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10 平穏な転校生活(予定は未定)

転入編、久神遥香(魔女)の視点です。

 9月9日(月)


 東京都荒川区

 ある共学の私立高校


 魔女(久神遥香)


 今日から新しい学校で、楽しい楽しい潜伏生活の始まりだ。


 始業時間の30分くらい前に職員室に来るように言われていたので、その5分前くらいに到着し、職員室の扉を挨拶しながら開き、事前に紹介されていた担任の教師を探す。


 魔力隠蔽術式を最大限かけておく。魔法と魔術が不安定になるが仕方ない。常駐式にして固定し、フェイルセーフをかけて、緊急時でも簡単に外れないようにしよう。


「おお~。久神さん。早いねぇ。時間前行動だ。エライエライ。」


 時間より5分早く来ただけなのに、オバという女性の教師は褒めてくれた。


「いえ、時間より早く来てしまい、申し訳ありません。」 


 とりあえず、そう言ってごまかしておく。実際には朝寝坊をしたせいで、時間ギリギリとなり、慌てて長距離跳躍魔法(ル〇ラ)で校門前の家の庭に飛んできたのだが。


 教会(肥溜め)狂信者(クソ)どもがいないおかげで安心して魔法が使える。大変よろしいことである。


 それにしても、初日から早速魔力の無駄遣いをしてしまった。三つ子の魂百までというが、千年以上たっても変わらないようだ。


 魔力なんていくら使っても尽きることはないけどさ。


 涼しい顔をして、オバ先生の話を待っていると、おそらくは授業かホームルームで使うのであろう、書類の束を半分渡される。


「文化祭の注意事項とかのプリントなのよ。教室まで運ぶの、ちょっと手伝ってくれない?」


「はい。もう半分も持ちましょうか?」


 結構な量の書類だ。でも、身体強化術式が必要になるほどな量ではない。


 内容を読むと、なるほど、この学校は9月に文化祭があるのか。まあ、私には関係ない。


「大丈夫よぉ。半分持ってくれるだけで大助かりだわ。」


 教室の前につくと、オバ先生は私が持っていた書類の束を受け取り、扉の前でしばらく待つように言い、ガヤガヤと騒がしい教室に入っていった。


しばらくして、声がかかる。


「・・・入ってきて。クガミさん。」


 呼ばれるまま、扉を開けて教室に入る。すると、教室内がしんと静まり返った。


 何かおかしなところでもあったのだろうか。表情がおかしかっただろうか。


 半年しか使っていない体だから、まだ表情筋の制御がうまくいっていないのだ。鏡の前で笑顔を作ると、引き攣ったような顔になってしまうのだ。


 オバ先生が、黒板に「久神遥香」と私の体の元の持ち主の名前を書く。


久神遥香(くがみはるか)といいます。よろしくお願いします。」


 下手に笑顔を作るくらいなら、このまま無表情なままでいいか。


「うおおおおお!」


「キター!」


「キャー!」


 なぜか教室中が大騒ぎになる。やはり何かおかしかったのだろう。早急にこの表情を何とかしなくてはならない。


 魔女と呼ばれる私がこの体に入ってしまった事を知っているのは、遥香の父親だけだ。何とか今日一日を乗り越えられたら、相談してみよう。


 はい、そこ。

 私は断じて綾◯系ではない。


「!」


 なんということか。感じたことがある魔力の波長だ。


 波長の元をたどると、そこには半月ほど前、左手を切り飛ばした少女の顔があった。あの時とは違ってメガネをかけている。目つきが悪かったのは、単に目が悪かったのが理由だったのか。


 いや、そんなことは今どうでもいい。転入前にこの学年の生徒は転出入がないことを確認済みだ。これは偶然なんだろうが、非常に厄介なことになった。


 ただ、あの時の顔は恐怖に青ざめていたが、今日は笑顔を浮かべている。


 あの時使用した記憶干渉術式は、そこまで効果があったのか?魔力持ちだとほとんど効果がないはずなんだが?


 混乱していると、少女が左手をヒラヒラと振ってきた。


 ・・・!()()がある!


 反射的に右手を振って返事をしたが、ますます分からない。


 念力で作った二次元平面で切断したから、断面は相当きれいだったと思うが、今の医学は前腕部からバッサリといった腕を、この短期間で元通りにすることができるのか。


 あるいは、私と同等クラスの回復治癒系魔法の使い手が彼女の近くにいるということか?


「席は南雲(なぐも)の横が空いているな~。南雲、廊下に机とイスを持ってきてあるから、咲間(さくま)と一緒に運び込んでくれ~。」


 ・・・隣の席にされてしまった。とりあえず自己紹介だ。


「私のことは遥香とお呼びください。」


 この少女の名前は南雲琴音(なぐもことね)というらしい。

 南雲家といえば、術式の大家だったか。

 昔、とある娘の体を使っていたときに、行きがかり上嫁いで子供を産んだ家が南雲家だった。


 その子孫かもしれない。

 殺さなくてよかった。

 私の曾孫か玄孫かは知らんが、子孫を殺したんじゃシャレにならない。


 机を運んでもらっている最中にもじっと顔を見てしまう。

 やはり、魔力の波動がある。

 メガネには複雑な術式が刻まれている。

 初めて見る種類の術式だ。


 「なにか付いてる?」


 「いえ、メガネが・・・。」


 メガネに刻まれた術式は千里眼のような術式と、あと二つ何かよくわからないものだ。何か機械モノと同調する?


「おしゃれな模様だなと思って。でも、左右対称じゃないんですね。」


 慌ててごまかす。

 それとも、適当なところで私も魔法が使えます、って言うべきだろうか。


「これで朝のホームルームを終わる。日直、号令~。」


 ホームルームの内容は聴取録取術式で記録済みだ。

 抜かりはない。


 教科書の類は、準備できている。

 さて、何度目の高校生活か。


 退屈な授業だが新しい知識は手に入るだろうか。

 友人が欲しいなどと贅沢は言わない。

 まずこの表情筋を何とかしなくては。


 などと考えていたら、ホームルームの内容を二人とも聞いてなかったらしい。

 一限が終わった後、全部説明させられた。


 昼休みはクラス中の女子に囲まれ、南雲さんと咲間さんには放課後も付き合わされることになった。


 どこに連れていかれるのだろう。

 おそらく相当疲れるだろうが、平穏な学生生活のためだ、仕方がない。

 付き合うか。


 魔女は久神遥香の体を乗っ取った際に、遥香の記憶のすべてをコピーしています。


 ただし、魔女が重要でないと判断した記憶は、クラウドのようなところに保存され、脳はいったん白紙にされています。おそらく人格が混ざるのを防ぐためでしょう。


 ですから完全に人格は魔女のものなので感情と表情の連動がうまくいっていません。


 クールキャラ、ではなく表情筋死滅キャラ、なのです。(復活トレーニング中)

 なお、魔女にとってアニメネタは重要な情報のようです。

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