103 終業式
12月23日(月)
南雲 千弦
今日は待ちに待った終業式だ。
電子黒板を切り替えて出た画面で、校長が放送室から講話を述べた。
相変わらず短くて大変ありがたい。
この学校のいいところの一つは、校長の講話がとにかく短いことだ。
何年前の運動会だったか、「今日この一日が、諸君らの青春の良き一ページになることを祈る。終わり!」の一文で終わったことがある。
日本中の校長は、わが校の校長を見習うべきだ。
契約書や法律の条文でもあるまいし、そんな長ったらしい話をされて聞いている生徒などいるものか。
私は校長のあの講話を一生忘れることはないだろう。
校長講話が20秒もかからず終わり、冬休み中の注意事項や連絡事項の説明を学年主任、担任の順で行っていく。
そのあとすぐ、期末テストの結果が手渡される。それが終われば解散だ。
「千弦。テスト結果、どうだった?」
クラスの何人かがカラオケなどの打ち上げに向かう中、斜め後ろの席から理君が私の手元を覗き込んできた。
普段なら慌てて隠すんだが、今回は違う。
「ふふふ。学年22位よ。全科目85点以上、理数系は90点以上!」
うちの高校は一学年400人だ。これって結構いい順位なんじゃない?
後で張り出されている成績順位表も見に行こう。
琴音に勝てただろうか。
仄香に勝とうとは思ってないけどさ。
「すげーな。そんなに勉強してる雰囲気はなかったんだけどな。」
そういいつつ、理君は私の通知表をのぞき込んでいる。
「そういう理君はどうだったのよ?私の通知表だけ見て自分のを見せないなんてずるいわよ。」
そういいながら、机の上に置かれた通知表を素早く引っこ抜く。
「あっ!」
「・・・ずいぶん偏った成績ね。なんで英語が満点で古文と漢文が及第点ギリギリなのよ。それに理数系は軒並み90点を超えているのに社会科が全部平均点以下って。」
あ、美術系の科目に至っては赤点だ。
まあ、この高校、美術系の成績が赤点になっても補習はないからな。冬休み期間の課題が一つ増えるけど。
「う、うるさいな。古文も漢文も、将来何の役にも立たないじゃないか。それに、美術の成績が悪いのは俺の技術を先生が理解できなかっただけで・・・。」
技術・・・芸術性じゃなくて?
「あんた、木工彫刻の課題、何提出したの?まさかアレ、そのまま提出したの?」
「いや、もう時間なかったから・・・。」
・・・机の陰にある妙なケースを後ろ手に隠している。
「信じられない。彫刻の課題に弓を提出するなんて!?」
こいつ、みんながせっせとノミや彫刻刀で人物とか風景を彫刻してる横で黙々と複数の木材を張り合わせてると思ったら、複合弓を作っていやがった。
それもご丁寧に、その両端に滑車のようなものまで取り付けてコンパウンドボウの構造まで持たせたのだ。
いや、確かにすごい技術だとは思うけどね!?
「彫刻だってちゃんとしてあったんだよ。グリップにもスタビライザーにも透かし彫りを入れたしさ。」
論点そこじゃない。勝手なものを作るなよ。
ってか透かし彫りて、すげーな。
「まあいいわ。冬休み中はどうするの?予備校にでも行くの?」
「ちょっとバイトが忙しくてそれどころじゃなさそうかな。ちょっと従兄から金借りちゃってさ。」
「ふ~ん。じゃ、次に会うのは始業式ね。じゃあ、よいお年を。」
そういって立ち上がると、理君は慌てて私の左手をつかんだ。
「あ、あの、琴音さんの明日の予定は?何か知らない?」
妙に歯切れが悪いな。直接聞けばいいじゃない。
「琴音?多分、思いっきり寝るとか言ってたと思うけど。明日がどうしたの?」
その言葉を聞いた瞬間、理君は教室を飛び出して琴音の教室に向かって走っていった。
・・・だからなんで琴音ばかりモテるのよ。
◇ ◇ ◇
南雲 琴音
20秒もかからない校長の講話が終わり、各種連絡事項の後、期末テストの通知表が手渡された。
遥香、いや、仄香のほうを見ると、中を見ることもなくカバンにしまっている。
「遥香っち、通知表、見ないの?」
咲間さんが遥香(仄香)の背中から声をかける。
さすがに事情を知らない他の生徒たちの手前もあって「遥香」と呼ぶ約束になっている。
それに、あの黒い杖を持ってくることはできないらしく、遥香ご本人は家で留守番をしているはずだ。
「あ、いえ、後でこっそり見ようかな、と思いまして。」
・・・見る必要ないよね。廊下の順位表で見たけど、全科目満点だよね。咲間さん、まだ廊下の順位表、見てないのかな?
出題の仕方が悪くて別解が発生したり、出題者が答えを間違えでもしない限り、彼女が解答を誤る可能性は少ないだろう。
「そういえば咲間さん、また10位以内だね。」
今回は8位だっけ?
「まあ、ね。そういえば、コトねんもすごくいい順位だったじゃん。」
「・・・姉さんには負けたけどね。」
姉さんは22位、私は24位だ。
ちくせう。
姉さんと違って理数系はそこまで得意ではない。術式の理解には理数系の知識が必須だからか、姉さんは理数系が得意なのだ。
それよりも仄香だ。廊下に張り出されていた順位表には、成績も同時に記載されているんだが、9教科で900点ってどういうことだ?
2位が852点、3位は820点だぞ・・・。
「さて・・・。明後日からの準備もしなきゃね。今日はこのまま帰ろっか。」
悶々としている私を横目に、そう言って咲間さんが席から立ち上がった瞬間、教室の後ろのドアが勢いよく音を立てて開いた。
「こ、琴音さん!あ、よかった、まだ帰ってなかった。」
誰かと思ったら、姉さんのクラスの理君じゃないか。慌てて駆け込んでくるということは、姉さんに何かあったのだろうか。
「理君、千弦さんに何かあったんですか?」
仄香も慌てて席を立つ。
・・・ちょっと遥香と口調が違うんだよな。そこは「千弦ちゃん」って言わなきゃ。まあ、中身が違うなんて、そんなに簡単にバレやしないだろうけどさ。
「あ、いや、そうじゃなくて、ええと、琴音さんに伝えたいことがあるだけで・・・。」
理君が妙にしどろもどろになった。
私に伝えたいことがある?この場で言いにくいことか?
はて、なんだっけ?いや、待てよ?そうか、これはアレだ。
仄香、いや、魔女の誕生日サプライズでもする気だな。
仄香にバレないように彼を使うとは、姉さんにしては気が利くじゃないか。
「あ、あの、琴音さん。明日、よかったら遊びに行きませんか?」
伯父さんの別荘に行くのは明後日だし、わざと明日は開けておいた。何をプレゼントするか、これでゆっくり相談できるね。
うん?オタク君がこの教室に来たってことは、姉さんはもう帰っちゃったのか?
あ、そうか。姉さん、きっとどこかで隠れて待ってるんだな。
「いいよ。明日は一日中予定を入れてないから。」
待ち合わせ時間はあとで姉さんと会った時に決めればいいだろう。
「ほ、、ほんとですか!じゃあ、予定が決まったらLINEします!」
そう言うと、オタク君は飛び上がるようなステップで教室を出て行った。
ん?この後すぐに姉さんと合流するんじゃないの?
「・・・あれ?なにか間違った?」
首をかしげながら振り向くと、ニヤニヤと笑う咲間さんと、困ったような顔をしている仄香がこちらを向いていた。
「・・・琴音さん。明日が何の日か分かっていますか?」
ん?明日は12月24日・・・。
「あ!クリスマス・イブ・・・だ。」
しまった・・・。これって、クリスマスデートの約束が成立した?うわ、どうしよう!?
◇ ◇ ◇
仄香
波乱万丈のテスト期間~テスト休みが終わり、終業式、通知表の配付が終わって帰宅しようとしていたところで、ものすごく面倒な事態が発生した。
この前、琴音の体で千弦のフリをするためスマホの中身をコピーしたときから何となく分かってはいたが、2組の石川理殿は琴音に好意を持っているらしく、また千弦は理殿に好意を持っているらしいのだ。
千弦のスマホの中には、理殿とのLINEのやり取りで受け取ったであろう彼の写真が大量に保存されていた。
そしてついに、理殿が行動を開始した。琴音は鈍感でまったく気づいていなかったけど。
・・・面倒な三角関係だな。とか考えていたら、千弦から念話を受信した。
《そっちに理君、行ってない?》
《理殿なら、先ほど琴音と明日の約束をして帰ったぞ。》
《約束?何の約束よ!?》
《よく分からないが、遊びに行くとか言っていたな。クリスマス・イブだし、そういうことなんじゃないか?》
《な、な・・・。》
あ、念話が途切れた。
カバンの中に配付されたプリントなどを入れ、下校する準備をしていたら、廊下からものすごい勢いで千弦が飛び込んできた。
そのまま琴音に駆け寄り、その胸倉につかみかかる。
「ちょっと!琴音!あんた理君とクリスマスに出かけるつもり!?」
かなり声が大きかったせいか、教室中の生徒の目が一斉に二人に集まる。
何人かの男子生徒は、顔を覆ったり、頭を抱えたりしてのたうち回っている。
・・・琴音のやつ、一部の男子生徒には結構な人気があるからな。
特によくケガをする運動部所属の生徒たちに。
「ちょっと、姉さん、声が大きい!」
「ぐ、・・・なんで理君とクリスマスにデートするなんて約束したのよ。琴音は興味なかったんじゃないの?」
琴音の言葉に慌てて声のトーンを下げた千弦は、そう言いながら琴音の手を引いて廊下へとそのまま連れて行った。
「あはは・・・双子の修羅場だ。コトねんと千弦っち、明後日までに仲直りしてるといいけどね。」
咲間さんが苦笑いをしながら立ち上がり、ギターケースを背負う。
「理君は、千弦さんの好意に気付いていないんでしょうかね。というか、琴音さんとどこで接触があったんでしょうかね?」
咲間さんに続いて立ち上がり、カバンを提げて教室のドアを開くと、琴音と千弦はどこか別の教室に移動したのか、姿が見えなかった。
まあいいか。色恋沙汰なんて、なるようにしかならないだろう。・・・さて、今日は早く帰って遥香と二人で有料動画配信サービスでアニメを見る約束だ。
国鉄西日暮里駅で咲間さんと別れ、舎人ライナー西日暮里駅へと向かって足早に歩いて行った。
◇ ◇ ◇
無事帰宅して玄関を開けると、遥香の母親である香織が少し遅めの昼食の支度をしているところだった。
終業式は午前中に終わるが、通学距離が遠いと昼食の時間に影響してしまうのはどうしようもない。
ほのかに香る味噌汁の匂いが鼻腔をくすぐり、それまで気づかなかった空腹感がゆっくりと自己主張を始める。
この匂いは・・・アサリの味噌汁か。
長く生きているが、母が子のために作る料理はいつの時代も美味しく感じるのは錯覚ではないだろう。
「ただいま、ママ。」
「お帰りなさい、遥香。通学中に気分が悪くなったりしなかった?」
香織はそう言いながらキッチンから出てくると、炊き立てのご飯を茶碗によそい、焼き魚や漬物の配膳を始めた。
「うん、大丈夫。病院でもらった薬も欠かさず飲んでるし、体調には気を付けているから。」
「そう。・・・でも体調には気を付けてね。明後日から南雲さんたちとスキーに行くって言ってたけど、無理そうだったらすぐに休んでね。それから、何かあった時にはすぐに助けを呼べるように、バックカントリーには入らないでね。」
琴音たちとスキーに行く約束については、香織は最初は反対していた。
それはそうだろう。ついこの前、救急車で運ばれたばかりなのだ。
だが、遙一郎が説得してくれたらしい。どうやって説得したのかは知らないが、香織はしぶしぶ許可をくれた。
おそらく、子供のうちにしか出来ないことを少しでも楽しませてやろうという親心だろう。
「大丈夫だよ、ママ。体調と安全には絶対に気を付けるから。あ、これ、通知表。今回も頑張ったよ。」
そう言いながら、先ほど受け取った通知表を香織に渡す。一応目を通したが、担任からのコメントにも問題はないはずだ。
「あら。・・・今回もすごいわね。また学年順位が一位!?それに全教科満点なんて。遥香、あなた、いつの間にこんなに頭がよくなったの?」
私が生きてきた中で学んだ知識は、すべて亜空間上に設置したライブラリに保存しているから、高校生程度の学問で分からないことはない。
もちろん、社会一般に知られていることが事実と異なることもあるが、そういった問題にも対処済みだ。
・・・だが満点はやりすぎたか。とりあえず笑ってごまかしておこう。
「えへへ。一生懸命がんばったからね。」
香織は通知表を見てとても喜んでいる。これもスキー旅行を許可してくれた理由の一つだろう。
大した努力はしていないが、学生の本分さえ果たしておけば、比較的自由が手に入るものだ。
私が柄にもなくニヤニヤしていると、香織が箸を手に取りながらふと思い出したように言った。
「そういえば遥香。クリスマスイブは誰かと一緒に遊びに行かないの?」
クリスマスか。そういえばスキー旅行の荷物などの最終確認をする以外には何も用事はなかったな。
「明日は特に予定はないかな。学校で何人かの男の子たちに誘われたけど、全部断っちゃったんだよね。今年は家族で過ごすって。」
現状、この体は借り物だ。霊的基質の修復が終わり次第ただちに遥香に返す必要があるのに、勝手に恋人を作るわけにもいかない。
「あら、もったいない。せっかくこんなに可愛いのに。」
「う~ん。いい人がいたら考えるよ。」
そうはいったものの、私としては健治郎殿のような男性が好みなのだが、遥香の趣味とは合わなそうだ。今回はあきらめるほかあるまい。
食事を終わり、食器を軽くゆすいで食器洗い機に並べていく。
香織は掃除を始めたらしく、1階の居間から掃除機の音が聞こえる。
特に家事の分担を決めているわけではないのだが、食器洗いや洗濯、2階の掃除などは私の担当になっている。
・・・時々シェイプシフターにやらせているけどね。
鍋などの大きなものを洗い、布巾で拭いてるうちに食器洗い機がとまる。
手早く食器を取り出して食器棚に戻す。
さて、洗い物も済んだし、2階に行って一休みしようか。遥香も杖の中で暇を持て余しているだろうし。
そう思いつつ、2階の遥香の部屋へ上がっていくと部屋の中を黒い杖がフヨフヨとただよっていた。
《あ、おかえりなさーい。学校で何か面白いこととかなかった?音声が聞こえないからいまいち話が分からないんだよね。》
私が高校に行っている間、相当暇だったようで、ベッドの上には読みかけの漫画が散乱している。
杖のままだと何もできなくて可哀想だと思って念動呪を教えたんだが、さっそく活用しているようだ。
そのうち杖の中にパソコンをエミュレートしてWi-Fiにつないでやろうか。
「面白いことといえば、2組の石川理君が琴音さんをクリスマスデートに誘っていましたよ。行先は聞いていませんが。」
《なにそれ。なんで琴音ちゃんなんだろ?もしかして理君、千弦ちゃんの気持ちに気付いてないんだ。》
「そうですね。でも顔も体格も全く変わらないのに、千弦さんより琴音さんのほうがいい理由って何でしょうね?」
《さあ・・・?前に一緒に遊びに行ったときは、二人ともすごく仲が良かったんだけどね。それこそ付き合ってるんじゃないかって錯覚するくらい。》
たしかに変だ。
共通の趣味があって時々一緒に遊ぶ仲で、聞くところによると中学のころからの友人だというが、恋愛に発展しないだけならいざ知らず、同じ顔の妹にだけ惚れるというのは理解できない。
「ちょっと気になりますね。まあ、あの二人なら問題はないと思いますけど。」
そういいながら机のパソコンを起動し、HDMIケーブルを部屋のテレビに接続する。
有料動画配信サービスのページを起動し、玉山の隠れ家で使っているIDとパスワードを入力すると、見慣れた画面が表示された。
《仄香さんのおかげで見放題だね。ありがたやありがたや。》
昔ハマったアニメのリメイク版が作成されたらしく、久しぶりに鑑賞しようと思っていたのだ。
いくら私の魔力が膨大でも、星々を渡ったり宇宙で戦ったりして地球を救えるわけではないからな。
彗星やミサイルを迎撃したことはあるけどさ。
◇ ◇ ◇
5時間くらいぶっ続けで見てしまった。さすがテレビ版というだけあって、話数が多い。
階下で香織が夕食の支度を始めたのか、換気扇が回ってる音に気付くまで14話も見てしまった。
続きは夕食後にしようか。
《はあ~。面白かったね。そういえば琴音ちゃんが、最近はファンタジー物よりもSF物のほうが面白いって言ってたっけ。仄香さんの魔法を見た後だと、魔法少女の魔法が面白くないって言ってたよ。》
「魔法少女の魔法もキレイで面白いんですけどね。私の魔法は実用一辺倒で、ほとんど兵器みたいなものですから。」
《ふ~ん。今度見せてもらおっと。あ、念話だ。誰からだろ。》
噂をすればなんとやら。渦中の人から念話がかかってきたようだ。
《もしもし。仄香?今大丈夫?》
《ええ、大丈夫です。どうしました?》
《明日のことなんだけど、姉さんに私のフリをして代わりに行ってもらうことにしたのよ。》
・・・そうなるんじゃないかと思ってた。
大間に人魚を獲りに行ったときは千弦の真似を琴音の体でしたが、今回は琴音の真似を千弦がするのか。
私にはよくわからないが、相当似てるんだな、この双子。
《・・・それは別にかまいませんけど、千弦さんに代わりに断ってもらうつもりなんですか?もしそうだとしても、直接言わなきゃ意味はないと思いますよ。》
《いや、なんというか、男の子と二人だけで出かけるのは少し怖いのよね。館川君とは違うってことはわかっているんだけど、まだ自信がなくて・・・。》
《それより、千弦さんは石川君のことが好きなんじゃないですか?もしそうだとすると、千弦さんがかわいそうですよ。妹のフリをして自分の好きな相手を振るなんて。》
《・・・う、それはわかってる、わかってるんだけど・・・。》
例の事件がまだ尾を引いているのか、相手がだれであっても男性と二人になるのは難しいようだ。
《仕方ないですね。わかりました。千弦さんについては、私のほうでもカバーしておきます。ところで、わざわざ連絡してきたということは何か相談があったんじゃないんですか?》
《ええと、さすがに姉さんに丸投げなのは申し訳なくて。咲間さんとも話したんだけど、変装してついていこうってことになったのよ。》
申し訳なくて、というのは実際その通りだろう。
それより、少し野次馬根性が入ってないか?
《変装ですか・・・。いくら何でも自分の姉妹がデートについてきたら気付くと思いますけど・・・。》
《仄香の魔法で何とかならない?変化の杖みたいな術式とかない?》
変化の杖、って・・・。某有名RPGじゃないんだからさ。そんな便利なものあるわけ・・・。
そういえばあったな。玉山の隠れ家のクローゼットに。
洗濯をしたまま衣装ケースにしまってあるが、停滞空間魔法もかかってるし、虫食いもないはずだ。きっとまだ使えるだろう。
あとでグローリエルに連絡して持ってきてもらおうか。
《仕方ないですね。後で「変わり身の衣」を持っていきます。2セットでいいですか?》
《やふー!さすが仄香!まるでド〇えもんみたいだよ!》
・・・やめろ、訴えられたらどうするんだ。
横でフヨフヨと浮いている黒い杖を見ると、まるで笑いをこらえているのか、プルプルと小刻みに震えていた。