどどうしよう。宗一郎さんに仄香(ほのか)さんのことバレちゃった!?》


 こちらを向いた遥香が念話で慌て始めた。

 これ、誰に向かって言ってるんだろう?さてはオープンチャンネルで話していることに気づいてないだろうな。


《とりあえず落ち着いて。多分、伯父さんは怒ってないから。正直に説明すれば大丈夫よ。心配なら今すぐ仄香(ほのか)に交代したら?》


《で、でも、エルちゃんの年越し蕎麦、最後まで食べたいし。》


 ・・・遥香、あんた結構冷静じゃないか。っていうか、仄香(ほのか)が食べる分を少しは残しておいてやれよ。


「・・・ふう。伯父さん。安心して。少なくとも今、目の前にいるのは間違いなく伯父さんが昔から知っている遥香だし、伯父さんが今感じている違和感についても明確な答えがあるから。少しびっくりするかもだけどね。」


 姉さんが鴨肉を箸で挟んだまま、伯父さんに向かって自信たっぷりに言う。

 言葉のわりに、鴨肉を挟んでいるのが非常にコミカルだが。


「ああ。心配はしていないよ。多分、もう一人この場にいることも知っている。ほら、美味しい蕎麦が伸びるぞ。もったいない。」


 そういって伯父さんは再び美味しそうにズルズルと蕎麦をすすり始めた。


《というわけで仄香(ほのか)。あとはよろしく。》


 姉さんが仄香(ほのか)に丸投げしたよ。


《何が「というわけで」なのかは置いておいて、いつか説明しなければならないと思っていましたからね。遥香さん、申し訳ないんですが、お蕎麦を食べ終わったらすぐに交代してください。》


 みんなが黙ってしまったせいで、ズルズルと蕎麦をすする音と、リビングの暖炉でパチパチと薪が燃える音がダイニングに響いている。


 うん。期せずして大晦日が一年の反省会みたいになってしまったよ。

 この分だと楽しみにしていた仄香(ほのか)の呪文の講義は受けられそうにないね。


 あ、エルの作った蕎麦はとてもおいしかったよ。


 ◇  ◇  ◇


 仄香(ほのか)


 全員が年越し蕎麦を食べ終わり、エルは逃げるように器を洗いにキッチンに行った。

 咲間さん(サクまん)だけは相変わらずきょとんとした顔をしていたが、彼女は今回の件にはほとんど関係がないからエルの洗い物を手伝ってもらうことにした。


 さっそく遥香に身体の制御を交代してもらい、宗一郎殿の前で居住まいを正した。


「早速ですが宗一郎さん。まずはこれを耳に()めてください。」


 そう言ってバイオレットの身体を制御するために用意した予備のイヤーカフを彼に手渡す。


「うん。やっぱりね。遠目に見ていただけだったけど、みんながつけてるお揃いのイヤーカフ、何かの術式が刻まれてたんだね。というか、タンザナイト?ものすごく高そうだなこれ?」


《はい。念話の術式が組まれています。それ以外にも装着者を守るための術式がいくつか・・・。続けてよろしいですか?》


「うわっ!頭の中に遥香ちゃんの声が!?いや、この感覚・・・君は遥香ちゃんではないね?」


 宗一郎殿は驚きつつもすぐに平静を取り戻し、さらには私が遥香ではないことを看破した。


「はい。まず私についてですが、私は琴音さんたちから仄香(ほのか)、南雲仄香(ほのか)と呼ばれています。先ほどまで年越し蕎麦を食べていたのが本物の遥香さんで、今は交代してそちらの杖の中にいます。」


《あうぅ、宗一郎さん、今まで黙っててごめんなさい。》


「この中に本物の遥香ちゃんが?それに南雲・・・?そうすると君は千弦と琴音に所縁(ゆかり)のある人かい?」


 宗一郎殿がそう言いながら杖のほうを見ると、杖は恥ずかしそうに観葉植物の後ろに隠れた。


「はい。私は二人から見て五代前の南雲紘一殿の内縁の妻であり、血縁上、直接の祖先にあたります。」


「・・・ちょっと待って。そうすると君は幽霊ってことになるのか?南雲家の祖先の幽霊が何も関係がない遥香ちゃんに取り憑いていた?」


 幽霊ということに思い当たった途端、宗一郎殿の顔色が変わる。


「・・・いいえ。少し血は薄いですが、遥香さんもお二人と同じく私の血縁上の子孫です。」


「・・・南雲家と久神家が親戚?いや、そんな話聞いたこともないな。たった五代前だろう?久神先輩との話の中でそんなことを聞いたこともないし、俄かに信じられないな。」


「・・・私は遥香さんが『南雲仄香(ほのか)』の血を引いてるとは一言も言っていません。」


「どういうことだ?そういえば『呼ばれている』と言ったな。ならば君は南雲仄香(ほのか)ではないということか?いや、待て。確かに『私は』『血縁上の祖先』と言ったな。どういうことだ?」


 宗一郎殿は魔法使いではあるが、常識人でもある。私の言葉の中にある矛盾に気づいたようだ。


 「私は南雲仄香(ほのか)であり琴音たちの血縁上の先祖である」

 「私は遥香の血縁上の先祖である」。

 「南雲仄香(ほのか)は久神遥香の血縁上の先祖ではない」


 この三つの命題は一見すると完全に矛盾している。


 だが、たった一つの条件を追加するだけで矛盾しなくなるのだ。

 つまり、「南雲仄香(ほのか)」は「私」だが、「私」は「南雲仄香(ほのか)」であるとは限らないという条件を。


「続けます。宗一郎さんは『魔女』と呼ばれる存在を耳にしたことがありますか?」


「ん?ああ。それくらいのことは知っているよ。伊達に九重家の長男ではないからね。親父が子供のころに会ったことを自慢そうに話していたよ・・・。まさか君がその『魔女』だというのかい?」


「はい。そういえば和彦さんとは二つ前の身体を使っていた時に面識がありましたね。三好美代(みよ)と名乗っていた時期、初めて会ったのは、たしか昭和38年の11月9日、土曜の夜から翌明け方にかけての京急生麦駅近く、横転した横須賀線車内でしょうか。」


「・・・親父が鶴見事故で助けてもらったという魔女の名前が三好美代(みよ)であったことは俺も聞いている。だが・・・やはりそれだけでは信じられないな。君が魔女の名前を(かた)って遥香ちゃんに取り憑き、琴音たちを騙そうとしている悪霊の可能性も捨てきれない。」


《もし仄香(ほのか)さんに悪意があったとしても、私たちを騙してどうこうする必要なんてないくらい何でも出来るし、何よりものすごく強いんだけど・・・。》


 杖の中で遥香が首をかしげている。だが、さすがに怪しい女が口頭で「私は魔女です」と言ったのをそのまま信じるマヌケなどそうそういるはずもないか。


「そうですね。ではどうしたら信じてもらえるでしょうか?」


「・・・いや、話を続けてくれ。君が魔女であるという前提で聞こう。」


「私は古くなった身体を50年程度で乗り換えます。今年の春頃、一つ前の身体、ジェーン・ドゥの身体の耐用年数が近くなってきたため、新しい身体を探していました。」


「新しい身体?取り憑くための?」


「はい。私は私の血を引く亡くなったばかりの少女の身体を修復し、借りてこの世にとどまっています。」


「・・・遥香ちゃんは今年の2月14日に急性骨髄性白血病で倒れた。ドナーが見つかったとは聞いていない。何より、呪病でチェックしたが、造血幹細胞移植の前処置に耐えられなかったはずだ。・・・やはり、遥香ちゃんは助からなかったのか?」


「いいえ。結果的にですが遥香さんは私が助けました。詳細はのちほど説明しますが、今回に限り私は亡くなっていない少女の身体を修復して取り憑いた形になっています。」


《宗一郎さん、仄香(ほのか)さんは私のことを助けてくれたんだよ。パパにも聞いたんだけど、今の医学では助かる可能性はなかったらしいよ。白血病が脳にまで浸潤していたって。》


 宗一郎殿は杖のほうをちらりと見る。そして大きくため息をつくと私のほうに向きなおった。


「・・・実は、俺自身も遥香ちゃんを助けようと彼女の病室でたびたび呪病を散布していたんだ。だけど、ほんのちょっとの延命をするのが関の山でな。まさか助かるなんて思っていなかったんだ。彼女が助かったのは君のおかげだったんだな。」


 宗一郎殿はそう言うと居住まいを正した。そして言葉を続ける。


「先ほど君は『結果的に』遥香ちゃんを助けたと言ったが、助けずにその体を乗っ取る方法もあったんだろう?」


「・・・はい。もちろん可能です。そして考えもしなかったと言えば嘘になります。」


「だけどそれをしなかった。それはなぜだい?」


「遥香さんは血が薄いとはいえ、私の子孫、私の娘です。子を害する母親がどこにいますか?」


「それを聞いて安心した。琴音と千弦たちのことを含めて、遥香ちゃんのことを今後ともよろしくお願いします。」


 宗一郎殿はそう言って深々と頭を下げた。


「もちろんです。ところで、私の存在を知っているのはこの場にいる6人と健治郎さん、そして遙一郎さんだけです。くれぐれもご内密に願いたいのですが・・・。」


「ん?ああ、任せてほしい。俺の呪病は秘密を守らせるのも得意でな。感染した人間の口に戸を立てられる能力もあるのさ。SNSも含めてね。」


《うわ、宗一郎さんスゴイ。炎上対策ができる能力なんて。今の時代じゃほとんど無敵じゃない?》


「ええ・・・。宗一郎さんの呪病の能力は情報活動という点においては完全に私の力を上回っていますね。私も初めて見る魔法、いえ、能力ですが、これほどまでに異質なものは見たことがありません。」


「ははっ。親父や美琴、それから健治郎みたいにオーソドックスな能力だったらよかったんだがな。教えてくれる人もいないから完全に独学だ。使い方があってるかどうかもわからないよ。それより、健治郎のやつ、知ってたのかよ。くそ、うらやましいな。」


《あ、宗一郎さん。健治郎さんは私がまだいることを知らないんだよね。っていうか、仄香(ほのか)さんのことを遥香って呼ぶから注意してね。》


「なんだそりゃ?まさかアイツ、遥香ちゃんのことをそのまま魔女だと思っているのか?まあ、怪しげな友人も多いみたいだしそのほうが安全かもな。」


 とりあえず宗一郎殿にも納得してもらえたようだ。


 話し込んでいるうちにかなりの時間が経ってしまったみたいで、リビングにある柱時計が11回鳴り、もう夜更けであることを知らせている。


 宗一郎殿はリビングにいる全員に「おやすみ」と声をかけながら洗面所に歯を磨きに行ったようだ。

 琴音たちも宗一郎殿に続いて洗面所に向かっている。


 その姿を見送りながら、水を一杯もらおうとキッチンに向かうと、グローリエルがきまりが悪そうにその入り口から覗いていた。

 ふと覗けば、そこには立派なおせち料理が重箱にいっぱいになっている。


 私と宗一郎殿が話している間、ずっと一人で作っていたらしい。


「グローリエル。怒っていないから気にしないで。・・・そうね。宗一郎さんのことが気になるようだったら、自分で話してみなさい。あの人はそんなことで起こるような人じゃないでしょうから。」


「ん。マスター。ごめんなさい。口が滑った。」


 グローリエルはまだしゅんとしている。


「気にしてないから。でも口の潤滑剤もほどほどにね。」


 そう言ってグローリエルに先ほど飲みそびれた鬼殺しの一升瓶を渡してやる。


 そういえば、江戸っ子は蕎麦を食べる前に酒を呑む文化があったな。

 「蕎麦前」とか言ったっけ。以外にも蕎麦と日本酒は相性がいいんだよな。


 蕎麦に含まれてるルチンやビタミンEは、毛細血管を強くして動脈硬化を防いでくれるなどの効果もあるし、飲酒の後に食べても健康にいいらしい。


 ま、エルには関係ないか。脂肪肝になろうが肝硬変になろうが、回復治癒呪で治せば一発だしな。


 すっかり機嫌を直したエルが酒とつまみを抱えて宗一郎殿の部屋に向かうのを見て、二階の自室に戻り今夜はゆっくりすることにした。


 さて、今年もゆく年くる年でも見ようか。


 NHKめ。また東大寺の鐘楼の梁に撮影用照明ライトを固定するとか言って釘を打ったりするなよ? 国宝だぞ?


 ・・・え?咲間さん(サクまん)はどうしたかって?

 彼女ならスキーで疲れ果てたのか、すでにぐっすり寝てたよ。


 ◇  ◇  ◇


 深夜 新年まであとわずか


 エルリック・ガドガン


 1月8日から仄香(ほのか)の通う高校に赴任し、英語教師として仕事を始めるにあたり、荒川区内のアパートを一部屋借りてその準備を行っていた。


 僕のひ孫が日本に留学していたころに世話になった不動産業者に、今回も同程度の物件の紹介を依頼したところ、職場まで徒歩5分の所に条件のいい物件があるといわれ、思わず即決してしまった物件だ。

 ・・・1DK、専有面積が36平方メートルしかない物件で、最初はビジネスホテルか何かと勘違いしてしまったが、どうやら日本の教師はこういったところに住むのが流行りのようだ。


「・・・考えてみれば今は魔導書も電子書籍でいいわけで、このアパートの一階にはコインランドリーとコンビニがあるし、生活家電も最低限で済む。トイレはイギリスの本宅より清潔でヒーターにウォシュレット付き、バスルームはなんと浴槽までついているんだよな。」


 考えてみれば、事あるごとに歩き回らなければならない本宅よりも快適なのでは?

 造り付けのクローゼットを開き、術式を編んだコートをハンガーに掛ける。


 ベッドはシングルサイズだが、日本製の低反発マットレスを用意した。

 エアコンは備え付けで、なんと家賃に含まれているという。


 イギリスの本宅ではなかなか一人になる時間がなかったからな。いつでも仄香(ほのか)に会いに行けるし、これから自由な時間が増えると思えば胸が躍る。


 問題は・・・こいつだな。


「ガドガン卿。なぜこんな狭いところに住む気になったのですか?手を伸ばせば両方の壁に届きますよ?」


 宇奈月温泉で別れたはずのオリビアが、私のアパートのキッチンで勝手にパスタを茹でていた。


「君、あのまま帰る予定だったんじゃないのかね?ミョウコウの八門金鎖(はちもんきんさ)の陣の損壊については本部に報告が終わったんだろう?」


「ええ。オーガの死体・・・失礼、こちらではオニでしたっけ?その死体から、オニたちがあなたの八門金鎖(はちもんきんさ)の陣を破ったという報告はしました。」


 実際に陣を破壊したのは鬼ではなく仄香(ほのか)の眷属なのだが、教会の手前、鬼たちが破壊したと報告させている。


「ではなぜ?鬼ごときに破られた八門金鎖(はちもんきんさ)の陣など君たちには不要だろう?」


「戦闘狂のあなたが作った陣、いわば世界最高峰の戦闘用結界を破壊できるような戦力、それもオニなどという人の理が通じない怪物が日本国内にいることを教皇猊下は不安視しています。」


「だからアレは面白半分で作った、攻略されることが前提のアトラクションだって言ってるだろうに・・・。」


「面白半分だからですよ。あなたが遊びで作ったシロモノはどれも製品版として作ったものに比べ非常に強力でした。遊びだからこそ全力で技術をつぎ込むあなたの癖はよく知っています。」


 まったく、余計なところをよく見ている連中だ。


 確かに、あの八門金鎖(はちもんきんさ)の陣を物理的に内側から破壊しようと思ったら仄香(ほのか)の光撃魔法クラスの破壊力が必要になる。


 はっきり言って歩兵が持ち込める程度の火力では、たとえ持てる限りのロケットランチャーやC4爆薬を使ったとしても、数枚の壁を抜くのが関の山だ。


 断じてたった四人の鎧武者にそのすべてが壊せるようなものではないのだ。


「で?君は日本で鬼退治をするということでいいのかな?では君の行き先はミョウコウ市内のはずじゃないのかね?」


「いえ、ミョウコウには別の使徒が向かいました。私はあなたの護衛です。」


「護衛?この僕に?君たちは僕のことを馬鹿にしているのかね?」


 はっきり言って護衛など足手まといだ。あの双子と戦った時のように、初めからハンデ戦と決めているのでもない限りは、相手が魔女でない限り不覚をとることはあり得ない。


 オリビアは僕の言葉など気にせずに、茹で上がったパスタを二つの皿に盛り、その上に振りかけタイプの調味料をかけている。


 飾り気も何もない部屋の中央に置かれたローテーブルに出来上がった二皿のパスタを置き、それぞれのど真ん中にフォークを差し込んだ。


「私もそう言ったんですけどね。教皇猊下は『万が一ガドガン卿を失うことがあっては人類の損失だ』とおっしゃられまして。今一番暇な私が割り当てられることになった、というわけです。」


 彼女はフローリングの上に無造作に座り、勝手にパスタを食べ始める。

 ・・・皿が二つあるということは僕もこれを食えということか?


「どうしました?冷めますよ?早く食べちゃってください。」


「あ、ああ。・・・で、君はどこに住むんだ?この近くには教会の支部なんてないだろうに。」


 そう言いつつ、出されたパスタを口に運ぶ。ペペロンチーノか。だが・・・生茹でじゃないかこれ?味はついてるんだが、食感が・・・!?


「何言ってるんですか。護衛が護衛対象から離れてどうするんですか。」


「ちょっと待て。君、まさかここに住む気じゃないだろうな!?」


「・・・まさか、この寒空にうら若き女性を放り出すつもりですか?」


 この女、信じられないことを言い出しやがった。せっかくのプライベートな空間が、仄香(ほのか)との逢瀬の予定が・・・。


「・・・年が明けたら自分の部屋を探して出て行けよ。それまではいてもいいが、ベッドは譲らん。そこのソファーで寝ろ。」


 そうは言ったものの、いつまでいる気なんだか。遠く聞こえる除夜の鐘が妙に物悲しく聞こえたのは、おそらく気のせいではないだろう。


 なんとか早く追い出して仄香(ほのか)との逢瀬を実現しなくてはならない。


 ◇  ◇  ◇


 仄香(ほのか)


「クシュンッ。クシュンッ!」


「あ、マスター。風邪?」


「・・・グローリエル。私が風邪なんて引くわけないでしょう?それより明日は朝から初詣に行くんだから早く寝なさい。・・・もう。誰が噂してるのかしら。」


 背中がぞわぞわする。この寒気は一体・・・?まさか風邪?

 ・・・明日の朝まで回復治癒呪を自動でかけておくように調整しておくか。

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