第五話
家に帰ると、玄関の前で人影が揺れた。
「蛍…何かあったのか?授業休むなんてお前らしくないだろ?」
「たかちゃん………」
「話せないことか?」
「それは……中に入って、部屋で話すから…」
そう言って中に招き入れると、入りなれた部屋へと上がっていく。
いつも近くにいる幼馴染みは恋愛対象には思えなかった。
だからこそ、なんでも話せるというものあった。
水戸は何を言っても軽蔑しないし、月島には良き理解者でもあった。
毎回反対された一条に対しての気持ちを錯覚だと言い続けられた事
もあった。
「それで?結局振られたの?」
「…うん」
「なら。よかったじゃん。あんな下半身で生きてるような奴と初め
てを迎えなくてさ〜、絶対に病気持ってるでしょ?」
「そんな事は………まぁ、もうどうでもいいかなって…」
「吹っ切れてたんだ…ならいいけど」
「うん、それでね………実は別の人と付き合う事になってて……」
いきなりの告白に一瞬水戸さえも驚きを隠せなかった。
「その後輩もヤバいんじゃない?いきなり付き合うって、知りもし
ない相手と?」
「それなんだけど…楠木君っていうんだけど…僕の事知ってるみた
いなんだよね〜」
「ストーカーって事?」
「違う、違う、そういうんじゃなくてさぁ〜」
「いや、どう見ても怪しいだろ?そいつも蛍を騙してるんじゃねー
のか?」
「でも……僕から辞めるって言ったら、別れてもいいって言ったし
嫌がるような事はしないと…思うし……」
水戸は長いため息を吐き出すとしっかり説教をしてきた。
あまりに振られてからのフットワークが軽すぎると何度も言われ、
これではまるで尻軽女と一緒だとまで言われたのだった。
「まぁ〜十分気をつけろよ?それと、あんまり簡単に身体を許すな
よ!」
「…!心配してくれるんだ〜、たかちゃん、優し〜でも大丈夫だよ。
そう簡単には惚れないし〜」
「それが、クズみたいな男に貢いでいたやつのセリフか?」
「あれは初恋だったんだもん!」
あっという間に終わった僕の初恋は苦い思い出と、淡い期待を持って
今日も幸せを掴むために努めます。
付き合い初めて初めての週末を迎えていた。
昨日の夜にLINEで『デートしよう』と突然のお誘いに胸を躍らせてい
たのだった。
待ち合わせはハチ公前。
ちょっとおしゃれな服をきて待っていると女子の黄色い声が聞こえて
きた。
「あ、先輩!お待たせしました〜」
「お、おはよ…」
目の前に来たのは明らかにイケメンすぎて、目が開けられない。
学生服だったからあまり感じなかったが、どんな服でも着こなせるで
あろうルックスと顔がまたいい。
これでは女子が放かっておくはずがなかった。
「あの〜ちょっといいですかぁ〜、私たち今二人なんです、この後一
緒にどうですか?」
「結構です。俺、今は先輩と一緒にいたいので邪魔しないでください」
お姉さんたちの苦笑いがなんとも言い難かった。