三国志演義・曹操の南進~臥龍水火の計~
はじめに:この一連の三国志声劇台本は、
故・横山光輝先生著 三国志
故・吉川英治先生著 三国志
北方健三先生著 三国志
王欣汰先生著 蒼天航路
Wikipedia
各種解説動画
正史・三国志
羅貫中著 三国志演義
の三国志系小説・マンガや各種ゲーム等に加え、
【作者の想像】
を加えた台本となっています。
またこの作品でこのキャラが喋っていた台詞を他のキャラが
喋っているという事も多々あります。
なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかっ
て変換表示できない)場合、誠に遺憾ながらカタカナ表記と
させていただいております。
また、役の性別転換は基本的に禁止とさせていただきます。
名前のない武将たち(例:〇〇軍部将や〇〇軍兵士など)
が性別不問なのは、過去の歴史においていないわけではない
、いたかもしれない、という考えに基づくものです。
ある程度ルビは振っておりますが、一度振ったルビは同じ、
または他のキャラに同じのが登場しても打っていない場合
がありますので、注意してください。
上演の際はしっかり漢字チェックを行い、
【決してお金の絡まない上演方法】でお願いいたします。
長くなりましたが、以上の点をご理解いただけた上で
演じてみたい、と思われた方はぜひやってみていただけれ
ばと思います。
三国志演義・曹操の南進~臥龍水火の計~
作者:霧夜シオン
所要時間:約30分
必要演者数:8~10人
(8:1)
(9:0)
(9:1)
(10:0)
はじめに:この一連の三国志声劇台本は、
故・横山光輝先生著 三国志
故・吉川英治先生著 三国志
北方健三先生著 三国志
王欣汰先生著 蒼天航路
Wikipedia
各種解説動画
正史・三国志
羅貫中著 三国志演義
の三国志系小説・マンガや各種ゲーム等に加え、
【作者の想像】
を加えた台本となっています。
またこの作品でこのキャラが喋っていた台詞を他のキャラが
喋っているという事も多々あります。
なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかっ
て変換表示できない)場合、誠に遺憾ながらカタカナ表記と
させていただいております。
また、役の性別転換は基本的に禁止とさせていただきます。
名前のない武将たち(例:〇〇軍部将や〇〇軍兵士など)
が性別不問なのは、過去の歴史においていないわけではない
、いたかもしれない、という考えに基づくものです。
ある程度ルビは振っておりますが、一度振ったルビは同じ、
または他のキャラに同じのが登場しても打っていない場合
がありますので、注意してください。
上演の際はしっかり漢字チェックを行い、
【決してお金の絡まない上演方法】でお願いいたします。
長くなりましたが、以上の点をご理解いただけた上で
演じてみたい、と思われた方はぜひやってみていただけれ
ばと思います。
●登場人物
劉備・♂:字は玄徳。
中山靖王・劉勝の末孫にして漢の景帝の玄孫を自称。
諸葛亮と言う傑物を家臣に得るが、未だその勢力は弱く、曹操軍の侵攻
の前に退却を余儀なくされる。
諸葛亮・♂:字は孔明。
中国史上屈指の名宰相として名を残しているが、現在は弱小と言って
いい劉備軍の軍師という位置づけ。
三顧の礼をもって劉備に仕え、本作では曹操から逃れるため、策を用
いて敵先鋒を水・火の計略で屠る。
趙雲・♂:字は子龍。
袁紹、公孫瓚を経て劉備に仕える。智勇に優れた名将で、今回の退却戦
では特に劉備の家族である、甘夫人、糜夫人、阿斗【後の劉禅】の守護
を命じられている。
張飛・♂:字は翼徳。
一丈八尺の蛇矛を軽々と振り回す酒を愛する豪傑。劉備の義弟。
酒による失敗も多いが、その武勇は劉備軍の中でもトップクラス。
これより少し後の長坂の戦いにおいてはのちの語り草となる、
長坂橋仁王立ちをしてのけることになる。
関羽・♂:字は雲長。
美髯公とあだ名される長い髯の持ち主で、知勇に優れた名将。
義に厚く、上に不遜で下に慈悲深い。
曹仁・♂:字は子孝。
曹操の旗揚げ時から付き従っている百戦錬磨の古参の将。劉備が軍師を
得てからは良い戦績を残せておらず、大敗北を喫することが多いが、本
来は優秀な将。
曹洪・♂:字は子廉。
兄の曹仁と共に従兄弟の曹操に旗揚げ時から仕えている勇将。許チョや
他の猛将の影に隠れてしまいがちだが武勇に秀でている。
許チョ・♂:字は仲康。
猛る牛の尾を引いて引き戻したという怪力の持ち主。
もとは農民であったが、黄巾賊残党討伐の為やって来た曹操に見出
されて仕える。既に故人の典韋と共に曹操軍の親衛隊を束ねる。
徐庶・♂:字は元直。
もと劉備の軍師だが、曹操に母親を人質に取られて偽手紙で誘き寄
せられ、失望した母の自害によってそのまま曹操に仕えることにな
る。しかし、決して劉備の為にならないような策を献策しないと自
身に誓っている。
ナレーション・♂♀不問:雰囲気を大事に。
※演者数が少ない状態で上演する際は、被らないように兼ね役でお願いしま
す。
・キャスト例
劉備:
諸葛亮:
趙雲:
張飛:
関羽:
曹仁:
曹洪・徐庶:
許チョ:
ナレ:
・徐庶役は基本的に曹洪・許チョのいずれか、もしくはナレが男性だった場
合はナレと兼ねた方がセリフ数のバランスがとれます。
(劉備軍サイドとは全員被るため、兼ねられません。)
――――――――――――――――――――――――――――――――――
ナレ:曹操、南方攻略の軍を興す。その数、百万。
雷鳴の如く伝わってきた凶報は、劉備らを震撼させた。
劉表亡きあと、荊州の実権を握っている蔡瑁ら兄妹は劉備や前妻
の子である劉琦を無視し、遺言を書き換えて異母弟の劉琮を国主の座
に据えたばかりか、曹操へ無条件降伏を決めてしまう。
諸葛亮は、今こそ亡き劉表に代わって荊州を治め、
蔡瑁一族を排除して曹操軍を防ぐべきだと進言するが、
劉備の態度は煮え切らなかった。
劉備:軍師…余に亡き劉表殿を裏切る真似はどうしても出来ぬ。
すまぬが、他に策はないだろうか?
諸葛亮:…やむを得ませぬな。
承知しました、我が君。ともかく御心を安んじたまえ。
この孔明にお任せを。
劉備:頼むぞ、軍師。
ナレ:諸葛亮は、劉備の意をくんで新たな策を胸の内に描くと、主だった将たちを
集めた。
諸葛亮:諸将よ、すでに話は聞いていることと思う。
曹操がついに南方攻略の軍を興した。
我らは敵先鋒を撃退しつつ、まずは樊城へ入る!
【二拍】
孫乾、糜竺は城内に立札を立て、民達を樊城へ避難させよ。
次に関羽は兵千人を率い、白河の上流に土のうを築いて川の流れをせき
止めよ。
そして明日の夜、下流にて兵の叫びや馬のいななきが聞こえたら、
一斉に堰を切って曹操軍を濁流で押し流し、同時に攻めかかれ!
関羽:ははっ、承知しました。
ただちに向かいまする!
諸葛亮:張飛は同じく兵千人を率い、白河の渡しに兵を伏せよ。
関羽の水計が成功したのを見たら、共に曹操軍の中核を徹底的に粉砕
するのだ!
張飛:おうッ、心得た!!
ようし出陣じゃあ!
諸葛亮:次に趙雲、これへ!
趙雲:はッ!!
諸葛亮:汝に兵三千を預ける。
乾燥した柴や葦、茅を十分に用意せよ。
それに硫黄や煙硝を包んで城の各所に隠せ。
明日の天候は夕方から大風が吹くであろう。曹操軍はこれを避けようと
して、必ず新野城内に陣を移す。
趙雲:本当に夕方から大風が吹くのでございますか?
諸葛亮:うむ。必ず吹く。
その時を見計らい、東門を除く三方の門から火をかけるのだ。
城が炎に包まれ、敵が混乱に落ちたら東門へ移動し、
曹操軍を待ち受けよ。
敵は必ずそこを目がけて殺到するゆえ、存分に打ちのめすのだ。
趙雲:城ごと用いて火計とは…なんという思い切った策だ。
諸葛亮:頃合いを見てすぐに白河の関羽、張飛と合流し、樊城へ急いで退却せ
よ。
趙雲:心得ました!
すぐに火計の準備にかかります!
諸葛亮:糜芳、汝にはこの紅い旗を、劉封には青い旗を渡す。
それぞれ兵千人を率いて新野城郊外にある山へ向かい、敵が来たら
計略があるかのように旗を打ち振り、敵を惑わすのだ。
その後、白河と新野城の中間あたりに伏兵として潜み、初めは敵をやり
過ごせ。城が燃えるのを見たら曹操軍が必ず逃げてくるゆえ、そこを襲
うのだ。
ナレ:一方、曹操は曹仁、曹洪を大将とし、これに自身の親衛隊長である許チョ
を加えて先鋒とし、総勢十万の軍を新野へ進撃させる。
命を受けた曹仁らは怒涛の如く新野近くまで迫ったが、先頭を進む
許チョが見たものは、左右の山の峰に布陣する劉備軍だった。
許チョ:偵察の報告にあった敵軍はあれか。
む、右側の峰の軍が紅い旗を振りだしたぞ。
左側の峰の軍がそれに応じるように青い旗を振っている…。
何かの合図なのか?
これはうかつに進めぬな…。
曹洪:どうした、許チョ!
なぜ進軍を止めている!?
許チョ:これは曹洪様!
ご覧くだされ。敵は何やら怪しげな合図を交わしている様子。
それゆえ、ご報告のうえ指令を仰ごうと思っていた所です。
曹洪:なるほど…意味ありげな合図だな。
よし、兄者の判断を求めよう。
許チョ:はっ。
お前達はここで待て!
周囲に注意を怠るな!
【三拍】
曹洪:…というわけだ兄者、初戦ゆえ大事は取らねばならないだろうが、
どうしたものだろうか?
曹仁:はっはっは! 曹洪、そんなものは子供だましにすぎん!
おそらくは我々を疑心暗鬼に陥らせようとしているのだろう。
許チョにしても常日頃の汝らしくもない! さあ、進軍だ!
許チョ:はっははッ、ただちに!
ナレ:しかし、行けども行けども劉備軍はあれきり影も形も見えず、かえって
それが不気味さを誘った。
そんな中、突如響いた法螺貝の音に驚いて足を止めると、前方の峰の
上に敵の大将・劉備と、軍師・諸葛亮が相対して酒を
酌み交わして
いるのが見えた。
許チョ:ぬううう、なんという憎い敵か! 余裕を見せつけおって!
者共かかれェ!!
敵の大将は手の届くところにいるぞ! 討ち取れッ!!
許チョ・劉備・女性演者以外:【喚声・SE代用可】
劉備:軍師、敵がしゃにむに登ってきたようだな。
旗印は…許チョか。
曹操の護衛が先陣を任されたのか。
諸葛亮:そのようですな。
しかし、いくら勇猛であろうと、何の備えもなく突撃してくるとは愚か
な…それッ、合図を!
【岩や大木が転がり落ちるSE】
許チョ:うっ、こ、これは、岩や大木が!!
おのれ、落石の計か!
ひけっ、ひけっ!!
諸葛亮:よし、これでよい。
我が君、あとは趙雲らに任せてここは引き上げましょう。
劉備:うむ。
…皆、頼んだぞ…!
許チョ:ちいい、逃げるなッ、劉備!!
! ッこの音は…太鼓だと!?
曹洪:もしや…すでに包囲されているのでは…!?
許チョ:ぬぬぬ、どうするか…。
! あれは…曹仁将軍!
曹洪様、味方の本隊が到着しましたぞ!
曹仁:許チョ! この程度の岩や木にひるんでどうする!
一気に新野城へ進むのだ!!
許チョ:は、ははっ! 者共、我に続けェ!!
ナレ:曹仁の督戦を受け、曹操軍十万の軍勢は、勢いに任せてそのまま新野城内
まで押し入ってしまう。
城内は人っ子一人おらず、まるで死の街のようであった。
曹仁:ふん、見よ者共!
劉備に諸葛亮め、あのような小細工を弄したのは、
万策尽きて逃げ出す為の時間稼ぎだったのであろう。
曹洪:確かに、慌てぶりが目に浮かぶようだ。
兄者! 急いで追撃して殲滅しよう!
曹仁:いや待て、もう日も暮れてきた。それに先程から風も強くなっている。
行軍につぐ行軍で兵も馬も疲れていよう。
今宵はこの城で休み、明日未明から追撃にかかるのだ。
許チョ:ははっ、では兵糧を使わせると致しましょう。
【三拍】
城のおかげで風はだいぶ防げていますな。野営ではちとこの強風はこたえ
たかと思われます。
曹仁:うむ、劉備どもは今頃、この風に難儀しているであろうよ!
ははは!
ナレ:曹仁達はここまでの劉備軍の行動を悪あがきと思い込み、嘲笑う。
その油断と目も開けられない程の強風に覆い隠され、
城の周囲に現れた趙雲とその部隊に気づかなかった。
趙雲:曹操軍が全て城に入ったか。
しかしこの強風…孔明軍師は天候まで熟知している。
徐庶軍師もそうであったが、兵法とはここまで計算するものなの
か…。
皆、策の通り東門以外の三方から火をかけるぞ!
【二拍】
よし、やれッッ!!!
【二拍】
曹洪:ん? なんだ…っ!?
不審火か!?
兵どもめ、兵糧を使う際に火の始末をしておかなかったな!?
者ども、うろたえずに急いで火を消すのだ!
趙雲:ふふふ、敵は慌てて消火作業に入ったか、無駄な事を…。
火計にこの大風、食い止められるものか!
さあ、我らは東門に潜むぞ!
我に続け!
曹洪:おかしい、風の勢いがあるとはいえ、火の回りが早すぎる…!
うッ! こ、これは硫黄に焔硝ではないか!?
いかん、敵の火計に違いない! 兄者に知らせねば!
ナレ:曹洪は慌てて本陣幕舎まで駆け出す。
その間にも陣の各所で火の手が上がり、混乱に落ちた兵達が右往左
往していた。
いっぽう、新野郊外の白河に潜んだ関羽と張飛の目にも
、赤々と燃え盛る炎が臨まれた。
関羽:おお、あれは新野城の方角だな。
火炎が空を焦がしているということは…火計は無事に成功したか!
後はこの白河まで曹操軍が逃げて来るのを待つだけだな。
皆、気を引き締めよ!
張飛:おう、新野城から火の手が上がったか!
趙雲め、やったな!
ようし俺達も負けてられん!
出番はこれからだ! お前ら、抜かるなよ!
ナレ:そうとは知らない曹仁は、本陣の幕舎で己の武威を誇っていたが、
それを聞いていた許チョの耳に、不審な物音が届く。
許チョ:?
【耳をすます】
将軍、いま妙な物音が。
しばしお待ちを…。
うッ、こ、これは!!
辺り一面、火の海ではないか!
将軍、これはおそらく敵の計略です!
曹仁:ばっバカな! 敵はすでに逃げ去った後ではないか!
引っ返してきたとでも言うのか!?
!? あ、あれは曹洪か!?
曹洪:はあっ、はあっ、はあっ…!
兄者、敵だ! 劉備軍の火計だ!!
曹仁:なッ! なんだとォ!?!
曹洪:西門、南門、北門、ことごとく火の海だ!
東門のみまだ火が回ってないゆえ、早く撤退を!
許チョ:ぬぬぬ、なんてことだ!
曹仁様、急いで城から脱出を!
しんがりはそれがしが務めます!
曹洪:兄者、早く!
ここは許チョに任せましょう!
曹仁:おのれえええまたしても!!
ひけ、ひけェ!!
ナレ:城内に密集していた曹操軍十万は、風と火で大混乱に陥った。
曹仁たちは急いで火の回っていない東門からの脱出を試みる。
だが、安全と思われたその場所には、すでに劉備軍
が待ち受けていた。
敵影を見た趙雲は、ほくそ笑みながら部隊に号令を下す。
趙雲:ふふふ、来たな…。
こちらは追い風か。
それっ、弓隊、放てッ!!
曹洪:うっ、あ、あれは劉備軍!!
伏兵か!?
曹仁:まさか、わざと東門に火を放たなかったのはこの
為か!!
趙雲:常山の趙子龍、これにあり!
焼け残った曹操軍ども、どこへ行くつもりだ!
曹洪:くっ、趙雲だと!?
ぬうぅなんとしても突破するのだ!
許チョ:うおおおおどけどけェェェい!!
どぉうッ!
曹仁様ァッ、あの敵はそれがしにお任せを!!
曹仁:おおっ許チョ、無事であったか!
よし、頼んだぞ!
許チョ:ははっ!
趙雲、貴様の相手はこの許仲康がしてやるぞ!
ぬぅああああああッ!!
趙雲:おぉうッ!!
曹操の親衛隊を任されている許チョか!
おもしろい! 相手にとって不足は…ないッッ!
許チョ:ッぬうぅぅぅ!
なんという鋭い槍さばきだ!
趙雲:どうした!
猛る牛の尾を引戻す怪力だと聞くが、噂ほどでもないようだな!
許チョ:おのれェ、それがしを侮るなァ!
ぅおおおおおおッ!!
趙雲:むうっ、やるな!!
そうこなくては!
許チョ:曹仁様、曹洪様、お早く!
うぉうりゃあああ!!!
曹仁:すまぬ、許チョ!!
曹洪:急いで白河まで退けェ!!
趙雲:ちいぃ、者共、逃がすなァ!!
許チョ:防げェーーーーーッ!!
【三拍】
曹仁:はぁ、はぁ…く、くそっ、前回は徐庶にしてやられたが、
今度は諸葛亮とやらにか!
曹洪:歳はまだ三十にもならぬと聞いていますが…。
曹仁:ぐぬぬぬう…この度重なる敗北…司空閣下に申し訳が立たぬわ…!
曹洪・曹仁役以外:【喚声・SE代用可】
曹洪:うっ!?
あれは…劉備軍!?
糜芳に劉封か!
曹仁:ま、また伏兵だと!?
おのれ小癪な!
蹴散らしてくれる!!
曹洪:兄者に続け!!
曹操軍精鋭の力を見せよ!!
曹洪・ナレ以外:【喚声・SE代用可】
ナレ:曹仁・曹洪の武勇に勇気を得た曹操軍将士は、
からくも糜芳らの伏兵を突破、やっとのことで白河まで逃げのびて
きた。
曹仁:ハァ、ハァ…ここまで来れば安全だろう。
許チョは無事であろうか…。
曹洪:あやつなら大丈夫でしょう。
しかし…我らをこんな目にあわせるとは…諸葛亮め、
このままでは済まさぬぞ…!
許チョ:はぁ…はぁ…。
曹仁様達は無事に逃げのびられたであろうか。
早く追いつかねば…。
【二拍】
関羽:むっ…下流の方で声や馬のいななきが聞こえる…。
間違いない、曹操軍だ!
よし、荒れ狂う濁流で押し流してくれよう!!
堰を破壊するのだ!
【SEあれば激しい水の流れ】
曹仁:ん?
なんだこの地鳴りのような音は…?
曹洪:あ、兄者!
あれを!
曹仁:な、何ィ!? 水が!!
いかん、皆早く川を渡れ!!
曹洪:急げーーーッ!
飲み込まれるぞォーーーッ!!
ナレ:上流から押し寄せた怒涛の奔流は、曹操軍数万の兵をあっという間に
呑み消してしまった。
曹仁、曹洪らは既に対岸に渡っていて難を逃れたものの、目の前で部下達
が水に押し流されていく無惨な光景を、為す術もなく眺めている事し
かできなかった。
曹洪:な、なんてことだ…十万の兵が…。
曹仁:くそっ、早く態勢を立て直さねば…
張飛:【↑の語尾に被せるようにして】
おうおう、曹操軍の残兵ども、どこへ逃げるつもりだ!
この燕人張飛があの世へ送ってやるぞ!
曹洪:こ、ここにも伏兵が!?
曹仁:ぐぬうう、張飛だと!?
曹洪:兄者、兵どもは疲れ切っている!
これではまともな戦いにならん!
曹仁:ぬううう…うっ!?
【喚声・SE代用可】
上流からも喚声が…!?
あ、あれはもしや劉備軍の新手か!?
関羽:関雲長、これにあり!
白河の水に洗い残された曹操軍よ、今追い落としてやろうぞ!
曹洪:な、何ィ、関羽!?
水を流したのは貴様か!
曹仁:バカな…ここまで動きを読まれているというのか…。
諸葛亮、なんと恐るべき奴か…!
張飛:おう、そこにいるのは敵大将の曹仁だな!
俺様がお前の首をもらってやるぜ!
曹洪:い、いかん、兄者!
関羽:貴公の相手はそれがしだ!
はああッ!!
曹洪:ぐうッ!
なんと重い一撃だ…!
関羽:観念されい、曹洪!
曹洪:ッッッええェェい!!
はぁ、はぁ…貴様の相手など、してはおれん!
後日必ず借りを返してくれる!
関羽:待てィッ!
おのれ、名を惜しまぬのか!!
張飛:さあ覚悟しろッ!! ぬりゃああッ!
曹仁:ぐっ、ぬううっ!
そう簡単に首はくれてやらぁぁんッ!
張飛:ケッ、疲れきってる奴がよく吠えるぜ!
そんな力の入ってない槍なんざ、当たりもしねえわ!!
おらぁぁぁッ!!!
曹仁:うう、も、もはやこれまでか…!?
許チョ:待てええぇぇい!
曹仁様は討たせん!!
ぬぅあああああッ!!
張飛:うおッ!?
ッ貴様は許チョか!
許チョ:曹仁様、早くお退きあれ!
ここはそれがしが!!
行かせんぞ張飛!!
張飛:ええいどけぇィ!
邪魔をするんじゃねぇッッ!!
どりゃああッ!!
許チョ:ぐッッッ!
こ、ここが踏ん張りどころ…!!
どぉぉおああッ!!
張飛:ッちぃぃぃぃ!!
小癪なァ!!
曹仁:い、今だ、全軍退けえ!!
張飛:おのれッ逃げるか曹仁!!
敵に背を見せるとは恥を忘れたな!!
曹仁:っぬうぅぅううう!
その言葉ッ、覚えておれよーーーッッ!!!
関羽:皆、追うのだ! 逃してはならん!
曹洪:相手にするな!
ひけッ、ひけーーーーッ!!
ナレ:白河でも曹仁達は散々に痛めつけられ、からくも逃げ延びていった。
大物を逃したものの、存分に勝利を収めた関羽・張飛両雄は、劉備の
本隊へ合流した。
張飛:ああ愉快だ!
胸のすくような勝利だったわ!
これくらい叩きのめせば、まずよかろう。
関羽:うむ、今頃は少数と侮った事を再び後悔しているであろう。
劉備:おお、雲長! 翼徳! 戻ったか!
関羽:我が君、ただいま戻りました!
曹操軍十万の兵、火計にて焼き払い、水計にて押し流し、
その大半を殲滅してございます!
張飛:いやあ、面白いように勝ちました!
曹仁の首を取れなかった事だけが心残りですわい!
劉備:ははは、お前達に本気で打ちかかられては、曹仁達も生きた心地
がなかったであろうな。
諸葛亮:両将軍ともご苦労であった。
すぐに川を渡るゆえ、船に乗るがよい。
張飛:はっ。
お前ら、急げ!
関羽:曹操軍の新手が来る前に、樊城へ入るのだ!
諸葛亮:よし、全軍、川を渡り終えたら、船は全て焼き捨てよ!
ナレ:劉備は曹仁率いる大軍を関羽達の武、諸葛亮の策を用いて鮮やかに
撃砕、民を引き連れて樊城へ入る。
かたや曹操は敗北の知らせに激怒するも参謀・劉曄の意見を
容れ、かつて劉備の軍師を務めた過去を持つ徐庶を派遣した。
徐庶:一度ならず二度までも孔明の策にかかり、差し向けた大軍が壊滅し
、
一族の曹仁さえもが敗北している。
本来なら自らでもって踏みつぶしたいはずだ…。
…和睦の使者か。
おそらく劉曄あたりの献策。
それがしがこの使いから戻らなければ…劉備殿共々不義理の謗りを
受けるだろう。
…ッ、大義名分欲しさの姑息な手を…!
ナレ:曹操からは和睦についてしか聞かされていなかった徐庶だったが、
すでに曹操の真意を読み取っていた。
それゆえに使者に向かうその足取りは重かったが、再び劉備達に、
そして盟友の諸葛亮に会える嬉しさもあった。
徐庶:…樊城が見えてきた。
今すぐに駆けだしていきたいこの気持ちと、急いではならぬという
この思い…なんと苦しく、なんともどかしいことか…。
【二拍】
それがしは曹司空閣下の使者として参った、徐庶だ!
劉備殿にお目にかかりたい!!
関羽:何ッ、徐庶と申したか!?
【一拍】
おおお、徐庶殿!!
それがしだ、雲長でござる!
徐庶:その声は関羽殿!
そうです、徐庶元直です!
関羽:しばし待たれよ!
すぐに我が君にお取次ぎいたす!
【二拍】
我が君、軍師、申し上げます。
ただいま曹操軍より、徐庶殿が使者として参られました。
劉備:なに、徐庶が!?
すぐに通すのだ!
関羽:ははっ。
張飛:徐庶殿が来たのか!?
懐かしいぜ!
趙雲:今は曹操の下におられる身ですが、またお会いできるとは…。
関羽:徐庶殿、お待たせいたした!
門を開けよ!
一別以来、息災であられましたか。
それがしも折にふれて、遠く許昌にある徐庶殿の事を思い出してお
りました。
徐庶:それがしも関羽殿はじめ、皆さまの事を忘れた日は一日としてあり
ませぬ。
関羽:うむ、我が君も軍師も心待ちにしておられる。
さあこちらへ。
【二拍】
徐庶殿をお連れしました!
徐庶:我が君、そして皆様…ご無沙汰しております…!
趙雲:おお、お久しぶりです、徐庶殿!
張飛:久しいなあ、徐庶殿!
あれから元気でいたか!?
徐庶:はい、おかげさまで…!
劉備:このような時にそなたと再会しようとは…!
諸葛亮:元直…息災なようで何よりです。
徐庶:孔明、久しいな。
あれこれ活躍は聞いているよ。
諸葛亮:もしやとは思いますが、今日これへ参ったのは…。
徐庶:ああ、君なら察していよう。
我が君、本日は曹操からの和睦の使者として参りました。
劉備:なに、和睦…曹操が?
徐庶:はい。
ですが、もし受け入れれば待っているのは後悔でしょう。
曹操が狙っているのは、心にもない慈悲を見せて荊州の民の信望を買おう
としているにすぎません。
劉備:では、真の狙いは…。
徐庶:本心は荊州はおろか、呉の孫権の根拠地、揚州まで手に入れんとするもの
です。
劉備:ぬうう曹操め、そこまで見すえているのか…!
しかし徐庶、こうしてまた再び会えたのは幸い、我らと共に行かぬか?
徐庶:ッ…そうしたいのはやまやまながら、それはできませぬ。
劉備:どうしてだ?
今ならこのままここに留まる事もできよう。
徐庶:それがしの母が亡くなった時、曹操は丁重に弔い、墓まで建てました。
劉備:なに、そこまでしたという事は…。
徐庶:ええ、自分の手から放さぬ為なのは明らかです。
ここで使いから帰らねば、世間はそれがしの節操を疑い、
笑い物とするでしょう。
張飛:くそっ、曹操め、やることがいちいち汚ねぇぜ!
関羽:まったくだ…それがしの時を思い出す。
趙雲:相変わらず人材を得る為には手段を選ばないな…。
諸葛亮:元直、その事は私にも責任がある。
あの時伝えていれば…。
徐庶:良いのだ、孔明。
今更言っても仕方のない事だし、君を恨んだりするのは
すじ違いも良い所だ。
我が君、これからはしばらく逆境が続くでしょう。
しかし、以前と違って今は孔明がお傍におります。
必ず我が君の大望を叶えるべく、力を尽くしてくれる事でしょう。
それがしはなるべくゆっくりと戻るようにしますゆえ、
その間に一刻も早くこの地から逃れ遊ばしませ。
では…。
諸葛亮:さらばです…元直。
劉備:いつか…いつかまた会おうぞ、徐庶…!
関羽:徐庶殿、また必ずお会いしましょうぞ!
張飛:それまで体を大切にな!
趙雲:次にお会いする時は、味方同士で笑いあいたいものです…!
徐庶:は、はい…!!
では、これにて…。
【二拍】
劉備:徐庶も辛い立場だな…。
軍師、これからいかがすべきか?
諸葛亮:襄陽へ避けましょう。
この樊城よりは遥かに守りやすいです。
劉備:うむ。
…だが、余と共にこの樊城へ参った無数の民達はどうしたらよいだろうか?
諸葛亮:我が君と共にどこまでもと慕って付いてくるのです。
たとえ足手まといとなろうとも、共にお逃げあるべきでしょう。
劉備:よし、分かった。
皆の者、これより樊城を捨て、襄陽へ向かう!
関羽達は民達に共に参るか、それともここに残るかを選ぶよう伝え
よ!
関羽:ははっ。
【二拍】
みな、よく聞くのだ!
曹操軍の追撃から逃れる為、この城を捨ててねばならなくな
った!
張飛:俺達はここから襄陽へ向かう!
趙雲:手向かわぬ者を曹操軍も殺しはするまい!
無理強いはせぬ!
その上で共に参る者はあるか!
ナレ:庁舎の前に集った新野の民達は、大音声で呼びかける関羽達に対し、
それに負けぬほどの声量をもって応えた。
途中で食糧が尽きて飢えようと、どこまでも劉備に付いて行く。
たとえ曹操軍に殺されても、劉備達を決して恨んだりしない。
だからどうか、自分達を共に連れて行ってくれと。
民達の魂から発せられた叫びを感じ取り、三人は身を感動に震わせて応え
た。
関羽:よしッ、そなたたちの気持ちはよく分かった!
趙雲:ここまで我が君を慕ってくれるとは…!
張飛:珍しく七年もの間、一つ所にいたもんなあ。
よォし、お前ら行くぞォ!
急いで出発の準備をするんだ!
ナレ:徐庶は涙ながらに別れを告げて帰っていき、劉備は樊城を捨てて新たに
襄陽を目指し、移動を開始した。
諸葛亮と言う不世出の人材を得た一方で、未だ自分の領土を持たぬ劉備。
数万の民百姓たちと共にその運命は定まらず、木の葉の如く乱世の烈風に
弄ばれるのであった。
END
曹操の荊州及び大陸南部への侵攻。
その序章ともいえる戦いを声劇台本化してみました。
有名な長坂の戦いの少し前の時間軸です。
楽しんでいただけたなら幸いです。