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第6話 不穏なニュースと日常の落差をお楽しみください

 母さんたちと別れた俺は二階にいた。シャノンとお目付け役のデイビスさんと共に三階のフロアへと伸びるエスカレーターに足をかける。

ふと顔を上げると、支柱に設えられた大型スクリーンに目がいった。


 あれから18年……

 『6・25』あの厄災の非常事態宣言。そして被災地の今。

 そんなタイトルだから震災か何かの特番かと思ったが、違った。

 自分が生まれる七年も前のことだから気づくのが遅れた。


 でも一ヶ月以上先のことをなぜ今? 時期が合わない。放送するには少し早すぎる。


 俺が疑問に感じている間も、支柱のプロジェクターから投影されたスクリーンに、上空から見下ろす形で街の全容が映り込む。孤峰市こみねしの空撮映像だ。

 しかし街と呼べる姿はほぼ見受けられない。被災地というが、実際には何もなく、その周辺が二次被害で新たな被災地となっている、と表現した方がいいほどだ。

 街が抉られているような光景だった。明るい茶色が大部分を占め、数百メートルも不自然に窪んだ地形。映像が順繰りにクレーターを見せ、行き場をなくした線路や道路が見えてくると、傾いたビルまで映り込んでくる。その光景は「映画の宣伝か?」とも思えるCGめいたものがあった。だがこの映像は加工されていない。現実だ。

 隕石が落ちたようでありながら地層の断面が綺麗に残っている。そんな不思議な景色。いちおうクレーターと呼ばれているようだけど、改めて目にすると、ウソみたいな光景だ。


 通称、6月のあなた達の狂気ろくがつのユーフォリア。その響きだけなら、クリスマスのようなイベントに聞こえなくもない。だがその実情は日本大侵災――自衛隊を奮起させ、警察を重武装に変える要因になったエイリアンの侵略を示す言葉だった。

 今も続いている。エイリアン――VICS(ヴィシス)との戦争。

 Vlral mechanization Creature which is Strengthened after a stage《段階を経て強化されていく機械化生命体》。それが彼らの正式名称だ。生物兵器の凄まじい感染力と、SF映画のような高度に発達したテクノロジーを併せ持つ最悪の敵。倒しても倒してもきりがなく、感染者を取り込んで勢力を増す。この人類の天敵とも言えるエイリアンは今も侵略を続けている。

 そういうわけだから確実に犠牲者が増えていっているのだが――


 俺の目の前は活気に満ちていた。

 お目当ての商品を求めてショップが並んだ通りに流れていく親子連れ。奥に見える映画館前の売店で「何にするー? これとか良くない」と言ってメニューを選ぶ学生のグループ。その手前では「えーなんで私もゼロカロリーコーラなの? 塩味のポップコーンには普通のコーラがいいにきまってるじゃん」とぽっちゃりしたお父さんを非難する女児。

 彼らの脇を抜け、シャノンはピロピロと軽快な音楽が聞こえるゲームセンターに引き寄せられるように視線を巡らせ、あれだ、と指さした。


「ゲーセンか。ガンシューティングなら便乗させてもらうぞ」

「今日はしない」


 俺が微笑みかけると、シャノンは静かに首を振った。シャノンの目線を追うと『ゲームセンターV&F』というパネルが天井近くに見えた。その下に色んなゲームの設備があり、俺はそれらを示すようにばっと手を広げた。


「じゃあ、エアホッケーでもリズムゲームでも、あとは……手の込んだバーチャル系でもいいぞ。俺に食わず嫌いはない」

「ん……? それって、二人でできるモノばかりじゃないのか?」

「ああそうだとも、さあ一緒にやろう」


 満面の笑みを浮かべ、当然のように手を差し出すと、シャノンがうろんな瞳を向けてきた。


「おい、私は財布じゃないぞ。金は貸さん。甘えるな」

「そうだぜ、お嬢。甘やかすとろくなことがねぇ。たるむ一方だ」


 デイビスさんがやれやれと加勢し、その言葉にのせるように「だそうだ。諦めろ」と冷たくあしらってくるシャノン。

 だが俺は不敵なオーラを纏って、含み笑ってみせた。


「セレブには言われたくないな。子供はみんな貧乏だ。遊ぶ金なんてありはしない」

「開き直るな。現実を見ろ」

「現実……現実かぁ……」


 シャノンの言葉に苦い表情を作って顔を背ける。すると、さっきの情報ライブが通路脇のスクリーンに映っていた。


(次回に続く)

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