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第16話 マリーの過去は壮絶なものだった……

 俺が興味本位で促すと、シャノンはある話をしだした。

 それは北欧に住んでいたとある少女の話だった。


「まだVICSなんていなかった頃、北欧のある街に月明かりのように綺麗な髪を持つ少女がいたんだ。

 彼女は街の一等地に館を構える裕福な家庭の生まれで、何不自由ない生活を送っていた。でも、母親だけはいなかった。少女は父親と二人、あとは数人の使用人と一緒に暮らしていた。


 彼女の父親は開発事業に熱心で家に帰るのはいつも夜遅くて、やっと十歳になろうかという少女は暗い部屋で独りぼっち。寂しくて寂しくて、使用人たちに何度も話しかけた。たわいない話だ。その日何を食べたとか、授業で学んだこととかな。


 だが。

 返ってくる返事はどれも素っ気無くて……声も平坦で、まるで人形と話しているみたいだ、と彼女は思ったらしい。ただ同時に、自分の周りの人間がどこかおかしいと思いだしたのもこの頃だそうだ。


 だがそんな少女の疑問も、ひと月に一度の楽しみが吹き飛ばしてくれた。父親が仕事で忙しい合間を縫って山に連れて行ってくれるんだ。そこで、父親の趣味の鹿狩りを一緒にした。

 猟銃を使った狩だ。父親に勧められるまま、彼女はそれの扱いを教わった。

 初めは何度も失敗して的の木にすら当たらなかった。だが才能があったらしく、どんどん上達していったんだ。その度に父親に褒められた。

 それが何より嬉しかった。また褒められたい一身で、少女は顔を赤くして何度も何度も練習を重ねた。小さい子供にはさぞ辛かっただろう。北欧は冷える。冬の森ならなおさらだ。


 けれど彼女の熱意は消えることはなかった。

 どんなに寒かろうと、どんなに難しかろうと。たとえ、こんな技能を求められていなくても続けるんだ。孤独な少女には他にどうしたらいいか分からなかったから……。


 でも、そんな日々も長くは続かなかった。

 ある日、父親がいつもより早く家に帰ってきた。この機会に、少女は久しぶりに夕食を一緒に食べられるかもしれない、と思って出迎えに行った。だが誰一人として彼女に取り合ってくれる人はいなかった。ただ――


 館が騒がしかった。父親は寝込み、使用人は暗い顔をさらに暗くし、狂ったように館の玄関を、窓という窓を閉め、しきりに何かを呟いていた。

 それがすごく不気味で、少女は心細くなって父親の元へ向かった。


 そして到着すると不意に、男の声が寝室から漏れ聞こえたんだ。内容は皆目見当もつかないが、取り返しがつかない、という感じがなんとなく伝わってきた。

 少女が寝室に入ると、父親の秘書に自分の部屋へ戻れと追い返された。でもどうしてもパパに会いたいと言って少女は拒んだ。


 その時だった。

 ベッドから父親が転がり落ちた……それに秘書は、彼の身を案じて慌てて駆け寄った。すると――


 血が飛散った。

 父親が秘書の首筋に噛み付いたんだ。

 あまりの事態に驚いて、少女は逃げ出した。

 館の騒音が悲鳴に変わる頃には、少女は父の書斎に入っていた。父との思い出が詰まった場所だ。視線を巡らす度に、色んな思い出が呼び覚まされただろう。

 でもそんな父親は、人を食う化け物になってしまった。

 そう思うと、不思議と迷いがなくなったそうだ。

 皮肉なことに、それは父親からの暗示だったんだ。危険な状況で狩をする。対象が動物から化け物になっただけだ。そして少女は飾り棚に置かれていた猟銃を手にした。


 けれどこの後のことは私も詳しくは聞いていない。ただ、軍隊に発見された時、少女の足元には多くの死体が転がっていたという。その中には彼女の父親も含まれていたらしい」


(次回に続く)

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