第15話 今だけは辛かった……その優しい微笑を見るのが……
「はじめまして、朱宇くん。私はマリー=ルイス・エーベルグ。気軽にマリーって呼んでね。もしくはお姉ちゃん……いい? その二択だからね。それ以外じゃダメよ」
しきりに呼び名を強制するマリーさん。やっぱ変な人だ。でも穏やかな表情と優しそうな雰囲気が……母さんの面影が重なる。子供っぽい母さんとこの美女は全然似てないのに、どうしても重なって見えてしまう。
もう会えないと思うと、途端に寂しくなる。泣きそうになる。その優しく微笑む姿が、どこか母さんに似ていて――
今の俺には凶器じみていた。
途端に息苦しくなる。
そんな顔で近づかないでほしい優しくしないでほしい。たとえたった一人の家族を亡くしたとしても――
「あの、朱宇くん? どうしたの?」
「マリー、さん……うぅ……」
限界だった。
マリーさんの優しい声音を聞いた直後、瞳から頬に暖かなものが流れて首を伝う。うぅ……と言葉にならない声を上げ、俺は俯いた。
そしてあれから数日が経った今、撃たれた傷はNOXの医療技術ですっかり治り、俺は病院の屋上で空を見上げていた。
快晴とまではいかないが、いつも良い天気で、いつもしばらくすると――
ぎぃぃ……、と扉が開く。
独りになりたいのに、それを許さない奴がいるからだ。そいつは迷いのない足取りで近づいて来て、いつもと同じことを言う。
「またここか……朱宇。マリーさんが探してたぞ」
シャノンだった。
「気晴らしをするにしても一言伝えてからじゃないと心配されるだろ」
分かってる。いつも同じことばかり言ってきてうんざりする。腹が立つ。だから心配されるとか言わないでほしい。でも、探してた、と言っているのに毎回この場所にいたことは誰にも教えないんだよな……そこは素直に感謝したい。ありがとう。
そう思う一方で、いざ口を開くとどうしてもむすっとした調子になってしまう。
「うるせぇな。そんなことでいちいち来るなよ」
「いや、その、なんだ。そっ、そう。私も空が見たくなったんだ」
下手な嘘だった。横に腰を下ろす長いブロンドの髪に、俺は一つ息を吐く。
「だったら、別の場所でも良いだろ。なんでここなんだ」
「それはそうなんだが……その、正直な話をするとな。朱宇には前向きになってほしいんだ。すぐに立ち直れとは言わない。でも、今日はその助けになる話しを持ってきた」
座って早々に本音を漏らすシャノン。これほどのお節介があるか? しかも、助けになるって前置いて自分でハードル上げてるし、と思うが、このバカ正直さは実に効果的だった。
(次回に続く)