第7話 おいおい……ゾンビ系エイリアンと出会った時の対処法を情報ライブで教えてるぞ。この国大丈夫か?
『もし、このエイリアン――VICSに遭遇した場合、どういった対処法が考えられるんでしょうか? やっぱり、逃げたり身を隠したりといった行動をとるしかないんでしょうか?』
『はい、その通りです。間違っても倒そうなんて考えてはいけません』
アナウンサーの質問に答えたのは高校生くらいの少女だった。
黒や黄色に縁取られた白い軍服に、黒のスカートといういでたち。優しい顔立ちや、肩口で結って背中に流した銀髪。これだけならコスプレにしか見えないが……スタジオに立っている彼女の真下にはこんなテロップがあった。
NOX軍 SORC第1特殊作戦軍指揮官 マリー=ルイス・エーベルグ中佐。
おかしくないか? テレビで解説するのは軍事ジャーナリストとか元軍人だろ。現役の、ましてや特殊とついた部隊の指揮官が顔を晒すわけがない。
そう思ったけど……地球の軍隊ではないNOXは例外らしい。というのも、よくSF映画とかである地球の技術や戦術を駆使し、高度なテクノロジーを持つエイリアンを撃退するなんていうことは起こらなかったからだ。
エイリアンにはエイリアンを――つまり早い話が、人類に友好的なエイリアンである彼らNOXが守ってくれているから平和を維持できているのだった。
『警察や自衛隊以外そんな事をするなんて考えられませんが、NOXが到着するまでの間は仕方ないでしょう。NOXの基地があるのは御守特別区だけですから、遠くで戦闘が起こった場合だと対処が遅れるんじゃありませんか?』
『私たちSORCにはその問題を解決する準備があります。対応の早さが一番の取り柄ですから』
NOXも陸海空軍のように複数の軍隊を持っているらしいが、そのうち|SORC《Scourge Observation Repulse Command》というのがもっとも部隊を動かすのが早いという。
エイリアン版の海兵隊だと思ってくれていいですよ、と言って微笑むマリーさんにアナウンサーは「はぁ、そうですか」と呆気にとられていた。
だが途端に、その微笑が引き締まった。
『先ほどの質問にお答えする意味も込めて、もう一度警告します』
さっきまでの笑顔が嘘のように表情のない顔。なんだか不穏な空気がスタジオに漂ってきた。
『初期のVICSは、いわゆるゾンビに似た個体もいます。だからフィクションに影響された人、特に銃社会では、頭部を撃てば簡単に倒せるという勘違いが浸透しています。ですがステージ1のVICSでさえ大口径の銃弾を必要とします。それを知らずに発砲した人が犠牲になった事は言うまでもありません』
ここであるデータを見ていきましょう、とマリーさんがアナウンサーそっちのけで司会者のように振舞う。マリーさんが提示したのはいくつかの三次元投影。白い軍服を中心に、グラフやテキストが踊る。
そこにあったのは、ライフルを持って戦った人間の生存率が一パーセント未満だという結果だ。小口径だと殺傷能力が不足して殺せない、かといって大口径だと当てるのは非常に困難であり、そもそも銃声で他の個体を呼び寄せるから逆に被害が増すとのこと。
といっても……この日本ではそんな心配はないだろう。銃とか普及してないし。
だがそんな俺の考えを否定するようにマリーさんは手を振るう。
『銃社会でないこの国も例外ではありません。次の実験映像をご覧ください』
その手の動きに合わせて画面が切り替わった。
白い内装の実験室。そこで、SF映画に出るような黒い装甲服を着た軍人らしき人が金属製のバットで黄色い目の男を何度も殴りつけていた。
これだけでもショッキングな映像だが、獣のように歯をむき出し、襲い掛かっている青白い肌のそいつは、いくら殴打されてもよろめくばかりで、すぐに飛び掛っていた。
だけど、驚愕するのはその獰猛さではない。血がしぶき、骨が砕けても、傷口が泡立つとすぐに塞がったのだ。
(次回に続く)