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第49話 もうやだ、こいつ……今日も合法ロリは問題児です

 昼休憩が終わると清水先生が俺たちを集合させ、体験学習が行われる第二ホールに案内した。

 そこは、弧を描くように階段席が設えられた映画館のようなホール。椅子の一つ一つに専用の操作パネルが用意されており、そこからホールの投影システムにアクセスする仕組みになっている。試しに壁面の一角を指定し、操作パネルに備え付けのタッチペンを走らせてみる。すると壁に俺が描いたものと同じ形の線が浮かび上がった。


 そうか……この見える場所すべてがキャンバスってことか。


 このことはクラスの皆に瞬く間に広がり、しばしの間ホールが落書きまみれになった。

 だが数分後には天井の照明が弱まって落書きは消され、辺りが薄暗くなると体験学習開始のアナウンスが流れた。

 本日は当館にお越しいただきありがとうございます、とか、これより広大な宇宙の世界へとあなた方をお送りします、とかお決まりの文句が聞こえる間、頭上では次々と星図が切り替わり、それから教科書で見覚えのある太陽系になると一旦映像が止まった。


『それでは皆様、お手元の操作パネルをご覧ください。そこに表示されているアイコンから映像上に色んなモノを投げ込んでみましょう!』


 はきはきとした女性の声が響くと、太陽系がクローズアップされ、青い惑星が大きく映し出された。

 地球だ。陸地に海、細かい雲まで見て取れるほど鮮明で、ホールにおさまるほど小さく圧縮したみたいな存在感。


『ご存知の通り、私たちの住んでいるこの地球には大気があります。ですから小さい物や軽い物質は摩擦熱で燃え尽きます』


 アナウンスなんて聞いていないお調子者な男子のグループは説明そっちのけでアイコンをタップし「俺これ欲しい、最新のゲーム機!」と言っている。完全にネット通販でポチる時のテンションだ。そんな彼の隣では気のよさそうな男子が「周辺機器も忘れるなよ」と目ざとく放り込んで親指をぐっと上げていた。そしてその後ろでは、


「あ、スライムがあるわね。とりあえずカップルが多そうなビーチ沿いに落としましょうか」


 と鬼のように連打する清水先生――ってアンタもノリノリかよ……!?

 清水先生の嫉妬の連打に、俺は心中でツッコミを入れた。

 とはいえ投げ込んだモノはすべて呆気なく蒸発していたが、それでも皆の指は止まらない。俺もなにかないかとパネルに目を走らせる。

 野球ボールやゲーム機を模ったもの。他にも人間が持てれそうな物ばかりで大したモノはなかった。車とかならワンチャン大気圏を突破して地上にいけるんじゃないかと思ったけど、やっぱり最初から地球に落下させる気はないらしいな。


『大気圏に突入した物体が高温になるのは、空気が押しつぶされた時に生じる現象です。これは空気中に押しつぶされた分子同士が激しくぶつかり合って熱が発生したもの。このように気体はぎゅーっと押しつぶすと熱が発生します』

「素材が指定できるのか……だが重さは五キロ以下までか……」


 アナウンスの説明を聞き流し、シャノンがぶつぶつと呟きながらパネルに指を走らせていた。


「じゃあ素材をタングステンにして落とすと……」


 そう言って放った金属が一際長く真っ赤な線を引き、だが数秒する見えなくなった。


「む? 画面が小さすぎるぞ。最後はどうなったんだ? 大気圏の再突入温度は摂氏一六〇〇度。それに対してタングステンなら三〇〇〇度以上は耐えられるからちゃんと地上まで行けたはずなんだが……」

「うっはぁー……! このシミュレーション、小動物も落とせる……! 倫理観どうしたの、動物愛護団体が黙ってないよ。海外製か……?」


 不満そうに首を捻るシャノンの横で、クレアがなにやら新しいオモチャを見つけたようだった。


「じゃあこの狐にしよっかな。でもこのまま放り込んでも面白くないから、スピードを……そうだなぁ……光速の三千倍にして。よしいけぇ、ふぉっくすスリー……!」


 ミサイルの発射コードのようなクレアの掛け声とともに放り込まれた狐が瞬く間に消えた。だが地球に目立った変化はない。ゆっくりと自転を続け、海も陸地も綺麗なままだ。


「あれ? なにも起きない……? お、いや……見て見て人口が減ってるぅ……!」


 クレアがパネル端の地球のステータスが表示されたところを指差して声を裏返らせた。

 すると徐々に地球が白くなりだし、それと同時に生命の可能性を示す数値も激減。地球は死の星へと変ろうとしていた。

 プラネタリウムにお絵かき機能がついたものかと思ったら、なかなかぶっ飛んだことをしてくれる。というか光速の三千倍なんて物理法則無視したものをぶつけたらこうなるのもしょうがねぇだろ。なんでこんなこと出来る仕様にしたんだ?


『ちょ、どうなってるの……!? ホログラムが止まったんだけど――』


 なにやらトラブルのようだ。とうとう地球の自転が止まり、真っ白な球体が出来上がってしまった。ホールに居並ぶ子供たちから不満そうなどよめきが広がると、ややあってから謝罪のアナウンスが流れる。


『ただいま機材の不調によりメンテナンスをしています。まことに申し訳ありません。数分で復旧すると思いますので、それまでお待ちください』

「じゃあちょうどいいや」


 クレアが立ち上がり、絨毯のような質感の床を歩んでいく。


「清水ちゃんー、トイレー」

「私はトイレじゃありません」


 よくある返しだが、赤毛のミディアムは可愛らしく頭を傾げた。


「え? トイレみたいなものでしょう?」

「誰が便器ですって……!?」

「おー秒で返してきた。こいつは『知ってる』ねぇ。で、どっちなの? ショタにいいようにされる系? それともスタンダードに成人男性と?」


 怒りと驚きが混ざった瞳で睨んだ清水先生に、恋バナのノリでずいずいと迫るクレア。それに堪らずといった調子で清水先生はくわっと立ち上がり、長い黒髪を揺らした。


「このメスガキ……!? なんてもの知ってるのよ……!」

「そっちか~……まぁ私も好きだけど――」


 こいつ! また問題起こしやがって……!


「先生! 俺もトイレ行ってきます! すぐに戻ってきますんで、じゃっ……!」


 慌ててクレアの手を引き、俺はホールの出入り口へ急いだ。

 つくづく限度というものを知らない奴だ。ホログラムの地球を破壊し、それでも満足しなくて先生を便器扱い。


 もうやだ、こいつ……。


 どっと疲れた表情で俺は、サイコロリを連れて通路に出た。


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