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苦手な方はご注意ください。

三国志演義

三国志演義・曹操の南進~臥龍水火の計~

作者: 霧夜シオン

はじめに:この一連の三国志声劇台本は、

     故・横山光輝先生著 三国志

     故・吉川英治先生著 三国志

     北方健三先生著 三国志

     王欣汰先生著 蒼天航路

     Wikipedia

     各種解説動画

     正史・三国志

     羅貫中著 三国志演義

     の三国志系小説・マンガや各種ゲーム等に加え、

     【作者の想像】

     を加えた台本となっています。

     またこの作品でこのキャラが喋っていた台詞を他のキャラが

     喋っているという事も多々あります。

     なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかっ

     て変換表示できない)場合、誠に遺憾ながらカタカナ表記と

     させていただいております。

     また、役の性別転換は基本的に禁止とさせていただきます。

     名前のない武将たち(例:〇〇軍部将や〇〇軍兵士など)

     が性別不問なのは、過去の歴史においていないわけではない

     、いたかもしれない、という考えに基づくものです。


     ある程度ルビは振っておりますが、一度振ったルビは同じ、

     または他のキャラに同じのが登場しても打っていない場合

     がありますので、注意してください。


     上演の際はしっかり漢字チェックを行い、

     【決してお金の絡まない上演方法】でお願いいたします。


     長くなりましたが、以上の点をご理解いただけた上で

     演じてみたい、と思われた方はぜひやってみていただけれ

     ばと思います。     


三国志演義・曹操そうそう南進なんしん臥龍水火がりゅうすいかの計~


作者:霧夜シオン


所要時間:約30分


必要演者数:8~10人

     (8:1)

     (9:0)

     (9:1)

     (10:0)


はじめに:この一連の三国志声劇台本は、

     故・横山光輝先生著 三国志

     故・吉川英治先生著 三国志

     北方健三先生著 三国志

     王欣汰先生著 蒼天航路

     Wikipedia

     各種解説動画

     正史・三国志

     羅貫中著 三国志演義

     の三国志系小説・マンガや各種ゲーム等に加え、

     【作者の想像】

     を加えた台本となっています。

     またこの作品でこのキャラが喋っていた台詞を他のキャラが

     喋っているという事も多々あります。

     なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかっ

     て変換表示できない)場合、誠に遺憾ながらカタカナ表記と

     させていただいております。

     また、役の性別転換は基本的に禁止とさせていただきます。

     名前のない武将たち(例:〇〇軍部将や〇〇軍兵士など)

     が性別不問なのは、過去の歴史においていないわけではない

     、いたかもしれない、という考えに基づくものです。


     ある程度ルビは振っておりますが、一度振ったルビは同じ、

     または他のキャラに同じのが登場しても打っていない場合

     がありますので、注意してください。


     上演の際はしっかり漢字チェックを行い、

     【決してお金の絡まない上演方法】でお願いいたします。


     長くなりましたが、以上の点をご理解いただけた上で

     演じてみたい、と思われた方はぜひやってみていただけれ

     ばと思います。



●登場人物


劉備りゅうび・♂:あざな玄徳げんとく

     中山靖王ちゅうざんせいおう劉勝りゅうしょう末孫まっそんにして漢の景帝けいてい玄孫げんそんを自称。

     諸葛亮しょかつりょうと言う傑物けつぶつを家臣に得るが、未だその勢力は弱く、曹操そうそう軍の侵攻

     の前に退却を余儀よぎなくされる。


諸葛亮しょかつりょう・♂:あざな孔明こうめい

      中国史上屈指の名宰相めいさいしょうとして名を残しているが、現在は弱小と言って

      いい劉備りゅうび軍の軍師という位置づけ。

      三顧さんこの礼をもって劉備りゅうびに仕え、本作では曹操そうそうから逃れるため、策を用

      いて敵先鋒を水・火の計略でほふる。


趙雲ちょううん・♂:字は子龍しりゅう

     袁紹えんしょう公孫瓚こうそんさんを経て劉備りゅうびに仕える。智勇に優れた名将で、今回の退却戦

     では特に劉備の家族である、甘夫人かんふじん糜夫人びふじん阿斗あと【後の劉禅りゅうぜん】の守護

     を命じられている。


張飛ちょうひ・♂:あざな翼徳よくとく

     一丈八尺いちじょうはっしゃく蛇矛じゃほこを軽々と振り回す酒を愛する豪傑。劉備りゅうびの義弟。

     酒による失敗も多いが、その武勇は劉備りゅうび軍の中でもトップクラス。

     これより少し後の長坂ちょうはんの戦いにおいてはのちの語り草となる、

     長坂橋ちょうはんきょう仁王立ちをしてのけることになる。


関羽かんう・♂:あざな雲長うんちょう

     美髯公びぜんこうとあだ名される長いひげの持ち主で、知勇に優れた名将。

     義に厚く、上に不遜ふそんで下に慈悲深い。


曹仁そうじん・♂:あざな子孝しこう

     曹操そうそうの旗揚げ時から付き従っている百戦錬磨の古参の将。劉備りゅうびが軍師を

     得てからは良い戦績を残せておらず、大敗北を喫することが多いが、本

     来は優秀な将。


曹洪そうこう・♂:あざな子廉しれん

     兄の曹仁そうじんと共に従兄弟の曹操に旗揚げ時から仕えている勇将。許チョや

     他の猛将の影に隠れてしまいがちだが武勇に秀でている。


きょチョ・♂:あざな仲康ちゅうこう

     猛る牛の尾を引いて引き戻したという怪力の持ち主。

     もとは農民であったが、黄巾賊残党討伐こうきんぞくざんとうとうばつの為やって来た曹操に見出

     されて仕える。既に故人の典韋てんいと共に曹操軍の親衛隊を束ねる。


徐庶じょしょ・♂:あざな元直げんちょく

     もと劉備りゅうびの軍師だが、曹操そうそうに母親を人質に取られて偽手紙で誘き寄

     せられ、失望した母の自害によってそのまま曹操そうそうに仕えることにな

     る。しかし、決して劉備りゅうびの為にならないような策を献策しないと自

     身に誓っている。


ナレーション・♂♀不問:雰囲気を大事に。


※演者数が少ない状態で上演する際は、被らないように兼ね役でお願いしま

 す。


・キャスト例

劉備:

諸葛亮:

趙雲:

張飛:

関羽:

曹仁:

曹洪・徐庶:

許チョ:

ナレ:


・徐庶役は基本的に曹洪・許チョのいずれか、もしくはナレが男性だった場

 合はナレと兼ねた方がセリフ数のバランスがとれます。

 (劉備軍サイドとは全員被るため、兼ねられません。)



――――――――――――――――――――――――――――――――――


ナレ:曹操そうそう、南方攻略の軍を興す。その数、百万。

   雷鳴の如く伝わってきた凶報は、劉備りゅうびらを震撼させた。

   劉表りゅうひょう亡きあと、荊州けいしゅうの実権を握っている蔡瑁さいぼうら兄妹は劉備りゅうびや前妻

   の子である劉琦りゅうきを無視し、遺言を書き換えて異母弟の劉琮りゅうそうを国主の座

   に据えたばかりか、曹操そうそうへ無条件降伏を決めてしまう。

   諸葛亮しょかつりょうは、今こそ亡き劉表りゅうひょうに代わって荊州けいしゅうを治め、

   蔡瑁さいぼう一族を排除して曹操軍を防ぐべきだと進言するが、

   劉備りゅうびの態度は煮え切らなかった。


劉備:軍師…に亡き劉表りゅうひょう殿を裏切る真似はどうしても出来ぬ。

   すまぬが、他に策はないだろうか?


諸葛亮:…やむを得ませぬな。

    承知しました、我が君。ともかく御心みこころを安んじたまえ。

    この孔明こうめいにお任せを。


劉備:頼むぞ、軍師。


ナレ:諸葛亮しょかつりょうは、劉備りゅうびの意をくんで新たな策を胸の内に描くと、主だった将たちを

   集めた。


諸葛亮:諸将よ、すでに話は聞いていることと思う。

    曹操そうそうがついに南方攻略の軍を興した。

    我らは敵先鋒てきせんぽうを撃退しつつ、まずは樊城はんじょうへ入る!


    【二拍】


    孫乾そんかん糜竺びじくは城内に立札を立て、民達を樊城はんじょうへ避難させよ。

    次に関羽かんうは兵千人を率い、白河はくがの上流に土のうを築いて川の流れをせき

    止めよ。

    そして明日の夜、下流にて兵の叫びや馬のいななきが聞こえたら、

    一斉にせきを切って曹操軍を濁流で押し流し、同時に攻めかかれ!


関羽:ははっ、承知しました。

   ただちに向かいまする!


諸葛亮:張飛ちょうひは同じく兵千人を率い、白河はくがの渡しに兵を伏せよ。

    関羽かんうの水計が成功したのを見たら、共に曹操そうそう軍の中核ちゅうかくを徹底的に粉砕

    するのだ!


張飛:おうッ、心得た!!

   ようし出陣じゃあ!


諸葛亮:次に趙雲ちょううん、これへ!


趙雲:はッ!! 


諸葛亮:なんじに兵三千を預ける。

    乾燥した柴やあしかやを十分に用意せよ。

    それに硫黄いおう煙硝えんしょうを包んで城の各所に隠せ。

    明日の天候は夕方から大風おおかぜが吹くであろう。曹操そうそう軍はこれを避けようと

    して、必ず新野城内しんやじょうないに陣を移す。


趙雲:本当に夕方から大風おおかぜが吹くのでございますか?


諸葛亮:うむ。必ず吹く。

    その時を見計らい、東門ひがしもんを除く三方の門から火をかけるのだ。

    城が炎に包まれ、敵が混乱に落ちたら東門ひがしもんへ移動し、

    曹操そうそう軍を待ち受けよ。

    敵は必ずそこを目がけて殺到するゆえ、存分に打ちのめすのだ。


趙雲:城ごと用いて火計とは…なんという思い切った策だ。


諸葛亮:頃合いを見てすぐに白河はくが関羽かんう張飛ちょうひと合流し、樊城はんじょうへ急いで退却せ

    よ。


趙雲:心得ました!

   すぐに火計の準備にかかります!


諸葛亮:糜芳びほうなんじにはこの紅い旗を、劉封りゅうほうには青い旗を渡す。

    それぞれ兵千人を率いて新野城郊外しんやじょうこうがいにある山へ向かい、敵が来たら

    計略があるかのように旗を打ち振り、敵を惑わすのだ。

    その後、白河はくが新野城しんやじょうの中間あたりに伏兵として潜み、初めは敵をやり

    過ごせ。城が燃えるのを見たら曹操軍が必ず逃げてくるゆえ、そこを襲

    うのだ。


ナレ:一方、曹操そうそう曹仁そうじん曹洪そうこうを大将とし、これに自身の親衛隊長であるきょチョ

   を加えて先鋒せんぽうとし、総勢十万の軍を新野しんやへ進撃させる。

   めいを受けた曹仁そうじんらは怒涛どとうの如く新野しんや近くまでせまったが、先頭を進む

   きょチョが見たものは、左右の山の峰に布陣する劉備りゅうび軍だった。


許チョ:偵察の報告にあった敵軍はあれか。

    む、右側の峰の軍が紅い旗を振りだしたぞ。

    左側の峰の軍がそれに応じるように青い旗を振っている…。

    何かの合図なのか?

    これはうかつに進めぬな…。


曹洪:どうした、きょチョ!

   なぜ進軍を止めている!?


許チョ:これは曹洪そうこう様!

    ご覧くだされ。敵は何やら怪しげな合図を交わしている様子。

    それゆえ、ご報告のうえ指令を仰ごうと思っていた所です。


曹洪:なるほど…意味ありげな合図だな。

   よし、兄者の判断を求めよう。


許チョ:はっ。

    お前達はここで待て!

    周囲に注意を怠るな!


    【三拍】


曹洪:…というわけだ兄者、初戦ゆえ大事は取らねばならないだろうが、

   どうしたものだろうか?


曹仁:はっはっは! 曹洪そうこう、そんなものは子供だましにすぎん!

   おそらくは我々を疑心暗鬼ぎしんあんきおちいらせようとしているのだろう。

   きょチョにしても常日頃つねひごろなんじらしくもない! さあ、進軍だ!


許チョ:はっははッ、ただちに!


ナレ:しかし、行けども行けども劉備りゅうび軍はあれきり影も形も見えず、かえって

   それが不気味さを誘った。

   そんな中、突如とつじょ響いた法螺貝ほらがいの音に驚いて足を止めると、前方のみね

   上に敵の大将・劉備りゅうびと、軍師・諸葛亮しょかつりょう相対あいたいして酒を

   み交わして

   いるのが見えた。


許チョ:ぬううう、なんという憎い敵か! 余裕を見せつけおって!

    者共かかれェ!!

    敵の大将は手の届くところにいるぞ! 討ち取れッ!!


許チョ・劉備・女性演者以外:【喚声・SE代用可】


劉備:軍師、敵がしゃにむに登ってきたようだな。

   旗印は…きょチョか。

   曹操そうそうの護衛が先陣を任されたのか。


諸葛亮:そのようですな。

    しかし、いくら勇猛であろうと、何の備えもなく突撃してくるとは愚か

    な…それッ、合図を!


【岩や大木が転がり落ちるSE】


許チョ:うっ、こ、これは、岩や大木が!!

    おのれ、落石の計か!

    ひけっ、ひけっ!!


諸葛亮:よし、これでよい。

    我が君、あとは趙雲ちょううんらに任せてここは引き上げましょう。


劉備:うむ。

   …皆、頼んだぞ…!


許チョ:ちいい、逃げるなッ、劉備りゅうび!!

! ッこの音は…太鼓だと!?


曹洪:もしや…すでに包囲されているのでは…!?


許チョ:ぬぬぬ、どうするか…。

    ! あれは…曹仁そうじん将軍!

    曹洪そうこう様、味方の本隊が到着しましたぞ!


曹仁:きょチョ! この程度の岩や木にひるんでどうする!

   一気に新野しんや城へ進むのだ!!


許チョ:は、ははっ! 者共、我に続けェ!!


ナレ:曹仁そうじん督戦とくせんを受け、曹操そうそう軍十万の軍勢は、勢いに任せてそのまま新野城内しんやじょうない

   まで押し入ってしまう。

   城内は人っ子一人おらず、まるで死の街のようであった。


曹仁:ふん、見よ者共!

   劉備りゅうび諸葛亮しょかつりょうめ、あのような小細工をろうしたのは、

   万策ばんさく尽きて逃げ出す為の時間稼ぎだったのであろう。


曹洪:確かに、慌てぶりが目に浮かぶようだ。

   兄者! 急いで追撃して殲滅しよう!


曹仁:いや待て、もう日も暮れてきた。それに先程から風も強くなっている。

   行軍につぐ行軍で兵も馬も疲れていよう。

   今宵こよいはこの城で休み、明日未明から追撃にかかるのだ。


許チョ:ははっ、では兵糧ひょうろうを使わせると致しましょう。


    【三拍】


    城のおかげで風はだいぶ防げていますな。野営やえいではちとこの強風はこたえ

    たかと思われます。


曹仁:うむ、劉備どもは今頃、この風に難儀なんぎしているであろうよ!

   ははは!


ナレ:曹仁そうじん達はここまでの劉備軍の行動を悪あがきと思い込み、嘲笑う。

   その油断と目も開けられない程の強風に覆い隠され、

   城の周囲に現れた趙雲とその部隊に気づかなかった。


趙雲:曹操そうそう軍が全て城に入ったか。

   しかしこの強風…孔明こうめい軍師は天候まで熟知している。

   徐庶じょしょ軍師もそうであったが、兵法とはここまで計算するものなの

   か…。

   皆、策の通り東門ひがしもん以外の三方から火をかけるぞ!


   【二拍】


   よし、やれッッ!!!


   【二拍】


曹洪:ん? なんだ…っ!?

   不審火ふしんびか!?

   兵どもめ、兵糧ひょうろうを使う際に火の始末をしておかなかったな!?

   者ども、うろたえずに急いで火を消すのだ!


趙雲:ふふふ、敵は慌てて消火作業に入ったか、無駄な事を…。

   火計にこの大風おおかぜ、食い止められるものか!

   さあ、我らは東門ひがしもんに潜むぞ!

   我に続け!


曹洪:おかしい、風の勢いがあるとはいえ、火の回りが早すぎる…!


   うッ! こ、これは硫黄いおう焔硝えんしょうではないか!?

   いかん、敵の火計に違いない! 兄者に知らせねば!


ナレ:曹洪そうこうは慌てて本陣幕舎ほんじんばくしゃまで駆け出す。

   その間にも陣の各所で火の手が上がり、混乱に落ちた兵達が右往左

   往していた。

   いっぽう、新野しんや郊外の白河はくがに潜んだ関羽かんう張飛ちょうひの目にも

   、赤々と燃え盛る炎が臨まれた。


関羽:おお、あれは新野しんや城の方角だな。

   火炎が空を焦がしているということは…火計は無事に成功したか!

   後はこの白河はくがまで曹操そうそう軍が逃げて来るのを待つだけだな。

   皆、気を引き締めよ!


張飛:おう、新野しんや城から火の手が上がったか!

   趙雲ちょううんめ、やったな!

   ようし俺達も負けてられん!

   出番はこれからだ! お前ら、抜かるなよ!


ナレ:そうとは知らない曹仁そうじんは、本陣の幕舎ばくしゃで己の武威ぶいを誇っていたが、

   それを聞いていたきょチョの耳に、不審な物音が届く。


許チョ:?

    【耳をすます】


    将軍、いま妙な物音が。

    しばしお待ちを…。


    うッ、こ、これは!!

    辺り一面、火の海ではないか!

    将軍、これはおそらく敵の計略です!


曹仁:ばっバカな! 敵はすでに逃げ去った後ではないか!

   引っ返してきたとでも言うのか!?

   !? あ、あれは曹洪そうこうか!?


曹洪:はあっ、はあっ、はあっ…!

   兄者、敵だ! 劉備りゅうび軍の火計だ!!


曹仁:なッ! なんだとォ!?!


曹洪:西門、南門、北門、ことごとく火の海だ!

   東門のみまだ火が回ってないゆえ、早く撤退を!


許チョ:ぬぬぬ、なんてことだ!

    曹仁そうじん様、急いで城から脱出を!

    しんがりはそれがしが務めます!


曹洪:兄者、早く!

   ここはきょチョに任せましょう!


曹仁:おのれえええまたしても!!

   ひけ、ひけェ!!


ナレ:城内に密集していた曹操そうそう軍十万は、風と火で大混乱に陥った。

   曹仁そうじんたちは急いで火の回っていない東門ひがしもんからの脱出を試みる。

   だが、安全と思われたその場所には、すでに劉備りゅうび

   が待ち受けていた。

   敵影てきえいを見た趙雲ちょううんは、ほくそ笑みながら部隊に号令を下す。


趙雲:ふふふ、来たな…。

   こちらは追い風か。

   それっ、弓隊、放てッ!!


曹洪:うっ、あ、あれは劉備りゅうび軍!!

   伏兵か!?


曹仁:まさか、わざと東門ひがしもんに火を放たなかったのはこの

   為か!!


趙雲:常山じょうざん趙子龍ちょうしりゅう、これにあり!

   焼け残った曹操そうそう軍ども、どこへ行くつもりだ!


曹洪:くっ、趙雲ちょううんだと!?

   ぬうぅなんとしても突破するのだ!


許チョ:うおおおおどけどけェェェい!!


    どぉうッ!

    曹仁そうじん様ァッ、あの敵はそれがしにお任せを!!


曹仁:おおっきょチョ、無事であったか!

   よし、頼んだぞ!


許チョ:ははっ!


    趙雲ちょううん、貴様の相手はこの許仲康きょちゅうこうがしてやるぞ!

    ぬぅああああああッ!!


趙雲:おぉうッ!!

   曹操そうそうの親衛隊を任されているきょチョか!

   おもしろい! 相手にとって不足は…ないッッ!


許チョ:ッぬうぅぅぅ!

    なんという鋭い槍さばきだ!


趙雲:どうした!

   たける牛の尾を引戻す怪力だと聞くが、噂ほどでもないようだな!


許チョ:おのれェ、それがしをあなどるなァ!

    ぅおおおおおおッ!!


趙雲:むうっ、やるな!!

   そうこなくては!


許チョ:曹仁そうじん様、曹洪そうこう様、お早く!

    うぉうりゃあああ!!!


曹仁:すまぬ、きょチョ!!


曹洪:急いで白河はくがまで退けェ!!


趙雲:ちいぃ、者共、逃がすなァ!!


許チョ:防げェーーーーーッ!!


   【三拍】


曹仁:はぁ、はぁ…く、くそっ、前回は徐庶じょしょにしてやられたが、

   今度は諸葛亮しょかつりょうとやらにか!


曹洪:歳はまだ三十にもならぬと聞いていますが…。


曹仁:ぐぬぬぬう…この度重たびかさなる敗北…司空しくう閣下に申し訳が立たぬわ…!


曹洪・曹仁役以外:【喚声・SE代用可】


曹洪:うっ!?

   あれは…劉備りゅうび軍!?

   糜芳びほう劉封りゅうほうか!


曹仁:ま、また伏兵ふくへいだと!?

   おのれ小癪こしゃくな!

   蹴散らしてくれる!!


曹洪:兄者に続け!!

   曹操そうそう軍精鋭の力を見せよ!!


曹洪・ナレ以外:【喚声・SE代用可】


ナレ:曹仁そうじん曹洪そうこうの武勇に勇気を得た曹操軍将士そうそうぐんしょうしは、

   からくも糜芳びほうらの伏兵を突破、やっとのことで白河はくがまで逃げのびて

   きた。


曹仁:ハァ、ハァ…ここまで来れば安全だろう。

   きょチョは無事であろうか…。


曹洪:あやつなら大丈夫でしょう。

   しかし…我らをこんな目にあわせるとは…諸葛亮しょかつりょうめ、

   このままでは済まさぬぞ…!


許チョ:はぁ…はぁ…。

    曹仁そうじん様達は無事に逃げのびられたであろうか。

    早く追いつかねば…。


   【二拍】


関羽:むっ…下流の方で声や馬のいななきが聞こえる…。

   間違いない、曹操そうそう軍だ!

   よし、荒れ狂う濁流だくりゅうで押し流してくれよう!!

   せきを破壊するのだ!


【SEあれば激しい水の流れ】


曹仁:ん?

   なんだこの地鳴じなりのような音は…?


曹洪:あ、兄者!

   あれを!


曹仁:な、何ィ!? 水が!!

   いかん、皆早く川を渡れ!!


曹洪:急げーーーッ!

   飲み込まれるぞォーーーッ!!


ナレ:上流から押し寄せた怒涛どとう奔流ほんりゅうは、曹操そうそう軍数万の兵をあっという間に

   み消してしまった。

   曹仁そうじん曹洪そうこうらは既に対岸に渡っていて難を逃れたものの、目の前で部下達

   が水に押し流されていく無惨な光景を、為すすべもなく眺めている事し

   かできなかった。


曹洪:な、なんてことだ…十万の兵が…。


曹仁:くそっ、早く態勢を立て直さねば…


張飛:【↑の語尾に被せるようにして】

   おうおう、曹操そうそう軍の残兵ども、どこへ逃げるつもりだ!

   この燕人張飛えんひとちょうひがあの世へ送ってやるぞ!


曹洪:こ、ここにも伏兵が!?


曹仁:ぐぬうう、張飛ちょうひだと!?


曹洪:兄者、兵どもは疲れ切っている!

   これではまともな戦いにならん!


曹仁:ぬううう…うっ!?


   【喚声・SE代用可】


   上流からも喚声が…!?

   あ、あれはもしや劉備りゅうび軍の新手あらてか!?


関羽:関雲長かんうんちょう、これにあり!

   白河はくがの水に洗い残された曹操そうそう軍よ、今追い落としてやろうぞ!


曹洪:な、何ィ、関羽かんう!?

   水を流したのは貴様か!


曹仁:バカな…ここまで動きを読まれているというのか…。

   諸葛亮しょかつりょう、なんと恐るべき奴か…!


張飛:おう、そこにいるのは敵大将の曹仁そうじんだな!

   俺様がお前の首をもらってやるぜ!


曹洪:い、いかん、兄者!


関羽:貴公の相手はそれがしだ!

   はああッ!!


曹洪:ぐうッ!

   なんと重い一撃だ…!


関羽:観念されい、曹洪そうこう


曹洪:ッッッええェェい!!

   はぁ、はぁ…貴様の相手など、してはおれん!

   後日必ず借りを返してくれる!


関羽:待てィッ!

   おのれ、名を惜しまぬのか!!


張飛:さあ覚悟しろッ!! ぬりゃああッ!


曹仁:ぐっ、ぬううっ!

   そう簡単に首はくれてやらぁぁんッ!


張飛:ケッ、疲れきってる奴がよく吠えるぜ!

   そんな力の入ってない槍なんざ、当たりもしねえわ!!

   おらぁぁぁッ!!!


曹仁:うう、も、もはやこれまでか…!?


許チョ:待てええぇぇい!

    曹仁そうじん様は討たせん!!

    ぬぅあああああッ!!


張飛:うおッ!?

   ッ貴様はきょチョか!


許チョ:曹仁そうじん様、早くお退きあれ!

    ここはそれがしが!!

    行かせんぞ張飛ちょうひ!!


張飛:ええいどけぇィ!

   邪魔をするんじゃねぇッッ!!

   どりゃああッ!!


許チョ:ぐッッッ!

    こ、ここが踏ん張りどころ…!!

    どぉぉおああッ!!


張飛:ッちぃぃぃぃ!!

   小癪こしゃくなァ!!


曹仁:い、今だ、全軍退ぜんぐんひけえ!!


張飛:おのれッ逃げるか曹仁そうじん!!

   敵に背を見せるとは恥を忘れたな!!


曹仁:っぬうぅぅううう!

   その言葉ッ、覚えておれよーーーッッ!!!


関羽:皆、追うのだ! 逃してはならん!


曹洪:相手にするな!

   ひけッ、ひけーーーーッ!!


ナレ:白河はくがでも曹仁そうじん達は散々に痛めつけられ、からくも逃げ延びていった。

   大物おおものを逃したものの、存分に勝利を収めた関羽かんう張飛両雄ちょうひりょうゆうは、劉備りゅうび

   本隊へ合流した。


張飛:ああ愉快だ!

   胸のすくような勝利だったわ!

   これくらい叩きのめせば、まずよかろう。


関羽:うむ、今頃は少数と侮った事を再び後悔しているであろう。


劉備:おお、雲長うんちょう! 翼徳よくとく! 戻ったか!


関羽:我が君、ただいま戻りました!

   曹操そうそう軍十万の兵、火計にて焼き払い、水計にて押し流し、

   その大半を殲滅せんめつしてございます!


張飛:いやあ、面白いように勝ちました!

   曹仁そうじんの首を取れなかった事だけが心残りですわい!


劉備:ははは、お前達に本気で打ちかかられては、曹仁そうじん達も生きた心地ここち

   がなかったであろうな。


諸葛亮:両将軍ともご苦労であった。

    すぐに川を渡るゆえ、船に乗るがよい。


張飛:はっ。

   お前ら、急げ! 


関羽:曹操軍の新手あらてが来る前に、樊城はんじょうへ入るのだ!


諸葛亮:よし、全軍、川を渡り終えたら、船は全て焼き捨てよ!


ナレ:劉備りゅうび曹仁そうじん率いる大軍を関羽かんう達の武、諸葛亮しょかつりょうの策を用いて鮮やかに

   撃砕げきさい、民を引き連れて樊城はんじょうへ入る。

   かたや曹操そうそうは敗北の知らせに激怒するも参謀・劉曄りゅうようの意見を

   れ、かつて劉備りゅうびの軍師を務めた過去を持つ徐庶じょしょを派遣した。


徐庶:一度ならず二度までも孔明こうめいの策にかかり、差し向けた大軍が壊滅し

   一族の曹仁そうじんさえもが敗北している。

   本来なら自らでもって踏みつぶしたいはずだ…。


   …和睦わぼくの使者か。

   おそらく劉曄りゅうようあたりの献策けんさく

   それがしがこの使いから戻らなければ…劉備りゅうび殿共々不義理のそしりを

   受けるだろう。

   …ッ、大義名分欲しさの姑息こそくな手を…!

   

ナレ:曹操そうそうからは和睦わぼくについてしか聞かされていなかった徐庶じょしょだったが、

   すでに曹操そうそうの真意を読み取っていた。

   それゆえに使者に向かうその足取りは重かったが、再び劉備りゅうび達に、

   そして盟友の諸葛亮しょかつりょうに会える嬉しさもあった。


徐庶:…樊城はんじょうが見えてきた。

   今すぐに駆けだしていきたいこの気持ちと、急いではならぬという

   この思い…なんと苦しく、なんともどかしいことか…。


   【二拍】


   それがしは曹司空そうしくう閣下の使者として参った、徐庶じょしょだ!

   劉備りゅうび殿にお目にかかりたい!!


関羽:何ッ、徐庶じょしょと申したか!?


   【一拍】


   おおお、徐庶じょしょ殿!!

   それがしだ、雲長うんちょうでござる!


徐庶:その声は関羽かんう殿!

   そうです、徐庶元直じょしょげんちょくです!


関羽:しばし待たれよ!

   すぐに我が君にお取次ぎいたす!


   【二拍】


   我が君、軍師、申し上げます。

   ただいま曹操そうそう軍より、徐庶じょしょ殿が使者として参られました。


劉備:なに、徐庶じょしょが!?

   すぐに通すのだ!


関羽:ははっ。


張飛:徐庶殿が来たのか!?

   懐かしいぜ!


趙雲:今は曹操の下におられる身ですが、またお会いできるとは…。


関羽:徐庶殿、お待たせいたした!

   門を開けよ!

   

   一別以来、息災であられましたか。

   それがしも折にふれて、遠く許昌にある徐庶殿の事を思い出してお

   りました。


徐庶:それがしも関羽殿はじめ、皆さまの事を忘れた日は一日としてあり

   ませぬ。


関羽:うむ、我が君も軍師も心待ちにしておられる。

   さあこちらへ。


   【二拍】


   徐庶じょしょ殿をお連れしました!


徐庶:我が君、そして皆様…ご無沙汰しております…!


趙雲:おお、お久しぶりです、徐庶じょしょ殿!


張飛:久しいなあ、徐庶じょしょ殿!

   あれから元気でいたか!?


徐庶:はい、おかげさまで…!


劉備:このような時にそなたと再会しようとは…!


諸葛亮:元直げんちょく息災そくさいなようで何よりです。


徐庶:孔明こうめい、久しいな。

   あれこれ活躍は聞いているよ。


諸葛亮:もしやとは思いますが、今日これへ参ったのは…。


徐庶:ああ、君なら察していよう。

   我が君、本日は曹操そうそうからの和睦わぼくの使者として参りました。


劉備:なに、和睦わぼく曹操そうそうが?


徐庶:はい。

   ですが、もし受け入れれば待っているのは後悔でしょう。

   曹操そうそうが狙っているのは、心にもない慈悲を見せて荊州けいしゅうの民の信望を買おう

   としているにすぎません。


劉備:では、真の狙いは…。


徐庶:本心は荊州けいしゅうはおろか、孫権そんけんの根拠地、揚州ようしゅうまで手に入れんとするもの

   です。


劉備:ぬうう曹操そうそうめ、そこまで見すえているのか…!

   しかし徐庶じょしょ、こうしてまた再び会えたのは幸い、我らと共に行かぬか?


徐庶:ッ…そうしたいのはやまやまながら、それはできませぬ。


劉備:どうしてだ?

   今ならこのままここに留まる事もできよう。


徐庶:それがしの母が亡くなった時、曹操そうそうは丁重に弔い、墓まで建てました。


劉備:なに、そこまでしたという事は…。


徐庶:ええ、自分の手から放さぬ為なのは明らかです。

   ここで使いから帰らねば、世間はそれがしの節操せっそうを疑い、

   笑い物とするでしょう。


張飛:くそっ、曹操そうそうめ、やることがいちいち汚ねぇぜ!


関羽:まったくだ…それがしの時を思い出す。


趙雲:相変わらず人材を得る為には手段を選ばないな…。


諸葛亮:元直げんちょく、その事は私にも責任がある。

    あの時伝えていれば…。


徐庶:良いのだ、孔明こうめい

   今更言っても仕方のない事だし、君を恨んだりするのは

   すじ違いも良い所だ。

   我が君、これからはしばらく逆境が続くでしょう。

   しかし、以前と違って今は孔明こうめいがお傍におります。

   必ず我が君の大望たいぼうを叶えるべく、力を尽くしてくれる事でしょう。

   それがしはなるべくゆっくりと戻るようにしますゆえ、

   その間に一刻も早くこの地から逃れ遊ばしませ。 

   では…。


諸葛亮:さらばです…元直げんちょく


劉備:いつか…いつかまた会おうぞ、徐庶じょしょ…!


関羽:徐庶じょしょ殿、また必ずお会いしましょうぞ!


張飛:それまで体を大切にな!


趙雲:次にお会いする時は、味方同士で笑いあいたいものです…!


徐庶:は、はい…!!

   では、これにて…。


   【二拍】


劉備:徐庶じょしょも辛い立場だな…。

   軍師、これからいかがすべきか?


諸葛亮:襄陽じょうようへ避けましょう。

    この樊城はんじょうよりは遥かに守りやすいです。


劉備:うむ。

   …だが、と共にこの樊城はんじょうへ参った無数の民達はどうしたらよいだろうか?


諸葛亮:我が君と共にどこまでもと慕って付いてくるのです。

    たとえ足手まといとなろうとも、共にお逃げあるべきでしょう。


劉備:よし、分かった。

   皆の者、これより樊城はんじょうを捨て、襄陽じょうようへ向かう!

   関羽かんう達は民達に共に参るか、それともここに残るかを選ぶよう伝え

   よ!


関羽:ははっ。


   【二拍】


   みな、よく聞くのだ!

   曹操そうそう軍の追撃から逃れる為、この城を捨ててねばならなくな

   った!


張飛:俺達はここから襄陽じょうようへ向かう!


趙雲:手向てむかわぬ者を曹操そうそう軍も殺しはするまい!

   無理強むりじいはせぬ!

   その上で共に参る者はあるか!


ナレ:庁舎ちょうしゃの前に集った新野しんやの民達は、大音声だいおんじょうで呼びかける関羽かんう達に対し、

   それに負けぬほどの声量をもって応えた。


   途中で食糧が尽きて飢えようと、どこまでも劉備りゅうびに付いて行く。

   たとえ曹操そうそう軍に殺されても、劉備りゅうび達を決して恨んだりしない。

   だからどうか、自分達を共に連れて行ってくれと。


   民達の魂から発せられた叫びを感じ取り、三人は身を感動に震わせて応え

   た。


関羽:よしッ、そなたたちの気持ちはよく分かった!


趙雲:ここまで我が君を慕ってくれるとは…!


張飛:珍しく七年もの間、一つところにいたもんなあ。

   よォし、お前ら行くぞォ!

   急いで出発の準備をするんだ!


ナレ:徐庶じょしょは涙ながらに別れを告げて帰っていき、劉備りゅうび樊城はんじょうを捨てて新たに

   襄陽じょうようを目指し、移動を開始した。

   諸葛亮しょかつりょうと言う不世出ふせいしゅつの人材を得た一方で、未だ自分の領土を持たぬ劉備りゅうび

   数万の民百姓たちと共にその運命は定まらず、木の葉の如く乱世の烈風に

   弄ばれるのであった。



END





曹操の荊州及び大陸南部への侵攻。

その序章ともいえる戦いを声劇台本化してみました。

有名な長坂の戦いの少し前の時間軸です。

楽しんでいただけたなら幸いです。

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